理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-101
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理学療法基礎系
温熱刺激による筋細胞膜透過性の変化について
太田 友規大野 善隆後藤 勝正
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キーワード: 筋肥大, 温熱刺激, 細胞膜
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抄録

【目的】骨格筋細胞に対する温熱負荷は、ストレスタンパク質 (Heat shock proteins: HSPs) を発現させるだけでなく、筋タンパクの増量すなわち筋肥大を引き起こすことが知られている.しかし、温熱ストレスによる筋肥大の分子機構は明らかでない.筋肥大は、ストレッチなど細胞外刺激により骨格筋細胞に微細なダメージが誘発され、その回復に伴う適応変化として生じると考えられている.したがって、温熱ストレスによる筋肥大に先行して微細な損傷が生じている可能性が考えられる.そこで本研究では、温熱ストレス負荷による骨格筋肥大に先行して、骨格筋細胞に微細な損傷が生じるかについて、筋細胞膜透過性の変化から検討することを目的とした.
【方法】すべての実験は豊橋創造大学が定める動物実験規定に基づき、豊橋創造大学生命倫理委員会の審査・承認を経て実施された.実験対象は、7週齢のC57BL/6J雄性マウス(7週齢、42匹)を用いる.対照群 (n=6)を除いたマウスは、41°Cに設定したインキュベーター内に60分間放置して温熱ストレスを負荷した.温熱ストレス負荷直後、1、3、6、24時間後および1週間後に両後肢より長趾伸筋およびヒラメ筋を摘出した.また、筋サンプリング24時間前にエバンスブルー溶液を尾静脈より注入し、生体染色を行った.摘出した左後肢の筋は、液体窒素により冷却したイソペンタンを用いて急速凍結し、-80°Cにて保存した.凍結筋組織を用いてクリオスタットにて凍結連続切片を作成し、エバンスブルー陽性細胞の局在を蛍光顕微鏡にて評価した.また筋湿重量、筋乾燥重量、筋水分量を測定すると共に、病理学的評価を行った.
【結果】温熱ストレスによりエバンスブルー陽性細胞が観察された.しかし、エバンスブルー陽性細胞の数は少なく、温熱ストレス負荷1週後では消失した.また、温熱ストレス負荷1週間後に、筋水分量の変化を伴わない筋湿重量ならびに筋乾燥重量の増加が認められ、筋肥大が引き起こされた.
【考察】エバンスブルーは、損傷を受けていない筋細胞膜を通過しない.本研究では、温熱ストレス負荷によりエバンスブルー陽性筋細胞が認められた.しかし、病理学的な評価では、筋損傷はほとんど認められなかった.したがって、温熱刺激は一部の筋細胞の膜透過性を増大させる弱い細胞ストレスであると考えられた.これは、温熱ストレスによる筋肥大の一部に寄与することが示唆された.
【まとめ】温熱ストレスによる筋肥大の一部は、骨格筋細胞膜透過性の増大によるものであることが示唆された.
本研究の一部は、文部省科学研究費(若手B, 19700451; 基盤B, 20300218; 基盤A, 18200042)ならびに花王健康科学研究会助成金の助成を受けて実施された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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