理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-015
会議情報

一般演題(口述)
棘上筋の筋内脂肪変性と筋トルクの関連性
筋断面増加率と性別を考慮に入れて
古谷 英孝中崎 秀徳柳澤 真純美崎 定也加藤 敦夫
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抄録
【目的】
肩回旋筋群の筋内脂肪変性は腱板損傷と関連があり、腱板損傷術後の重要な予後因子の1つでもある。筋トルクに影響する因子として、筋の構造学的要素としては生理的断面積、羽状角、筋線維長などが関与しているといわれているが、筋内脂肪変性のような生理学的要素からの関連についての報告はない。そこで今回は、棘上筋に着目し、筋断面増加率と性別を含め、筋内脂肪変性度と筋トルクの関連性について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は肩関節に障害の無い健常成人30名(平均年齢±標準偏差、26.1±4.1歳)、男性16名、女性14名、60肩とした。測定項目は、1)棘上筋の筋内脂肪変性度(以下FD)、2)肩関節外転0°での最大外転筋トルク(以下MAT)、3)肩関節下垂位での最大収縮時筋断面増加率(以下MCS)とした。FD及びMCSの測定は、超音波画像診断装置(東芝メディオ製、Bモード、7.5MHz)を用いて測定した。FDは、肩甲棘の長さをメジャーにて測定し、50%の部位に印をつけ、印の部分に筋の長軸に対して平行にプローブをあて、縦断画像を撮影した。撮影画像より、Klausらの棘上筋の筋内脂肪変性度分類を使用し、3つのgradeに分類した。評価項目は、棘上筋の筋輪郭、中心腱、羽状線維の可視性とし、grade1は評価項目が明らかに見える構造、grade2は部分的に見える構造、grade3はほぼ見えない構造とした。このgradeはgrade3になるに従って、筋内に脂肪変性があることを示す。MATはハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社製μTas‐F1)を用いた。測定肢位は肩関節内旋位とし、三角筋の影響を少なくする為、上肢下垂位より肩甲骨面上に外転した際の最大等尺性外転筋力を測定した。測定回数は3回とし、平均値(kg)をトルク(Nm)に換算した。MCSはMAT測定中に、筋の長軸に対して垂直にプローブをあて、横断画像を安静時と収縮時について各3回撮影した。撮影した画像を画像解析ソフトImage Jにて、画面上で棘上筋の短径が最大となる部位を計測した後、各3回の撮影画像の平均値を算出し、収縮時との比率を算出した。統計解析は、筋断面の短径測定について検者内、検者間信頼性の検証に、級内相関係数を用い、FDの信頼性の検証に、Kappa係数を用いた。FDと性別の関連にはカイ2乗検定を行なった。MATに与える影響については、従属変数をMAT、独立変数をFDと性別の2要因、共変量をMCSとして共分散分析を行った。有意差が検出されたものに対し、多重比較(Tukey検定、性別の差に関しては対応のないT検定)を行なった。MATへの影響度については、偏イータの2乗を算出した。有意水準はすべて5%未満とした。
【説明と同意】
対象者には、研究の概要と得られたデータを基にして学会発表を行うことを同意説明文に基づいて説明した後に、研究同意書に署名を得た人を対象とした。また、対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。
【結果】
ICC(1.2)とICC(2.3)の級内相関係数はそれぞれ0.995(95%信頼区間:0.990-0.998)、0.981(0.965-0.990)と高値を示し、kappa係数は0.691と十分な結果となった。カイ2乗検定の結果は、女性の方が有意に変性していた。共分散分析の結果は、共変量のMCSには有意差が認められなかった。FDと性別には有意差が認められ、交互作用には有意差が認められなかった。FDと性別でのMATの結果は、男性でgrade1:7.1±0.7×10-2Nm(平均値±標準偏差Nm)、grade2:6.6±0.9×10-2Nm、grade3:4.8±0.6×10-2Nm、女性でgrade1:6.6±0.8×10-2Nm、grade2:5.1±1.0×10-2Nm、grade3:4.3±0.8×10-2Nmとなり、多重比較の結果、FDはgrade1、2、3の順に有意に高値を示し、性別では男性が有意に高かった。偏イータの2乗はFDで0.538、性別で0.176となった。
【考察】
棘上筋の筋内脂肪変性は男性に比べ女性が多かった。棘上筋のMATに与える影響は、MCSは少なく、FDと性別が影響し、特にFDの関連が強いことが分かった。MATを評価する上で、MCSの構造学的要素より、FDの生理学的要素の関連性が強く、生理学的要素の評価も必要と考えられる。今後は腱板損傷と関連が強いといわれている棘下筋についても検討が必要である。また、筋力トレーニングなどにより、FDが改善するか検証し、改善が証明できれば、腱板損傷の予防や腱板損傷術後の再断裂率を減少させることができると考える。
【理学療法学研究としての意義】
筋トルクに影響を与える要素は多様で、生理的断面積、羽状角などがあるが、本研究の結果、FDも影響することが明らかとなった。臨床上筋力増強訓練を行ない、MATを向上させていく上で、FDも評価する必要があると考える。
著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
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