抄録
【目的】我々は,近赤外線分光法(NIRS)を用いて軽負荷自転車駆動時における大脳皮質活動を解析し,負荷量が同じであれば運動速度の相違は皮質活動量に大きな影響を与えないことや,駆動中に回転数を変化させると一時的に一次運動野の活動が増加することを報告してきた.本研究の目的は,同一負荷量・回転数での自転車駆動時において,駆動調整条件を変えることにより大脳皮質運動関連領野の活動に変化が認められるのかを明らかにすることである.
【対象および方法】対象は健常成人6名(平均年齢31.5±10.6歳,男性3女性3名)であり,計測前に実験内容を書面にて十分説明し同意を得た.使用機器は36チャネル近赤外分光イメージング装置(OMM3000,島津製作所),自転車エルゴメーター(BIODEX,酒井医療),メトロノームである.被験者間で皮質活動計測部位が統一されるように国際10-20法のCZを基準として送受光プローブ固定用のキャップを前頭頭頂部に固定し,受光プローブ12本と送光プローブ12本を配置した.自転車エルゴメーターの負荷量は10watt60rpmとした.駆動時の条件は,(1)モニターを見ながら回転数を調整する,(2)モニターを見ずにピッチ音に合わせて回転数を調整する,(3)モニターを見ながら回転数を調整し,さらに足先を標的に当てて回転を意識させる,(4)ピッチ音にあわせて回転数を調整し,さらに足先を標的に当てて回転数を意識させる,の4条件とした.足先を標的に当てる課題では,ペダルが最下位の地点で足先にスポンジが当たるよう設置した.30秒間の安静の後30秒間駆動し,再度30秒間安静にする課題を3セット連続で行った.駆動中における一次運動野,補足運動野および運動前野の酸素化ヘモグロビン(OxyHb)変化量を各条件間で比較検討した.統計処理には一元配置分散分析を用い,事後検定Tukey HSD法にて行った.有意水準は5%とした.
【結果】全ての条件での自転車駆動時において,一次運動野の下肢領域,補足運動野,運動前野のOxyHbの増加が認められた.しかし,一次運動野,補足運動野,運動前野のいずれの領域においても駆動条件間でOxyHbの変化量に有意な差は認められなかった.
【考察】NIRSを用いて,自転車駆動時における運動遂行条件の違いによる大脳皮質活動の変化を検討した.その結果,全条件においてOxyHb変化量に有意な差が認められなかった.このことは,歩行時におけるPTの介入法の相違が運動関連の領域の活性化に大きな影響が示されなかったというMiyai(2002年)らの報告と同様に,粗大運動遂行時に負荷量が同一であれば,調整方法が異なっていても運動関連領野の活動に大きな差は見られないことを示していると考えられる.今後より頭頂連合野などの活動も含めて検討していきたい.