理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-500
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内部障害系理学療法
病態把握に難渋した肺塞栓症の一症例
高橋 正浩楠堂 晋一和田 英樹高橋 尚明
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抄録
【はじめに】肺塞栓症は、体静脈系特に下肢の深部静脈で形成された血栓が血流にのって肺に到達し、肺動脈を閉塞する疾患である.臨床症状を示さない軽微なものから死に至る重篤なものまで様々あり、現在の医療においても診断困難な疾患のひとつに数えられている.今回、発症から診断まで数日間を要し、病態把握に難渋した肺塞栓症患者を経験し、本人より承諾が得られたので報告する.
【症例紹介】70歳代女性.平成19年末より労作時呼吸困難出現.平成20年1月下旬より咳嗽出現し、呼吸困難増悪.1月30日近医受診し喘息が疑われ加療するも軽快せず、当院へ救急搬送となる.wheeze、coarse crackleが聴取された他、心胸郭比の拡大と胸水貯留、下肢の浮腫から心不全が疑われCCU入床.除水により一時的に症状改善するが、1月31日wheezeと酸素化が悪化.2月1日再度喘息が疑われ呼吸器科受診.2月5日呼吸器科転科し呼吸理学療法開始となる.
【経過】理学療法処方時の診断は喘息であり、胸部写真では右下葉に無気肺を認め、呼吸条件はカヌラ4L/sでSpO2は92%であった.理学所見では、wheeze、coarse crackleを聴取し、右下肺野の低換気を認め、経過に伴う診断を疑わせる所見は無かった.理学療法では、吸入療法に合わせた呼吸介助の他、体位排痰法を併用し喀痰が得られた.しかし右側臥位でSpO2が96-97%であるのに対し、左側臥位では88-91%と酸素化不全を認めた.何らかの原因が存在することは明らかであるが、介入と期待される効果が一致せず主治医と検討を行った.対処的な体位での排痰法で右肺野の無気肺は軽減したが、左側臥位では酸素化不全が継続した.2月7日CT及び心臓カテーテル検査より、明確な血栓像は見られないが、鬱血肝と下大静脈(以下、IVC)の拡大を認め、IVCは肝門部レベルで閉塞を伴っていた.D-dimerも軽度上昇していたことから肺塞栓症の可能性が示され循環器科へ転科となり、肺シンチグラムにて両肺とも不均一でび漫性の血流低下を認めた.しかし肺塞栓症は特に右肺で著明であり、左側臥位での酸素化不全の機序は不明であった.
【考察】本症例は、慢性的な経過の中で鬱血肝が生じたことに加え、右肺に生じた無気肺により横隔膜が挙上し、IVCの閉塞を招いた.そのため右心への環流血液量が減少し、心エコー及び心電図に異常所見を認めず肺塞栓症の診断に時間を要し、加えて左側臥位とすることで鬱血した肝臓によりIVCが圧迫され、環流血液量が更に減少し換気血流比の不均等を招くに至ったと考えられた.呼吸理学療法を行う際に病態の把握に努めることは重要である.しかし、画像所見や理学所見を含め、多くの現象が示している情報を断片的に捉えるのでなく、整合性を持って総合的に判断し病態を捉えることが大切であると考えられた.
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© 2009 日本理学療法士協会
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