理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: S2-032
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神経系理学療法
髄腔内バクロフェン治療後の理学療法
―歩行能力向上を目的とした1症例―
向山 ゆう子上杉 上藤尾 公哉岡村 正嗣畠中 泰司水落 和也
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抄録
【目的】髄腔内バクロフェン治療(以下ITB)は2006年より日本で保険適用された痙縮に対する新たな治療法である.その痙縮改善の効果についての報告は増えてきているが、ITB後の理学療法(以下PT)についての報告は少ない.当院でも6例のITBを行い、痙縮改善が得られている.今回、そのうちの歩行能力向上を目的にITBを施行した1例のPT経過について考察を加えて報告する.報告に当たり症例の同意を得ている.

【症例】30代女性.家族性痙性対麻痺.10年前より歩行障害、徐々に増悪.ITB前の身体機能:MAS2~3.足クローヌス著明.分離運動は困難.股関節外転20°、足関節-5°の関節可動域制限あり.歩行は同時屈曲・同時伸展といった原始的運動パターンがみられ転倒が多かった.歩行スピード38m/分.H19年2月に当院にてITB施行、7日目にPT開始、57日目に自宅退院.

【入院中の経過】開始時評価:バクロフェン投与量100μg/d.MAS1~2.足クローヌスは減少.股関節内転筋、ハムストリングス、腓腹筋に短縮あり.PTプログラム:ストレッチング.自動・自動介助運動の反復による分離運動促通.スクワット等のCKCと分離可能な関節にはOKCでの四肢筋力強化および体幹筋強化.歩行練習では残存する運動パターンの改善を目的に姿勢アライメントの調整、ステップ練習、応用歩行練習などを実施.退院時評価:バクロフェン投与量216μg/d.MAS1.分離運動は一部可能.関節可動域は股関節外転30°、足関節5°.歩行は姿勢アライメントとパターンの改善がみられ、補助具なしで屋内外自立.歩行スピード50m/分.連続歩行は600m以上可能.

【現状と課題】退院後まもなく職場復帰.活動量の増加により痙縮が悪化したが投与量の調整でMAS0~1に維持.外来PTを継続している現在、関節可動域は維持され、分離運動はゆっくりだが可能.筋力はMMTで股関節周囲筋4、膝関節周囲筋4.一方で足の重たさや通勤時の転倒への恐怖心、歩行スピードの低下が生じてきている.

【考察】中枢神経疾患での臨床的特徴として、痙縮などの陽性兆候、筋力低下などの陰性兆候、さらに筋自体の粘弾性の低下があるといわれている.ITB後は痙縮が改善される一方で陰性兆候や粘弾性の問題は残存しており、PTはそれらに対し介入した.痙縮筋に対する筋力強化に関してはこれまでも多く議論されてきたが、ITB後は可動性を得た関節の主動作筋と拮抗筋の協調性改善と抵抗運動による筋出力の向上が可能であった.また、新たな運動パターンの学習により歩行能力も向上した.一方、長期的にみれば歩行能力の低下もあり、その要因として活動量の変化や副作用、心理的影響などが考えられる.本症例を通じ、ITB後のPT介入は重要であり、その時々の症状変化に対応したPTプログラムの実施が必要だと思われる.
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© 2009 日本理学療法士協会
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