理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-100
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理学療法基礎系
レトリック言語による概念化が物体把持の圧力に及ぼす影響
初瀬川 弘樹藤本 昌央森岡 周
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キーワード: レトリック, 言語, 運動制御
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抄録

【目的】近年,修飾言語が上肢運動制御に影響することが明らかにされた(Gentilucci, 2003). McGeochら(2007)は,レトリック(修辞学)に含まれる比喩法の一つであるメタファーが巧緻的な上肢運動の運動イメージに影響する仮説を述べた.このように,付与される言語によって上肢の運動制御に影響を与える可能性がある.しかしながら,前述したGentilucciの調査は運動軌跡に関するものであり,手指による物体把持については調べられていない.そこで今回,運動制御前にレトリック言語を教示することにより,物体把持力に影響を及ぼすかを明らかにする.

【方法】被験者は説明と同意を得た健常成人14名(平均年齢21.5歳)である.机上に置かれたスポンジ(縦5cm×横5cm×高さ5cm,重量55g)を右手の母指と示指の対立運動で把持する課題を用いた.課題遂行中,被験者は閉眼状態を維持した.事前に把持する物体が何であるかは被験者には知らせなかった.把持直前に条件1では「柔らかい」という言語教示を与えた.一方,条件2では「豆腐のように柔らかい」という言語教示を与えた.なお,課題前に把持する物体が5×5×5cmの立方体であること,そして,大きさ,表面素材,重さ,色は条件1,2とも同じであることを知らせた.これらの条件での計測終了後,同じ物体を視覚情報処理下で把持させ,その値を基準値とした.把持力の計測にはChart&Scope Power Lab(ADINSTRUMENT社)を用い,圧センサーにはFlexi Force(ニッタ株式会社)を用いた.把持時の最初0.3秒間の平均圧力(N),最大圧力(N),平均勾配(°),そして母指と示指が接触するまでの時間(sec)を求めた.基準値に対する条件1,2の割合(%)を算出した.統計処理には対応のあるt検定,等分散検定を用いた.有意水準は5%未満とした.

【結果】条件1に対し2で母指の平均および最大圧力の有意な低下を認めた(p<0.05).平均勾配も条件2で低下を認めたが有意ではなかった.また,条件2において母指の平均および最大圧力の分散に有意な低下を認めた(p<0.01).一方,条件1,2ともに示指の接触が母指よりも有意に遅かった(p<0.05).

【考察】本実験では5cm隔の小物体を用いたが,小物体把持では物体の脆さに注意が向くと言われており(Kawai 2000),豆腐の脆さをイメージすると強い力では崩れるという知覚経験から形成された概念が想起され,圧力が条件2で有意に低下したと考えられる.一方,条件2における圧力の分散低下は「豆腐を持ち上げる」という情報の限定化による影響が推察された.母指にのみ有意差がみられた原因としては,示指の接触が母指に対して有意に遅いことから,母指によるフィードバック制御による影響と考えられた.

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© 2009 日本理学療法士協会
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