理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-005
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神経系理学療法
脳血管障害例の座位姿勢保持における体幹機能の運動学的分析
渡辺 学網本 和利根川 涼子大沢 涼子新井 智之岩崎 典子桒原 慶太
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キーワード: 脳血管障害, 体幹, 座位
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抄録

【目的】体幹機能の障害は床上動作や抗重力姿勢保持の能力を低下させ、活動性を著しく制限させる要因となる.脳血管障害後の片麻痺例においては、特に急性期の早期離床を促すための介入戦略上、体幹機能は最も重要な課題項目に挙げられる.しかし、その基盤となる運動学的解析研究は非常に少ない.本研究では端座位で姿勢を変化させたときの下部体幹における関節角度、筋活動および重心偏倚を測定し、姿勢制御の方略を明らかにすることで、片麻痺に対する治療介入の根拠基盤を提示することを目的とした.
【方法】対象は脳血管障害患者18例(平均年齢65.1±9.4歳、左麻痺8例、右麻痺10例、平均罹病期間36.3日)であった.足底非接地の端座位が20秒以上可能な例とし、健常高齢者5例をコントロール群とした.研究プロトコルは著者所属機関の研究倫理委員会の承認を得た.対象者には本研究の内容を説明し書面にて同意を得た.方法は背もたれのない台座上で足底非接地の座位をとり、主観的正中位での姿勢保持を20秒間行う安静課題と、両腕を組んで体幹を最大回旋した姿勢を3秒間保持、同側に連続3回反復する回旋課題とした.各課題における下部体幹の角度、筋活動および重心偏倚を測定した.角度は電気ゴニオメーターを用いて第2腰椎を中心とした屈曲、側屈、回旋の3軸を記録した.筋活動は表面筋電計にて左右の脊柱起立筋、外腹斜筋を測定した.重心偏倚は重心動揺計を用いてX軸、Y軸の重心動揺中心位置を測定した.統計解析は対象群を麻痺側およびTrunk control testにより体幹機能良好群(14例)、不良群(4例)に分類した.安静課題、回旋課題の測定値について群間比較にANOVAを用いた.統計処理にはSPSS16.0Jを使用し、危険率は5%未満を有意とした.
【結果】重心位置は左右麻痺とも体幹機能良好群で非麻痺側に偏倚していたのに対して、体幹機能不良群では麻痺側に偏倚していた(p<0.01).表面筋電図では右麻痺の体幹機能不良群において非麻痺側の脊柱起立筋が有意に活動していたのに対して、他の群は麻痺側の脊柱起立筋の活動がみられた(p<0.05).
【考察】片麻痺患者の座位姿勢方略は、体幹機能が不良な例と良好な例とで差がみられた.これは発症後急性期における片麻痺状態に、姿勢制御再学習が未達であるか代償的動作が獲得できたかにより大きく変化するものと考えられた.さらに麻痺側の違いによっても姿勢方略に違いが見られた.左麻痺の場合、半側空間無視やpusher症候群の合併がみられるように、右半球損傷による空間定位障害が姿勢制御に影響を与えている可能性があり、単なる麻痺の左右の違い以外の要素が加わっていることが推察される.よって片麻痺患者の体幹機能に対する理学療法を進める上で、代償的重心制御を促進することに加え、病変側による特性を考慮に入れる必要があることが示唆された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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