抄録
【目的】これまでの脊柱起立筋群の筋持久力と腰痛の発生に関する報告から,筋持久力は腰痛の予防という面から重要といわれている.近年,表面筋電図において筋活動交代といわれる筋の等尺性収縮時にみられる調整動態も報告されている.これは,筋活動交代が生じることによりall outに至るまでの筋収縮時間の延長や筋疲労の減少に関わると考えられている.本研究では,腰痛予防の観点から腰背部の筋における等尺性収縮持続時間の違いが筋活動交代の出現にどのような影響を及ぼすかを検討した.
【方法】対象は,筋骨格系障害のない健常成人男性24名とした.対象者には,測定前に十分な説明を行い,同意を得た上で研究を行った.筋電図は,Myosystem1200を使用した.導出筋は,腰部傍脊柱筋,多裂筋,内側ハムストリングス,外側ハムストリングスとした.サンプリング周波数は1000Hzとした.表面筋電図の解析は,解析ソフトMyoresearch2.11.15を用い,得られた波形を全波整流,正規化し,各測定時間を100%として1%毎の筋放電量を算出した.その後,腰部傍脊柱筋と多裂筋の筋放電量の平均値を100%として比較検討した.また,4秒毎に高速フーリエ変換による周波数解析を行い,4筋の平均周波数を算出し,測定開始直後と終了直前の周波数を算出した.各筋の周波数低下率の比較には,一元配置分散分析を行い,多重比較検定 (Tukey-Kramer法)を用いた.いずれも有意水準は危険率5%未満とした.
【結果】平均持続時間は,770.5±296.2秒で中央値は675.7秒であった.中央値を境に筋の等尺性収縮持続時間が長い群(L群)と短い群(S群)に分類した. L群の平均持続時間は,986.7±275.4秒,S群の平均持続時間は,554.4秒であった.また,筋活動交代がみられた3名の平均持続時間は446.2±25.7秒でいずれもS群であった.また,周波数低下率は,L群では各々の筋間に有意な差はみられず,S群では腰部筋群とハムストリングスの間に有意差がみられた.
【考察】筋活動交代は,協同筋間で一方の筋活動が増加すれば,他方は筋活動を減少させることにより等尺性収縮を持続させ,all outに至るまでの時間を延長させると考えられている.しかし,今回の結果から筋活動交代のみられた対象は,全てS群であり,等尺性収縮持続時間も10分以下であった.周波数解析において,L群では,腰部筋群とハムストリングスの平均周波数低下率に有意差はなく,S群にのみ腰部筋群とハムストリングスに有意差がみられた.これは, L群では,前かがみ姿勢を保持するために腰部筋群やハムストリングスが均等に活動しているのに対し,S群では,腰部筋群を主に使用したためにall outに至るまでの時間が短く,腰部の負担が大きいため,筋活動交代がみられたと考えられる.また本研究では,測定肢位である前かがみ姿勢保持に関与する全ての筋を測定できないため,腰部筋群間で筋活動交代が生じなかったものと考えられる.