抄録
【目的】急性期リハビリテーションプログラムの基本は、ADLと歩行能力維持改善を目的として、坐位・起立などの抗重力位を取ることである.しかし、ヒトにおいて、立位での循環・内分泌応答に加え、総頸動脈血流量を調べた研究はない.そこで本研究は、若年健常者において、それらの応答を測定し、ヒトにおける起立時正常応答を総合的に理解することとした.
【方法】対象者は循環器疾患・内分泌障害を有しない若年健常男性10名 (年齢21.6±1.6歳, 身長173±5.3 cm, 体重62.7±6.9kg)とした.3分間の安静臥位、5分間の起立、その後3分間の回復期間を観察した.心拍数、1回心拍出量、心拍出量、総頸動脈血流量は連続して、血圧は1分毎に測定した.また、抗利尿ホルモン、アドレナリン、ノルアドレナリン、アルドステロン、血漿レニン活性は実験開始から安静3分、起立5分、回復3分を測定した.なお、本研究は和歌山県立医科大学倫理審査委員会で承認され、被験者に同意を得た上で行った.
【結果】起立負荷により1回心拍出量は減少(p<0.05)し、心拍数は増加(p<0.05)、そして心拍出量は減少(p<0.05)した.アドレナリンとノルアドレナリンも増加した(p<0.05).安静臥位からの起立で抗利尿ホルモン、アルドステロン、血漿レニン活性は変化がなかった.また平均動脈圧は維持され、同様に総頸動脈血流量も維持された.
【考察】起立による1回心拍出量の減少は、血液の下肢への移動が起こり、それによって静脈還流量の減少が惹起されたためである.心拍数の有意な増加は、心拍出量を維持するために発現したが、それのみでは補償されなかったため、心拍出量が有意に減少したと考えられる.しかし、平均動脈圧の維持は、末梢血管支配の交感神経活動の亢進により、総末梢血管抵抗が上昇したためであると推察される.その傍証として、アドレナリンとノルアドレナリンの増加が観察された.一般的に起立時、抗利尿ホルモンは減少、アルドステロンは増加、血漿レニン活性も増加する.しかし、本研究では立位時間が短かったため、抗利尿ホルモン、アルドステロン、血漿レニン活性は変化がなかったと考えられる.血流量は内分泌ホルモンと交感神経系で全身的に調節され、また各組織の生理学的需要に反応して制御される.心拍出量の減少に関わらず、総頸動脈血流量を一定に保つことが出来た理由は、循環系は並列回路であるため、総末梢血管抵抗を増加させ、何らかの優先順位を持ちながら局所の血流量が減少されたためと考えられる.