抄録
【はじめに】今回、脳梗塞左片麻痺の既往があり脊椎炎・硬膜外膿瘍による胸髄圧迫のため対麻痺症状を呈した症例を経験したのでその経過に考察を加え報告する.
【症例紹介】本発表に関して説明し同意を得た71歳・男性.2007年12月31日食欲低下及び下肢脱力感にて救急車で当院救急外来受診.胸部CT上、TH10に骨破壊像を認め入院.筋力低下の原因精査目的にて2008年1月24日A病院へ転院.検査の結果、硬膜外膿瘍の診断有り.抗生剤投与(6週間)開始.全身状態安定、硬膜外膿瘍も改善見られているため2/18治療継続目的にて当院転院.既往歴:胃癌にてオペ(全摘)、糖尿病、恥骨骨折
【初期評価】表在感覚:重度鈍麻、深部感覚:中等度鈍麻.筋力:MMTで両側下肢0、右上肢4.ROM(左上肢):肩関節屈曲110度・伸展20度・外転110度・外旋20度、肘関節伸展-10度、手関節背屈35度.Brunnstrom stage:左上肢III、左手指II.運動時背部痛:NRSで1.尿意なくバルーンカテーテル留置.起居動作・移乗:介助.筋緊張:左上肢屈筋群亢進、下肢を他動的に屈曲し戻す時に下肢伸筋群筋緊張亢進(左>右).握力:右22kg.SLR:右70度・左60度.ASIA運度スコア:右20.Frankel分類:B.FIM:55点.
【経過】2/19理学療法開始.2/20移乗exを行おうと促すが積極的にリハビリを行う意欲が無く、もう少し気持ちが整ってから行って欲しいと患者本人に依頼される.2/25寝返り・起き上がり・端坐位ex.2/27車椅子への移乗ex、リハ室に初来室.3/13坐位バランスex、4/11右第4・5足指に僅かな自動運動が見られる.5/15家族に起居・移乗動作の介助方法指導.5/22自宅退院.運動時背部痛:NRSで0.FIM:59点
【考察】本症例は硬膜外膿瘍による対麻痺症状を呈するまでは左不全片麻痺にも拘わらずT字杖歩行が自立していた.そのため今回、両下肢自動運動不可になった事に対する精神的ショックが大きく現状を受け入れるまでに時間がかかり、初期には背臥位でのROMexのみを希望していた.医師から「症状は固定しており対麻痺症状の改善は難しいだろう」という説明受けるが、本人はROMexを行う事により歩行出来るようになると考えている.病識欠如というよりも一縷の希望を捨てると少しのモチベーションですら維持できない状態なのではないかと考えた.リハ開始後約10日経つと車椅子への移乗ex行うが依存度高く、病室での普段の寝返りも自力では行おうとしていなかった.「退院して家に帰ったら、自分で出来る所は自分で行い、出来ない所を家族等に手伝ってもらうようにしましょう」と退院前指導を行っていくと、退院2週間前から現実を認識し始めた.モチベーションを維持しつつ現状を認識して頂くようにアプローチする事が大切であった.