理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-072
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理学療法基礎系
脳室周囲白質軟化症における脳の可塑性・再生
中林 紘二高橋 精一郎甲斐 悟兒玉 隆之大坪 健一水野 健太郎高嶋 幸男
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抄録
【目的】近年、脳室周囲白質軟化症(PVL)における病理学的研究では、発生機序や組織修復に関する研究が進められている.PVL病巣周囲には、特異的タンパク質の発現があり、脳の可塑性や再生を示唆する.渡利らは、正常脳の発達期にPGP9.5が強く発現することを報告した.今回は、PVLを呈した剖検ヒト脳組織にPGP9.5免疫組織化学的染色を行い、PVL病巣周囲の大脳皮質および大脳白質におけるPGP9.5陽性細胞と陽性線維の発現を半定量組織化学的に検討し、PVLにおける神経可塑性・再生について考察した.
【方法】PVLを認めた新生児から小児(在胎23週から生後2歳1ヶ月)までの剖検ヒト脳組織20例を対象とした.また、病変を認めない剖検ヒト脳組織17例(在胎13週から75歳)を対照(正常発達群)とした.PGP9.5抗体(UltraClone Limited)を用いて、免疫ペルオキシダーゼ染色(Streptavidin-Biotin法)を通常通りに行い、大脳皮質の発達に伴うPGP9.5陽性細胞の発現、PVL病巣周囲の大脳白質におけるPGP9.5陽性線維の発現を半定量組織化学的に検討した.大脳皮質における分析では、抗PGP9.5抗体に反応するタンパクの発現を認める神経細胞の密度によって判定した.大脳皮質のニューロピル及び大脳白質における分析では、抗PGP9.5抗体に反応するタンパクの発現を認める神経線維の染色の程度によって判定した.PVLを呈したすべての剖検ヒト脳組織について正常発達群との比較検討を行い、PGP9.5陽性細胞密度およびPGP9.5陽性線維の程度を増強、減弱、および差異なしとした.なお本研究は、両親または親権者から病理解剖と研究使用の承諾を得た資料を用いて、国際医療福祉大学の研究倫理審査委員会の承諾を得て実施した.
【結果】PVL軟化巣内にPGP9.5陽性線維の突起が急性期より認められた.PVL軟化巣周囲の白質において、限局型では、PGP9.5陽性線維の増強が修正46週以降の症例で認められた.PVLと関連の深い大脳皮質部において、第3層と第5層の錐体細胞層では、PGP9.5陽性細胞の減弱が修正41週より認められたが、第2層と第4層の顆粒細胞層では、PGP9.5陽性細胞の増強が修正46週より認められた.さらにその発現時期は、正常発達群の発現時期よりも遅くまで続いていた.この現象は、PVLの型によって異なっていた.限局型では、修正週数の少ない未熟な症例(修正24週、修正28週)において大脳皮質における全層でPGP9.5陽性細胞の発現が増強していた.
【考察・結論】以上の結果から、大脳白質PVL軟化巣周囲線維および大脳皮質顆粒細胞層におけるPGP9.5陽性発現の増強は、障害された神経線維を補う神経の分化能の兆候であり,また、神経の再生現象と捉えることができる.今後、このような脳における細胞や組織の修復、再生、代償の機構を臨床神経学的およびリハビリテーション学的、保育の現場においてもより効果的に活用することが望まれる.
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© 2009 日本理学療法士協会
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