理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-286
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺患者の痙縮に対する筋膜リリースの効果
―シングルケーススタディによる検討―
勝又 泰貴美崎 定也来間 弘展山本 尚史木原 由希恵中川 直彦村上 いちこ
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抄録
【目的】脳卒中片麻痺は、筋緊張の変化や筋力のインバランスから、急性期より軟部組織の歪みが生じその機能障害は神経・筋以外においても生じていると考えられる.そこで、膜組織のねじれを元に戻し、筋と筋の間もしくは筋とその他の構成物との間の可動性や伸張性の改善を目的とした筋膜リリースを、上肢を中心に行うことにより上肢の運動効率に改善が認められるか、および主観的評価に変化が生じるかを、シングルケーススタディにより検証した.
【方法】当院入院中の脳卒中発症後1週間以上経過し症状が安定した片麻痺患者2名を対象とした.それぞれ上肢Brunnstrom Stage3と4、感覚障害、高次脳機能障害を有さずコミュニケーション上問題なかった.なお、両者ともに本研究に関して十分な説明の後、同意を得た.方法は、通常の運動療法(PT)40分のA期と、それに上肢の筋膜リリース(Arm Pull)5分を加えたB期とに分け、一人の対象に対し1日毎にAとBを繰り返し行うシングルケースデザイン(ABAB型)にて12日間施行した.PT40分の内容は統一したプログラムを行った.課題は車椅子上座位で、麻痺側上肢下垂位からアームレストを越え上肢を大腿上に乗せ、また下ろす動作を自動運動にて繰り返し10回行わせ、要した時間(10 Repetition Time:10RT)をPT前後に計測した.同時に、その様子を前額面からビデオカメラで撮影し、肩甲帯挙上角度(Shoulder girdle Elevation Angle:SEA)を測定した.また、PT前と比較したPT後の1.腕の重さ、2.挙げやすさを主観的評価としてそれぞれ5段階にて聴取した.PT前後の10RT、SEAの差および主観的評価をA・B期で比較した.また、両者のSEAの変化をグラフ上で検討した.
【結果】A期におけるSEAの差の平均はそれぞれ0.25°と0.27°という結果に対し、B期では-2.49°と-2.84°と両者とも減少傾向にあった.また、視覚的にA期のPT前後の結果は増減にばらつきがあったのに対し、B期ではPT後のSEAがPT前に比較し毎回低値を示していた.10RTについては特に傾向を認められず、また、主観的評価についてはSEAや10RTの変化といった客観的評価と一致する結果は得られなかった.
【考察】今回、急性期片麻痺患者のPTに筋膜リリースを組み込むことにより、両者ともに課題遂行中のSEAの減少を確認できた.筋萎縮やコラーゲン線維の蓄積などの筋・筋膜の変化は片麻痺発症後早期より生じ始めており、麻痺の影響だけでなく筋収縮力も低下し、麻痺側運動時により過剰な努力を要していると考えられる.今回の介入では、筋膜リリースを行うことでリラクセーションによる痙性の抑制や、弾性線維の柔軟性の改善による円滑な筋の収縮・弛緩の獲得といった効果が得られ、その結果、阻害されていた筋活動が改善し効率的な動作を獲得できたと考えられる.今回の研究では2症例で同様の結果が得られたが、今後はより症例数を追加し結果を検討していく必要がある.
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© 2009 日本理学療法士協会
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