理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-169
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理学療法基礎系
高齢者の二重課題状況下における姿勢制御能力に対する二重課題バランス訓練効果の検証
冷水 誠森岡 周松尾 篤高取 克彦瓜谷 大輔庄本 康治
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抄録

【目的】
これまで二重課題法による先行研究によって,高齢者の姿勢制御能力と選択的注意能力との関連性が報告されている.これらの報告から,高齢者の転倒予防には,通常のバランス訓練だけでなく,選択的注意能力向上を含めた二重課題法を用いた介入が効果的であると考えられる.しかしながら,二重課題法によるバランス訓練効果に関する報告は散見される程度であり,その科学的根拠は乏しい.そこで,本研究では健常高齢者を対象として,バランス訓練に認知課題を加えた二重課題バランス訓練を実施し,二重課題状況下における立位姿勢制御能力および課題遂行能力に与える効果を検証することを目的とする.
【方法】
対象は健常高齢者41名(男12名,女29名,平均年齢72.3±4.6歳)とし,バランス訓練のみを実施するsingle training群(ST群),バランス訓練に認知課題を加えたdual training群(DT群)のいずれかに無作為に割り当てた.参加者には事前に説明し,同意を得た.なお,本実験は本学研究倫理委員会の承認を得て実施した.
ST群では自重による下肢筋力訓練を含めたバランス訓練を実施した.DT群ではこのバランス訓練と同時に視覚的(間違い探し)および聴覚的課題(しりとり)を遂行した.訓練は1時間/日,2回/週を3ヶ月間実施した.
評価項目は下肢筋力(30秒間立ち上がりテスト),静的バランス(Functional reach test),動的バランス(Timed Up & Go Test)を測定し,注意機能としてTrail Making Test(TMT)を測定した.立位姿勢制御能力は重心動揺計(アニマ社)により静止時および認知課題(ストループ課題)同時遂行時の総軌跡長と外周面積を測定した.ストループ課題は回答数と正解率を測定した.
統計学的分析は訓練前後において,各群を対応のないt検定を用い,訓練効果として各群の訓練前後を対応のあるt検定を用い比較した.なお,有意水準は5%未満とした.
【結果】
ST群では2名,DT群では3名が家庭の事情により脱落し,ST群は19名(男3名,女16名,平均年齢71.2±4.5歳),DT群は17名(男7名,女10名,平均年齢72.9±5.1歳)が訓練を完遂した.
訓練前では各群においてすべての項目に有意差は認められなかったが,訓練後ではストループ課題正解率のみ有意差が認められた(ST群:87.3±18.8%,DT:97.1±4.3%,p<0.05).訓練前後において,ST群ではTMT(p<0.05)のみ有意な短縮を認め,DT群では下肢筋力(p<0.01),ストループ課題回答数および正解率(p<0.05,p<0.01)に有意な効果が認められた.
【考察】
健常高齢者に対してバランス訓練の実施により,筋力や姿勢制御能力を含めた機能維持が可能であった.さらに,二重課題訓練を実施した群のみ,二重課題状況下における認知課題遂行能力が向上した.このことから,二重課題状況下における課題遂行能力の向上には二重課題訓練が有効であると考える.

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© 2009 日本理学療法士協会
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