抄録
【目的】脊椎疾患において平衡機能障害や立位バランス異常を経験してきた.一方で特発性側弯症において平衡機能異常が存在するとの報告はあるが、立位時の荷重比を検討した報告はない.そこで今回側弯症患者における自然立位での下肢荷重比とカーブパターンや頂椎の部位による影響について検討し若干の知見を得たので報告する.
【対象】側弯群として思春期特発性側弯症と診断され2006年3月〜2008年8月の間に当院へ手術目的にて入院した女性76名(平均年齢15±2歳、平均Cobb角50.1±13.5°)、対照群として下肢および腰部に既往のない若年女性15名(平均年齢14±2歳)を対象とした.なお両群ともに個人情報保護を基に本研究の同意を得て行った.
【方法】下肢荷重比測定は、市販体重計(TANITA社製デジタルヘルスメーター1630、0.2kg毎デジタル表示)2個用い、被験者はその上に左右の足を片脚ずつ乗り、自然立位にて前方注視させた.その際体重計の値を左右それぞれ測定し、変動がみられる場合は最大最小中間値をとった.荷重比算出は、健常群では荷重が多くかかる値を体重で除した大荷重比と利き足(非利き手)側の値を体重で除した利き足荷重比の2種類、側弯群では大荷重比とメジャーカーブ凸側にかかる値を体重で除した凸側荷重比の2種類とした.検討項目はそれぞれの大荷重比および利き足荷重比と凸側荷重比において1)健常群との比較、2)Cobb角と荷重比との相関、3)カーブタイプ別としてSingle curve(S群)とDouble curve(D群)との比較、4)カーブ部位別としてLenkeの分類を基にメジャーカーブの頂椎から胸椎型(T群)、胸腰椎型(TL群)、腰椎型(L群)の比較とした.統計学的処理には1)、3)Mann-WhitneyのU検定、2)回帰分析、4)分散分析を行った後FisherのPLSDを用い、危険率を5%未満とした.
【結果】1)大荷重比において側弯群は健常群より有意に大きかった. 4)凸側荷重比においてT群がTL群、L群より有意に小さかった.他の項目において有意差は認められなかった.
【考察】特発性側弯症における下肢荷重比は健常者に比べ左右差が大きかったが、凸側に荷重がかかっている訳ではなかった.そこで側弯群内で検討したところ、Cobb角と荷重比には相関が認められず、構築性バランスがいいとされているD群においてもS群と下肢荷重比に差は認められなかったため、角度やカーブパターンの影響はなかった.しかしメジャーカーブの部位により下肢荷重比が異なっており、TL、L群では下位腰椎傾斜により骨盤への荷重方向等の影響があり凸側下肢に荷重がかかると考えられた.これらはカーブの影響なのか平衡機能異常の問題であるのか、今後更なる検討が必要と考えられる.