理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-267
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神経系理学療法
早産児の足底への痛み刺激と脳血流反応
―2症例の検討より―
本田 憲胤松岡 俊樹澤田 優子竹村 豊和田 紀久福田 寛二大城 昌平
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キーワード: NIRS, 新生児, developmental care
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抄録

【背景と目的】
急速な脳の発達期にある早産児の環境は,新生児集中治療室(NICU)という子宮内とは全く異なった環境にさらされている.このことが児の脳にとって予期せぬ適応困難をもたらし,これにより脳の構造や発達に歪みが生じ,神経行動機能に影響を及ぼすと報告されている.このような課題を解決するために,NICUの環境や新生児ケアの方法を考慮して,児の脳を守り,育てるためのディベロップメンタルケア(Developmental Care;以下DC)への取り組みが注目されている.今回我々は,早産児の足底へ痛み刺激を与え,その刺激が大脳皮質の循環反応にどのような影響を及ぼすか,そして『包み込み』(ホールディング)を行った場合との相違も検討した.
【症例紹介】
症例1:在胎28週6日,1152g,品胎の第2子の男児として出生.検査時の日齢74,修正月例39週3日,体重2440gであった.症例2:在胎28週6日,1094g,品胎の第3子の女児として出生.検査時の日齢76,修正月例39週6日,体重2200gであった.両児共に哺乳や体重増加などは良好で,MRIやABRで異常は認められなかった.本研究について目的と趣旨を説明し文書にて承諾を得て実施した.
【方法】
計測時の環境は,部屋の照明を落とし,アラーム音を切った静かで暗い環境を設定した.児の姿勢は,コット内で腹臥位になり顔を一側に向けた屈曲肢位とした.計測実施の際は,6段階の行動覚醒状態のステート1(深い眠り)であった.痛み刺激は,定量型知覚針II型を用いて,10gの痛み刺激を踵部へ約1秒間与えた.脳活動の計測は,光トポグラフィ装置(株式会社日立メディコ社製:ETG7100)を用いた.計測には,頭部前頭葉,頭頂葉領域に4×4の24チャンネルの新生児用のプローブを用いた.課題条件は,痛み刺激あり包み込みなし(条件1),痛み刺激あり包み込みあり(条件2),の2条件とした.課題条件の測定は,安静20秒,課題条件20秒(刺激は初めの1秒),安静60秒のプロトコルでそれぞれ5回繰り返し,2条件課題で交互に3回計測した.課題条件の測定間には,3分間の休息を挟んだ.
データ解析は,課題条件で5回繰り返し計測した値をintegral解析(加算平均)し,それをさらに各課題条件の3回計測の平均値を求めた.脳活動変化は安静時(刺激前)の脳血流をベースとして課題条件による血流変化を検討した.
【結果ならびに考察】
痛み刺激が脳血流に及ぼす変化について,両児共に安静時に比べて,条件1では前頭葉領域,頭頂葉領域の脳血流の急速な増大が確認された.一方,条件2では条件1に比べて脳血流変化が少なかった.早産児への疼痛刺激は急激に脳血流動態を変化させ,脳機能に影響を及ぼすように考えられた.一方,包み込みはその変化を軽減させる効果があるようであった.さらに症例を加えて,報告する.

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© 2009 日本理学療法士協会
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