抄録
【目的】2004年、Pederson BKらは、骨格筋収縮がサイトカインの一種であるインターロイキン6(IL-6)を多量に放出することを報告した.これまで、IL-6は液性免疫の中心的役割を担う炎症性物質として認識されてきたが、同時に糖代謝、脂質代謝の活性化、造血幹細胞の活性化、神経修復の活性化等を有する多機能サイトカインとしての役割に注目されてきた.Pedersonは、骨格筋の収縮により産生されるIL-6が運動による糖代謝と脂質代謝を改善する内分泌物質であると主張し、Myokineと命名した.運動負荷が糖尿病・高脂血症の治療に有用である理由が、骨格筋からのMyokine 分泌であるならば、トレーニングによる分泌量の変化を明らかにすることが生活習慣病に対する運動プログラム構築のために必要である.これまで、3時間で10週間の運動負荷トレーニングによる骨格筋のIL-6体内動態変化を検討した研究はあるが、臨床に則した短時間及び短期間での実用的な負荷ではない.そこで若年健常者を対象に1日30分5日間のエルゴメーター運動トレーニングによるIL-6の分泌能の変化を明らかにする目的で実験を計画した.
【方法】対象者は、20代の健常者男性6名とした.まず、運動負荷量の設定のため、呼気量・呼気ガス分析計(ミナト医科学株式会社AE300S)で、下肢エルゴメーター(ミナト医科学株式会社232C)による最大酸素摂取量の測定を行った.トレーニングとして、測定した最大酸素摂取量の65%の運動強度で、1日30分、5日間エルゴメーター運動を施行した.トレーニング前後にエルゴメーターで150W・30分の定量運動負荷テストを行い、その前後の血液中のIL-6濃度を測定した.全対象者において事前に研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た.
【結果】トレーニング前、IL-6は安静時(0.9±0.4 pg/m)に比べ、定量運動負荷テストにより2.2±0.5倍(1.9±1.0 pg/ml)に増加した.5日間のトレーニングを行った後、定量運動負荷テストを行った結果、IL-6は安静時(1.6±1.0 pg/ml)より1.7±0.5倍(2.4±1.3 pg/ml)に増加した.増加率を比較すると、5日間のトレーニングにより、定量運動によるIL-6増加率は有意に低下した.
【考察】今回の研究により、短期トレーニングは骨格筋由来IL-6分泌量を低下させる事が判明した.今回、短期間でも長期トレーニングと同じ傾向が示された.この結果は、骨格筋の内分泌機能効果を期待した運動処方において、わずか5日間で本質的なメカニズムの変化をもたらす可能性を示している.