抄録
【目的】脳性麻痺に対する整形外科的治療の術後理学療法の役割は、関節・筋のアライメントが整えられた状態でより良い筋活動を促し、高いレベルの姿勢・運動の獲得を図ってくことにある.そして、治療効果を確実に上げる為にも目標設定・達成期間の指標を持つことが必要と考える.そこで、今回、選択的筋解離術後、12ヶ月以上経過を追跡できた脳性麻痺児4名について、粗大運動能力変化の傾向について報告する.
【対象】平成14年から平成19年に選択的筋解離術を受けた脳性麻痺児で12ヶ月以上経過を追跡できた4名.手術時平均年齢8歳8ヶ月.4名の手術時の粗大運動能力分類システム(以下GMFCS)は、レベル2が2名、レベル3が2名であった.術後理学療法は、1回40分.3名については、平均11ヶ月の入院中週3回、その後、外来で月2~3回行った.他1名については、入院・通園で週3回行った.本研究は本人または保護者に研究の趣旨を説明し同意を得て行った.
【方法】粗大運動能力はGross Motor Function Measure(以下GMFM88)を用い評価した.また、コンピューターソフトGMAEを用い、GMFM66と、GMFM66の95%信頼区間についても算出した.
【結果】今回は、症例数が少なかったため各症例の特徴を中心に報告する.術後のGMFM88の変化は、平均で1ヶ月後27%低下、2ヶ月後8.8%低下、3ヶ月後1.8%低下を示した.それ以降は、4ヶ月後4.5%、5ヶ月後6.5%、6ヶ月後7.3%、12ヶ月後11.5%向上した.5ヶ月後に全員が向上に転じていた.GMFM66は、12ヶ月後で9.0%向上していた.GMFM66の95%信頼区間については、4名とも4ヶ月後から8ヶ月後の間で有意差を示した.GMFCSレベル2の2名とレベル3の1名について、GMFM66の成長曲線に照らし合わせると、術前は各レベルのラインに達していなかったが、12ヶ月後までに3名ともGMFCSレベル2の成長曲線を超えた.この3名には、立位領域の変化が歩行領域の変化に先行する傾向があった.他の1名(術前のGMFM66が49.9%)は、術後4年にわたり経過を追った.この症例では、GMFM66の95%信頼区間が手術後11ヶ月後、1年10ヶ月後(児の年齢は9歳6ヶ月)に有意差を確認でき、その後も緩やかな向上が見られた.この症例では、まず四つ這い領域の変化がみられ、手術後10ヶ月後頃より立位領域で、更に1年10ヶ月後に歩行領域で向上がみられ、段階を追った変化の傾向があった.
【考察】術後3ヶ月で術前を超えた回復を達成できなかった症例は、疼痛の訴えや姿勢・運動感覚の混乱等が理学療法を阻害した印象があったが、4名とも5ヶ月後には術前を超えて回復していたことから、立位や歩行プログラムを中心に積極的な理学療法を実施することで確実に回復を促すことが出来ると考える.また、術後8ヶ月で有意な機能変化を確認できたが、その後も機能向上を促すことが出来ることが示唆された.今後は、更に症例数と長期的な記録を重ね、理学療法の進め方の指標を検討していきたい.