抄録
【目的】我々は第35回全国研修会に於いて、超音波動作解析装置(Zebris社製)を用い、胸・腰椎の3次元の動きについて、その方向と可動性の関係について発表した.しかし、これは胸・腰椎の動きをセグメント別にみることが難しく、複数の関節をまとめて捉えたものであった.今回、motion analysis corporation製3D motion analysis systemsを用いることで、セグメント別の動きを捉えることが可能となり、胸椎12個の動きについて実験を行った結果、知見を得たので報告する.
【方法】男子大学生6名(平均年齢20.7±0.5歳)を対象とした.対象者全員に対し、マーカーをTh1~Th12の棘突起に付け、また、ベースとなる部分を確保する為に原則、両上前腸骨棘、両上後腸骨棘の4箇所にマーカーを装着し測定した.腰掛け座位での胸椎屈曲・右側屈そして伸展・右側屈の2つを開始肢位とし、そこから左回旋、右回旋の順に行い、各々の棘突起間の距離の変化について検討した.人体は左右対称であることを考え、左側屈でも同様の結果が予想されたため、今回は右側屈のみの実験を行った.対象者には主旨を伝え、同意を得た上でデータとして使用した.
【結果】対象者6名のうち、分離症、椎間板ヘルニアなどの既往を持つ4名を除く、脊椎疾患等の既往が無い2名の結果は以下の通りであった.下部胸椎に於いて胸椎屈曲・右側屈からの左回旋では両者共に棘突起間距離は殆ど変化せず、右回旋では離れる傾向があった.また、上部胸椎では左回旋時、両者に異なった動きを認めたが、その動きは小さいものであった.また、右回旋では両者に棘突起間が離れる傾向はあったものの、断定できるものではなかった.
一方、胸椎伸展・右側屈からの左回旋では両者に全胸椎間で統一した動きは認められず、更にその動きは大きいものではなく、中には棘突起間が離れているのか、近づいているのか判断に迷うものが多かった.また、右回旋では両者共にほとんどの棘突起間で離れる傾向が認められた.
【考察】結果より判断し、胸椎屈曲・右側屈または伸展・右側屈からの左回旋では胸椎棘突起間の距離は大きくは変化しない傾向があり、一方、右回旋では離れる傾向があった.つまり、胸椎は屈曲・伸展に関係無く側屈を加えた方向と反対方向の回旋より、同方向の回旋の可動性が大きいと考えられた.これらの結果は先行研究と比較した場合、納得出来る点も多かったが、先行研究で報告された「中部胸椎部(Th5~Th9)間では、胸椎伸展・右側屈からの左回旋は右回旋より可動性が大きい」と言う結果と異なり、Kaltenbornによるcoupled movementの考えを説明する上でも更なる検討の必要性を感じた.
【まとめ】今回の研究結果は治療手技にも影響を与えるものであり、大会では他の対象者のデータを用い更なる検討を加え発表を予定している.