抄録
【目的】脳血管障害片麻痺患者(以下CVA)を安定した歩行へ導くためには,直立位を維持できるロコモーター(骨盤・下半身)とその上に乗っているパッセンジャー(上半身と骨盤)の制御が重要である.本研究の目的は、三次元動作解析装置を用いて,坐位側方移動と歩行時の麻痺側立脚期のパッセンジャーである骨盤と上部体幹の関係を明らかにし,今後の理学療法介入の視点を検討することである.
【対象及び方法】対象は本研究の趣旨を説明し同意が得られたCVA2名:Case-A(60歳女性,脳梗塞左片麻痺,下肢Br.Stage5,10歩行スピード12.3秒),Case-B(50歳女性,脳梗塞右片麻痺,下肢Br.Stage4,10歩行スピード28秒)であり,Case-A・Bの比較を行った.計測動作は,静止坐位からの麻痺側への側方移動と裸足・杖なしでの歩行で,計測には三次元動作解析装置VICON MXと床反力計を使用した.計測データより,(1)静止坐位から骨盤最大側方傾斜時までの骨盤(P),上部体幹(UT)の角度変位,(2)歩行における麻痺側立脚期を1相と2相に分け,各相の角度変位(P,UT),COP移動距離(進行方向)を算出し分析した.なお,1相は麻痺側接地から非麻痺側離地まで,2相は非麻痺側離地から非麻痺側接地までとした.また,角度変位の表記については,側屈は支持側への側屈を+側屈,非支持側への側屈を-側屈,回旋は麻痺側支持時の非麻痺側ASISの前方への動きを前回旋,後方への動きを後回旋とした.
【結果】
(1)坐位での最大骨盤側方傾斜までの角度変位は,Case-AのPは後傾0.3°,+側屈21.4°,前回旋4.3°,UTは屈曲14.1°,+側屈9.4°,後回旋17.9°,Case-BのPは後傾3°,+側屈15.3°,後回旋1.8°,UTは屈曲1.3,+側屈1.7°,前回旋3.6°であった.(2)歩行麻痺側立脚期での角度変位は,Case-Aの1相でPは前傾1.2°,+側屈0°,前回旋3.2°,UTは伸展1.4°,-側屈1.1°,後回旋1.9°,2相でPは後傾0.5°,+側屈1.5°,前回旋5.8°,UTは伸展0.3°,+側屈1.1°,後回旋1°であった.Case-Bは1相でPが後傾5.3°,+側屈1.5°,後回旋3.7°,UTは屈曲1.9°,+側屈0.6°,後回旋5.9°,2相でPは後傾3.2°,+側屈0°,後回旋1.1°,UTは屈曲2.6°,-側屈0.3°,後回旋2.5°であった.COP移動距離は,Case-A は1相34cm,2相10cm,Case-Bは1相17cm,2相5cmであった.
【考察】今回は歩行スピードが明らかに違う症例について,骨盤・上部体幹の角度変位から麻痺側荷重時の姿勢調節について分析を行った.結果,立脚前期から中期にあたる1相とCase-A・Case-Bの坐位側方移動時の角度変位が同様の動きになっていた.このことより1相の骨盤・体幹の姿勢調節訓練として坐位側方移動が適応できるのではないかと考えた.また,歩行スピードが遅いCase-Bにおいては立脚1相から2相を通じ骨盤と体幹が立脚側への側屈と後方回旋を呈しており,この角度変位が立脚期の推進力低下を引き起こしている一要因ではないかと推察された.