抄録
【目的】脳血管障害患者において移乗動作を獲得することは、その後のADLの自立度向上を目指すために重要な動作の一つである.また、通常のbed柵と比較し介助バーを使用することで移乗動作の介助量軽減が図れることが知られている.そこで今回、脳血管障害患者の移乗動作を行う際に、介助バー使用の有無で自立度に変化があるのかバランス能力の評価であるBerg Balance Scale(以下:BBS)を使用して介助バーの有用性を検討した.
【対象】平成17年2月より平成20年11月の間に当院の訓練室にてリハビリを実施中の本研究の内容を説明し、同意を得られた55名.男性35名、女性20名、平均年齢71.1±11.4歳.診断名は、脳梗塞40名、脳出血14名、慢性硬膜下血腫1名.右片麻痺17名、左片麻痺35名、両片麻痺3名.下肢Br.stage、II-8名、III-5名、IV-22名、V-19名、VI-1名.発症より評価までの日数は150.5±492.7日であった.
【方法】まず、対象者をランダムに介助バーを使用した群(以下:使用群)23名と使用しなかった群(以下:未使用群)32名に分類した.その後、両群において移乗動作が見守りまたは自立して可能な群(以下:使用A群、未使用A群)、介助を必要とする群(以下:使用B群、未使用B群)にそれぞれ分類した.また、使用群における介助バーの設置条件は、対象者に体幹を35°前傾してもらい、介助バーに手が届く位置で車椅子をベッドに対し斜め30°に設置し、その位置にマーキングを行った.全対象者に対してBBSを使用し、BBS得点、各項目の得点をMann-WhitneyのU検定を使用し、比較・検討した(p<0.05).
【結果】BBS得点の平均は使用群19±14.1点、未使用群は30±13.6点であり、両群間に有意差を認めた(p<0.05).また、使用A群と未使用A群において比較したところ、使用A群29.1±9.1点、未使用A群36.5±6.9点であり、両群間に有意差を認めた(p<0.05).しかし、使用B群5.9±5.9点と、未使用B群11.4±11.2点の間では有意差を認めなかった.更に、使用A群と未使用A群においてBBS得点を項目ごとに比較してみたところ、「座位から立位」、「立位保持」、「移乗動作」、「前方へのリーチ」、「床から物を拾う」、「肩越しに後方を見る」の6項目に有意差を認めた(p<0.05).
【考察】移乗動作は、座位姿勢より体幹を前傾して立ち上がり、方向転換を行って着座するという一連の動作である.今回の結果より、介助バーの使用によりBBS得点が低い状態でも移乗動作においては見守りまたは自立することが可能ではないかと考える.また、BBSの6項目に有意差を認めたことより、介助バーを使用することで移乗動作時の立ち上がり動作や方向転換などの動的立位バランスにおいて補助する役割があるのではないかと考える.以上のことより、介助バーを使用することで移乗動作がバランス能力の低い場合でも獲得され、ADL向上に繋がるのではないかと考える.