理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
主題演題
  • 位相コヒーレンス値を用いた検討
    竹内 真太, 西田 裕介
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Sh2-025
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ヒトの歩行や走行中、心拍リズムと運動リズムが近付いた際、2つのリズム間で同期現象を示すことが報告されており、この現象はCardiac-Locomotor Synchronization(CLS)と称されている。CLSの生理学的意義の1つとして、活動筋の弛緩のタイミングと心臓の拍動のタイミングが一致し、筋内圧が下がった時に筋へ血液が流入することで、活動筋への血流量が最大化することが推測されている。我々は、先行研究にてCLSを誘発した歩行中と同負荷の自由歩行中の心拍数と酸素摂取量を比較し、心拍数に差がない状態でも、酸素摂取量はCLSを誘発した歩行で高値を示すことを確認した。このことからCLSを誘発することにより歩行中の動静脈酸素含有量格差に差が出ることが推測された。本研究では、CLSを誘発した歩行中と同負荷の自由歩行中の心拍数、酸素摂取量、下腿筋血流量を測定し、CLSの生理学的意義を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    対象は心血管系疾患の既往がない若年男性8名(年齢21±2歳、身長169.6±3.53cm、体重57.7±4.20kg(平均±標準偏差))とした。対象者は心電図用電極、右踵部にフットスイッチ、左下腿外側に筋血流量計プローブ、呼気ガスマスクをそれぞれ装着し、対象者が運動リズム120step/min、心拍数120bpmとなるトレッドミル速度と傾斜を決定した。次に、以下の2つのプロトコルを実施した。プロトコル1では、CLSを誘発するため、対象者は先に決定したトレッドミル負荷にて、120beats/minのブザーに合わせた歩行を約5分間行い、心拍数が定常状態に達した後、心電図計からのブザーに歩行リズムを合わせた。呼吸リズムは歩行リズムとの比率が1:4となるよう指示し、その際の呼気と吸気の比率は1:1とした。対象者は定常状態にて10分間歩行を行った。プロトコル2では、同様のトレッドミル負荷にて5分間のウォーミングアップを行い、その後定常状態にて10分間の自由歩行を行った。定常状態での10分間を測定期間とした。2つのプロトコルの順はランダムに実施された。プロトコル1から導出された心拍リズムと歩行リズムを用いて、2つのリズム間の結合度を示す指標、位相コヒーレンス(λ)を1分毎に算出した。λは0から1の数を示し、高値であるほど2つのリズム間の結合度が高いことを表す。プロトコル1にてλが0.6を超えている部分をCLSが発生しているととらえ、CLS発生時と自由歩行時を対応のあるt検定にて比較した。またCLSの発生している時間数と、CLSを誘発した歩行と自由歩行の平均値の差(プロトコル1-プロトコル2)の関連を、スピアマン順位相関係数検定を用いて検討した。有意水準は危険率5%未満とした。
    【説明と同意】
    対象者には口頭にて実験の主旨を説明し、同意書にて参加の同意を得た。本研究は、聖隷クリストファー大学の倫理委員会の承認のもと実施した。
    【結果】
    プロトコル1にて8人中7人の対象者でλが0.6を超える部分が観測された。CLS発生時と自由歩行時の比較の結果、酸素摂取量はCLS発生時が29.13ml/kg/min、自由歩行時が28.19ml/kg/minでありCLS発生時で有意に高値を示した。筋血流量を示すと考えられるTotal HbはCLS発生時が17.91g/dl、自由歩行時が17.58g/dlでありCLS発生時で有意に高値を示した。心拍数には有意差は認められなかった。CLSの発生している時間数と2つのプロトコル間の差の関連は、Total Hbにて相関係数0.70(p=0.07)、酸素摂取量にて相関係数0.61(p=0.10)であった。
    【考察】
    酸素摂取量と心拍数では、我々の先行研究と同様の結果が確認された。また、CLSが発生している際に筋血流量が増加することが確認された。更にCLSの発生している時間が長い対象者ほど、自由歩行時よりもCLSを誘発した歩行で筋血流量、酸素摂取量が高値を示す傾向がみられた。以上のことから、CLSが発生している歩行では、同負荷の自由歩行と比較して、筋血流量が増加し、その結果、活動筋への酸素供給量の増大、それに伴うタイプ1線維の活性化、酸素代謝の亢進が起こり、酸素摂取量が増加することが推測された。
    【理学療法学研究としての意義】
    CLSは若年者よりも高齢者で、また、低強度よりも高強度において発生しやすいことが報告されている。このことは、運動による要求に対し、活動筋と心血管系を協応させることで血液循環の効率化を行い対応した結果であると考えられる。CLSを誘発することによって、運動中の心血管系と活動筋間の協応を導くことができる可能性があり、今後検討を行うことで、高齢者や心疾患患者に対する運動療法として応用できると考えられる。
  • 筋輝度で表わされる筋の質は筋力発揮に影響を及ぼすか?
    福元 喜啓, 池添 冬芽, 坪山 直生, 田中 武一, 中村 雅俊, 木村 みさか, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Sh2-026
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者や有疾患者における骨格筋の超音波画像は健常な筋と比べ高輝度を呈するが,これは骨格筋内の結合組織など非収縮組織の比率の増加といった筋の質の変化を表しているとされている(Heckmatt 1982,Reimers 1996)。近年,筋輝度を用いての定量的評価もなされてきており,小児神経筋疾患の診断における筋輝度測定の有用性や(Pillen 2006),筋生検による脂肪の割合と筋輝度との関連(Pillen 2009)が報告されている。大腿四頭筋の筋力発揮には筋厚や羽状角などの筋の形態的要因が影響するとされているが,筋輝度と筋力との関連についての報告はほとんどない。本研究の目的は,中高齢者における大腿四頭筋の筋厚と筋輝度が膝伸展筋力に及ぼす影響を調べることである。

    【方法】歩行が自立している中高齢女性97名(平均年齢74.4±10.2歳,身長148.5±7.8cm,体重49.6±8.5kg)を対象とし,膝伸展筋力,大腿四頭筋筋厚および筋輝度の測定を行った。膝伸展筋力の測定にはHand-held Dynamometer(アニマ社製μ-Tas F-1)を使用し,膝関節屈曲90°位の端坐位にて右側の最大等尺性筋力(N)を測定した。筋力値は2回測定した最大値を使用し,アーム長を乗じた膝伸展トルク(Nm)で表わした。超音波診断装置(GE横河メディカル社製LOGIQ Book XP)を使用し,安静背臥位での右大腿四頭筋の縦断画像を記録した。8MHzのリニアプローブを使用し,ゲインなどの画質条件は同一の設定で測定した。記録部位は,上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線上遠位1/3から外側3cmで外側広筋(VL)上とし,プローブは皮膚面に対して垂直に保持し,筋肉を圧迫しないように皮膚に軽く接触させた。大腿四頭筋の筋厚として,VLと中間広筋(VI)を合わせた筋厚(cm)を計測した。また画像解析ソフト(Image J)を使用してVLとVIの領域の筋輝度(pixel)を2回ずつ測定し,それぞれ平均値を算出した。さらにVLとVIとの平均値を求め,大腿四頭筋輝度のデータとして用いた。統計学的検定として,ピアソンの相関係数を使用し,筋力値,筋厚,筋輝度および年齢のそれぞれの関連性を検討した。また,筋力値を従属変数,筋厚と筋輝度を独立変数とした重回帰分析を行った。すべての統計の有意水準は,5%未満とした。また本研究での筋輝度測定の信頼性を調べるために,VLおよびVIそれぞれの同一検者による2回の測定値について級内相関係数を求めた。

    【説明と同意】すべての対象者には研究内容についての説明を行い,文書での同意を得た。

    【結果】筋輝度測定の級内相関係数は,VL,VIともに0.99であった。筋力値は67.5±31.6Nm,筋厚は2.31±0.76cm,筋輝度は80.0±18.4pixelであった。筋厚は筋力値との間に有意な正の相関(r=0.68,p<0.01)を示し,年齢との間に有意な負の相関(r=-0.67,p<0.01)を示した。筋輝度は年齢との間に有意な正の相関(r=0.74,p<0.01)を示し,筋力値との間に有意な負の相関(r=-0.68,p<0.01)を示した。また,筋厚と筋輝度との間にも有意な負の相関が認められた(r=-0.64,p<0.01)。重回帰分析の結果,筋力値に影響を与える有意な因子として筋厚,筋輝度ともに抽出され,標準回帰係数は筋厚が0.41(p<0.01),筋輝度が-0.41(p<0.01)であった。筋力値の重回帰式は,[筋力値(Nm)=83.5+17.3×筋厚(cm)-0.69×筋輝度(pixel),p<0.01]であり,その決定係数は0.56であった。

    【考察】級内相関係数で求めた筋輝度測定の信頼性は,VL,VIともに0.99であり,高い信頼性が認められた。本研究の結果より,大腿四頭筋は加齢に伴い筋厚の低下だけでなく高輝度化も呈する,すなわち筋萎縮だけでなく,結合組織の比率の増加といった筋の質の低下も生じていることが明らかとなった。また,中高齢者における膝伸展筋力発揮には大腿四頭筋の筋厚だけでなく筋輝度で表わされる筋の質も影響を及ぼすことが示唆された。

    【理学療法学研究としての意義】超音波法を用いた骨格筋の評価については,筋厚や羽状角に関する報告が多いが,中高齢者の筋力発揮に関連する因子として,筋輝度で反映される筋の質についても評価することの重要性が示唆された。超音波法による筋厚や筋輝度の測定は非侵襲的で簡便に実施することが可能であり,臨床で運動処方する際の指標として,今後,応用が期待される。
  • 金子 文成, 青山 敏之, 速水 達也, 柴田 恵理子, 青木 信裕
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Sh2-027
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】経頭蓋直流電気刺激(tDCS)あるいは経頭蓋磁気刺激(TMS)により,皮質運動関連領野において興奮性の変化が誘起され,その結果,運動パフォーマンスが変化する事象が報告されている。TMSの場合には連続刺激(rTMS)を行うか,末梢神経に対する電気刺激との連合性ペア刺激(PAS)という方法がとられる。背景にある機序はNMDA受容体依存のシナプス長期増強あるいは抑制様の効果であると考えられている(Nitsche MA, 2009)。このような刺激による介入は,運動パフォーマンスにポジティブな影響を及ぼし,脳血管障害に対する治療的効果が期待されている(Reis J, 2008)。一方で,皮質への非侵襲的刺激と末梢感覚入力の組み合わせは,Hebbian Modificationの概念から皮質興奮性の操作方法として有効であることが見込まれるが,多種モダリティに対する刺激の組み合わせ効果などは検討されていない。我々は,取り扱いの簡便さと刺激によるリスク回避の視点から,非侵襲的皮質刺激方法としてtDCSの方が臨床応用しやすいものと考える。そこで本研究では,tDCSと視覚刺激による自己運動錯覚の誘起,およびそれと同時に行わせる運動イメージの脳内再生という方法を組み合わせ,一定時間実験的に介入した場合の電気生理学的効果を明らかにすることを目的に実験を行った。
    【方法】被験者は健康な成人とし,安楽な姿勢を保つ事の出来る椅子に座位となって,左前腕をテーブル上に置いた。TMSには8字コイルを使用し,第一背側骨間筋(FDI)と小指外転筋(ADM)に貼付した表面皿電極より運動誘発電位(MEP)を記録した。TMSの刺激強度は安静時閾値の1.15倍とした。TMSによる測定は介入前,介入直後,介入15分後,介入30分後,介入60分後の時点で実施した。実験的介入は多重同期刺激として,皮質一次運動野(M1)に対してtDCSを行い,その最中に視覚刺激による自己運動錯覚の誘起を実施し,視覚刺激で呈示される動画に合わせて運動イメージの脳内再生を行わせた。これらの刺激を15分間行った。tDCSは,anode電極の中心位置をFDIの刺激最適位置に合わせ,cathode電極は対側半球のM1に配置した。tDCSの刺激強度は1mAとした。自己運動錯覚を誘起させる方法は,我々の先行研究に基づき(Kaneko F, 2007),第三者の示指が内外転運動を繰り返す動画を用いた。そして,その動画を被験者の前腕遠位から手指を覆うように配置した液晶モニタ上に呈示することにより,被験者自身の示指があたかも動いていると感じるような自己運動錯覚を生じさせた。さらに,被験者はこの動画に合わせて示指外転の運動イメージの脳内再生を行った。統計学的解析は最大上M波振幅で正規化したMEP振幅について,測定時期(介入前,介入直後,15分後,30分後,60分後)を要因とした反復測定一元配置分散分析を行った。さらに多重比較として,Dunnett法を用いた。
    【説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿って実施された。また,実験内容に関する十分な説明の上,同意の得られた者を対象として実施した。
    【結果】一元配置分散分析の結果,測定時期の要因による有意な主効果が得られた。さらに,介入前のMEP振幅を対照とした多重比較の結果,介入60分後では有意差がなかったものの,それまでは統計学的有意に増大していた。最も変化が大きかった刺激終了直後のMEP振幅は,介入前の約1.5倍を示した。
    【考察】今回用いた多重同期刺激の効果について検討した報告は,我々の知る限りではない。我々が提案する多重同期刺激が誘起する長期増強様効果をTMSによるMEPで検証した結果,MEPが有意に増大し,その効果が一定時間持続することが示された。過去の報告で,tDCS単独で行った場合には対照となる振幅の約1.2~1.3倍程度である(Liebetabz D, 2002; Nitsche MA, 2009)。それに対して,今回の多重同期刺激による効果は対照の1.5倍程度であり,これまでの報告よりも効果量が大きい可能性がある。この点は,今後,tDCSの単独刺激を対照とした実験により検証したい。いずれにせよ,多重同期刺激により,皮質運動関連領野における興奮性が増大し,ある程度の間その効果が持続されることが明らかになった。
    【理学療法学研究としての意義】皮質運動関連領野の興奮性を高めることは,運動パフォーマンスの向上に効果的に結びつくということ,そして脳卒中片麻痺症例のコンディショニングとしても有効である可能性があることが,過去の報告で示されている。本研究で示した結果から,多重同期刺激を行うことでさらに効果的な理学療法の介入方法が開発されたといえる。
  • 山田 実, 島田 裕之, 竹上 未紗, 山田 陽介, 前田 裕子, 永井 宏達, 田中 武一, 竹岡 亨, 上村 一樹, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Sh2-028
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    人が日常生活において活動する際は、「荷物を持って移動する」、「電話の着信音を気にしながら移動する」等、二つ以上の課題を同時に処理することが求められる。近年、高齢者における転倒予防の分野では、この複数課題条件下での課題遂行能力の低下が転倒リスクを高める要因となることが報告されている。とくに、運動機能が保持されているにも関わらず転倒する高齢者の転倒リスクを把握するためには、単純な課題より複数課題を課すことで転倒の潜在的な危険性を抽出できる可能性がある。しかし、在宅等で転倒リスク評価を行う際には、測定場所の確保が困難、カットオフ値が不明確等の理由により、このような転倒リスク評価が行いにくいのも事実である。
    そこで、本研究ではtimed up and go test(TUG)が13.5秒以下(転倒のカットオフ値以下の値)であり、運動機能が保持されている高齢者を対象に、潜在的な転倒リスクを判断するための質問紙の開発を目的とした。質問紙は、複数課題条件下での移動能力を調査する内容とし、誰もがどこでも簡便に測定することが可能な質問紙表の作成を目指した。
    【方法】
    対象者は地域在住高齢者161名(年齢75±8歳、身長157±9cm、体重56±9kg、女性の割合79.3%)であった。TUGが13.5秒以上の者は除外した。
    質問紙表の作成は、文献レビューおよび転倒状況の予備調査によって、転倒の発生は、「歩行」、「立ちしゃがみ」、「方向転換」で多発し、転倒の発生機序としては、「つまずき」や「滑り」が大半を占めるということが明確となった。また複数課題的情報としては、「何か持っていた」、「何か探していた」、「急いでいた」などの理由を得た。これらの結果をふまえ、単一あるいは複数課題条件で表現した動作の可否を問う質問文章を作成した。文章は、理学療法士、看護師、保健師、および非医療従事者で構成されたメンバーで入念に確認し、高齢者の方でも理解しやすい表現とした。なお、作成された文章は20名の高齢者を対象に、複数回に渡って予備調査を行い、修正を重ね、繰り返し測定しても同じ結果になるまで文章の修正を行った。なお、質問数は最初に50個あった候補から、類似した表現の質問を削除して14項目まで絞ってから分析した。回答方法は、「はい」か「いいえ」の二者択一方式とした。
    統計解析は、14項目の調査結果からバリマックス回転法による因子分析を実施した。因子数の決定は主因子分析とし、各因子における因子負荷量が最大であった項目を最終的な調査項目として採用した。各調査項目に1点の配点を与え(動作困難な場合を1点)、その合計点によって転倒リスクの判定が可能か検討するため、従属変数に過去1年間の転倒歴を投入した判別分析を行い、ROC曲線によってカットオフ値を求めた。
    【説明と同意】
    参加者には紙面および口頭にて研究の目的および方法などに関して十分な説明を行い、署名にて同意を得た。
    【結果】
    本研究の対象となった161名の高齢者において、過去1年間に転倒経験を有していた者は52名(32.3%)であった。因子分析の結果、因子数が4因子のときに最適解が得られ、質問項目は4項目と決定した。選ばれた4項目は、(1)何も持たずに椅子から立ち上がれますか、(2)何も入っていない空のコップを持っていて、真後ろへ方向転換できますか、(3)水やお茶などが入ったコップを持っていてもこぼさずに歩くことができますか、(4)トイレに行くときや電話が鳴っているときなど、急いでいるときには敷居やカーペットなどの段差につまずくことがありますか、であった。判別分析の結果では、正準相関係数は0.414、正判別率は71.3%であり、ROC曲線より求めたカットオフ値は1点(感度63.5%、特異度75.0%)となった。
    【考察】
    本質問紙は、従来の運動機能のスクリーニングでは転倒リスクを判断することが困難な高齢者用に作成した。因子分析によって選ばれた質問項目は、立ち上がり、方向転換、歩行、つまずきの要素がそれぞれ含まれ、転倒リスクを比較的広範囲に捉えているものと考えられた。また、立ち上がりを除くそれぞれの質問内容が、複数課題条件となっていることで、潜在的な転倒リスクを高感度で判別できたため、4項目の簡単な質問だけで、過去1年間の転倒の識別が71.3%可能であったものと考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究で開発した質問紙は、簡便な4項目の質問で構成され、簡便に利用できるため適用範囲が広く、地域の保健事業や在宅でのリハビリテーション等での活用が期待できる。また、本質問紙は4項目だけで転倒の判別力が71.3%と高く、潜在的な転倒リスクを有する高齢者をスクリーニングするための妥当性の高い有用なツールとなり得ることから、本研究の意義は大きいものと考える。

  • 下井 俊典
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Sh2-029
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】継ぎ足歩行は, 床面に引いた一直線上を, つま先に対側の踵を接触させながら歩行する応用歩行の1つである. 動的バランスの評価や, その向上練習として臨床応用されているが, 評価方法としての信頼性・妥当性を報告した研究は少ない. そこで我々は, 絶対信頼性の観点から, 継ぎ足歩行テストの信頼性を検討してきた. まず, Bland-Altman分析を用いて継ぎ足歩行テストにおける系統誤差の影響を検討した. 結果として, 5mの同テストの所用時間である継ぎ足歩行時間(以下, TGT)と, 所要時間とミスステップ数から算出する継ぎ足歩行指数(以下, TGI)の2種類のテストは, 測定の際に系統誤差が混入しないことが明らかとなった. 続いて我々は, 同テストの測定誤差の範囲を求めることを目的として, 「最小可検変化量 (minimal detectable change, 以下MDC)」を算出した. 結果として, TGTで3.5秒以内, TGIで4.3以内の測定値の変化は測定誤差によるもので, 同値より大きな変化は「真の変化」と判断されることが明らかとなった. そこで本研究では, 先行研究で得られた測定誤差範囲を用いて, 継ぎ足歩行テストの年齢階層別および性別の弁別妥当性を検討することを目的とした.

    【方法】対象者は, 493名の地域在住健常成人(年齢62.6±16.2歳, 女性367名, 男性126名)である. 継ぎ足歩行テストとして, 対象者に, 長さ5m, 幅5cmのテープ上を, 片側のつま先と対側の踵を離さないように歩行させ, 要した時間を測定した. また, テープ上から足部が完全に逸脱した回数をミス・ステップ数として計測した. 5mの同テストの所用時間とミスステップ数から, TGT, TGIを算出し, これら2種類のテスト値について年齢階層別および性別の妥当性を検討した.
    年齢階級別の検討は, 得られた各テスト値を, 65歳以下, 65-69歳, 70-74歳, 75-79歳, 80-84歳, 85歳以上の5歳毎の6年齢階級に分け, 各階級別の測定値を比較し, 加齢によるテスト値への影響を検討した. また性差については, 男性のn数を考慮して, 64歳以下, 前期高齢者(65-74歳), 後期高齢者(75歳以上)の3年齢階層別に測定値を比較した.
    統計学的手法として, 年齢階層別の検討には, 性別の年齢階級を水準とした一元配置分散分析を用い, 主効果が認められた場合, 下位検定としてScheffe法を用いた. また性差については, 各年齢階層別に対応のないt検定を用いた. いずれも有意水準は5%とした.

    【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき, 対象者に対して研究の目的を説明し同意を得た上で, 研究を行った.

    【結果】男性については, TGT, TGIのいずれも65歳以下と80-84歳の年齢階級群間で有意差を認めた(p<0.05)が, その他の階級間では有意差を認めなかった. 対して女性については, TGT, TGIのいずれも80-84歳, 85歳以上の2年齢階級と他の年齢階級間に有意差を認めた(p<0.05). 性差については, TGT, TGIのいずれも, 全年齢階層について男性が女性よりも有意に低値を示した(p<0.05).

    【考察】本研究結果より, 男女の年齢階級間で統計学的に有意な差が認められた. これらの差は, TGT, TGIの測定誤差範囲である, 3.5秒, 4.3より大きな差であった. このことから, 本研究で認められた年齢階級間の差は, 測定誤差によらない「真の変化」, つまり加齢による変化であると判断できる. 同様に性差については, 男女とも後期高齢者(75歳以上)における有意差のみが「真の変化」, つまり性別による差であると判断できる.

    【理学療法学研究としての意義】継ぎ足歩行テストは, 後期高齢者, 特に80歳以上で加齢による影響を受けることが明らかとなった. このため同テストは, 80歳未満・以上で年齢階層別および性別の弁別妥当性を有するといえる. 加えて, 加齢による身体機能の低下を反映するということから, 同テストは身体機能評価としての構成概念妥当性を有することも明らかとなった.
    また, 評価結果を臨床応用する場合には, 検定による有意差の検討だけではなく, 本研究で用いたMDCに代表される「臨床的に意義のある最小変化量(minimal clinical important difference, MCID)」の視点からの解釈を加えるべきである.
  • 石井 秀明, 西田 裕介
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Sh2-030
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】理学療法において、運動耐容能やスキルの向上を目的とするプログラムは頻繁に処方される。運動耐容能やスキルの向上の要因の一つとして、いかに疲労せずにプログラムを遂行できるかということが含まれる。しかし、疲労の発生機序は未解明のままである。その一つの原因として、代謝産物の役割が疲労物質ではなく、中枢へのシグナルとなる可能性が示唆されており、代謝産物の役割が見直されていることが挙げられる。特に、乳酸は高強度運動中に発生する痛みの感覚を引き起こすことが示唆されている。そこで、負荷強度の変化を用いて乳酸と一次感覚領域の関係性について検討した。

    【方法】対象は、心血管系に関連のある疾患既往のない若年健常男性11名(平均年齢20±1歳、平均身長170.9±3.70cm、平均体重61.0±5.87kg)とした。運動様式は、スメドレー式の握力計を用いたハンドグリップ運動を背臥位で実施した。まず、最大等尺性随意収縮の測定を左手で3回測定し、平均値を算出した。得られた最大随意収縮の10%、30%、50%をそれぞれの負荷強度として算出した。測定は、最大随意収縮の測定時と同様の姿勢で、握力計を持った状態で5 分間の安静の後、スメドレー式の握力計を把持し、各負荷強度において持続的な把握動作を120秒間実施した。持続的な把握動作中は、対象者へ口頭でのフィードバックにより目標値を維持させた。測定順は、10%負荷強度、30%負荷強度、50%負荷強度をランダマイズに実施した。各測定間は、最低15分以上の休息を挿入した。また、測定中はValsalva現象を避けるため、電子メトロノームによる調節呼吸下で行わせた。血中乳酸値の測定と脳血流の測定は別の日に実施した。血中乳酸値は、安静5分終了後と把握動作中の乳酸を反映すると考えられる把握動作直後に測定し、安静時から運動中の値の変化量で解析した。脳血流の計測は、近赤外線分光法による光トポグラフィ装置を使用し、3列×10行のプローブ(47チャンネル)を国際10-20法に定められたCzを中心に装着し、プロトコル中、随時測定した。解析には、運動中の酸素化ヘモグロビン値(Oxy-Hb)の安静から運動終了30秒前の変化量を算出した値を用いた。統計学的検討は、血中乳酸値およびOxy-Hbの変化量がShapiro-Wilk検定によって正規分布するかどうかを検討した。血中乳酸値およびOxy-Hbの変化量には、一元配置分散分析を用い、主効果が認められた場合にのみTukeyの多重比較検定にて検討した。また、それぞれの負荷強度毎の関係性の検討には、Pearsonの積率相関係数もしくはSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は、危険率5%未満とした。

    【説明と同意】全ての対象者に対して、事前に実験の目的と方法を文面及び口頭で十分に説明し、参加の同意を得た。本実験は、聖隷クリストファー大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。

    【結果】血中乳酸値の変化量は、10%負荷強度で-0.02±0.362mmol/L、30%負荷強度で0.23±0.280mmol/L、50%負荷強度で0.55±0.277mmol/Lであり、10%負荷強度と50%負荷強度、30%負荷強度と50%負荷強度の間で有意差が認められた(p<0.05)。Oxy-Hbの変化量は、10%負荷強度で-0.005±0.1091mmol*mm、30%負荷強度で0.318±0.3403mmol*mm、50%負荷強度で0.978±0.5331mmol*mmであり、それぞれの負荷強度間に有意差が認められた(p<0.05)。また、各負荷強度の相関は、全ての負荷強度において有意差は認められなかったが、負荷強度が上昇するにつれ、相関係数が高くなる傾向にあった(10%負荷強度:r=0.23、30%負荷強度:r=0.48、50%負荷強度:r=0.60)。

    【考察】以上の結果より、負荷強度の上昇により血中乳酸の産生および一次感覚領域の賦活は、負荷強度が増加するにつれ上昇することが分かった。また、各負荷強度における関係性は有意差が認められなかったものの、相関係数が負荷強度の増加に伴い高くなっている傾向にあった。現在、乳酸自体が直接疲労に影響することは否定されているが、痛みの感覚を引き起こす求心路に作用するなど様々な作用が確認されていることより、血中乳酸の上昇と一次感覚領域の賦活は関係性がある可能性があると考えられる。

    【理学療法学研究としての意義】今後、乳酸のような代謝産物を疲労物質として捉えるのではなく、脳への情報伝達の物質として捉えることで、理学療法のプログラム立案に有用な示唆を与えるものであると考えられる。
専門領域別演題
  • 廣島 玲子, 山田 惠子, 乾 公美
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Se2-025
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】身体活動の低下や不動化が続くと廃用性筋萎縮が発症するが,再体重負荷や運動などにより筋萎縮は可逆的に回復する.しかし,萎縮を起こした筋が回復する過程や回復に要する期間に関する研究は未だ少ない.本研究では,ラット廃用性萎縮ヒラメ筋を用い,細胞がストレスを受けたときに誘導され変性タンパク質の抑制や修復を行うとされる熱ショックタンパク質70(Hsp70),及び骨格筋の活動量に強く影響を受けるミオシン重鎖アイソフォーム(MHC isf)に焦点をあて,萎縮からの回復過程におけるこれら2種類のタンパク質発現量変化をmRNAレベルとタンパク質レベルで経時的に検討した.
    【方法】11週令Wistar系雄ラットを用い,3週間の後肢懸垂(HS)後,再び体重を負荷した.短期回復過程として再体重負荷後12時間(R12h),24時間(R24h),48時間(R48h)を,長期回復過程として再体重負荷後3日(R3d),7日(R7d),14日(R14d),28日(R28d),56日(R56d)を経時的に検討した.回復過程の指標として,ラット体重,ヒラメ筋湿重量と総タンパク量,HE染色によるヒラメ筋組織像,RT-PCR法によるHsp70とMHC isfのmRNA発現量,Western Blotting法によるHsp70タンパク質発現量,SDS-PAGE法によるMHC isf タンパク質発現量を検討した.データ解析はDunnet法による多重比較を用い,有意水準を5%未満とした.
    【説明と同意】本研究は「札幌医科大学動物実験指針」に従い,札幌医科大学医学部動物実験施設管理運営委員会にて承認を受けたものである.
    【結果】体重及びヒラメ筋湿重量は,3週間の後肢懸垂(HS群)で著しく減少(p<0.01)したが,再体重負荷後は両者共に徐々に懸垂前レベル(C群)に戻った.HE染色では,HS群において筋線維の多核化や細胞萎縮が観察され,再負荷後は筋細胞の変性がさらに進み3日後(R3d群)には筋細胞壊死が見られたが,再負荷後7日(R7d群)には回復傾向が認められた.HS群におけるHsp70のmRNA発現量は,C群と比較して変化を示さなかったが,再負荷後は増加し,7日目(R7d群)にはC群の13倍(p<0.01)にまで達した.Hsp70のタンパク質発現量においては,HS群はC群より減少し,再負荷後は増加してC群レベルに戻ったが,これら変化には統計的な有意差はなかった.MHC isfのmRNA発現量は,HS群でMHC-Iβ, Ia, IId/x, IIbと全てが増加を示し,再負荷後は更に増加した.この増加パターンはタイプにより異なった.MHC isfのタンパク質発現量は,HS群で全てが増加したが,再負荷後は全て減少した(p<0.05).この増減変化の程度は,遅筋タイプ(Iβ)よりも速筋タイプ(IIa, IId/x, IIb)が大きかった.Iβの占める割合を示す相対分布比では,C群は69%であったが,HS群では28%に減少し,再負荷後は徐々にIβの割合が増加し,7日目(R7d群)にはC群レベルに戻った(p<0.01).
    【考察】後肢懸垂により体重,ヒラメ筋湿重量,総タンパク量は減少したが,再体重負荷後は増加し3~7日で懸垂前レベルに戻った.しかし,HE染色組織像では再負荷直後は筋細胞の変性が進み,再負荷後3日では細胞壊死もみられた.これは萎縮を起こし脆弱化したヒラメ筋に体重負荷が再開された結果筋細胞に損傷や壊死が発生したと推察する.しかし,再負荷後7日以降は回復が確認された.再負荷直後から始まった筋細胞の損傷や壊死を回復へと導くため,筋タンパク質の修復や補修を担うHsp70の遺伝子レベルでの指令が増し,再負荷7日目でmRNA発現量が著しい増加を示したと考える.MHC isfの分析では,ヒラメ筋は萎縮で速筋化,回復で遅筋化が認められたが,これらは遅筋タイプ(Iβ)よりむしろ速筋タイプ(IIa,IId/x,IIb)の発現が著しく増減して起こるのではないかと推察する.
    【理学療法学研究としての意義】本研究は,動物モデルを用いて,廃用性筋萎縮からの回復におけるHsp70とMHC isfのmRNA及びタンパク質の経時的発現量変化を検討したものであり,このように筋の回復過程を分子レベルで検討した研究は未だ少ない.本研究は,理学療法士が臨床において廃用性筋萎縮の治療を行う際に,有効な治療法の開発や時期を検討するための一助になると考える.
  • 痛覚閾値ならびに疼痛関連行動、脊髄後角c-fos陽性神経細胞の変化から
    濵上 陽平, 中野 治郎, 本田 祐一郎, 片岡 英樹, 坂本 淳哉, 近藤 康隆, 沖田 実
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Se2-026
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    難治性の慢性痛を呈する複合性局所疼痛症候群(CRPS)Type Iの診断基準に不動の有無が掲げられているが、これは臨床研究、ならびに基礎研究の双方で不動が痛みの発生に直接的に関与すると捉えられているからである。しかし、Guoらの報告によれば、4週間のラット足関節不動化モデルで見られる痛覚過敏は不動解除2週後に回復する一過性のものとされており、CRPS Type Iの臨床像とは異なる点があるのも事実である。このことに関しては、不動期間が短期であることが影響しているのではないかと予想されるが、この点を明らかにした報告はない。そこで本研究では、不動期間4・8週間のラット足関節不動化モデルを用いて不動期間中から不動解除後まで経時的に痛みの推移を評価した。加えて、不動期間の違いが痛みにおよぼす影響を明らかにするため、急性持続性疼痛の評価方法として知られるホルマリンテストを用い、疼痛関連行動、ならびに痛みに関する神経活動マーカーとされているc-fos陽性細胞の脊髄後角での分布を検討した。
    【方法】実験1:8週齢のWistar系雄性ラットを無処置の対照群(n=5)と実験群(n=20)に分け、実験群はギプスを用いて右側足関節を最大底屈位の状態で不動化し(不動側)、左側足関節は無処置とした(非不動側)。そして、不動期間を4週間(4I群;n=10)と8週間(8I群;n=10)に設定し、不動期間終了後はギプス固定を解除してさらに4週間通常飼育した。実験期間中は1回/3日の頻度で足背部にvon Freyテストと熱痛覚閾値温度測定を行い、機械刺激に対する痛みと熱刺激に対する痛みを評価した。
    実験2:実験1と同様に、8週齢のWistar系雄性ラットを対照群(n=10)と右側足関節を不動化する実験群(n=10)に分け、不動4週後、8週後の時点で対照群(4CF群;n=5、8CF群;n=5)、実験群(4IF群;n=5、8IF群;n=5)にホルマリンテストを実施した。ホルマリンテストの方法は、10%のホルマリン溶液25μlを不動側のラット足蹠皮下に注入した後60分間、足を舐める、噛むといった疼痛関連行動を示した秒数を測定した。また、ホルマリン溶液注入の2時間後、ラットを灌流固定して第4腰髄を摘出し、その凍結横断切片を用い、c-fosに対する免疫組織化学染色を実施した。そして、不動側、非不動側の脊髄後角に分布するc-fos陽性細胞数をカウントした。
    【説明と同意】今回の実験は長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき長崎大学先導生命体研究支援センターの動物実験施設において実施した。
    【結果】実験1:対照群と比較して実験群の機械刺激・熱刺激に対する痛覚閾値は不動2週目から有意に低下し、不動期間に準拠して低下し続けた。一方、不動解除後の痛覚閾値をみると、4I群は回復するものの、8I群には回復がみられなかった。実験2:疼痛関連行動の出現は、ホルマリン注入5分後においては4CF群、8CF群に比べ4IF群、8IF群それぞれ有意に増加したが、10~25分後においては8CF群と8IF群の間のみに有意差が認められた。一方、不動側の脊髄後角におけるc-fos陽性細胞数は、4IF群と4CF群には有意差を認めなかったが、8IF群は8CF群、ならびに4IF群より有意に高値を示した。なお、非不動側におけるc-fos陽性細胞数は、すべての群間で有意差を認めなかった。
    【考察】今回の結果、機械刺激・熱刺激に対する痛覚閾値は不動2週目から低下が認められ、これは不動が痛覚過敏を惹起するという事実を示しており、しかもその発生時期が明確となったと考えられる。そして、不動期間が4週間の場合は痛覚過敏は不動解除後に回復したが、8週間では回復は認められず、慢性的な痛みに発展している可能性がうかがわれた。次に、ホルマリンテストにおける疼痛関連行動は、一般に注入直後の第1相と注入10分以降の第2相に分けて捉えることができ、第1相は末梢組織の痛みを、第2相は脊髄後角細胞の感受性の亢進を反映するとされている。つまり、第2相において疼痛関連行動の増加が認められた8IF群は脊髄後角細胞の感受性が亢進していたと考えられる。そして、このことを裏付ける事実として8IF群の不動側においては、脊髄後角でのc-fos陽性細胞の増加が認められた。したがって、今回用いたモデルにおいては、不動期間が4週間の場合はその痛みは一過性であるが、不動期間が8週間におよぶと脊髄後角細胞に感作が生じ、このことが影響して慢性的な痛みになると考えられる。
    【理学療法研究としての意義】各種の疾病・外傷に対して理学療法を実践する上で痛みの発生は大きな支障となることが多いため、その予防と治療に関する研究が進められている。本研究は不動が原因で発生する痛みの発生時期やその推移、ならびに慢性化する時期を示したものであり、痛みの予防と治療を考えていくための理学療法研究として十分な意義がある。
  • 石田 章真, 飛田 秀樹, 高松 泰行, 濱川 みちる, 玉越 敬悟, 石田 和人
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Se2-027
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、 constraint-induced movement therapy (CIMT) と呼ばれる治療法がその有効性から注目を集めている。CIMT は片麻痺患者の非麻痺側上肢を使用制限することで麻痺側上肢の運動を導出し、段階的なトレーニングを行うことで機能回復を導くことを狙いとする。しかし、脳損傷後における麻痺肢の強制的使用が生体に及ぼす具体的な影響については未だ不明な点が多い。本研究は内包出血後の麻痺側前肢の強制使用が前肢運動機能および脳傷害体積に及ぼす影響を検討することを目的とする。
    【方法】
    実験動物にはWistar 系雄性ラット(8 週齢、200-250 g)を用いた。全てのラットの利き手に対応する側の内包に、血管の基底膜を破壊する collagenase (15 units/ml, 1.4 ul, Sigma) を注入し出血を起こした。術後24 時間より、強制使用群 (n=8) のラットの非麻痺側前肢を自然な屈曲位で胸骨前に保持し、そのまま体幹ごとフェルトおよびギプス包帯にて拘束し、使用を制限した。なお麻痺側前肢は自由に運動できる状態を保った。対照群 (n=9) のラットは、内包出血後に体幹部にのみ同様の処置を行い、両前肢が自由に使用できる状態においた。この状態で術後 8 日目まで 7 日間通常飼育を行った。その後非麻痺側前肢の拘束を解除し、麻痺側前肢の運動機能を評価した。総合的な運動機能障害の評価は motor deficit score (MDS) を用い、1, 10, 26 日目に実施した。加えて術後 10-12 日目および 26-28 日目において single pellet reaching test、ladder test、cylinder test を実施し、麻痺側前肢のリーチ・把握機能、協調運動機能、自発的な使用率を評価した。運動機能評価終了後、ラットを深麻酔下で 4 % paraformaldehyde により経心的に灌流固定し、脳を取出した。その後脳をドライアイスにて凍結し、40 um厚の冠状切片を作成した後 Hematoxylin-Eosin 染色を実施し、傷害体積を計測した。傷害体積の計測には画像解析ソフト ImageJ を用いた。
    【説明と同意】
    本研究における全処置は名古屋大学動物実験指針に従って実施した。
    【結果】
    内包への collagenase 注入により、全ラットで術後 1 日目より MDS の総合点の上昇を認め、運動機能の障害が確認された。運動機能障害は術後 10日目および 26 日目においても継続してみられたが、麻痺肢の強制使用による有意な影響はみられなかった。Single pellet reaching test においては、術後 10-12 日目の時点で強制使用群が対照群に比べ有意に良好な成績を示したが、術後 26-28 日目においては両群間に有意な差異を認めなかった。リーチ動作の様式においても、術後 10-12 日目の時点では強制使用群がより正常に近い動作様式を示したが、術後 26-28 日目においては対照群との間に差異はみられなかった。 Ladder test に関しては、術後 10-12 日目および 26-28 日目の双方において、強制使用群が対照群と比してより正確なステッピングを示した。Cylinder test に関しては、麻痺肢の使用率は両群間で同等であり差異はみられなかった。なお、傷害体積は両群ともほぼ同程度であり、強制使用による明らかな影響は認めなかった。
    【考察】
    内包出血後の麻痺側前肢の強制使用により、運動麻痺の総合的な重症度や前肢の自発的な使用率には変化が見られなかったが、リーチ機能やステッピング機能といった、より巧緻性を必要とする運動機能は改善を示した。これらの結果は、麻痺肢の使用に伴う運動の再学習および中枢神経系の可塑的変化の促進を示唆するものと考える。また、強制使用群でステッピング機能が継続的な改善を示したのに対し、リーチ機能は初期(術後 10-12 日)では改善がみられたものの、後期(術後 26-28 日)の評価では対照群との間に有意な差異を認めなかった。本研究では麻痺肢の強制使用以外の処置は行っていないため、ラットの活動の中で一般的な動作であるステッピング動作に対し、特異的な動作であると推察されるリーチ動作は一時的な機能向上に留まった可能性が考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究では、麻痺肢の強制使用の影響を複数の運動機能評価法および組織学的評価を用いて質的・量的側面から多角的に判定した。脳損傷後の持続的な麻痺肢の使用による生体への作用の解析は、 CIMT のみならず運動療法一般の発展に寄与するものであると考える。
  • 吉川 輝, 跡部 好敏, 武田 昭仁, 船越 健悟
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: Se2-028
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】中枢神経系は再生能力に乏しく,一度損傷を受けると回復は困難と考えられてきた.しかし近年,脳の様々な可塑的変化が脳損傷後のリハビリテーションにより機能回復に影響を及ぼしている事が示唆されている.特に発生・発達期に被った脳損傷の場合,著しく改善する事が臨床的に明らかにされている.
    このように脳機能とリハビリテーションへの関心が強まる中,発達障害を対象とする小児理学療法界では,発生・発達期脳障害と機能代償・機能回復メカニズムに関する基礎医学研究に乏しい.そこで本研究では,出生時期における低酸素性虚血性脳症(perinatal hypoxic ischemic encephalopathy:HIE)モデル動物を作製し,その後の運動発達がどの様にもたらされるのかを行動学的・組織学的に検討した.
    【方法】本研究ではWistar系ラット(SLC)を使用した.HIE群8匹,コントロール群4匹の雌雄混合,計12匹を用意した.
    HIEモデル動物作製法としては,生後7日目にイソフルラン(1.5L/min)吸入麻酔下にて左総頸動脈を上下2ヶ所結紮し,その間を切断.その後,8%酸素:92%窒素の混合ガスにて低酸素負荷を120分実施した.負荷後,回復を待ち母親ラットに戻して保育させた.
    HIE後の運動発達を評価するために,生後3週の時点でBBBスコアを用いて複数名で採点,その平均を算出した.
    さらに非傷害側の皮質脊髄路の代償メカニズムを組織学的に検討するため,順行性トレーサー法を実施した.トレーサー標識物質としてDextran amine Texas Red(3000MW,100mg/ml):biotinylated dextran amine(3000MW,100mg/ml)=1:1の混合物質2μlをBregma頭尾側2mm,外側2mmの右大脳皮質感覚運動野領域へ数か所,microinjectorを使用して注入した.
    注入後2日から4日の生存期間を経て,イソフルランにて深麻酔を行い, 4%パラホルムアルデヒドにて灌流固定を行った.その後,即時に脳脊髄を取り出し4%パラホルムアルデヒドにて一晩浸漬固定を行い,25%スクロール溶液にて浸漬保存した.脳幹部および頸膨大部をクライオスタット(Leica社製)にて20μmの凍結前額断切片を作製.作製した切片は後固定,洗浄,封入の後に蛍光落射顕微鏡(Leica社製DMR)観察を行った.
    【説明と同意】本研究は,横浜市立大学医学部動物実験倫理委員会の承認を得て実施した.
    【結果】本研究を進行するにあたり,実験中での死亡例・順行性トレーサーの取り込み不良例は除外し,最終的に残ったHIE群4匹,コントロール群4匹で検討を行った.
    BBBスコアはHIE群の全例とも満点で歩行障害は殆ど目立たなかった.
    順行性トレーサー実験では,コントロール群においては右側延髄腹側から正中を越え反対側である左背索へ向かう陽性線維束が認められた.一方,HIE群においても同様の走行をした陽性線維束が確認されたが,それ以外に (1)反対側へ交叉する事なく同側である右背索へ向かう陽性線維,(2)一度は交叉したが再び同側である右背索へ向かう陽性線維,など数の大小には差異があるが全例で認められた.
    【考察】本研究結果では,著明な歩行障害を伴わなかった.その理由として非傷害側大脳皮質からの皮質脊髄路が両側性に支配しているためと考え,順行性トレーサー法を実施した.その結果,同側背索へ向かう線維が認められた.Joostenら(1992)は,げっ歯類における同側性皮質脊髄路は腹索正中裂付近に上位胸髄レベルまで存在すると報告しているが,同側背索にも存在するとの報告はこれまで見かけられない.この事から本研究で確認された同側の背索へ向かう陽性線維は発達期に被ったHIE後からの皮質脊髄路の可塑的な変化であると考えられる.臨床的には,山田(2007)が幼少期における半球切除にも関わらず片麻痺が回復した症例が紹介されている.このように発達期脳傷害からの回復メカニズムの一つとして,同側性皮質脊髄路の関与が示唆されている.しかしこの線維がどの様にシナプス形成をし,運動に関与しているか?また健常側と比べるとその線維数の違いは明らかであり,この線維でどの程度までの運動を担っているのか?など今後,検討する必要がある.
    【理学療法学研究としての意義】本研究は,発達期脳傷害からの機能回復メカニズムについて,行動学的検討にさらに理学療法学研究では今まで殆どなされていなかった組織学的手法を用いて検討を行った.臨床では,Jang(2009)らがDiffusion tensor tractographyを用いて発達期の皮質脊髄路を画像化し,予後予測を立てる報告がされている.このように今まで行動学的・運動学的観点が主であった理学療法アプローチから,脳画像所見から導かれる基礎医学的見解を加え理学療法を行っていく事でより効果的な結果が得られるのではないかと考えられる.その一端を担う上で,本研究のような基礎的研究を実施・発展させていく事は小児理学療法の発展に必要不可欠である.
  • 数学的モデルを用いた解析
    小栢 進也, 建内 宏重, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: Se2-029
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】筋が収縮すると関節は回転力を生み出し、筋力として発揮される。昨年我々は数学的モデルを用いて股関節の関節角度変化によるモーメントアームの変化を報告し、筋の発揮トルクが関節角度により大きく異なる可能性を示した。筋の発揮トルクはモーメントアームだけでなく、筋線維長や筋断面積などに影響を受けるとされており、本研究では股関節屈曲角度変化に伴う股関節周囲筋の屈伸トルクを数学的モデルにより検討した。
    【方法】股関節運動に作用する15筋を対象とし、股関節は円運動を行うとした。モーメントアームおよび筋・腱の線維長はKlein Horsmannらの筋の起始停止位置から算出した。大殿筋下部線維、大腿筋膜張筋は、起始から停止までを直線的に走行するのではなく、途中で骨や軟部組織に引っかかる走行変換点を考慮したモデルを用いた。なお、腸腰筋はGrosse らが提唱したwrapping surfaceの手法を用いた。この方法は走行変換点の骨表面を円筒状の形状ととらえて計算する方法で、筋は起始部から円筒に向かい、その周囲を回って走行を変え、停止に向かうとする。また、生理学的断面積・羽状角・筋や腱の至適長はBlemkerら、筋の長さ張力曲線はMaganarisらの報告を用いた。なお、本研究では関節運動によって、モーメントアームと筋線維長は変化するとし、生理学的断面積、羽状角は関節運動によって変化しないものとした。解剖学的肢位での起始・停止の位置から、股関節の角度に応じた起始の座標を算出した。次に、起始停止から筋の走行がわかるため、各筋のモーメントアームを求めた。このモーメントアームと筋の走行から、単位モーメント(筋が1N発揮した時の関節モーメント)を算出した。さらに筋の長さ張力曲線から想定される固有筋力、生理学的断面積、羽状角の正弦と単位モーメントとの積から各筋が発揮できる屈伸トルクを算出した。
    【説明と同意】本研究は数学的モデルを用いており、人を対象とした研究ではない。
    【結果】腸腰筋は26.3Nm(伸転20°)、23.7Nm(屈曲0°)、23.6Nm(屈曲30°)、26.1Nm(屈曲60°)の屈曲トルクを有し、伸展域と深い屈曲位で高い値を示した。一方、大腿直筋は10.5Nm(伸転20°)、18.4Nm(屈曲0°)、23.6Nm(屈曲30°)、28.1Nm(屈曲60°)であり、50°付近で最も高い屈曲トルクを有した。伸転筋に関してはハムストリングス全体で、11.2Nm(伸転20°)、42.0Nm(屈曲0°)、70.6Nm(屈曲30°)、74.2Nm(屈曲60°)と、伸展域では伸展トルクは小さいが、屈曲域になると急激にトルクは大きくなる。一方、大殿筋は20.9Nm(伸転20°)、29.3Nm(屈曲0°)、35.4Nm(屈曲30°)、29.0Nm(屈曲60°)と、ハムストリングスと比較して伸展域では大きな伸展トルクを発揮するが、屈曲位では半分以下のトルクしか持たない。また、内転筋は伸展域で屈筋、屈曲域で伸筋になる筋が多かった。
    【考察】腸腰筋は伸展するとモーメントアームが減少して屈曲トルクが弱くなると考えられるが、wrapping surfaceの手法を用いるとモーメントアームは増加し、筋も伸張されるため、強い発揮トルクを発生できることが判明した。一方、深い屈曲位では腸腰筋が腸骨から離れて走行変換点を持たなくなり、モーメントアームの増加により発揮トルクが増加すると考えられる。腸腰筋は走行変換点を持つことで二峰性の筋力発揮特性を持つ。これに対し、大腿直筋は主にモーメントアームが屈曲50°付近でモーメントアームが増加し、強いトルクを発揮すると思われる。また、ハムストリングは坐骨結節、大殿筋は腸骨や仙骨など骨盤上部から起始する。このため、浅い屈曲位から骨盤を後傾(股伸展)すると坐骨結節は前方へ、大殿筋起始部は後方へと移動する。よってハムストリングはモーメントアームが低下し、伸展位では大殿筋の出力が相対的に強くなると思われる。一方、内転筋群は恥骨や坐骨など骨盤の下部から起始し、大腿骨に対しほぼ平行に走行して停止部に向かう。よって、解剖学的肢位では矢状面上の作用は小さいが、骨盤を前傾(股屈曲)すると起始部は後方に移動し、筋のモーメントアームは屈曲から伸展へと変わるため、筋の作用が変化する。特に大内転筋は断面積が大きく、強い伸展トルクを発揮できると思われる。
    【理学療法研究としての意義】解剖学的肢位とは異なる肢位での筋の発揮トルクを検討することは、筋力評価や動作分析に有用な情報を与える。特定の関節肢位で筋力が低下している場合、どの筋がその肢位で最も発揮トルクに貢献するかがわかれば、機能が低下している筋の特定ができる。また、内転筋のように、前額面上の運動を行う際に矢状面上の作用を伴う場合、内転筋の中でもどの筋が過剰に働いているのかを検討することも可能である。このように本研究で行った数学的モデルによる筋の発揮トルク分析は、理学療法士にとって重要な筋の運動学的知見を提供するものと考える。
  • 排出圧からみた治療効果の検討
    槌野 正裕, 荒川 広宣, 中島 みどり, 山下 佳代, 西尾 幸博, 高野 正太, 高野 正博
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: Se2-030
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】排泄は生きていくうえで欠かすことの出来ない生理的欲求の一つである。当院は大腸肛門病の専門病院として日々診療に当たっているが、その中でも排便に関する問題を抱えている患者の多さには目を疑う。我々は、継続して排便困難に対する原因の追究を行っており、今回、排便困難例における直腸と肛門の排出圧、Defecography(排便造影)検査からみた理学療法効果の検討を行ったので以下に報告する。【方法】肛門の静止圧から怒責時下降を認めない直腸性便秘例を対象とした。症例は当院受診時、週1回の摘便にて排便を行っていた。当院で行っている直腸肛門機能検査に追加して、怒責圧(患者をシムス体位とし、2チャンネル圧センサーを肛門縁から1.5cm、7.5cmに挿入)を測定した。Defecography検査は、粉末バリウムなどを混ぜ合わせた疑似便を直腸内に注入し、ポータブルトイレ上に座らせ、安静時(rest)、肛門収縮時(squeeze)、怒責時(strain)の3動態を撮影し、その画像上で直腸肛門角(ARA)を計測した。治療は、肛門にバルーンを挿入し、空気を30ml注入して外肛門括約筋の収縮と弛緩を反復させ、ある程度筋緊張の低下を図った後、ポータブルトイレ上で空気量を調整して排出訓練を行った。また、腹式呼吸を指導し、呼気に合わせて腹横筋、内腹斜筋の収縮訓練によるinner muscleの強化と、骨盤帯の前後傾運動を臥位、座位、立位で行った。【説明と同意】当院倫理委員会の承認を得て、患者本人へ、今回の治療内容と結果を報告することを説明し了解を得た。【結果】理学療法開始前、直腸感覚閾値200ml以上、直腸耐用量200ml以上、肛門コンプライアンス0.95ml/cmH2O、肛門静止圧56.4 cmH2O、怒責時の直腸圧64.8cmH2O、息み持続時間6.0秒、肛門圧下降0cmH2O、肛門圧下降度0%、バルーンの排出0ml、ARAはrest:90.0°、squeeze:95.1°、strain:102.8°。治療開始1ヶ月後、直腸感覚閾値15ml、直腸耐用量80ml、肛門コンプライアンス0.43ml/cmH2O、肛門静止圧60.5 cmH2O、怒責時の直腸圧127.5cmH2O、息み持続時間15.0秒、肛門圧下降37.5cmH2O、肛門圧下降度62.5%、バルーンの排出20ml、ARAはrest:111.1°、squeeze:86.5°、strain:126.6°と変化した。また、怒責時の肛門圧はシムス体位よりも丸まった姿勢の方が下降することが分かった。肛門圧の下降パターンはROME IIIにおいて正常とされているパターンとは異なるが、日常の自力排便も可能となった。【考察】本症例は、排便困難により週1回の摘便により排便を行っており、排便時肛門が開かないと訴え当院を受診。肛門診察結果では痔疾患等の器質的疾患は認めなかった。このような排便困難症例に対して、通常行っている直腸肛門機能検査に加え、2チャンネル圧センサーを用いて怒責圧を測定すると、怒責時間が短縮し腹圧を持続的に加える事が困難であり、怒責時の肛門圧が安静時基線よりも下降せずに肛門挙筋や外肛門括約筋が奇異的に収縮していた。Defecography検査の画像でARAを測定した結果、restからsqueezeでは鋭角になり、strainでは鈍角になるのだが、その角度の変化に乏しかったことが排便困難の原因の一つであると考えた。また、排出訓練では、息むことを意識するあまり全身の筋緊張が亢進し、排便姿勢は伸展位となっていたため、排便姿勢もARAに影響を与えていると考えた。治療は、理学療法士と臨床検査技師が協力して直腸肛門機能訓練を行った。外肛門括約筋の柔軟性向上を目的として、バルーンを肛門へ挿入し、空気を30ml注入したところで、外肛門括約筋の収縮と弛緩を反復した。筋緊張の低下を図った後、ポータブルトイレを用いてバルーンを排出する排出訓練では、呼吸方法や排便姿勢の指導を行った。更に腹圧上昇を目的とした腹横筋と内腹斜筋の強化を促したことで、怒責時の肛門圧下降度が増加し、直腸圧が上昇したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】我々は、大腸肛門の専門病院として、第43回当学会から継続して直腸性排便困難に関する研究を行ってきた。今回、理学療法士の視点に基づいた解剖学や運動学的知識を応用して治療を行った。その治療効果の判定を直腸肛門機能検査や画像検査を用いて検討した。未だ、排泄に関しては不明な点が多く、現在さらに怒責圧測定方法やDefecography検査での姿勢との関連について検討中である。今回の報告は1症例であるが、今後も症例を重ねて、理学療法効果の有効性を検討していきたい。
  • 関節角度と足部障害物間距離
    斎藤 良太, 早川 友章, 金井 章, 小栗 孝彦, 小林 篤史, 種田 裕也, 吉倉 孝則
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: Se2-031
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】
    これまで我々が行ってきた,股関節伸展角度の減少が歩行時の跨ぎ動作に及ぼす影響についての研究では,骨盤前傾・立脚側股関節屈曲角度,膝関節屈曲角度の増加が起こり,障害物を跨ぐ際には遊脚側股関節・膝関節屈曲角度を増加させることでToe Clearanceを確保することが分かっている.また,立脚側股関節・膝関節伸展モーメントが増加し,それに伴い立脚側大殿筋・大腿直筋の筋活動が増加することを確認した.しかし, Toe Clearanceを確保するため,障害物前後における足部接地位置が変化し,前脚だけではなく後脚の動きにも影響を与えると考えられる.そこで本研究では,股関節伸展制限が障害物跨ぎ動作における各関節運動の経時的変化に及ぼす影響について検討を行った.
    【方法】
    健常青年男性8名(平均年齢21±1歳)を対象とし,我々の作成した股関節伸展制限装具を着用させた.その後,裸足にて10m歩行路を歩行させ,歩行路の中央付近に設置した高さ2cmの発砲スチロール製の障害物跨ぎ動作を計測した.計測には三次元動作解析装置VICON MX(VICON社製)を用い,跨ぎ動作は制限時と非制限時で各3回計測し比較した.検討項目は,障害物を先に跨ぐ足(前脚)のToe Clearance(TC1),Heel Clearance(HC),前脚が接地した瞬間のHeel distance(HD),後に跨ぐ足(後脚)が離地する瞬間のToe distance(TD),後脚のToe Clearance(TC2)および,それぞれのタイミングにおける関節角度、障害物跨ぎ時の歩幅とした.
    【説明と同意】
    豊橋創造大学倫理委員会の承認を得,対象者には本研究の内容を説明し同意を得た.
    【結果】
    関節角度変化について非制限時と制限時を比較したところ,制限時において前脚ではTC1,HC,HD,TD,TC2の股関節の屈曲角度,HD,TD,TC2の膝関節屈曲角度,TD,TC2の足関節背屈角度が有意に増加した.後脚では,TC1,HC,HDの股関節屈曲角度,膝関節屈曲角度,足関節背屈角度が有意に増加した.TDでは股関節屈曲角度は有意に減少し,膝関節屈曲角度,足関節背屈角度は有意に増加した.TC2では,股関節屈曲角度,膝関節屈曲角度は有意に増加し,足関節背屈角度に有意な差は無かった.足部と障害物との距離は,非制限時に比べ制限時においてTDでは有意に減少したものの,TC1,HC,HD,TC2では有意差は認められなかった.また,非制限時においてTC1,TC2よりもHCは有意に低値を示し,制限時においてTC2よりもTC1,TC1よりもHCは有意に低値を示した.また,歩幅は非制限時に比べ制限時には有意に減少した.
    【考察】
    障害物跨ぎ動作の後脚においてTC1,HC,TC2では,非制限時に比べ制限時に股関節屈曲角度,膝関節屈曲角度,足関節背屈角度が増加している.これは股関節伸展制限により股関節が屈曲位となり,それに伴い立位姿勢保持のため軸足である後脚が屈曲位となったと考えられる.また,前脚においてTC1,HCでは,非制限時に比べ制限時に股関節屈曲角度が増加している.これは,骨盤前傾角度の増加により,前脚ではより大きな股関節屈曲角度が必要となったためであると考えられた.HDにおいて,前脚で非制限時に比べ制限時に股関節屈曲角度,膝関節屈曲角度が増加している.これは,後脚の屈曲角度増加に伴い,骨盤位置が低下したためと考える.それにより,TC2では後脚の股関節,膝関節屈曲を増大させることでToe Clearanceの確保を行ったと考えられた.障害物と足部との距離については,TC1,HC,TC2の3群間でTC2が最も障害物と足部の距離が大きくなっており,これには視覚の影響が考えられる.視覚で障害物を確認しながら跨ぐことのできるTC1,HCでは,障害物の高さに合わせ足部挙上を行っているが,視覚によって障害物を確認できないTC2では,障害物の高さに対して余裕をもって足部挙上を行っていると考える.また,HCは3群間で最も障害物と足部の距離が少なくない.そのため,障害物跨ぎ動作ではHC時に転倒の危険性が高いことが示唆された.一方,TDは非制限時に比べ制限時に減少しているが,HDに変化は見られなかった.また,歩幅が非制限時に比べ制限時に減少したことから,股関節伸展制限による歩幅の減少を,視覚による確認,調節の可能な踏切位置(TD)を障害物に近くにすることで代償していたと考えられた.
    【理学療法学研究としての意義】
    歩行時の股関節伸展角度の減少による跨ぎ動作に及ぼす影響を検討したところ,下肢関節の屈曲増加や障害物直前の足部接地位置などの調節能力の重要性が確認されたことから,これらを考慮した理学療法の実施により転倒予防効果を高めることができると考えられる.
  • 布施 陽子, 福井 勉, 矢崎 高明
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: Se2-032
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】我々は従来の研究を参考に、第43回日本理学療法学術大会にて、超音波診断装置による腹横筋厚の測定方法を検討し、十分な信頼性を得た。また、第44回日本理学療法学術大会において、腹横筋エクササイズの観点からストレッチポールの有効性を検証した。腹横筋は後方では胸腰筋膜に付着し腹腔内圧に関与すると言われ、上下肢運動に先行して収縮するなど運動機能に特徴を有する筋である。腹腔内圧が上昇するためには腹腔前面を大きく覆う同筋が体幹左右回旋応力に対する挙動を分析することは意義が大きいと考え、今回上肢課題により腹横筋線維が左右で機能の違いを有するか、検討したので報告する。【方法】対象は健常成人男性11名、女性11名の計22名(29.0±10.0歳)、計測機器は超音波診断装置(日立メディコEUB-8500)を用い、操作に慣れた1名を検者とした。計測肢位は、A:安静背臥位(上肢は肘が床に接した状態で両手を胸の前に位置させ、下肢は股関節0°外転位・膝関節90°屈曲位とした状態)、B:ストレッチポール上背臥位(左肩関節90°外転位・左肘関節伸展位かつ支持なし、右上肢・両側下肢においては安静背臥位と同様、即ち左上肢のみが床から浮いた状態)、 C:ストレッチポール上背臥位(右肩関節90°外転位・右肘関節伸展位の支持なし、左上肢・両側下肢においては安静背臥位と同様、即ち右上肢のみが床から浮いた状態)とし、被験者安静呼気終末の腹部超音波画像を静止画像にて記録した。計測部位は、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と平行な直線上で、肋骨下縁と腸骨稜間の中点とした。第43回日本理学療法学術大会で報告した方法を採用し、独自に作製したプローブ固定器を使用して、毎回同じ位置で腹筋層筋膜が最も明瞭で平行線となるまでプローブを押しあてた際の画像を記録した。記録した超音波静止画像上の腹横筋厚は、筋膜の境界線を基準に0.1mm単位で左右それぞれについて計測した。左右腹横筋厚について、それぞれA肢位とB肢位、A肢位とC肢位による腹横筋厚の違いについて、平均値の差(Welch の方法)により有意水準1%で検討した。【説明と同意】本実験にあたり、東京北社会保険病院生命倫理委員会の承諾を得て行った。また、被験者には、腹横筋評価とエクササイズをより詳細に確立する事を目的とすること、実験方法については上記と同様の説明をし、同意書による承諾を得た上で行った。【結果】1.安静背臥位であるA肢位において、左右腹横筋厚の平均値の差については、有意差が認められなかった(p=0.55)。2.同側上肢挙上時にあたる、A肢位左腹横筋厚とB肢位左腹横筋厚の平均値の差、およびA肢位右腹横筋厚とC肢位右腹横筋厚の平均値の差についても、ともに有意差が認められなかった(各々p=0.86, p=0.39)。3.反対側上肢挙上時にあたる、A肢位左腹横筋厚とC肢位左腹横筋厚の平均値の差は統計的に有意差を認めた(p=0.000017)。同様にA肢位右腹横筋厚とB肢位右腹横筋厚の平均値の差についても統計的に有意差を認めた(p=0.000000095)。【考察】結果3より、体幹に回旋負荷を生じさせた場合、回旋方向と同側の腹横筋厚には差を認めず、反対側腹横筋厚が大きくなったことは、腹横筋厚が体幹回旋時に反対側で厚くなるUrquhartらの報告と一致した。腹横筋が体幹に生じた回旋負荷に対して体幹正中化に寄与している可能性を示唆したと考えられる。第44回日本理学療法学術大会で検証したストレッチポールに乗る腹横筋エクササイズの有効性に加え、体幹回旋要素を伴う課題を加えることにより、腹横筋の左右線維を独立部位と考えてエクササイズすることが可能になると考えられる。また、本エクササイズにより運動機能障害を呈する患者だけでなく、片麻痺患者に対しても健側誘導による麻痺側エクササイズとしても有効である可能性が示唆される。上下肢運動に先行して収縮する腹横筋機能が左右上肢の運動に関与する可能性が大きくなったと考えられ、四肢運動と腹横筋機能のさらなる関連性を今後研究していきたい。【理学療法学研究としての意義】腹横筋収縮は超音波画像によりその筋厚を観察する事で可能であると言われてきた。本実験により、支持基底面を制限するストレッチポールの使用により腹横筋収縮が得られるという結果だけでなく、上肢の質量負荷という特別な機器を用いない条件でさらに左右の腹横筋線維を選択的にエクササイズできる可能性を示したことは運動療法の適応を広げたと考えられる。また腹横筋は回旋負荷に対して左右線維で別々の対応をする運動機能についても、検証できたと考えている。
  • 経頭蓋磁気刺激を用いた電気生理学的検討
    上原 一将, 東 登志夫, 田辺 茂雄, 菅原 憲一
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: Se2-033
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】日常生活の中で2つの運動課題を同時並列的に処理し,二重運動課題(Dual Motor Task;以下,DMT)として動作を遂行しなければならない場面は多い。例えば,「歩行をしながら物を運ぶ」など歩行を担う下肢の運動と上肢課題を同時並列的に制御しなければならない。このような2つの課題を同時に行う場合,一方の課題がもう一方の課題に対して干渉作用を及ぼすことが報告されている。リハビリテーションのゴールとされる日常生活の再獲得には,歩行と上肢課題を同時並列的に制御する能力が要求されるためDMTに関する運動制御機構を解明することは重要である。本研究の目的は「歩行」と「視覚追従を伴う手指把握課題」という2つの課題を同時に実施するDMTを実験パラダイムとし,実験1として一側課題の難易度変化が他課題の運動制御機構に及ぼす影響について経頭蓋磁気刺激(以下,TMS)を用い,一次運動野(以下,M1)の動態を検討した。さらに,実験2として2つの運動課題を同調させたリズムで行った場合の課題間干渉作用についてTMSを用いて検討することとした。
    【方法】対象者は右利き健常成人20名(年齢25.8±4.7歳)。実験1では,トレッドミル(BIODEX社製)上を歩行する課題(第1課題)とし,各被験者の最大歩行速度を計測したのち,最大歩行速度の30%(gait 30%),50%(gait 50%),80%(gait 80%)の異なる3つの歩行速度を設定した。なお,安静立位はcontrol条件として行った。また,もう一方の課題は,第1課題試行中に同時並列的に視覚追従を伴う手指把握課題(第2課題)を行った。なお,手指把握課題は5%MVC,25%MVCの2条件を設定した。手指把握課題は,トレッドミルに設置した歪みセンサーを用い,被験者には画面上にあらかじめ提示されている指標に沿うように応答マーカーを正確に制御するように指示した。さらに,各条件における視覚追従を伴う手指把握課題のパフォーマンス変化を検討するために手指把握課題の誤差を算出した。実験2は,実験1と同様のシステムを用い,至適歩行と手指把握課題が同調する2HzのDMT及び至適歩行と手指把握課題が同調しない0.7HzのDMT,計2条件についてTMSを用い検討した。TMSは各実験ともに磁気刺激装置(Magstim-200)を用い,DMT施行中に刺激を行い,8字コイルにて左M1を刺激し測定を行った。運動誘発電位(以下,MEP)は誘発電位・筋電図検査装置(Neuropack)を用い,手指把握課題の主動作筋となる右第一背側骨間筋(FDI)を中心に手指,前腕,計4筋から記録した。実験終了後,DMT中のMEP振幅値(peak-to-peak)及び手指把握課題の課題誤差値を算出した。MEP振幅値は,被験者間の比較を行うためControl条件で得られた各値を基に標準化し,MEP振幅比を算出した。統計処理は,実験1において5%MVC課題及び25%MVC課題各々で歩行速度3条件におけるMEP振幅比及び課題誤差の変化を比較するためにrepeated-measures ANOVAを行った後,Tukey’s HSD法を行った。実験2では,2Hz及び0.7Hz のDMTにおけるMEP振幅比,課題誤差を比較するためにwilcoxon runk sum検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,神奈川県立保健福祉大学研究倫理審査で承認を得て,被験者に十分説明を行い同意書にて同意を得た。
    【結果】実験1:手指把握課題の主動作筋となるDMT中のFDI MEP振幅比は,5%MVC課題においてgait 50%ではgait 30%,gait 80%と比較して相対的に低値となった(F=6.80,p<0.05)。手指把握課題の課題誤差は,歩行3条件ともに有意な変化は認められず一定に保たれていた(F=0.21, p=0.83)。25%MVC課題では,FDI MEP振幅比及び課題誤差に統計学的有意差な変化は認められなかった(FDI MEP振幅比; F=1.50,p=0.22 課題誤差;F=0.35, p=0.78)。
    実験2:2Hz 及び0.7Hz DMTのFDI MEP振幅比及び課題誤差を比較した結果,2Hz DMTのFDI MEP振幅比は0.7Hz DMTよりも低値と(p<0.05)なった。課題誤差に関しては2Hz及び0.7Hz DMT間に有意な変化は認められなかった(p>0.05)。
    【考察】実験1から歩行速度の変化が把握課題を制御するM1の興奮性を変化させることが示唆された。DMT中の手指把握課題のパフォーマンスは歩行速度が変化しても一定に保持されていた。よって,ゆっくりとした歩行(gait 30%),速い歩行(gait 80%)のような努力的な歩行で錐体路細胞の興奮性が高まったのは,手指把握課題のパフォーマンスを一定に保つためのM1の調性的な活動となることが推察される。
    また,実験2から歩行と同調した手指把握課題はM1の興奮性を必要以上に高めることなく課題を遂行することが可能であり,2つの課題が同調することでDMTの課題間干渉作用はみられない可能性が示唆された。
    【理学療法学研究としての意義】本研究は,健常人を対象としたDMT運動制御のモデル研究であり,今後中枢神経疾患のDMTを解析する上で基礎的な指標となる。
  • 青山 敏之, 金子 文成, 速水 達也, 柴田 恵理子
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: Se2-034
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】先行研究より,Kanekoらは視覚刺激入力により,被験者が一人称的に運動していると錯覚するような動画の提示方法を考案した(Kaneko F, et al., Neuroscience, 2007)。さらに,この自己運動錯覚の誘起に伴い,動画に関連する筋から得られる運動誘発電位(MEP)が選択的に上昇する事を明らかにした。しかし,この自己運動錯覚の効果は手指や手関節を標的とした研究により明らかにされたのみであり,下肢を対象とした研究は行われていない。また,上肢と下肢では神経解剖学的に相違があること,視覚と体性感覚の関連に相違があることが想定されることなどから,視覚刺激入力による自己運動錯覚の効果が上肢と下肢では異なる可能性がある。このような背景から我々は,第43回理学療法学術大会にて足関節に対する自己運動錯覚の効果について予備的実験の結果を報告した。本研究では,以前の研究から対象者数を増やし,さらに足関節の背屈・底屈の両運動方向において自己運動錯覚が誘起されるか,さらには,その時の皮質脊髄路興奮性が変化するかを明らかにするための実験を実施したので,改めて報告する。

    【方法】被験者は健常成人10名とした。測定肢位は安楽な椅子座位とし,左側の下腿前面を覆うように液晶モニタを配置した。視覚条件は安静条件と錯覚条件とし,錯覚条件では第三者の足関節が底屈・背屈を繰り返す動画を液晶モニタ上に呈示した。さらに,その位置や動画の大きさを調節することにより,あたかも被験者自身の足関節が動いていると感じるような自己運動錯覚を誘起させた。安静条件では,錯覚条件と同様の設定にて足関節中間位の静止画像を提示した。筋電図の記録には表面皿電極を使用し,貼付部位は前脛骨筋とヒラメ筋とした。得られた筋電図は増幅後,バンドパスフィルター(5Hz~1KHz)を通過させ,サンプリング周波数20KHzにてA/D変換した。経頭蓋磁気刺激にはダブルコーンコイルを使用し,各条件時の運動誘発電位(MEP)を導出した。刺激強度は安静時閾値の1.05倍,1.15倍,1.25倍とした。錯覚条件における刺激タイミングは動画上の足関節が底屈位から最大背屈位に到達した時点(錯覚背屈条件)と背屈位から最大底屈位(錯覚底屈条件)に到達した時点とした。また,錯覚背屈条件,錯覚底屈条件時における自己運動錯覚の程度をVisual Analogue Scale(VAS)を使用する事により調査した。得られた前脛骨筋とヒラメ筋のMEP振幅は最大M波にて正規化した後,条件を要因とした反復測定による一元配置分散分析を実施した。また,VASについては両錯覚条件(錯覚背屈条件,錯覚底屈条件)にてウィルコクソンの符号付順位和検定を行った。

    【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施された。また,十分な説明の上,同意の得られた被験者を対象として実施した。

    【結果】自己運動錯覚の程度を示すVASは錯覚背屈条件において平均58.5(±16.7),錯覚底屈条件において43.5(±12.5)であり,錯覚背屈条件において有意に高かった(p=0.0076)。前脛骨筋のMEP振幅は全ての刺激強度において安静条件と比較して錯覚背屈条件において有意に高かった(1.05倍:F=8.046, p=0.0032,1.15倍:F=8.247,p=0.0029, 1.25倍:F=4.586, p=0.0246)。ヒラメ筋のMEP振幅は全ての刺激強度で錯覚底屈条件において高い傾向にあったが有意差はなかった(1.05倍:F=1.517, p=0.246,1.15倍:F=3.389,p=0.056, 1.25倍:F=0.877, p=0.433)。

    【考察】本研究結果より,錯覚背屈条件において平均58.5という比較的高い自己運動錯覚が誘起されるとともに,背屈の主動作筋である前脛骨筋のMEP振幅が選択的に上昇した。よって,前述のKaneko F et. al の報告した視覚刺激による自己運動錯覚の誘起方法は足関節を対象とした場合にも応用可能である事が明らかとなった。しかし,ヒラメ筋のMEP振幅は足関節底屈条件にて上昇する傾向を示したものの,有意差はなかった。また,錯覚底屈条件における自己運動錯覚の程度を示すVASは,錯覚背屈条件時よりも有意に低かった。よって,ヒラメ筋においてMEP振幅が変化しなかったことは,誘起した自己運動錯覚の程度に起因する可能性があると考える。これらのことから,足関節を対象とした視覚刺激により自己運動錯覚が誘起され,皮質脊髄路の興奮性は上昇するものの,その効果には運動方向による差異があることが示唆された。

    【理学療法学研究としての意義】本研究は,特に脳血管障害やギプス固定中など自発的な運動が困難,あるいは制限される状況下の症例を対象とした脳機能への介入方法を開発するための基礎的知見として意義が高いと考える。
  • 山口 智史, 藤原 俊之, 田辺 茂雄, 村岡 慶裕, 齊藤 慧, 小宅 一彰, 大須 理英子, 大高 洋平, 里宇 明元
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: Se2-035
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中片麻痺患者において,ペダリング運動が痙縮の改善に有効なことが報告されている.また,痙縮筋の拮抗筋に対する電気刺激についても,痙縮の改善に有効なことが知られている.今回,ペダリング運動中に電気刺激を組み合わせて行うことによる脊髄相反性抑制の変化を,健常者および脳卒中患者で検討した.
    【方法】
    対象は健常男性8名(年齢27.3歳±3.0)と脳卒中患者2名とした.脳卒中患者の対象1は,年齢45歳,発症後68日,右片麻痺,下肢運動麻痺SIAS(4,4,4),歩行能力は屋内自立レベルであった.対象2は,年齢66歳,発症後69日,左片麻痺,下肢運動麻痺SIAS(4,4,4)で,歩行能力は4脚杖で屋内修正自立レベルであった.介入は,ペダリング運動+電気刺激(以下,PE-TES),ペダリング運動のみ(以下,PE),電気刺激のみ(以下,TES)の3課題を、3日以上の間隔をあけて全対象者に実施した.PE-TESは,ストレングスエルゴTRと電気刺激装置を用いて行い、ペダリング運動中に,健常者では右下肢,脳卒中患者では麻痺側下肢へコンピューターで制御した電気刺激を加えた.電気刺激は,ペダリング運動中の伸展相(股関節最大屈曲位から最大伸展位)に,前脛骨筋および総腓骨神経へ行った.PEの運動様式はアイソトニックモード,負荷量5Nm,正回転で任意のペダル回転速度で実施した.TESは,ストレングスエルゴTR上での座位で,PE-TESと同様の電気刺激の強度および周期で刺激を行った.すべての課題で,実施時間は7分間とした.
    評価は,健常者には,神経生理学的評価を,脳卒中患者には加えて運動機能評価を行った.神経生理学的評価は,ヒラメ筋H波を用いた条件―試験刺激法により,2シナプス性相反抑制を測定した.試験刺激のみで誘発されるH波振幅に対して条件刺激を与えたときのH波振幅の比を求め,条件刺激によるH波振幅の減少を相反性抑制の強さとした.試験刺激は膝窩にて行い,Mmaxの10~20%の振幅のH反射が誘発される刺激強度とした.条件刺激は腓骨頭の位置で総腓骨神経を刺激し,その強度は前脛骨筋の運動閾値とした.条件-試験刺激間隔は0~3msecとした.測定は介入前後,15分後,30分後に実施した.また,脳卒中患者においては,運動機能評価として10m最速歩行時間および歩数,modified Ashworth scale (MAS),足関節周囲筋の筋活動(表面筋電図)を課題前後で評価した.統計処理は,健常者データのみで実施し、繰り返しのある2元配置分散分析,多重比較検定を行った.有意水準は,5%未満とした.
    【説明と同意】
    本研究は東京湾岸リハビリテーション病院倫理審査会の承認を得た上で,全ての対象者に研究についての説明を実施し,書面にて同意を得た.
    【結果】
    健常者での課題間の比較では, PE-TESによるヒラメ筋へのIa 相反抑制が、介入直後、15分後に他の課題(PE、TES)と比較し有意に増加した(p<0.05).また,介入ごとの検討においては,PE-TESで,介入前後,介入前と15分後に有意差を認めた(p<0.01).PEおよびTESにおいては,介入前後で有意な増加を認めた(p<0.05).
    脳卒中患者においては, 1例でPE-TES後のIa相反抑制が著しい増加を示し,その効果は15分後にも持続した.またPEおよびTESにおいては,直後にIa相反抑制の増加を認めたが,15分後には治療前の値に近づいた.一方で,もう1例においてはすべての課題で大きな変化を示さなかった.運動機能評価においては,対象者1でPE-TES前後に歩行時間の短縮と歩数の減少を認め,PEとTES後には改善を認めなかった.MASはPE-TESおよびPE治療前後の膝関節伸展に低下を認めた.筋電図はPE-TES後に背屈運動時の主動作筋の筋活動増加と拮抗筋活動の減少を認めた.対象者2においては,歩行時間および歩数はすべての課題後に減少したが,PEで最も減少した.MASは,PE-TESの前後で膝関節屈曲に低下を認め,PE前後では膝関節屈曲伸展で低下した.表面筋電図では大きな変化を認めなかった.
    【考察】
    今回,健常者において,ペダリング運動中に電気刺激を組み合わせて行うことによって,個々の治療単独よりIa相反抑制が増強することが示された.また脳卒中患者においても、対象者1名で痙縮の改善とそれに伴う歩行能力の改善を認めた.これらの結果から,ペダリング運動または電気刺激単独よりも,両者を組み合わせて行うことによって,さらなる治療効果が得られる可能性が示唆された.今後,症例数を増やし,その効果とメカニズムを検証していきたい.
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究は,脳卒中患者の痙縮に対する新しい治療法の可能性を示唆する重要な研究である.
  • 鏑木 誠, 長倉 裕二, 山元 総勝
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: Se2-036
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    大腿切断者が義足装着における日常生活において難渋する動作のひとつとして、座位から歩行の一連の動作における歩き始めがある。日常的、かつ、必要性の高い座位から歩行課題の歩き始め動作であるが、この動作に関する義足装着者の生体力学的動作特性に関する研究は国際的にもまったくの皆無である。
    そこで今回、大腿義足装着者の座位から歩行課題における歩き始めについて、三次元動作解析装置を用いた生体力学解析及び表面筋電図解析から、歩き始めの1歩目を健側から振り出す動作(以下、健側振り出し動作)および義足側から振り出す動作(以下、義足振り出し動作)の違いにおける歩き始めの生体力学的特長を明らかにする目的で本研究をおこなった。

    【方法】
    症例は、26歳、男性、身長174cm、体重67kg、左大腿切断、断端長22cm、切断術からの経過期間8年、日常生活において主たる移動手段は義足歩行である。日常生活でも利用している計測で使用した大腿義足の内訳は、四辺形ソケット、Ossur社製TOTAL KNEE2100膝継ぎ手、Ossur社製Vari-Flexであった。
    計測課題は、義足振り出し動作、健側振り出し動作の2つの課題を行ってもらった。座位から歩行の歩き始めは、座面の高さを下腿の長さ、膝屈曲90°、足部は肩幅に合わせた。それぞれの課題は、通常行っている速度で行ってもらい、練習後、3回づつ計測を行った。
    6つの赤外線カメラを用いたリアルタイム三次元動作解析システムEagle Realtime system EVarT5.0および3枚のAMTI社製フォースプレートを用いて生体力学的データを計測し、KinemaTracerにて生体力学データを抽出した。表面筋電図計測は、キッセイコムテック社製テレメトリー筋電計MQ8、及び、Vital Recorder2システムを用い、両下肢の大殿筋、中殿筋、健側の大腿直筋・大腿二頭筋長頭・前脛骨筋・腓腹筋内側頭に電極を貼付し計測を行った。算出項目は、重心、重心速度、関節角度、床反力等のkinematicsであった。

    【説明と同意】
    本研究は本大学の倫理委員会の承認を得た後、対象者に対して、研究の意義、目的、方法、対象者が被り得る不利益及び危険性、個人情報の保護などに関して十分な説明を行った後、承諾を得て実施した。

    【結果および考察】
    立ち上がり相において、体幹の最大屈曲までの重心の前方速度は義足振り出し動作は増加していくが、健側振り出し動作は前半は増加し、後半は減少していた。さらに、つま先離地時の重心の高さ、及び、重心の左右移動幅、立ち上がり時の遊脚側への荷重に伴う床反力は、健側振り出し動作に比べ義足振り出し動作の方が大きかった。つま先離地時の支持脚側の屈曲角度は、義足振り出し動作に比べ、健側振り出し動作の方が股・膝関節ともに屈曲角度が大きかった。また、健側振り出し動作の体幹最大屈曲位から伸展位への移行期において、支持側の大殿筋の平均振幅値は、健側振り出し動作に比べ義足振り出し動作の方が大きかった。このことから、支持脚の大腿を支点とした体幹の逆振り子様の動きに対して、義足膝継ぎ手の伸展を大殿筋の筋活動で代償し、股関節屈筋群から伸筋群への協調的かつ適切なタイミングでの筋活動の切り替えが必要であることがわかった。これらのことから、義足振り出し動作は、健側荷重のまま体幹屈曲を加速させ、完全に立ち上がる前に低い重心位置で義足の振り出しを始めていることが示唆された。また、健側振り出し動作は、重心が前に行き過ぎないように制動しながら、義足の膝折れが起きないよう義足膝継ぎ手を十分に伸展ロックした状態で振り出しを行っていることが示唆された。
    1歩目の初期接地時における振り出し側の膝関節伸展角度は、健側振り出し動作に比べ義足振り出し動作の方が大きかった。また、荷重応答期の床反力は、健側振り出し動作に比べ義足振り出し動作の方が大きかった。これらのことから、義足振り出し動作は、初期接地時に膝折れが起きないよう膝継ぎ手を伸展させ初期接地を行うため、床反力による大きい衝撃が急激に発生することが示唆され、膝継ぎ手の伸展が十分に行えなかった場合、膝折れによる転倒の可能性が示唆された。

    【理学療法学研究としての意義】
    単一動作の理学療法アプローチから日常生活で実施頻度の多い連続動作としての座位から歩行課題の特性を明らかにすることで、課題指向的アプローチによる実践的かつ即時的な理学療法の効果が期待できると考える。本研究結果より、大腿義足装着者の転倒予防、および、より高度な動作としての健側から振り出しす座位から歩行動作の獲得に向けた評価指標、ならびに理学療法アプローチの示唆が得られた。
  • 中村 雅俊, 池添 冬芽, 武野 陽平, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: Se2-037
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    スタティック(静的)・ストレッチング(Static Stretching:以後SS)は反動をつけずにゆっくりと行うため筋損傷などを起こす可能性が低く安全であり、関節可動域の改善や拘縮の予防を目的として広く用いられている。SSの効果として関節可動域や柔軟性の改善に関しては古くから諸家によって報告されている。この関節可動域や柔軟性の改善にはSSによって1b抑制などで代表される脊髄興奮水準が抑制されることで引き起こされる筋緊張の低下が関連しているとされていたが、近年では筋腱複合体(Muscle Tendon Unit:以下MTU)の粘弾性の変化との関連性が注目されている。しかし、SSがMTUに及ぼす影響について、SSの持続効果も含めて詳細に検討している報告は見当たらない。
    本研究の目的は腓腹筋に対するSSがMTUに与える即時効果および持続効果について明らかにすることである。
    【方法】
    対象は神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常若年男性9名(平均年齢21.8±1.0歳、身長170.8±6.1cm、体重62.3±7.7kg)とし、SSの対象筋は利き足側(ボールを蹴る側)の腓腹筋とした。対象者は膝関節完全伸展位でベッド上に腹臥位を取り、足関節を等速性筋力測定装置Myoret(川崎重工業社製)のフットプレートに固定した。全ての被験者が可能であった足関節背屈0°から背屈30°まで1°/秒の速度で他動的に動かしときの足関節底屈方向の受動的トルクを5°ごとに測定した。また、同時に2台の超音波診断装置(東芝社製およびGE Healthcare社製)を用いて腓腹筋の筋腱移行部の移動量(ΔMuscle Tendon Junction:以下ΔMTJ)および腓腹筋筋腹の筋厚と羽状角を測定した。先行研究に基づき受動的トルクの変化量とΔMTJの比よりMTUの硬度(以下スティフネス)、筋束長は以下の次の式、筋束長=筋厚/Sinθ(θは羽状角)で算出した。受動的トルクはMTU全体の抵抗性、ΔMTJは他動的に動かされた時のMTUの伸張されやすさを示している。これらの指標から算出されたMTUのスティフネスはMTU全体の柔らかさを示す指標であり、値が低いほど弱い外力で伸張することが可能で、一般的に柔軟性が高いことを意味する。なお、測定にあたっては電極を腓腹筋の筋腹に貼付し、表面筋電図(Noraxon社製)用い、防御性収縮が起きていないことを確認しながら行った。
    SSはMyoretを用い上記の測定と同様の肢位で行い、対象者が伸張感を訴え、痛みが生じる直前の背屈角度で5分間のSSを実施した。受動的トルクと超音波装置における測定はSS開始前(以下SS前)とSS終了直後(以下SS直後)、終了10分後(以下10分後)に実施した。
    統計学的処理はSS前とSS直後、10分後の各角度における受動トルク、ΔMTJ、腓腹筋のスティフネス、筋束長の比較をFriedman検定およびScheffeによる多重比較を用いて行った。有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
    対象者には本研究の内容を十分に説明し、書面にて同意を得た。
    【結果】
    全ての試行において筋電図学的活動は認められなかった。受動的トルクは、全ての角度においてSS前と比較してSS直後と10分後では有意に減少した。最終角度(30°)における受動的トルクはSS前が44.8Nm、SS直後が38.8Nm、10分後が39.1Nmであった。ΔMTJ に関してSS直後は背屈角度10°ではSS前と比較して、また背屈角度15°から30°においてはSS前と10分後と比較して有意に増加した。背屈30°におけるΔMTJはSS前が1.08cm、SS直後が1.47cm、10分後が1.21cmであった。
    また、MTUのスティフネスに関してSS前は44.7Nm/cm、SS直後は26.2Nm/cm、10分後は33.1Nm/cmであり、SS直後はSS前や10分後と比較して有意に減少し、10分後はSS前よりも有意に減少した。
    筋束長は全ての角度において有意な変化は認められなかった。
    【考察】
    本研究の結果、SS直後では受動的トルク、すなわちMTUの抵抗性が全可動域にわたって減少した。また、SS直後にΔMTJの増加、MTUのスティフネスの減少がみられ、さらに10分後においてもSS前と比較して受動的トルクとMTUのスティフネスが有意に減少した。しかし、全ての条件間で筋束長には有意な変化は認められなかった。これらのことより、5分間のSS実施により筋束の伸張性が向上するのではなく、MTU全体の粘弾性が変化した結果、MTUのスティフネスが減少する可能性が示唆された。また、SS終了10分後でもMTUのスティフネスが減少する効果が継続する可能性が示唆された。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究より1回5分間のSS実施により、SS終了直後だけではなく、終了10分後においてもMTUのスティフネスが減少することが明らかになり、SSは筋線維を伸張するのではなく、周囲の軟部組織の粘弾性に変化を及ぼすことが示唆された。
  • 力出力初期応答に注目した検討
    下瀬 良太, 只野 ちがや, 重田 枝里子, 菅原 仁, 与那 正栄, 内藤 祐子, 関 博之, 坂本 美喜, 松永 篤彦, 室 増男
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: Se2-038
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】随意筋収縮における筋力発揮の力-時間曲線は神経筋機能を評価する上で有効な情報を与えてくれる.特に高齢者は若年者に比べ筋力の発生からピークまでの力発達曲線(Rate of Force Development;RFD)が低い傾向にあり,不意の重心移動などに素早く対応できずに,転倒に繋がる事が多いといわれている.高齢者の転倒予防を考える際に,高いRFDの改善に繋がるトレーニングは重要である.RFDを変化させる因子には運動初期の速い運動単位(fast-MUs)の動員,発射頻度とその同期性や,運動単位の二重子的同期性(doublet discharge)が関与している.RFDの増加は高強度トレーニングによる報告が多く,fast-MUsの動員の寄与で起こると考えられている.しかし,高齢者に対して高強度のトレーニングは臨床的に適しておらず,日常動作で負荷が及ぶ筋力レベルの低強度の運動トレーニングが求められる.最近,低強度でfast-MUsの動員を可能にする皮膚冷刺激筋力トレーニング法が提案されているが,皮膚冷刺激がRFDにどのような影響を与えるかについての報告は未だ皆無である.そこで今回我々は,皮膚冷刺激がRFDに与える影響について検討し,高齢者への皮膚冷刺激筋力トレーニングの有効性についての一資料を得る目的である.
    【方法】本研究の説明を受け,同意の得られた健常成人男女8名(男性5名,女性3名,年齢34±10歳)を対象とした.被験者は椅子に座り,股関節屈曲90度,膝関節屈曲60度の姿勢で,「なるべく早く最大の力で」という指示のもと等尺性膝関節伸展運動を皮膚冷刺激(Skin Cold Stimulation; SCS)と非皮膚冷刺激(CON)の状態で行なった.SCSは冷却したゲルパック(Alcare製)を専用の装着バンドで数分間大腿四頭筋上の皮膚に密着させ,適切な皮膚温であることを確認して試行を行なった.CONも同重量の非冷却ゲルパッドを装着して行なった.試行順はランダムとし,各試行間では十分な休息をとり,皮膚温を確認して各試行を行なった.プロトコール試行中は,筋力出力と筋電図(EMG)を測定した.EMG(電極直径10mm,電極間距離30mm)は外側広筋(VL),内側広筋(VM),大腿直筋(RF)から双極誘導した.測定データはコンピュータに取り込み,後日解析を行なった.データ解析は力曲線の最高値(Fpeak)と微分最大値(dF/dtmax)を解析し,RFDは,0-30,0-50,0-100,0-200msecの区間での平均勾配を算出した.また各試行のFpeakで標準化したRFD(normalized RFD; nRFD)を,0-1/6MVC,0-1/2MVC,0-2/3MVCの区間の平均勾配として算出した.EMG解析は上述の各区間のroot mean square EMG(rmsEMG)を算出した.統計学的処理は各区間でのSCSとCONの値についてWilcoxonの符号付順位和検定を行い,統計学的有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】本研究を行うにあたり,ヘルシンキ宣言に基づいた東邦大学医学部倫理委員会実験計画承認書を得た上で,本研究の意義と実験に伴う危険性を協力依頼被験者に十分説明し,納得して頂いた上で測定を行なった.
    【結果】SCSでFpeakとdF/dtmaxは有意に増加した.dF/dtmaxまでの到達時間はSCSで平均9msec短縮したが,有意差は見られなかった.RFDは,0-30msec,0-50msec区間でSCSにより有意な増加が見られた.またnRFDは,0-1/6MVC区間でSCSにより有意な増加が見られ,到達時間もSCSで有意に短縮した.筋活動は,0-30msec区間でRFのrmsEMGが増加し,0-100msecと0-200msecでVLのrmsEMGが増加した.nRFDの区間では,0-1/6MVCにおいてVMとRFのrmsEMGが増加し,0-1/2MVCと0-2/3MVCにおいてVLのrmsEMGが増加した.
    【考察】皮膚冷刺激によりRFDの増加が見られた.各筋のrmsEMGの増加傾向が見られたことや皮膚冷刺激によってfast-MUsの動員が引き起こされる結果,初動負荷の素早いオーバーカムが可能となり,RFDの増加に繋がったと考えられる.特に筋力出力の初期でRFDの増加が見られ,不意の重心移動に対して素早く対応できる可能性を示唆した.本研究において,皮膚冷刺激により筋活動・RFDは増加し,皮膚冷刺激は高齢者の転倒予防トレーニングに対して有用であることが示唆された.
    【理学療法学研究としての意義】本研究において,高齢者の日常動作に類似した低強度でもfast-MUsの動員による筋機能改善の筋力トレーニングが提案でき,高齢者の転倒予防にも繋がる新しい筋力トレーニングとしての可能性を探るデータが得られる.そして,本研究は臨床運動療法の一戦略になり得る可能性を秘めている意味で理学療法研究として意義がある.
  • 河端 将司, 島 典広, 西薗 秀嗣
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: Se2-039
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】持ち上げ動作の負荷強度増大に伴う内発的な呼吸量変化および腹腔内圧の上昇量とタイミングの変化を明らかにし,さらに呼吸量変化と腹腔内圧変化の関連性を検討すること。

    【方法】健常男子大学生11名(22±2歳,173±7cm,64±7kg)を対象とした。動作開始肢位(膝伸展位,体幹前傾位,膝蓋骨上縁の高さでバーを把持)における等尺性最大筋力を張力計にて計測し,得られた最大筋力値(100%MVC)に対して30%,45%,60%,75%MVCに相当する重量を使用し,0.5秒間の股関節伸展動作を行わせた。股関節に電子ゴニオメータ(SG150,Biometrics社製)を取り付けて動作開始と終了の指標とした。被験者には動作遂行のみを意識させ,呼吸と腹腔内圧が意識的に操作されないように配慮した。呼吸量はフローメーター(FM-200,Arco System社製)を使用して,動作開始前の一回吸気量および動作中の呼気量を算出した。腹腔内圧は直腸圧センサー(MPC-500, Millar社製)を用いて動作中の腹腔内圧上昇量を測定し,直立位バルサルバ操作で得られた腹腔内圧の最大値(VmaxIAP)で除して相対化した(河端ら.2008)。動作開始点を基準として腹腔内圧の立ち上がり時間(T onset)とピーク時間(T peak)を算出した。ランダム化された各強度の課題を練習後に各3回実施し平均値と標準誤差を求めた。各項目の強度間比較を一元配置分散分析と多重比較(Dunnet,Tukey)を用いて有意水準5%にて検定した。

    【説明と同意】全対象者に本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。本研究は鹿屋体育大学大学院倫理委員会の承認を得て行われた。

    【結果】動作遂行時間と股関節角度変化は強度間で有意差を認めなかった。安静時一回換気量(Vt)を100%とすると,30~75%MVCの順に吸気量は79±12,105±20,142±18,169±21(%)と漸増し,呼気量は30±11,30±13,14±8,4±1(%)と漸減した。吸気量と呼気量は有意な強度の主効果を認め,Vtとの比較において,吸気量では60%および75%MVC,呼気量では全強度において有意差を認めた。腹腔内圧に関しては,上昇量は25±5,40±4,52±5,63±6(%VmaxIAP)と漸増し有意な強度の主効果を認めた。動作開始を0 msとすると,T onsetは-210±39,-272±26,-334±19,-380±23(ms),T peakは170±29,151±20,116±24,66±31(ms)とそれぞれ有意な強度の主効果を認め,強度の増大に伴い早期化した。腹腔内圧の上昇量とT onsetでは,60%MVCは30%MVCと,75%MVCは30%,45%MVCと有意差を認めた。T peakでは75%MVCは30%MVCと有意差を認めた。T onset からT peakまでの時間は380±32,423±22,450±22,446±25(ms)であり強度間で有意差を認めなかった。

    【考察】本研究では負荷強度の増大に伴い,吸気量の増大,呼気量の減少,腹腔内圧の増大,腹腔内圧の立ち上がり時間とピーク時間の早期化を認めた。負荷強度の増大に伴う腹腔内圧の増大は体幹安定化の要求が増大したことが要因として考えられ(Cresswell et al. 1994),タイミングの早期化はピークを動作開始に一致させて早期に体幹を安定させるための変化であったと推察される。また吸気量がVtから有意に増大するような負荷強度において腹腔内圧の上昇量とタイミングも変化する傾向にあった。意図的に吸気量を増大,呼気量を減少させることは腹腔内圧の増大にとって補助的に寄与することが報告されている(Hagins et al. 2006)。本研究における呼吸量と腹腔内圧の変化は意図的に操作されたものではなく,無意識的なふるまいであった。すなわち内発的な呼吸量変化は腹腔内圧の増大を補助するように貢献していたと推察された。総じて,内発的な呼吸量変化と腹腔内圧の増大は負荷強度に応じて変化し,さらに腹腔内圧変化にとって有利となる呼吸量変化が無意識的に遂行されている可能性が示唆された。

    【理学療法学研究としての意義】持ち上げ動作において脊柱安定化機構として重要な役割を担う腹腔内圧が,呼吸量の変化と密接に関連しながら負荷強度に応じて制御されていることを明らかにした。これらの腹腔内圧と呼吸量の規則的な変化は動作開始に先立って運動制御されるものであり,安全な持ち上げ動作遂行の可否に影響を及ぼし得る重要な運動制御であると考えられる。
  • 岡山 裕美, 山内 仁, 大工谷 新一
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: Se2-040
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    筆者らは先行研究でダイナミックストレッチング(以下,DS)実施前後の股関節屈筋群の等速性筋力と筋活動の関係について,10回から30回のDS実施後のトルク変化には筋疲労の影響よりも筋力発揮における質的な影響があると報告した。今回の実験では,DSの回数をさらに増やした場合の変化について検討することを目的とした。
    【方法】
    整形外科学的,神経学的に問題のない健常男性7名の利き足7肢を対象とし,DS実施前後の筋力と表面筋電図の変化を検討した。DSは安静立位を開始肢位とし,一側の股関節と膝関節を90度屈曲位まで同時に屈曲させた後に元の立位に戻るまで股関節と膝関節を同時に伸展させる動作とした。なお,下肢挙上から開始肢位に戻るまでの時間は1秒間とし,被験者にはメトロノームを用いて誘導した。また,DSの実施回数は10回,20回,30回,40回,50回の5種類を設定した。DS実施前後にBIODEX System 3(BIODEX MEDICAL Inc.)を用いて,角速度300deg/secでの等速性運動よる股関節屈曲伸展運動を3回施行し,股関節屈曲ピークトルクを計測した。また,ピークトルクの計測と同期して大腿直筋(RF),大腿筋膜張筋(TFL),長内転筋(AdL)の表面筋電図をMyosystem1400(Noraxon)により記録した。得られた波形からピークトルク発揮時を中心とした前後0.05秒間の計0.1秒間の筋電図積分値(IEMG)と中間周波数(MdPF)およびピークトルク発揮時点のMdPFを算出した。なお,MdPFの算出には連続ウェーブレット変換と高速フーリエ変換の双方を用いた。得られた結果から,DS実施前後における各指標の差を検討した。また,連続ウェーブレット変換により得られるスケイログラムの様相についても検討した。統計学的検討には,各DS実施回数別のDS実施前後においてピークトルク体重比,IEMG,MdPFを対応のあるt検定を用いて比較した。なお,統計学的検討における有意水準は危険率5%未満とした。
    【説明と同意】
    被験者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た。
    【結果】
    ピークトルク体重比は20回のDS実施後にのみ有意に高値を示し,10・30・40・50回ではDS実施前後における有意差は認められなかった。また,IEMGとMdPFにおいても各々の実施回数におけるDS実施前後での有意な変化は認められなかった。一方,スケイログラムの様相から7名中6名において20回のDS実施後には,RFの輝度の減少,ピークトルク発揮時の輝度の収束,筋活動時間の短縮が認められた。TFLとAdLの活動では特徴的な様相の変化は認められなかった。
    【考察】
    本研究では,20回のDS実施後に有意なピークトルクの増大がみられたものの,IEMGとMdPFにおいては有意な差は認められなかった。したがって,20回のDS実施後にみられたピークトルクの増大には,IEMGとMdPFの結果からだけでは,運動単位の発火頻度の変化や同期化,動員される筋線維の変化などのいわゆる筋力向上に関する神経性要因の関与は見出せなかった。しかしながら,スケイログラムの様相からは,7名中6名でRFの高周波成分・中周波成分において輝度の減少が観察された。このことから,DS実施前では高周波帯域で筋活動量の増大が認められたことに対して,DS実施後では広い範囲の周波数帯域で筋活動の増大が認められた。両者間のMdPFに有意差は認められなかったことから,20回のDS実施後には短時間で動員される筋線維の種類が多く,一度に発揮される筋力が大きくなることでピークトルクの増大が起こり,MdPFでは反映されない筋活動の質的な変化があったものと考えられた。このような質的変化以外に筋力発揮を向上させる要因としては,反復運動の実施による主動作筋の滑走性の向上や拮抗筋に対するストレッチング効果による主動作能力の向上が考えられる。しかし,これらの要因が影響するとDS実施回数が増大するに連れて筋の滑走性や伸張性が増大すると推察されるため,ピークトルクも増大していくものと考えられる。ところが,本研究結果では20回以外では実施後に有意に高値を示さなかったため,これらの要因は影響を及ぼさなかったものと考えられた。本研究では,DSを20回実施した後にピークトルクは増大し,その機序としては筋力発揮における質的な変化があったことが確認できた。また,等速性筋力と筋活動の関係についてはIEMGとMdPFのみを指標とした検討では不十分であるので,さらなる検討が必要であることが示唆された。
    【理学療法学研究としての意義】
    DSは10回から15回を目安として行われているとの報告があるが,今回の実験結果は適切な実施回数を決めるにあたっての有用な指標となる。また,今回の実験方法や用いたパラメータを応用していくことは,DSの効果判定を行う際にも有用となる。
  • 廣重 陽介, 浦辺 幸夫, 榎並 彩子, 三戸 憲一郎, 井出 善広, 岡本 健
    専門分野: 理学療法基礎系5
    セッションID: Se2-041
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】スポーツ中の足関節の外傷・障害の頻度は高く、平成19年度のスポーツ安全協会傷害調査報告集によると全報告の17.2%を占め、またアメリカでは1日に25,000件以上の足関節捻挫が起こっているとされている。外傷後などにしばしば認められる足関節の腫脹は、損傷の程度の判断や運動療法を施行する上で重要な徴候のひとつであり、腫脹の長期にわたる存在は治癒過程を阻害し、疼痛や関節可動域制限を残す原因となる。
    腫脹の評価は反対側と比較して行うことが多いが、もともと足部および足関節の体積に左右差が存在するのであれば、前もってそのことを考慮する必要がある。実際、足底板の作成時やスポーツ現場などにおいてシューズのサイズに左右差がある選手によく遭遇する。
    そこで本研究では、水槽排水法による体積測定を行い、健常者の足部および足関節の体積に左右差があるかどうかを明らかにすることを目的とした。

    【方法】対象は足部および足関節周囲に腫脹を認めず、下肢に循環系の疾患、外傷を有さない健常成人25名(男性13名、女性12名)50足とした。対象すべての利き手は右であり、年齢(平均±標準偏差)は26.9±5.2歳、身長は166.7±7.8cm、体重は61.4±10.7kgであった。
    水槽排水法による体積測定には特製の水槽(ポリスチレン製、29×19×17cm、排水溝の高さが底から12cm)を用いた。水槽に33°C(皮膚温)の温水を排水溝まで一定の重量入れた後、椅坐位にて足を静かに入れ、足尖が水槽の前壁、足底が水槽底面、下腿後面が後壁についた状態で静止し、溢れ出た水の重量を計測した。水の重量1gを1mlとし体積を求めた。
    測定に先立ち、体積が変化しない合成樹脂製ボトルの体積測定を10回繰り返すこと、さらに、対象の各足の体積測定を3回繰り返し、測定の信頼性を確認した。
    測定の信頼性の検証にはボトルの体積測定に変動係数を、対象の各足部および足関節の反復測定に級内相関係数(ICC)を用いた。また、左右差には対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。

    【説明と同意】対象には事前に研究の目的と方法に関する説明を十分に行い、同意を得て測定を行った。なお、本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号902)。

    【結果】ボトルを繰り返し10回水槽に沈めた結果、その体積は1034.0±2.4ml、変動係数は0.2%であった。また、各足の体積の反復測定の結果、ICC(1,1)=0.99であった。足部および足関節の体積は、左足が948.0±136.9ml、右足が934.6±133.7mlで、左足の体積が有意に大きかった(p<0.01)。左右の体積の差は13.4±15.7mlで、右足部および足関節の体積を100%とした場合、左は101.4±1.8%となった。

    【考察】今回、足関節外傷後などに起こる腫脹の評価を、反対側と比較して行うことの可否を検証するため、足部および足関節の体積の左右差を信頼性の高い方法で調査し、左がより大きいことが明らかになった。
    板倉(2008)は、足関節外側靭帯損傷の4例に対し、理学療法前後での足部および足関節の体積を計測した結果、10~26mlの減少を認めたと報告している。この報告からも分かるように、理学療法による腫脹増減の程度は必ずしも大きいものではなく、今回のような測定の信頼性の高い方法で測定を行うことは重要であると考える。
    平沢(1980)は、片脚立位時における足底の接地面積が左足の方が大きいことや重心動揺における総軌跡長が左足の方が短く、内部面積が左足の方が小さいことから片脚支持能力は左足でより高いと報告し、これが足部および足関節体積の左右差に関係すると考えた。また、馬場(1979)は足長が左足でより大きいこと、嶋根ら(1997)は足長、足幅、外輪郭面積、足底面積が左足でより大きいことを報告し、二次元における足部の左右差を示したが、今回は体積についても左足が大きいという結果が得られ、三次元においても足部および足関節に左右差があることが明らかになった。

    【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、足関節周囲の腫脹の評価において反対側と比較をするときに、もともと存在する左右差を考慮するべきであることが示唆された。左の足部および足関節の体積が右に比して約13.4ml 、1.4%大きいことは無視できず、この差を考慮することは腫脹の評価を行う際の臨床的な目安のひとつとなりうると考えた。この足部および足関節の体積の左右差は足関節捻挫の治療のみでなく、靴選びの際にも考慮すべきことかもしれない。
    今後は、今回の体積測定手順を用い、腫脹に対する様々な理学療法の効果を検討していきたい。
  • 諸角 一記, 烏野 大, 芳川 晃久, 宇都宮 雅博, 澤口 悠紀, 半田 健壽, 楊箸 隆也, 藤原 孝之
    専門分野: 理学療法基礎系5
    セッションID: Se2-042
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々は,日米協同プロジェクトで身体計測総合評価システムについて開発を進めている.本システムは臨床場面で信頼性や再現性,妥当性が高く,安価に使用可能なものを目標にしている.この評価ツールには筋電計,加速度計,関節角度計などがあり,これらセンサを無線接続し,接続コードによる拘束を減少し,装着簡便で各種センサの組み合わせ可変となるものを目指している.現在,臨床評価や研究機器として用いられている評価ツールは有線で各種評価センサを組み合わせているものが多い.無線通信方式は個々のセンサを単独で使用するものが多く,無線式加速度計・筋電計などをサンプリング周波数1kHzにて同時系列で解析を行ったものは少ない.本研究ではBluetooth通信式3軸加速度計・筋電計歩行解析装置を用いて,階段昇行,降行動作について解析した.階段昇降動作は,一般的に昇行時に心肺機能に対する負荷が高く,降行時は筋骨格系に対して負荷が高いといわれている.今回は階段昇降時の筋骨格系に対する負荷について検証する目的で実験を行った.

    【方法】
    下肢や脳機能に歩行障害が残るような外傷既往の無い健常成人男子11名の被験者(平均年齢27.6才24~32才,平均体重65.1 ±8kg,平均身長169.3±4.8cm)を対象とした.被験者の服装は膝の露出しやすいショートパンツと裸足とした.測定は,a.3軸加速度(X軸―左右方向,Y軸―前後方向,Z軸―上下方向,±18G)右膝蓋腱上の変化,b. 右内側広筋と大腿二頭筋長頭筋電位c.右膝関節角度変化d.右踵部圧力センサの合計7チャンネルとした.階段は,踏面幅27.5cm,蹴上17.5cm,1段移動距離32.6cmで11段の階段を昇降した.動作のテンポは昇行,降行とも80,100,120 bpm(回/分)に規定して各3回試行を行った.データ解析はそれぞれの速度における踵接地から次の踵接地までを1歩行周期として,3歩行周期データ3回分を採取した.3歩行周期加速度データは2乗平均処理(Root Mean Square,以後 RMS.)し,それぞれX,Y,Z軸の値とそれらを合成した合成ベクトル値(以後,合成値)を算出した.大腿内側広筋と大腿二頭長頭筋電データはバンドパス(10~250Hz)とバンドストップ(49.5~50.5Hz)処理後全波整流し,さらに積分処理した.得られたデータは,昇行・降行時の速度変化についてFriedman検定を用い,その後の多重比較はWilcoxonの符号付き順位検定を用いた(有意水準は5%未満とした).

    【説明と同意】
    対象者には研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護,参加の拒否と撤回などについての説明を行い,参加同意書には自筆による署名を得た.また,本研究は学校法人こおりやま東都学園研究倫理委員会に審査を申請し,研究実施の承認を得た.

    【結果】
    1.加速度RMS:昇行・降行動作ともに速度が速くなるにつれX,Y,Z軸および合成値は有意に増加した(p<0.01).各速度におけるRMS値の比較では昇行動作に対して降行動作が有意に高い傾向であった(p<0.05).
    2.筋活動量:大腿内側広筋活動量は昇行動作時に速度が速くなるにしたがい有意に活動は増加した(p<0.05).しかし,降行時は速度が遅い場合のほうが活動量は有意に高く(P<0.05),早くなると活動量は減少した.大腿二頭筋長頭は降行時に内側広筋と同様の変化を示したが有意な差はなかった.

    【考察】
    1.加速度RMS:各軸のRMS値は,昇行・降行とも速度上昇とともに値が増加した.これは動作の速度が上がることで床面へ足部があたるエネルギー量が増加したためと考える.また,昇行と降行の比較において降行が高かったのは降行動作時の上方から下方への移動に位置エネルギーが加わったためと考える.
    2.筋活動量:昇行時大腿内側広筋の活動が速度上昇とともに増加したのは速い動作と位置エネルギーの影響と考える.降行時の筋活動量変化は,速度が低い時には随意性が高く筋を随意的にコントロールしていたと考えられる.一方速度が早くなると,動作は意識的なコントロールをせず,位置エネルギーを利用した反射的動作が行われたため筋活動が低下したものと考える.

    【理学療法学研究としての意義】
    今回使用した装置は,無線通信測定では稀なサンプリング周波数1kHzを可能とした.これにより,現在の無線通信筋電位測定で困難とされていた解析(周波数解析等)が可能となり,その他センサ類との組み合わせ実験も選択が自由で可変性が高く拘束性が低くい解析システムである.本実験の結果からは,階段昇行と降行では速度が変化することにより筋活動と骨関節系への負荷の違いが明らかになり、今後の理学療法プログラム作成に多くの示唆を得るものとなった.
  • 建内 宏重, 和田 治, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系5
    セッションID: Se2-043
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脊柱の回旋ストレスは椎間板や椎間関節、その周囲組織に損傷を与える可能性があるため、腰痛の原因の一つとして重視されており、臨床で脊柱回旋可動域の分析はよく行われている。しかし近年、脊柱回旋の可動域よりもむしろ回旋可動域の左右差が腰痛患者では増大していることが報告されている。脊柱回旋の左右差が増大すると、可動性が大きい側での微細な損傷が繰り返され腰痛につながると考えられている。したがって、脊柱回旋左右差と関連する因子を同定することが左右差を軽減するための治療にとって必要である。我々は、静止立位における脊柱回旋変位が動作時の脊柱回旋角度の左右差と関連すると仮説を立て、その仮説を検証するために本研究を行った。
    【方法】
    対象は、下肢・脊柱に疾患を有さない健常成人27名(年齢:23.3 ± 2.9歳、身長:173.1 ± 4.5 cm、体重:63.4 ± 5.6 kg)とした。測定課題は、静止立位保持、立位での体幹回旋動作、歩行動作(腕振り有り、無し)の4課題とした。静止立位は、足角10度、足幅は各対象者の足長として標準化し、両踵を空間座標における横軸に沿って貼付したテープに揃えて接地した。上肢は腹部の前で組ませて、安定した10秒間を3回記録した。体幹回旋動作は、上記の静止立位から足部を浮かさずに左右交互に3回ずつ最大に体幹を回旋する動作を測定した。対象者には、後ろを振り向くように最大に体を回旋してくださいと指示し、測定前に数回練習を行った。歩行動作は、自然な歩行速度での歩行を測定した。腕の振りは体幹の回旋モーメントに影響を与えることが知られているため、腕を腹部の前で組ませた腕振り無しの歩行も測定した。各歩行とも練習後に3回ずつ記録した。
    測定には、3次元動作解析装置(VICON社製)を用いた。Plug-in-gaitモデル(VICON社製)のマーカーセットに準じて骨盤と胸郭に反射マーカーを貼付し、骨盤に対する胸郭の相対的な回旋変位を脊柱の回旋と定義した。静止立位では10秒間における脊柱回旋変位の平均値を、体幹回旋動作では、回旋動作時の左右の最大脊柱回旋角度を、歩行動作では1歩行周期における左右の最大脊柱回旋角度を算出し、各課題とも3試行の平均値を分析に用いた。
    統計学的分析では、まず、静止立位における脊柱回旋変位方向を分析し(一標本t検定)、各対象者の静止立位での脊柱回旋側と反対側とについて、体幹回旋動作および歩行動作における脊柱回旋角度の左右差を分析した(対応のあるt検定)。加えて、静止立位での脊柱回旋変位と、体幹回旋動作および歩行動作での脊柱回旋角度の左右差との相関関係を分析した(Pearsonの相関係数)。
    【説明と同意】
    倫理委員会の承認を得て、対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し、参加への同意を書面で得た。
    【結果】
    静止立位では、平均値としてはわずかだが有意に非利き手側への脊柱回旋を認めた(1.4 ± 1.6°、p < 0.001)。体幹回旋動作での脊柱回旋角度について、静止立位での脊柱回旋側と反対側とでは有意差を認めなかった。歩行動作でも、静止立位での脊柱回旋側と反対側とでは脊柱回旋角度に有意差は認めなかった。しかし、静止立位における脊柱回旋変位と、体幹回旋動作の左右差(左右差の絶対値;4.3 ± 3.0°)および歩行動作時の脊柱回旋角度の左右差(左右差の絶対値:腕振り有り;2.6 ± 2.3°、腕振り無し;2.6 ± 2.0°)との間にはいずれも有意な相関関係を認めた(体幹回旋動作:r = 0.64, p < 0.001、歩行(腕振り有り):r = 0.40, p < 0.05、歩行(腕振り無し):r = 0.49, p < 0.01)。すなわち、静止立位で脊柱が一側に大きく回旋しているほど、動作時の脊柱回旋左右差も同側に大きくなった。
    【考察】
    体幹回旋動作は脊柱回旋の最大可動域を測定しており、静止立位でのわずかな回旋変位が脊柱の最大可動域の左右差と関連していることが示された。さらに、歩行動作での脊柱回旋左右差においても同様の相関関係を認めた。歩行で生じる脊柱回旋は最大可動域以下での回旋であり、静止立位での脊柱回旋変位は、脊柱の最大可動域だけでなく左右の相対的な回旋しやすさとも関連していることが推察される。静止立位での脊柱回旋変位が大きい場合、日常で繰り返される動作時の脊柱回旋左右差が増大している可能性が高いため、静止立位の脊柱回旋変位は腰痛の危険因子の一つとして重要であるかもしれない。
    【理学療法学研究としての意義】
    脊柱回旋角度の左右差について、臨床において動的な場面での測定を行うことは容易ではない。本研究結果により、静止立位時の脊柱回旋変位の測定により、動作時の脊柱回旋左右差の傾向を予測できる可能性が示唆され、臨床における姿勢アライメントの評価にとって有用な研究であると考える。
  • 荒本 久美子, 中井 英人, 澄川 智子, 長谷川 美欧, 川上 紀明, 辻 太一
    専門分野: 理学療法基礎系5
    セッションID: Se2-044
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】脊柱側弯症患者における身体的特徴についてhumpやウエストライン、肩の高さ等体幹への記載は多数見られるものの、各年齢における四肢の特徴についての記載は散見されない。しかし、正確な検査や実際の理学療法を行っていく上で疾患の特性を把握することは重要となってくる。そこで今回、思春期特発性側弯症(以下AIS)患者における四肢長を求め、各年齢における国民標準値と比較し若干の知見を得たので報告する。
    【方法】対象は2004年10月から2009年8月の間に当院へ手術目的にて入院した脊柱側弯症患者621例中、術前四肢長測定が可能であったAIS女児150例とした。平均年齢14±2(11&#12316;18)歳、平均身長155.6±6.7cm、平均体重44.9±6.4kg、平均BMI 18.5±2.1、平均初潮12歳8ヶ月、平均Cobb角60.1±14.4(36&#12316;121)°であった。検討項目は身長、体重、上肢長、下肢長、Arm spanの5項目およびCobb角とした。身長、体重測定は市販機器を使用し、裸足衣類装着下にて0.5単位毎に測定した。四肢長測定には市販メジャーを使用し、上肢長は肩峰から中指先端までを、下肢長は上前腸骨棘から内果までを仰臥位にて、Arm spanは両肩関節外転90°、肘関節伸展0°、前腕回外位で壁に設置してあるメジャーを使用し前面での両中指先端間距離を立位にて測定した。上下肢長は左右測定し平均値を求めた。Cobb角は全脊柱レントゲンを使用し専門医が測定した。新・日本人の体力標準値(不昧堂出版、2000)から国民標準値を調査し、各年齢における成長割合を検討するため身長、体重、上肢長、下肢長、Arm spanの5項目についてAIS患者の値を各年齢における国民標準値で除した値を百分率(以下割合値)で示し、各年齢における国民標準値を100として平均値を比較した。初潮時期における成長割合を比較するため手術時での初潮有無により2群に分け各割合値を比較した。また、年齢と各割合値、さらにCobb角と各割合値との相関を求め回帰式を作成した。統計学的処理には初潮有無における比較にはMann-whitneyのU検定を、年齢、Cobb角と割合値の比較にはspearmanの符号付順位検定を行い、有意水準5%とした。
    【説明と同意】画像の使用および本研究において患者および可能な限り家族へ説明を行い、書面にて同意を得た。
    【結果】割合値平均では、国民標準値に対し身長は99.9±4.2%でほぼ同一であり、体重は90.4±12.2%で下回り、上肢長は102.6±5.6%、下肢長は102.0±5.7%、Arm spanは104.3±4.7%で上回る傾向がみられた。初潮有無における各割合値は、上肢長で初潮なし患者において有意に大きく、他の項目では有意差はみられなかった。年齢と各割合値は、上肢長=111.437-0.621×年齢、Arm span=113.079-0.62×年齢でともに弱い負の相関がみられ、またCobb角と各割合値では、身長=105.209-0.089×Cobb角、体重=104.057-0.228×Cobb角、上肢長=103.873-0.021×Cobb角、Arm span=105.728-0.024×Cobb角でともに弱い負の相関がみられ、他の項目では有意性はみられなかった。
    【考察】AIS患者は脊柱変形があるにも関わらず、同年齢女児とほぼ同一の身長割合値を示したことと、一般的に身長と同程度であるArm span割合値が長かったことから、本来なら身長が高くなる可能性があったと考えた。また大野らより日本人女性11-18歳平均BMIは20.1で、それに対し今回の対象者は平均18.5と低値を示し、体重割合値は低値を示した。さらに体重割合値低下はCobb角が増加するほど顕著に現れたため、脊柱変形のため内臓圧迫や栄養吸収不良等が生じ体重増加が起こりにくいのではないかと考えた。四肢長の上肢に長い傾向がみられ、特に初潮までに上肢の成長が大きかった。一般にCobb角の進行も成長期に生じるため、初潮前の成長は下肢よりも上肢、体幹で過剰に生じ、上肢長は長く、体幹においては筋肉等で抑制されることにより脊椎がまっすぐ成長出来ずCobb角の進行が生じるのではないかと考えた。以上から、脊柱変形や上肢長の延長により臨床において下肢胸腰部柔軟性検査として簡便で広く使用されているFFDはAIS患者に対し、経時的にCobb角の改善をみるためや柔軟性をみるための指標とならない可能性もあるのではないかと考えた。さらにCobb角と身長割合値との回帰式より、身長が同年齢児童と同等になるためにはCobb角が58.5°となり手術適応の40°をはるかに超える角度となる。AIS早期発見のためには、年齢とArm spanとの間に負の相関がみられたことから身長とArm spanの比較は専門家でなくてもAISを疑うためにも簡便にわかる指標の1つであると再認識した。
    【理学療法学研究としての意義】誰でも測定可能な身長とArm spanの比較はAIS早期発見のための一指標となり、AIS患者に対してFFDを用いる際には注意を要する。
一般演題(口述)
  • 田中 勇治, 田中 まり子, 宮坂 智哉, 青木 和夫, 堀内 邦雄
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: O1-001
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】足趾屈曲力については,下肢運動機能および立位姿勢調節に関連が深い,あるいはその強化が高齢者の転倒予防に効果があるなどの報告がなされているが,定量的な検討は少ない.多くの報告では,市販の測定器がないため,各研究者がSmedley式の握力計を改良したものを使用している.本研究は,測定が簡便であること,定量的な測定が可能であること,また,足趾で床面を押す力を測定するという観点から堀内,青木らが考案したpushタイプ足趾屈曲力計を用いて足趾屈曲力の測定を行い,重心動揺,重心移動域および年齢等との関連を検討することを目的とした.
    【方法】対象は,健康成人40名,平均年齢45.3±17.2歳,(女性15名;平均年齢46.13±14.6歳,男性25名;平均年齢44.8±18.9歳)であった.測定項目は以下の通りである.1.足趾屈曲力:堀内らの開発したPush タイプ足趾屈曲力計を使用し,足底を床に着けた状態で足趾を屈曲してその押す力を測定した.坐位および立位でそれぞれ左右各2回測定し,4施行の平均値を代表値とした.2.重心動揺および重心移動域の測定:参加者の足底内側を平行に10cm 離した軽度開脚立位とし,支持基底面の中央および支持基底面内で重心を随意移動して前方,後方,右方,左方の5つの重心動揺を10 秒ずつ測定した.測定装置には,重心動揺計(アニマ社製,グラビコーダGS-10)を使用した.この測定により得られた値から以下の項目を検討した.(1)重心動揺軌跡長(以下,軌跡長):中央,前方,後方,右方および左方での値,これらの平均値,および中央値に対する各位置の値の比.(2)重心動揺矩形面積(以下,矩形面積):中央,前方,後方,右方および左方での値,これらの平均値,および中央値に対する各位置の値の比.(3)重心移動域:前方,後方,右方,左方,前後方向および左右方向の重心移動域の値.(4)安定域面積:前後重心移動域と左右重心移動域の積.(5)姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability,以下IPS):望月の考案した算出式に従い,安定域面積,および重心の揺らぎである重心動揺の面積から求めた.3.Functional Reach(以下FR):モルテン社製マルチスケールを用いて3回測定し,最大値を代表値とした.4.握力:スメドレー式握力計を使用し,左右各2回測定し,4施行の平均値を代表値とした.5.以下の項目について自記方式で調査した.(1)年齢,(2)性,(3)身長,(4)体重,(5)足長.足趾屈曲力と各値の関係についてPearsonの積率相関係数を算出し検討した.有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】参加者は,大学職員および学生で,事前に測定に関する説明を行い,参加意志決定後であっても辞退することが可能であることを伝えた上で参加の同意を得た.なお,実施にあたって植草学園大学研究倫理委員会において研究の承認を受けた.
    【結果】足趾屈曲力について,身長,体重,足長および握力との間に正の相関を認めたが,年齢との相関は認められなかった.軌跡長および矩形面積では,足趾屈曲力との間に有意な相関を認めなかったが,[前方での軌跡長/中央での軌跡長]と足趾屈曲力(坐位)との間に正の相関を認めた.重心移動域と足趾屈曲力(坐位)については,後方,右方,前後および,左右で,また安定域と足趾屈曲力(坐位)の間に正の相関を認めた.重心移動域と足趾屈曲力(立位)においてもほぼ同様の傾向を認めた.また,FRと足趾屈曲力(坐位),足趾屈曲力(立位)間において正の相関を認めた.
    【考察】重心動揺と足趾屈曲力の間には,相関がなく,安定した静止立位での足趾屈曲力の作用は少ないと考えられた.支持基底面内で重心を移動すると外周付近で重心動揺が大きくなるとの報告があり,軌跡長について,[前方での軌跡長/中央での軌跡長]と足趾屈曲力(坐位)との間に正の相関を認めたことから,足趾屈曲力が大きいとより大きな前方移動を可能にすることが考えられる.
    重心移動域は,各方向で足趾屈曲力と正の相関があり,またFRとの間にも正の相関を認めたことから,大きな重心移動には足趾屈曲力が関係していることが推察された.
    【理学療法学研究としての意義】現在,高齢者の転倒予防として種々の運動療法が考案され施行されており,足趾の運動を取り入れたものがある.足趾屈曲力が強いと大きな重心移動が可能であることを示す本研究は,足趾屈曲力の強化がバランスの改善に有効であることを示す根拠になると考えられる.また,本研究で使用したpushタイプ足趾屈曲力計は測定が簡便で,定量的測定が可能であり,足趾屈曲力の客観的で定量的評価を行う上で有効であった.
  • 堀本 ゆかり
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: O1-002
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】立位・歩行は常に荷重の影響が余儀なくされ、起因する機能障害も多様化し、足部機能障害は直ちに移動能力の制限として表れる。これらの現状を踏まえ、青年期における歩行時の足圧中心軌跡パターンを計測し、青年層への理学療法介入の必要性について検討する。

    【方法】身体計測は、身長、体重、BMI、棘果長、足長、足幅、足内側縦アーチ、距骨下関節(内反角度/外反角度)、横足根関節(内がえし/外がえし)、中足趾節関節背屈角度、母趾外反角度である。歩行データでは前後2mの補助歩行路を設けた10m直線歩行路を任意と最大努力で歩行した時の時間と歩数を3回計測し、平均値を採用した。
    重心動揺計による足底データ計測はZebris社製下肢加重・重心動揺計測器PDM-Sを使用し、プラットホームの周囲の段差を解消したうえで直進歩行の足圧中心および荷重状況の計測を行った。
    計測した足圧中心軌跡は本岡らの方法に従い、画像より外周に枠を引き、その中央に内側から外側へ線を引いた。その線分の全長をbとし、さらに同位置の内側縁から足圧中心軌跡までの交点の距離をaとした。a/b×100=%COPとし、%COPが0~33.3の間にあるものを内側型、33.3~66.6を中央型、66.6~100.0を外側型とし、左右および男女差について傾向を調査した。さらに、16名の被検者に対し2歩分、計32歩分のデータの最も多い型についてさらに3分割し傾向を確認した。
    これらのデータは日本科学技術研修所製JUSE-StatWorksV4.0で統計処理した。

    【説明と同意】対象は調査・計測は事前に計測内容の説明とデモンストレーションを行い、署名にて同意の得られた医療系専門学校学生17名(男子9名・女子8名)である。平均年齢は24.2±6.5歳で、現在加療中の整形外科疾患のあるものは除外した。また、個人情報の管理には十分留意した。

    【結果】1)立脚期所要時間:一元配置分散分析では各相で時間要因に差が見られた。立脚初期の所要時間は短く、後期は延長していた。
    2)足圧中心軌跡(COP)のパターン:%COPデータはすべて中央型であり、分布は34.4%~61.1%であった。左右差および男女差について統計的有意差は見られなかった。中央型16例(32歩分)についてさらに3分割したところ、中央から内側側に変位する傾向であることがわかった。
    3)立脚後期以降のCOP軌跡パターン:立脚後期以降のCOPの軌跡をみると、右脚は全てのものが第1~2趾あるいは第2中足骨部を通過しているのに対し、左脚は第1中足骨部から第2~3趾間に分布していた。
    その後、遊脚初期部にかけて母指側への偏位状態を比較すると1/2横指に移動したものが5名(29.4%)、1横指移動したものが4名(23.5%)、その他8名(47.1%)は概ね直線的に遊脚初期に移行していた。
    4)%COPに影響を与える要因:%COPに影響する要因について、測定変数に対して重回帰分析を行い、重相関係数0.759で足幅、距骨下関節、努力歩行時の歩調が選ばれた。立脚各期での所要時間に影響する要因を主成分分析で検討した結果、いずれも第3主成分までの累積寄与率は0.6以上であり、時間要因に対して足部各関節が機能ユニットとして力学的関与していることが統計的にも示された。

    【考察】歩行に関する先行文献では、健常者の足圧中心の軌跡は、踵に始まり足部の外側を進み中足骨部で向きをかえ、内側に向かった後、母趾で蹴りだすと記載されているものが多い。今回測定した%COPの軌跡は中央内側寄りを移動することがわかった。これは、本岡らの見解とも一致している。また、立脚後期の軌跡でも直線的に移動するものが多く、歩行中の位置の変化が最小限に抑えられている傾向があると考えられる。これには歩行環境の変化や靴の機能向上などが影響しているものと考えられる。
    荷重時の足底部の動きは多彩な力学的影響を受ける。特に固定性と柔軟性を要求される距骨下関節、横足根関節、足根中足関節、中足趾節関節の機能低下は運動連鎖に大きくかかわるため、立脚各期での動きを関連付けて考えることが必要である。足圧中心軌跡パターンの変化は現在の青年期層が高齢となった時の障害特性に影響を及ぼすものと懸念されるため、より早期からの歩行特性の調査と対策が必要と考える。

    【理学療法学研究としての意義】青年期における歩行時の足圧中心軌跡パターンを計測し、従来から報告されているパターンとの相違・特性を調査した。経時的な調査により、将来起こりうる姿勢・動作の変化に関してより早期から理学療法介入することは疾病の予防上必要である。各年齢層の特徴を調査し、今後の研究への手がかりとしたい。
  • 渡邉 進, 石田 弘, 小原 謙一, 吉村 洋輔, 大坂 裕
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: O1-003
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】立位や歩行などの移動動作時に、高齢者が机や壁面に指先を軽く触れる場面がよく観察される。これは指先からの体性感覚入力が、立位や歩行中のバランス能力を高めるためとされる(Jekaら、1997)。これまで机上面への指先接触が立位重心動揺に与える影響について数多くの報告がなされてきた。しかしながら、壁面への指先接触に関する報告は少なく(Maedaら、1998)、壁面への接触圧を厳密に規定した報告はみあたらない。同時に立位保持に重要なヒラメ筋の筋活動への影響を調査した報告はみられない。本研究目的は、それらを運動学的および筋電図学的に解析することである。
    【方法】対象は健康な男性12名(平均年齢20.8±0.7歳)であった。重心動揺は立位、ロンベルグ肢位で測定した。重心動揺計(アニマ社製)を用い、総軌跡長、矩形面積、外周面積を30秒間測定した。測定条件は、両上肢を自然下垂させる(非接触)、右示指の指先を壁面へ1N以下の圧で接触させる(軽接触)、右示指の指先を壁面へ5~10Nの圧で接触させる(強接触)の3条件とし、ランダムな順序で実施した。各指標について一元配置分散分析を用いて比較した(p<0.05)。壁面への接触圧は荷重計(共和電業社製)を用いて測定し、被検者へ圧のフィードバックを行い、接触圧を各条件の範囲に規定した。同時に筋電計(NORAXON社製)を用いて右ヒラメ筋の筋活動を測定した。右片足立ちで踵挙上時の筋活動を最大随意収縮(MVC)として、一元配置分散分析を用いて%MVCを3条件間で比較した(p<0.05)。
    【説明と同意】被験者全員に対し本研究について十分な説明を行い、同意を得た。
    【結果】総軌跡長について、非接触は35.4±5.5cm、軽接触は22.9±4.5cm、強接触は18.5cm±4.5cmであり、軽接触と強接触は非接触と比較して有意に小さかったが、両接触条件間には有意差はみられなかった。矩形面積について、非接触は4.29±1.19cm2、軽接触は1.19±0.38cm2、強接触は0.80cm±0.48cm2であり、軽接触と強接触は非接触と比較して有意に小さかったが、両接触条件間には有意差はみられなかった。外周面積について、非接触は1.40±0.47cm2、軽接触は0.33±0.12cm2、強接触は0.16cm±0.11cm2であり、軽接触と強接触は非接触と比較して有意に小さかったが、両接触条件間には有意差はみられなかった。ヒラメ筋の%MVCについては、3条件間で有意差はみられなかった。
    【考察】結果は、接触圧の程度にかかわらず、壁面への指先接触は非接触より有意に重心動揺を小さくすることを示した。これは水平面への接触実験の報告と同様であった。壁面においても指先接触自体が体性感覚入力を増やして、重心動揺を減らす効果につながったと考えられる。ヒラメ筋は立位姿勢保持のために常時活動している。接触条件の変化により、重心動揺は変化したが、それはヒラメ筋の活動を変化させる程ではなかったと考えられる。
    【理学療法学的研究としての意義】本研究の結果は、壁面への指先接触による体性感覚入力が立位バランスを向上させることを示唆し、バランス能力の低下した対象者指導の一つの方略に基礎的裏受けを与えた点で意義がある。


  • 南 晃平, 渡邉 進
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: O1-004
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    大腿骨頚部骨折は高齢者のバランス能力低下による転倒外傷の代表的なものである。近年の高齢者人口の増加に伴い、転倒による大腿骨頚部骨折の発生頻度は増加している。臨床場面でバランス能力が低下している患者が手を手すりや壁に軽く触れるだけで動作が容易に行える場面がみられる。これは上肢の力学的支持による支持基底面の拡大という運動力学的要因と手の接触面からの体性感覚入力が立位バランスの向上に寄与しているという要因が考えられる。力学的支持とはなり得ないほどの軽度接触圧(1N未満)での指先での水平面への接触が立位重心動揺を減少させたという報告がみられる(Jekaら、1997)。しかし、バランス能力が低下していると考えられる大腿骨頚部骨折患者における指先軽度接触の影響についての報告は見当たらない。本研究の目的は、転倒により受傷した大腿骨頚部骨折患者における水平面への指先軽度接触が立位重心動揺に及ぼす影響を運動学的に解析することである。
    【方法】
    対象は大腿骨頚部骨折を受傷し、当院回復期リハビリテーション病棟に入院となった患者のうち、立位が自立しており、脳血管疾患等神経学的疾患の既往がない5名(年齢85.0±6.2歳、すべて女性、人工骨頭置換術3名、骨接合術2名)とした。
    立位重心動揺は重心動揺計(アニマ社製)を用い、裸足、ロンベルグ肢位での総軌跡長、矩形面積を30秒間測定した。指先接触圧の確認には荷重計(共和電業社製)を用いた。測定条件は両上肢自然下垂(非接触)と非骨折側の示指先端を荷重計水平面に1N以下の圧で接触させる(健側軽接触)、骨折側の示指先端で同様に接触させる(患側軽接触)の3条件とした。各条件について5分間程度の説明と練習を行った後、ランダムな順序で各1回ずつ測定した。非接触と健側軽接触、非接触と患側軽接触、健側軽接触と患側軽接触の間で、総軌跡長、矩形面積をWilcoxon符号付順位和検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした(p<0.05)。
    【説明と同意】
    対象者全員に対し、本研究について十分な説明を行い、同意を得た。
    【結果】
    総軌跡長は、非接触では96.9±33.3cm、健側軽接触では66.8±36.3cm、患側軽接触では74.0±39.6cmであった。矩形面積は、非接触では20.9±18.8cm2、健側軽接触では6.7±5.2cm2、患側軽接触では9.0±6.5cm2であった。健側軽接触は非接触と比較し、総軌跡長、矩形面積ともに有意に小さい値を示した。患側軽接触は非接触と比較し、総軌跡張は有意に小さい値を示したが、矩形面積は有意差がなかった。健側軽接触と患側軽接触を比較すると総軌跡長、矩形面積ともに有意差を認めなかった。
    【考察】
    非接触に比べ、健側軽接触では総軌跡長、矩形面積が有意に小さく、患側軽接触で総軌跡長が有意に小さい値を示したのは、指先からの体性感覚入力が立位重心動揺を減少させたためと考えられる。上肢での力学的支持のためには5~8N以上の接触圧が必要とされている(Holden ら、1994)。大腿骨頚部骨折患者においても、1N未満の圧という極めて小さい接触圧が力学的支持の役割ではなく、体性感覚入力増加により重心動揺を減少させたと思われる。健側軽接触と患側軽接触との比較では総軌跡長、矩形面積ともに有意差を認めなかった。これはどちらの側の指先接触でも重心動揺を減少させることを示唆する。患側軽接触では矩形面積は非接触と比べ有意差はなかったが、小さい傾向にあり、この点については、今後対象者数を増やして検討していく必要がある。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究の結果は、大腿骨頚部骨折患者において、健側、患側に関わらず水平面への指先軽度接触は体性感覚入力を増加させ、立位バランスを向上させることを示唆しており、転倒予防のための一つの方略を提供した点で意義がある。
  • 姫野 太一, 北島 奈緒, 西口 知宏, 平山 恭子, 今滝 真奈, 宮沢 将史, 藤本 剛至, 岡﨑 加代子, 岡田 亜美, ...
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: O1-005
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Functional Reach Test(以下FRT)や片脚立位といったバランス評価は、高齢者の転倒予測因子の1つとして広く活用されているが、立位バランス能力の優劣には様々な要因が関与しており、検査値の大小だけではバランス不良の原因を特定することは困難である。しかし運動学的観点から捉えた立位バランス機能は、足底部へ落ちる体重心の移動範囲に規定されているため、足部末端に位置する足趾の機能は立位バランス機能の改善を図る意味で極めて大きな役割を担っていると考えられる。今回、自立歩行可能な高齢者を対象に足趾の筋力や柔軟性に関する機能評価を実施し、立位バランス能力指標であるFRTならび片脚立位保持時間との関連性について検討を行ったので報告する。
    【方法】
    対象は下肢の外傷及び機能障害、極度の足部変形、神経学的症状を認めない屋内独歩自立の外来通院患者22名(平均年齢:74.2±7.96歳、疾患部位:上肢15名、脊柱7名)である。検査項目はa)足部の関節可動域(母趾MP・IP関節の自動と他動屈曲角度、足関節背屈角度)、b)端座位における足趾の筋力(1.足趾把持力:TANITA社製の握力計を改良し作製した足趾把持力計にて測定、2.足趾圧迫力:体重計を足趾MP関節以遠に設置し測定)、c)バランス検査(1.FRT、2.片脚立位時間)の3項目を実施した。なおb)は股・膝関節90度屈曲位、足関節0度位の測定肢位において各3回計測し、平均値を算出した。検討方法は過去1年間の転倒経験の有無から転倒群(12名、平均年齢:78.8歳±6.70)と非転倒群(10名、平均年齢:68.9歳±5.84)とに分け、各検査項目における群間比較を行った(T-test)。また検査項目間の関連分析に関しては、既に先行研究によって転倒と関連性が証明されているバランス能力と他の項目との関係についてPearson積率相関係数の検定を行った。なお有意水準はいずれも5%未満とした。
    【説明と同意】
    対象者には測定前に本研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で施行した。
    【結果】
    2群間の比較ではいずれの項目においても転倒群が低値を示しており、IP関節自動屈曲角度、足趾把持力、足趾圧迫力、足関節背屈角度の4項目については危険率5%、片脚立位時間とFRTの2項目では1%の水準で有意な差が認められた。次にバランス検査と他の項目との関連については、転倒群において足趾把持力(r=0.61、p=0.036)とFRTとの関係に相関が認められた。一方、非転倒群ではIP関節他動屈曲角度(r=0.70、p=0.025)、足関節背屈角度(r=0.67、p=0.033)の2項目にFRTとの相関が認められた。なお片脚立位時間は両群ともに他の項目と相関を認めなかった。
    【考察】
    今回の対象者は自立歩行可能な高齢者であったが、その中での転倒歴をみると、2群間での関節可動域や筋力、バランス能力は転倒群では非転倒群より有意な低下が認められた。これらは先行研究と同様な結果であった。
    高齢者の転倒や歩行能力と関連があるとされているFRTや片脚立位時間は、バランス評価として代表的なものであり、特にFRTは動的バランス評価として用いられ、支持基底面より重心が前方に逸脱した際に足趾屈曲筋による支持作用が重要である。よって足趾を含めた動的バランスを評価するにはFRTが適していると考える。今回、FRTにおいて非転倒群ではIP関節と足関節可動域、転倒群では足趾把持力に強い相関関係がみられた。非転倒群で足趾屈曲筋力低下を認めず、FRTに必要なだけの足趾屈曲筋力を有していたと推察される。重心の前方移動に伴い、足趾把持力の活動が優位になるとIP関節は屈曲位をとる為可動域が必要であり、足関節においては背屈角度が必要となる為にFRTの値そのものが左右され、相関関係を認めたと考える。この為、非転倒群では足趾屈曲筋力よりも、可動域や柔軟性の影響をうけやすいと考える。これに対し転倒群では関節可動域制限と筋力低下を有している。また転倒を経験している為に心理的な要素として恐怖心があり、足関節背屈位をとれず代償的に足関節底屈位となり、重心が後方に残存した状態で制御しようとする為、足趾把持筋力に依存したと考える。片脚立位時間は静的バランス評価であり、先行研究によると足部より近位の筋力の関与が大きい為、今回足部機能との関連性は認めなかった。
    【理学療法学研究としての意義】
    高齢化社会が進む中で、転倒予防は今後の理学療法の現場のみならず、医療社会において重要な位置づけを占めているといえる。今回主にFRTに影響を与える因子について言及したが、FRTは従来言われているように転倒だけでなく歩行とも関連が深い。FRTの向上により歩行能力も向上するが、その要因として今回のような足部・足趾機能の向上が関与している。今後足趾の筋力や可動域の改善により、バランス能力の向上を図り、転倒予防や歩行能力の向上につながるものと考える。
  • 年代別、下肢・体幹運動前後の比較
    谷崎 祐典, 緒方 尚美, 菅野 正光, 野村 真哉
    専門分野: 理学療法基礎系1
    セッションID: O1-006
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    主に脳梗塞や骨折等の疾患に対し、重心動揺検査や下肢加重検査が診療報酬として認められている。これらは左右下肢加重比率、平衡機能、立位バランス等を評価している。これらの評価では総軌跡長、外周面積を指標として用いることが多く、これまでにも健常者や高齢者を対象に研究が行われている。しかし、総軌跡長や外周面積に対して統一された解釈は確立されておらず、総軌跡長、外周面積をバランスの指標としてどのように捉えるべきか結論は出ていない。本研究は、健常者を対象とし、年代別に体幹または下肢の運動を実施し、運動前後の変化を調べるとともに、総軌跡長や外周面積の解釈について検証したのでここに報告する。
    【方法】
    対象は女性26名(20代13名、平均年齢:25.1±3.78歳、50代13名、平均年齢:54.2±2.55歳)として、年代別各13名を体幹運動群、下肢運動群、各6~7名の4グループに分類した。計測機器は下肢加重計 G-620(アニマ社製)を用いサンプリング周波数は20Hzで30秒間計測した。各運動群それぞれに臨床でよく用いられる体幹筋群、下肢筋群への運動(約10分間)を5日間実施してもらい、運動前後で静止立位下肢加重・重心動揺検査を実施した。計測値は総軌跡長、外周面積を用い、解析は以下の3項目について行った。1)1日目運動前の計測値の平均値を年代別で比較。2)年代別の総軌跡長と外周面積の相関関係の有無。3)1日目の運動前後、5日目の運動前後の計測値、総軌跡長(運動後―運動前)、外周面積(運動後―運動前)を算出し、その結果より、4群に分類した。A群:総軌跡長・外周面積減少、B群:総軌跡長減少・外周面積増加、C群:総軌跡長増加・外周面積減少、D群:総軌跡長・外周面積増加の4群に分類し、年代別の運動による効果を検証した。
    【説明と同意】
    対象者には研究についての説明を行い、書面にて同意を得たのち測定を実施した。
    【結果】
    1)1日目運動前の総軌跡長は50代:平均32.2cm、20代:平均27.14cmであった。外周面積は50代:平均1.38cm2、20代:平均0.98cm2であった。50代と20代を平均値で比較すると50代よりも20代の総軌跡長は短くなり、外周面積も小さくなった。2)総軌跡長と外周面積による相関係数は20代:rs=0.69で有意な相関関係が認められ、50代:rs=0.14で相関関係は認められなかった。3)群別の測定結果は、A群:1日目7名→5日目10名、B群:1日目5名→5日目7名、C群:1日目2名→5日目3名、D群:1日目12名→5日目6名であった。これらの結果より、総軌跡長、外周面積の減少した群は1日目より5日目で3名増加し、総軌跡長、外周面積の増加した群は6名減少した。
    【考察】
    本研究を行うにあたって、「50代より20代のほうが平均的に総軌跡長、外周面積ともに小さい」といった仮説を立てた。これは生理的背景として末梢および中枢機構の全体的な加齢現象が50歳頃から生じるとされているためである。結果より50代より20代の方が総軌跡長、外周面積ともに小さくなった。また、20代の総軌跡長と外周面積には相関関係が認められたが50代には認められなかった。50代の総軌跡長、外周面積を中心に解析結果を検証していくと、統一性は見られなかった。過去の文献より、加齢により身体能力は低下するが、能力低下の要因は多様となり、各人様々な戦略を用いて立位の安定性を図っているためと考えた。一方、これだけでは総軌跡長と外周面積が小さいほうが、立位姿勢が安定しているとは言い切れない。そこで下肢と体幹に分けそれぞれ運動を行ってもらった。その結果、運動前後の総軌跡長と外周面積の増減は様々なパターンをとり統一性は見られなかった。しかし、その中で各年代ともに体幹運動を行った群は1日目と5日目の運動前後の比較を行った結果、総軌跡長・外周面積とも減少を示す被験者が増えて、体幹の運動が立位姿勢の安定性向上に関与することが示唆された。今回の結果より、総軌跡長・外周面積ともに小さい方が動揺は少なく安定性は高いということが言えた。一方、総軌跡長が長くなり外周面積が小さくなる群、総軌跡長が短くなり外周面積が大きくなる群も存在し、この2つの群がどこに位置づけされ、どのように解釈してよいのか結論には至らなかった。本研究の結果から、立位姿勢の評価を行う際は左右下肢加重比率や重心動揺軌跡等の様々な要素を含め評価していくことでより明確な評価を行えると考える。今後は立位姿勢の指標を明確にするために引き続きサンプル数を増やし、より多くのデータの検討を行っていく必要がある。
    【理学療法学研究としての意義】
    重心動揺計を用いた、静止立位における総軌跡長と外周面積の関係について一定の所見が得られた。
  • 高齢者の歩行能力によって違いはあるのか?
    池添 冬芽, 森 奈津子, 中村 雅俊, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: O1-007
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】加齢に伴い、上肢筋よりも下肢筋で著明に筋萎縮が進行するとされている。しかしながら、高齢者の歩行能力の違いによって、各筋の筋萎縮の程度が異なるかどうかは明らかではない。本研究の目的は、加齢に伴う下肢筋の筋萎縮について、歩行能力による違いを明確にすることである。
    【方法】健常若年女性20名(平均年齢19.8±0.83歳)および養護老人ホームおよび療養型病院に入所・入院している高齢女性34名(平均年齢85.3±6.5歳)を対象とした。高齢者については、歩行能力の違いにより、独歩あるいは杖使用により歩行が自立しており最大歩行速度が1m/秒以上である高齢者(高速歩行群)、最大歩行速度1m/秒未満であるが歩行が自立している高齢者(低速歩行群)、および歩行困難で半年以上歩行を実施していない高齢者(歩行不可群)の3群に分類した。なお、下肢に整形外科的手術の既往のある者や脳血管障害後遺症により著明な運動麻痺を有する者は対象から除外した。
    超音波診断装置(GE横河メディカルシステム社製)を用い、筋肉を圧迫しないようにプローブを皮膚に軽く接触させたときの超音波画像を記録し、下肢筋の筋厚を測定した。測定筋は大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腰筋、大腿直筋、外側広筋、中間広筋、大腿二頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋の10筋とした。
    若年者、高齢者の高速歩行群、低速歩行群、歩行不可群の4群における各筋の筋厚を多重比較法を用いて比較した。また、高齢者の筋厚を若年者の筋厚で除した筋厚の若年比(%)を求め、各筋の筋厚若年比の違いを多重比較により分析した。
    【説明と同意】すべての対象者に本研究の目的を説明し、同意を得た。
    【結果】高齢者を歩行能力で分類した結果、高速歩行群は14名(平均年齢83.1±5.7歳)、低速歩行群8名(平均年齢84.6±7.2歳)、歩行不可群12名(平均年齢88.1±5.4歳)であり、3群間で年齢の違いは認められなかった。
    若年者と高齢者との筋厚を比較すると、ヒラメ筋以外の筋で高齢者3群はすべて若年者との間にそれぞれ有意差がみられ、若年者より高齢者は有意に筋厚が小さかった。ヒラメ筋では若年者より歩行不可群が有意に低い値を示したが、若年者と高速歩行群および若年者と低速歩行群との間には有意差がみられなかった。
    高齢者の3群間で筋厚を比較すると、すべての筋において高速歩行群と低速歩行群との間に有意差はみられなかった。大殿筋、大腿直筋、外側広筋、中間広筋、腓腹筋では高速歩行群と歩行不可群および低速歩行群と歩行不可群との間、大腿二頭筋と中殿筋では高速歩行群と歩行不可群との間に有意差がみられた。また、大腰筋と小殿筋では高齢者の3群間で有意差はみられなかった。
    筋厚の若年比は高速歩行群、低速歩行群、歩行不可群でそれぞれ大殿筋が59.7%、63.6%、34.6%、中殿筋が64.4%、63.1%、41.7%、小殿筋が66.7%、65.2%、49.9%、大腰筋が45.5%、55.4%、38.0%、大腿直筋が73.4%、74.4%、17.9%、外側広筋が64.0%、59.0%、17.0%、中間広筋が78.3%、67.0%、21.7%、大腿二頭筋が49.4%、46.8%、30.9%、腓腹筋が65.2%、67.4%、42.7%、ヒラメ筋が87.1%、80.0%、51.3%であり、特に歩行不可群の大腿四頭筋は17.0~21.7%と低い値を示し、歩行不可群の他の筋と比較して有意に低かった。
    【考察】若年者と高齢者との筋厚を比較すると、ヒラメ筋では若年者より歩行不可群が低い値を示したが、若年群と高速歩行群・低速歩行群との間には有意差がみられなかった。このことから、下肢筋の中でもヒラメ筋は歩行が自立している高齢者では、加齢による筋萎縮が少ないことが示唆された。また、大腰筋と小殿筋の筋厚は高齢者の3群間で有意差はみられなかったことから、加齢により筋は萎縮するものの、歩行困難となっても股関節の深部筋は比較的筋量が維持されていることが示唆された。一方、歩行不可群の大腿四頭筋は筋厚若年比が小さく、歩行が困難となり長期間歩行を実施しないことによって、大腿四頭筋の筋萎縮が進行することが示唆された。しかしながら、すべての筋において高速歩行群と低速歩行群との間に有意差はみられなかったことから、高齢者の最大歩行速度と下肢筋量とは関連性が少ないことが考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】本研究の結果、高齢者における下肢筋の筋萎縮は、歩行能力によって各筋の萎縮の程度が異なることが示された。今後、高齢者の歩行能力の維持・向上に対して、どのような下肢筋力トレーニングが必要であるか、高齢者の歩行自立度に応じた、より具体的な運動療法の指針の確立に向けて研究が発展することが期待される。
  • 伊東 佑太, 岡元 信弥, 縣 信秀, 宮津 真寿美, 平野 孝行, 河上 敬介
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: O1-008
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】理学療法において、萎縮した筋をより早く回復させることは重要な課題である。この回復を促進させる方法として、負荷運動が用いられる。しかし、負荷運動による萎縮筋の回復メカニズムには不明な点が多く、どのような方法で行えば、より早く回復が得られるかわかっていない。
    昨年、我々は、オペラント学習法を用いた負荷運動モデルマウスを作製し、萎縮筋に対する負荷運動には、筋線維横断面積の回復を促進させる効果があることを報告した。一方、多核の細胞である筋線維は、1個の核が支配できる細胞質の面積が決まっているため、筋線維横断面積の増減に、筋核数の変化を伴うといわれている。 従って、この負荷運動による筋線維横断面積の回復促進には、筋核数の変化が関与している可能性がある。そこで、本研究では、この負荷運動による筋線維横断面積の回復促進メカニズムを解明するために、筋核数に着目して実験を行った。

    【方法】10週令のICR雄性マウスを対象に、筋萎縮を起こした後、負荷運動として自発的な立ち上がり運動を行わせた。具体的には、まず、1週間のオペラント学習法を用いて、自発的な立ち上がり運動を学習させた。学習後、後肢筋を萎縮させるために、尾部懸垂を2週間施した。その後、負荷運動として学習した立ち上がり運動を、1セット50回、1日2セット、1週間行った(TS+T群、n=6 )。運動後、ヒラメ筋を剖出、厚さ5μmの凍結横断切片を作製し、抗Dystrophin抗体およびDAPIを用いて染色した。この染色像から、全線維の筋線維横断面積と筋線維数、筋核数を測定し、その数値を基に、筋線維1本あたりの筋核数と、筋核1つあたりの筋線維横断面積を算出した。なお、尾部懸垂の影響をみるために、尾部懸垂後すぐに筋採取する群(TS群)、およびTS群と同週令の尾部懸垂をしない群(13W CON群)、立ち上がり運動の効果をみるために、尾部懸垂後1週間普通飼育する群(TS+NT群)、およびTS+NT群と同週令の尾部懸垂も運動もしない群(14W CON群)を作製した(各々 n=6)。群間の比較には、一元配置分散分析およびBonferroni法を用い、有意水準を5%未満とした。

    【説明と同意】本実験は、脊椎動物であるマウスを用いた実験であるため、名古屋学院大学および名古屋大学動物実験委員会の承認を得て行った。

    【結果】筋線維1本あたりの筋核数は、TS群で0.41±0.09個となり、13W CON群(0.59±0.08個)に比べ、有意に少なかった。TS+NT群は0.57±0.03個で、14W CON群(0.56±0.1個)と有意な差がなかった。ところが、TS+T群は0.92±0.14個と、14W CON群に比べ、有意に多かった。
    一方、筋線維横断面積は、TS+T群で1843±194μm 2となり、14W CON群(2005±196μm 2)と有意な差はなく、昨年の報告と同じぐらいであった。TS+T群の筋核1つあたりの筋線維横断面積は1938±355μm 2で、TS群(2157±786μm 2)やTS+NT群(1875±235μm 2)との間には有意な差がなく、14W CON群(3603±176μm 2)よりも有意に小さいことが判明した。

    【考察】萎縮した筋を持つマウスを1週間普通飼育しても、筋萎縮からの回復は不十分であるが、この1週間に負荷運動を行わせると、筋線維横断面積の回復が促進され、同週令の正常マウスと同等の太さになる。また、尾部懸垂により減少した筋核数は、この負荷運動による回復促進過程において、同週令の正常マウスの核数よりも増加することが判明した。従って、この時期は、筋線維横断面積の増加に先立って筋核が増加する現象をとらえた可能性がある。前述したように、一個の筋核が支配する細胞質の面積が決まっているとされている。よって、これ以降の時期に評価すると、増加した筋核に乗じて筋線維横断面積が増大し、同週令の正常マウスよりも太い筋線維となっているかもしれない。

    【理学療法学研究としての意義】負荷運動による筋萎縮からの回復促進過程で、筋に起こっているメカニズムの一部が明らかになった。このメカニズムが起こる時期や量が明らかになれば、効率的に萎縮筋の回復が得られる負荷運動の時期や方法が解明できる。また、マウスとヒトの解剖学的情報や生理学的情報を考慮しながら、この研究を発展させれば、理学療法対象者の効果的な運動方法の開発へ萌芽できる。
  • 筋の部位による相違
    西川 正志, 山崎 俊明, 足立 和美
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: O1-009
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】長期臥床や非荷重により生じる廃用性筋萎縮は,原疾患に対する理学療法を行ううえでしばしば阻害因子となる.荷重やストレッチ刺激などの理学療法介入で進行抑制は一部可能であるが,臨床場面では既に廃用性筋萎縮を生じた後に関わることも多く,回復に時間を要する.骨格筋は萎縮によって横断面積(以下,CSA)が減少する.ヒラメ筋の廃用性萎縮に関する報告は多いが,その多くは筋腹中央部における分析である.ヒラメ筋筋腹部は,表層と深部の筋線維タイプ構成が均一と報告されている.しかし,長軸方向の違い(近位~遠位)に関する報告は少ない.アキレス腱移行部を調査した報告は存在するが,筋の部位あるいは介入方法による影響の違いに関しては,現在も明確にされていない.
    本研究の目的は,ラットヒラメ筋廃用性萎縮後の再荷重による回復過程において,その介入効果を部位別に検討することである.

    【方法】対象は8週齢のWistar系雄ラット42匹とした.これらを1)2週間通常飼育の対照群(C14群),2)開始日対照群(C0群),3)2週間の後肢懸垂群(HS群),4)2週間の後肢懸垂後に通常飼育(再荷重)を行い,その期間をそれぞれ3日,5日,7日とした群(各R3,R5,R7群)の計6群に分類した.実験期間終了後,体重を測定し右ヒラメ筋を摘出,筋湿重量および筋長を測定した.測定後,筋長に対して筋を4分割し,起始部より25%部を近位部,50%部を中央部,75%部を遠位部として試料を作成した.その後,10μmの凍結横断切片を作成し,ヘマトキシリン-エオジンにて筋線維を染色した.各筋あたり100本以上の筋線維を対象に,画像解析ソフトImageJを用いて横断面積を測定した.各群の比較には,一元配置分散分析を行い,有意差を認めた場合にはTukeyの方法を用いて検定を行った.

    【説明と同意】本実験は本学動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:AP‐081152).

    【結果】各群間の比較では,C14群を除く全ての群において近位部と比較し遠位部が有意に大きかった.C0,C14群は中央部のCSAが最も大きい値を示したのに対し,HS,R3,R5およびR7群においては,近位部よりも中央部,中央部よりも遠位部が大きく,遠位ほどCSAが大きい値を示す傾向にあった.
    同一部位での比較では,全ての群において同じ経過を示し,再荷重期間が長くなるほどCSAが大きい値を示した.またC14群値を100%とした場合の各群,各部位平均値の相対値で比較すると,R7群ではC14群と有意差なくほぼ同値を示した(近位部:96.4%,中央部:99.3%,遠位部:101.9%).

    【考察】ヒラメ筋は2週間の後肢懸垂にて近位部が最も萎縮することが示された.非荷重後の再荷重における反応として,全ての再荷重群(R3,R5,R7群)において近位部よりも遠位部が有意に大きい値を示したことより,2週間の再荷重においては,遠位部が最も荷重刺激による回復が速いことが示された.また,荷重期間が長いほど各群・各部位の相対値の差が小さい結果より,萎縮からの回復において荷重開始初期には部位による差が大きく見られるが,時間経過に伴い部位による差が小さくなることが示唆された.再荷重7日後までは,アキレス腱移行部に近い遠位部の刺激感受性が高く,回復が早いと考えられる.
    以上のことから,ヒラメ筋において,後肢懸垂およびその後の再荷重にて近位部が最も萎縮が進行し,かつ回復が遅延することが示された.また,筋全体としての機能を理学療法の臨床面から考慮するならば,回復の遅い近位部に対し,荷重以外で近位部に効果的な介入手段を併用することの有用性が示唆され,今後の詳細な検討が必要と考えられる.


    【理学療法学研究としての意義】再荷重による部位別の萎縮抑制効果を知ることは,どの程度の影響を筋の各部位に与えているかを知ることになる.また筋萎縮からの回復や萎縮予防において,筋に与える理学療法介入手段や負荷方法を決定する際の有用な一助となると考えられる.本研究は非荷重後の萎縮筋に対して荷重刺激による介入を行い,回復に及ぼす効果をヒラメ筋の部位による違いの観点からを分析した.その結果,近位部は遠位部と比較し有意に萎縮程度が大きく,非荷重後の再荷重では遠位部の回復が速い基礎データを提示し,臨床においてより効果的な理学療法介入を考慮する上で、近位部に効果的な別の介入方法を併用することの有用性を示唆した点が理学療法学研究としての意義である.
  • 長さ‐張力関係における二峰性
    石井 禎基, 赤阪 英樹, 朴 浩司, 松本 愛香, 丸川 達矢, 笹井 宣昌, 土屋 禎三
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: O1-010
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】膝の伸展筋は、日常生活の活動において必要不可欠な筋であり、我々理学療法士にとって重要な治療対象となっている。そのため膝伸展筋についての知識はとても重要であり、様々な報告がなされている。我々は、いままで骨格筋の力学的収縮特性を研究してきた経緯から、力学的視点より膝伸展筋の機械的収縮特性について実験を行った。一般に、筋の長さとその等尺性強縮張力との間の関係では、強縮張力は筋の長さを伸張するに従い徐々に増加し、静止長(以下lo)で最大となりその後減少するという上に凸の一峰性を示す。しかし、本研究において膝伸展筋による筋の長さとその収縮発生張力との間の関係に「二峰性」を示唆する興味深い実験結果を得たので報告をする。

    【方法】実験には15匹のウシガエル(Rana catesbeiana)(体長:105 ± 15 mm)を用いた。筋標本は、素早くピスを施した後、ウシガエルから膝伸展筋の大腿三頭筋(ヒトの大腿四頭筋にあたる)を坐骨と一緒に単離し、できるだけ筋線維に近づけてそれを傷つけないように腱にフックを取り付けて筋標本を作成した。その筋標本の一端を実験装置の張力トランスデューサー(TB645T、日本光電)に、他端を実験台のフックに取り付けて固定した。静止張力が出現をするloを測定後、適宜標本の筋長を変えて十分な強度の電気刺激(60 Hz, 1 s)を標本に与えた。そのときに発生する等尺性強縮張力をPowerLabシステム(ADInstruments Pty Ltd, NSW, Australia)にて記録して長さ‐張力関係を検討した。その際、各標本の張力データはloにおける強縮張力を1とした値に正規化して用いた。解析には、データ解析ソフトFlexPro 7(Weisang GmbH & Co., KG, Germany)を用いた。実験は全て室温(23 ± 1 &ordm;C)で行った。

    【説明と同意】本研究に際して、事前に本学の動物実験委員会の承認を得た後、実験動物に苦痛を与えないように素早くピスを行い、実験を行った。

    【結果】膝伸展筋は、lo(38 ± 2 mm)の約10 %短い長さから約34 %伸張した長さまで等尺性強縮張力が発生した。その筋の長さ‐張力関係の解析結果は、一般に知られている筋が伸張するにしたがって上に凸となる強縮張力変化でなく、上に凸となるピークが2つある二峰性を示す関係であった。第一の強縮張力ピークは、loの約0.3 %の筋伸張を与えたときに見られた。第2強縮張力ピークは第1ピークより増大し、静止長から約8 %伸張したときに出現をした。全張力(強縮張力+静止長力)変化は、指数関数y = 1.3 &#8211; 0.33e-0.33xで近似された。筋長をloの約10 %短い長さからloまで伸張するに従って全張力は急速に増加した後、低い増加率で増加しながらloの約16 %伸張したところでほぼ一定となり、その後1.3に漸近した。

    【考察】一般に、全筋の場合数多くの筋線維が含まれているため三次元の立体構造になる。そのため単一筋線維とは異なり、構造的要素が全筋の発生張力の大きさに重要なファクターとして関与する。本研究で用いた標本は、その両端からその中心に向かって起こる腱に筋線維が付着する羽状筋である。この筋標本が伸張されると腱と筋線維がなす角度(羽状角)が減少し、生理的筋断面積も変化をする。加えて、筋線維が腱に付着している場所の違いや走行の方向が一様でないことなどにより、全筋レベルでは最大強縮張力を発生させていても、筋線維レベルで見たときにはその最大強縮張力に参加している筋線維は全筋の一部の筋線維である可能性がある。本研究における膝伸展筋が2つの筋の長さで等尺性強縮張力がピークを示した結果は、これらのことを反映しているものと考えられる。また、膝伸展筋はloの16 %以上の筋の長さにおいてほぼ一定の全張力が発生していた事実は、膝伸展筋が膝の安定性に有利な構造を成していると考えられる。今回の実験結果は予備的な実験であり、今後より詳細な実験を行う予定である。

    【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は、膝伸展筋が関節へ与える運動学的影響を考察する基礎的な事実であり、様々な場面で応用できるものと考える。
  • 田中 正二
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: O1-011
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】運動神経からの刺激が神経終末に到達すると、伝達物質であるアセチルコリン(ACh)が放出され、神経筋接合部の間隙を拡散したAChは終板に到達して筋線維を収縮させる。成熟骨格筋においてAChレセプター(AChR)はこの終板部分に高密度で局在している。AChRは発生初期の筋細胞では細胞膜表面に分布しているが、成熟とともに神経筋接合部に凝集する。また、脱神経によっても筋表面全体に分散するが、再神経支配により再び凝集する。Muscle-specific receptor tyrosine kinase(Musk)は筋管形成や再神経支配時に発現し、AChRの凝集に関与していることが示唆されている。筋活動の増加に伴う形態学的変化や脱神経筋におけるAChRの変化に関する報告は見られるが、筋活動とAChR凝集に関する分子機構に関する報告は見られない。そこで筋活動がAChR凝集機構に与える影響を調査するために、ラット下肢筋へ電気刺激により筋収縮を惹起し、AChR凝集に関して分子生物学的方法を用いて検討した。
    【方法】Sprague Dawley系雄性ラットを無作為に2群に振り分けた。すべてのラットは麻酔下で右大腿外側部を切開し、坐骨神経に刺激電極を設置した。一方の群には5V、100Hz、5分間の刺激を一回のみ与え、もう一方の群には刺激を与えなかった。切開した筋膜および皮膚は消毒、縫合し、ラットは通常の飼育環境により飼育した。処置後1、3、7日に足底筋を採取し、遺伝子解析および組織学的解析、免疫組織学的解析に供した。遺伝子解析として、組織はRNA安定化試薬に浸漬し、RNAを安定化させた。その後Total RNAを抽出し、random 6 mers primerを用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した。PCR法によりMyogenic differentiation 1(MyoD)、myogenin、Musk、AChR-alpha、AChR-gamma、AChR-epsilon mRNA発現を確認した。さらにそれらmRNA発現量はReal-time PCR法により検出し、GAPDH mRNA発現量を内部標準遺伝子として算出した。mRNA発現量は統計学的に比較した。組織学的解析として、ヘマトキシリン―エオジン染色を行い顕微鏡にて観察、画像撮影を行った。免疫組織学的解析として、免疫染色によりそれら因子の発現局在を確認した。
    【説明と同意】本研究の実施に際して、本学動物実験委員会の承認を得た。また、動物実験の適正な実施に向けたガイドラインに従った。
    【結果】MyoD、myogenin、Musk mRNA発現量は電気刺激3日後をピークに1日から7日後まで有意に増加していた。また、AChR mRNA発現量は7日後においても有意に増加していた。免疫染色によりそれら因子の発現局在が確認された。
    【考察】電気刺激により惹起された筋活動によって、ラット足底筋におけるMyoD、myogenin、Musk、AChR-alpha、AChR-gamma、AChR-epsilon mRNA発現量は有意に増加した。MyoD、myogenin mRNA発現量増加は、筋活動により筋衛星細胞の増殖、分化が誘導されたことを示していた。また、Musk mRNA発現量が増加し、AChRの凝集を誘導したことが示された。
    【理学療法学研究としての意義】現在、運動負荷もしくは電気刺激による筋活動後の神経筋接合部の改変に関する分子機構は十分に解明されているとは言い難い。近年、細胞増殖因子の投与や遺伝子欠損による筋肥大の影響が調査されているが、このような肥大筋において筋収縮時の張力発揮やシナプス形成に疑問が残る。筋活動後の神経筋接合部の改変に関する分子機構を解明することは、理学療法の科学的基盤を形成し、薬物治療のみではなく、運動療法の有用性を示すために重要であると考えられる。
  • 大野 善隆, 山田 純生, 後藤 勝正
    専門分野: 理学療法基礎系2
    セッションID: O1-012
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】生活習慣病の予防や加齢に伴う筋萎縮(サルコペニア)の予防のため、中高齢者に対して筋力トレーニングが奨励されている。しかし、筋力トレーニングは疲労や苦痛を伴うことも多く、その普及には至っていない。そこで、安全かつ効率的な筋力増強法の早期開発が望まれている。近年、温熱刺激は骨格筋の肥大を引き起こすことが報告された。骨格筋の肥大は、タンパク質合成の相対的な促進によって生じるが、温熱刺激による筋肥大を引き起こす分子機構は未だ明らかでない。一方、転写因子の1つであるnuclear factor-κB(NF-κB)は細胞質中でInhibitor κB(IκB)と会合し、不活性型として存在しているが、サイトカインなどの刺激によってIκBが解離・分解され、NF-κBが活性化される。また、NF-κBの活性化は、骨格筋分化の抑制およびタンパク質分解に関与することが報告されており、骨格筋量の調整に関与していることが示唆される。これまでに我々は温熱刺激による骨格筋肥大の際に、骨格筋中のNF-κBの活性が抑制されることを確認した。しかしながら、温熱刺激に対するNF-κBの活性と骨格筋肥大の関連性は明らかでない。そこで本研究は、温熱刺激による骨格筋肥大におけるNF-κBの関与について検討した。
    【方法】実験対象には、マウス骨格筋由来筋芽細胞C2C12を用いた。タイプ1コラーゲンがコーティングされた培養プレート(直径35 mm)を用い、C2C12を増殖培地にて3日間培養しサブコンフルエント状態にまで増殖させた。その後、分化培地に交換して培養することで筋管細胞に分化させた後、実験を行った。C2C12に対して温熱刺激(41°C、60分間)を負荷する(温熱)群、NF-κB 阻害剤投与(BAY)群、BAY+温熱群ならびに無処置の対照群の4条件を設定した。本研究で用いた温熱刺激条件により、培地の温度が温熱刺激開始後およそ45分後に41°Cに到達し、その後維持される。NF-κB活性化の阻害剤としてはBAY11-7082(1.25 μM)を用いた。温熱刺激を基準として、0、12、24、および48時間後に細胞を回収し、可溶性筋タンパク量の変化、heat shock protein 72(HSP72)、IκBαの発現量についてウェスタンブロッティング法により検討した。また、細胞分画を行い、細胞質分画におけるNF-κBの発現量を検討した。各タンパク質発現量の比較は、各条件の可溶性タンパク1 mg当たりの相対的な発現量とし、対照群の発現量を基準に温熱負荷後の変動をその相対値として示した。各実験における平均値は、分散分析とそれに続くTukey-Kramer法による多重比較により比較を行い、危険率5%未満を持って統計学的に有意差ありと判定した。
    【結果】温熱刺激48時間後、対照群と比較し、温熱群では筋タンパク量の有意な増加が認められた(p<0.05)。BAY投与ならびにBAY+温熱群の筋タンパク量も、対照群に比べて有意に高値を示した(p<0.05)。また、温熱刺激後、HSP72の発現量の一過性の増加が認められた(p<0.05)。温熱群、BAY群、BAY+温熱群においてIκBαの発現量も一過性の増加が認められ、細胞質のNF-κBの発現量も増加した(p<0.05)。
    【考察】温熱刺激によって引き起こされる筋タンパク量の増加は、IκBαおよび細胞質中のNF-κBの発現量の増加を伴うものであった。IκBαが分解されることでNF-κBは細胞質中から核内へ移行する。したがって、温熱刺激によりIκBαの分解が抑制され、NF-κBの抑制が引き起こされたと考えられた。また、BAY群においても、細胞質中のNF-κBの発現量の増加および筋タンパク量の増加が確認された。このことより、NF-κBの活性抑制は筋タンパク量の増加を引き起こすことが確認された。さらに、温熱刺激とNF-κB活性阻害剤投与の組み合わせにより、筋タンパク量の更なる増加は認められなかったことから、本研究において観察された温熱刺激による筋タンパク量の増加は、NF-κBシグナルの抑制を介したものであることが示唆された。
    【理学療法学研究としての意義】温熱刺激による骨格筋肥大の分子機構の解明により、安全かつ効率的な筋力増強法の早期開発が可能となり、中高齢者の健康維持及びリハビリテーションへ大きく貢献できると考えている。
    本研究の一部は、科学研究費補助金(若手B, 19700451; 基盤B, 20300218)の助成を受けて実施された。
  • 水上 俊樹, 藤本 将志, 赤松 圭介, 早田 荘, 田尻 恵乃, 貝尻 望, 大沼 俊博, 渡邊 裕文, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: O1-013
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】ベッド上背臥位にて側方へ体動することは、起き上がり動作などの前段階として必要となる動作である。脳血管障害片麻痺患者においては、体幹筋群の筋緊張異常により、殿部を挙上し側方へ移動することが困難なことがある。このとき骨盤・殿部の移動に介助を要することが多く、立て膝位から殿部挙上を促すと円滑にこの動作が可能になることを経験する。さらにこのような症例に対し、殿部を挙上させた状態から麻痺側骨盤が下方に回旋しないよう両側体幹筋群の筋緊張を触診にて確認しながら骨盤の側方移動練習を実施したところ、動作に改善を認めるという経験をした。我々は第20回京都府理学療法士学会にて、背臥位での極軽度殿部挙上位における骨盤側方移動距離の変化が両側内・外腹斜筋(各単独部位)および腹斜筋群(重層部位)の筋電図積分値に与える影響について報告した。このとき、移動側内腹斜筋および反対側外腹斜筋・腹斜筋群は、骨盤側方移動距離の増大に伴って移動側骨盤が後方回旋しようとする働きに対し、移動側骨盤の前方回旋作用としてその肢位保持に関与すると報告した。そこで今回は測定筋を、極軽度殿部挙上させるために必要である両側の腰背筋群とし、同課題にて検討を実施したところ若干の知見を得たので報告する。
    【方法】対象は健常男性7名とした。まず被験者に背臥位にて前胸部に両腕を組んだ両膝立て位(股関節屈曲45°位、膝関節屈曲90°位)から、殿部を1.5cm挙上した肢位を保持させた。そして筋電計ニューロパック(日本光電社製)を用いて両側腰背筋群の筋電図積分値を測定した。測定時間は10秒間、測定回数は3回とし、その平均値をもって個人のデータとした。次に1.5cm殿部挙上位にて骨盤を側方に2・4・6・8cmと移動させ、それぞれの課題において上記と同様に各筋の筋電図積分値を測定した。この時、各肢位において体幹と骨盤の回旋・側方傾斜および両下腿の内・外側への傾斜が起こらないように規定した。そして背臥位での極軽度殿部挙上位における各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値をそれぞれ求め、一元配置の分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用いて、骨盤側方移動距離の変化が両側腰背筋群の筋電図積分値に与える影響ついて検討した。
    【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言を鑑み、あらかじめ説明された本実験の概要と侵襲、および公表の有無と形式について同意の得られた被験者を対象に実施した。
    【結果】移動側腰背筋群の筋電図積分値相対値は骨盤側方移動距離の増大に伴い減少し、2cmと比較して6cm・8cmで有意に減少した(p<0.05)。また、反対側腰背筋群の筋電図積分値相対値は骨盤側方移動距離の増大に伴い増加傾向を認めた。
    【考察】反対側腰背筋群の筋電図積分値相対値は骨盤側方移動距離の増大に伴い増加傾向を認めた。これについて本課題では、まず極軽度殿部挙上位を保持するためのブリッジ活動として腰椎伸展作用が必要になると考える。またその肢位から骨盤側方移動距離を増大させるために、体幹・腰椎部を反対側に側屈させる必要があると考える。さらに骨盤側方移動距離の増大に伴い、重心が移動側へ変位することで移動側骨盤には後方回旋しようとする働きが生じると考えられる。これらのことから反対側腰背筋群は腰椎部の伸展・側屈作用および反対側骨盤の後方回旋(相対的に移動側骨盤の前方回旋)作用として関与し、骨盤の移動側への後方回旋を制動したと考える。一方、移動側腰背筋群の筋電図積分値相対値は骨盤側方移動距離の増大に伴い有意に減少した。これについて本課題における移動側腰背筋群は、極軽度殿部挙上位を保持するための腰椎伸展作用を維持しながらも、骨盤側方移動距離の増大に伴った腰椎部の反対側側屈を効率よく実施するために筋活動が減少したと考える。また先行研究結果を考慮すると、骨盤側方移動距離の増大に伴って移動側内腹斜筋および反対側外腹斜筋・腰背筋群が移動側骨盤を前方回旋させる作用としてその肢位保持に効率的に関与することで、移動側腰背筋群の関与が減少したと考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】臨床上、背臥位での極軽度殿部挙上位における骨盤側方移動が困難なことにより、ベッド上での身体の側方移動動作に介助を必要としている症例を経験することがある。先行研究および本研究結果より、この様な症例に対し今回の課題を用いて両側腹斜筋群、内腹斜筋、外腹斜筋に加え両側腰背筋群を治療して、日常生活場面での指導へ応用していけることが示唆された。また、特に体幹筋群に筋緊張異常を呈する脳血管障害片麻痺患者において、活動性が低下している急性期の時期から本課題を用いて両側腹斜筋群や腰背筋群へアプローチすることで、ベッド上での活動性を向上させることができると考えられる。
  • 坂本 恵子, 上西 啓裕, 小池 有美, 梅本 安則, 田島 文博
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: O1-014
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】健常者の動的運動では、運動筋に優先的に血流を供給する血流再配分システムに関してよく研究されている。しかし、筋緊張を持続する静的運動時血流再配分は健常者でも不明な部分が多く、我々が積極的なスポーツ参加を促す胸髄損傷対麻痺者(以下胸損者)においては全く報告がない。胸損者において、抵抗血管支配交感神経活動は健常部で正常だが、麻痺部では障害されている。したがって、胸損者を対象に持続等尺性運動時血流再配分について調査すれば、胸損者のみならず、健常者における運動時血流再配分のメカニズムについて新たな知見を得る事が期待される。今回は胸損者に等尺運動を負荷し、平均血圧、心拍数、心拍出量、総末梢血管抵抗、麻痺部皮膚血流量と筋血流量を測定した。

    【方法】被験者は7名の健常男性(年齢31.0 ± 2.0歳、身長171.2 ± 1.7cm、体重62.6 ± 2.0 kg)と7名の男性胸損者(ASIA分類A、年齢32.2 ± 2.8歳、身長173.2 ± 2.4 cm、体重65.6 ± 6.3 kg)とした。被験者は背臥位で2分間安静時測定を行い、その後2分間最大筋力の35%強度で右肘屈曲持続等尺運動を負荷した。運動終了後再び4分間安静臥床とし回復期の測定を行った。平均血圧、心拍数、心拍出量、総末梢血管抵抗、麻痺部皮膚血流量と筋血流量を測定し、これらのデータを健常者と胸損者で比較した。

    【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、被験者には実験の目的、方法および危険性を書面と口頭で十分に説明し、実験参加の同意を得た。

    【結果】平均血圧、心拍数、心拍出量、総末梢血管抵抗は健常者、胸損者ともに持続筋収縮時、安静時に比べ有意に増加した。麻痺部皮膚血流量は胸損者では一定であり、健常者では等尺運動負荷時に有意に増加した。筋血流量は両群とも運動負荷時に有意に増加した。

    【考察】胸損者では心臓を支配する交感神経に障害がないため、平均血圧と心拍数、心拍出量は健常者と同様の変化を示した。上肢の持続筋収縮時の血圧上昇に伴い、胸損者では交感神経障害による麻痺部の血管拡張のため血流量を維持して血流再配分を行っていることが示唆された。

    【理学療法学研究としての意義】障害者の運動生理学の研究は手つかずの状態であるにもかかわらず、経験的に、障害者に対する運動療法が施行されている。したがって、本研究のような胸損者の運動病態生理学研究はより医科学的な運動療法構築のために欠かせない。
  • 筋断面増加率と性別を考慮に入れて
    古谷 英孝, 中崎 秀徳, 柳澤 真純, 美崎 定也, 加藤 敦夫
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: O1-015
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    肩回旋筋群の筋内脂肪変性は腱板損傷と関連があり、腱板損傷術後の重要な予後因子の1つでもある。筋トルクに影響する因子として、筋の構造学的要素としては生理的断面積、羽状角、筋線維長などが関与しているといわれているが、筋内脂肪変性のような生理学的要素からの関連についての報告はない。そこで今回は、棘上筋に着目し、筋断面増加率と性別を含め、筋内脂肪変性度と筋トルクの関連性について明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    対象は肩関節に障害の無い健常成人30名(平均年齢±標準偏差、26.1±4.1歳)、男性16名、女性14名、60肩とした。測定項目は、1)棘上筋の筋内脂肪変性度(以下FD)、2)肩関節外転0°での最大外転筋トルク(以下MAT)、3)肩関節下垂位での最大収縮時筋断面増加率(以下MCS)とした。FD及びMCSの測定は、超音波画像診断装置(東芝メディオ製、Bモード、7.5MHz)を用いて測定した。FDは、肩甲棘の長さをメジャーにて測定し、50%の部位に印をつけ、印の部分に筋の長軸に対して平行にプローブをあて、縦断画像を撮影した。撮影画像より、Klausらの棘上筋の筋内脂肪変性度分類を使用し、3つのgradeに分類した。評価項目は、棘上筋の筋輪郭、中心腱、羽状線維の可視性とし、grade1は評価項目が明らかに見える構造、grade2は部分的に見える構造、grade3はほぼ見えない構造とした。このgradeはgrade3になるに従って、筋内に脂肪変性があることを示す。MATはハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社製μTas‐F1)を用いた。測定肢位は肩関節内旋位とし、三角筋の影響を少なくする為、上肢下垂位より肩甲骨面上に外転した際の最大等尺性外転筋力を測定した。測定回数は3回とし、平均値(kg)をトルク(Nm)に換算した。MCSはMAT測定中に、筋の長軸に対して垂直にプローブをあて、横断画像を安静時と収縮時について各3回撮影した。撮影した画像を画像解析ソフトImage Jにて、画面上で棘上筋の短径が最大となる部位を計測した後、各3回の撮影画像の平均値を算出し、収縮時との比率を算出した。統計解析は、筋断面の短径測定について検者内、検者間信頼性の検証に、級内相関係数を用い、FDの信頼性の検証に、Kappa係数を用いた。FDと性別の関連にはカイ2乗検定を行なった。MATに与える影響については、従属変数をMAT、独立変数をFDと性別の2要因、共変量をMCSとして共分散分析を行った。有意差が検出されたものに対し、多重比較(Tukey検定、性別の差に関しては対応のないT検定)を行なった。MATへの影響度については、偏イータの2乗を算出した。有意水準はすべて5%未満とした。
    【説明と同意】
    対象者には、研究の概要と得られたデータを基にして学会発表を行うことを同意説明文に基づいて説明した後に、研究同意書に署名を得た人を対象とした。また、対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。
    【結果】
    ICC(1.2)とICC(2.3)の級内相関係数はそれぞれ0.995(95%信頼区間:0.990-0.998)、0.981(0.965-0.990)と高値を示し、kappa係数は0.691と十分な結果となった。カイ2乗検定の結果は、女性の方が有意に変性していた。共分散分析の結果は、共変量のMCSには有意差が認められなかった。FDと性別には有意差が認められ、交互作用には有意差が認められなかった。FDと性別でのMATの結果は、男性でgrade1:7.1±0.7×10-2Nm(平均値±標準偏差Nm)、grade2:6.6±0.9×10-2Nm、grade3:4.8±0.6×10-2Nm、女性でgrade1:6.6±0.8×10-2Nm、grade2:5.1±1.0×10-2Nm、grade3:4.3±0.8×10-2Nmとなり、多重比較の結果、FDはgrade1、2、3の順に有意に高値を示し、性別では男性が有意に高かった。偏イータの2乗はFDで0.538、性別で0.176となった。
    【考察】
    棘上筋の筋内脂肪変性は男性に比べ女性が多かった。棘上筋のMATに与える影響は、MCSは少なく、FDと性別が影響し、特にFDの関連が強いことが分かった。MATを評価する上で、MCSの構造学的要素より、FDの生理学的要素の関連性が強く、生理学的要素の評価も必要と考えられる。今後は腱板損傷と関連が強いといわれている棘下筋についても検討が必要である。また、筋力トレーニングなどにより、FDが改善するか検証し、改善が証明できれば、腱板損傷の予防や腱板損傷術後の再断裂率を減少させることができると考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    筋トルクに影響を与える要素は多様で、生理的断面積、羽状角などがあるが、本研究の結果、FDも影響することが明らかとなった。臨床上筋力増強訓練を行ない、MATを向上させていく上で、FDも評価する必要があると考える。
  • 大岡 恒雄, 金澤 浩, 白川 泰山, 浦辺 幸夫
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: O1-016
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ストレッチング(以下,ST)の目的には関節可動域の改善・維持,筋緊張の正常化などがあり(倉田1999),スタティックSTやダイナミックSTなどに分類される.1975年,Bob Andersonが数十秒間保持するスタティックSTを提唱して以来,現在一般的にSTといえばスタティックSTをさすことが多い.スタティックSTは組織柔軟性の獲得や疲労回復などに効果が認められているが,パワー発揮やパフォーマンスに対しては不利とされている.そこで,筆者らはスタティックSTでは不利となる点を補う目的で,モーター駆動による足関節背屈動作を繰り返し,下腿三頭筋のSTを行うことができる足関節自動ST装置(らっくんウォークR-1)に着目した.らっくんウォークR-1は広島大学と(株)丸善工業が共同で開発し,足関節底屈5°から任意の背屈角度までの運動を自動で繰り返すことのできる装置である.今回,筆者らはらっくんウォークR-1を用いた自動STとスタティックSTが筋酸素動態に与える影響の違いを調査することを目的とした.スタティックSTに対して自動STは局所骨格筋の脱酸素化を防ぐことができるのではないかという仮説をたてた.

    【方法】対象は健康な男性7名,平均年齢は25.6±3.0歳(平均値±標準偏差)であった.身長は169.4±5.5cm,体重は62.4±6.8kg,BMIは21.7±1.5kg/m2であった.対象に足関節自動ST装置上でスタティックSTを5分間行う課題(以下,SS)と,自動STを5分間行う課題(以下,AS)を実施した.STの方法は,まず,安静背臥位を3分とった後に,下肢を脱力させた状態での端坐位を3分とった.その後,足関節自動ST装置上でそれぞれのSTを5分実施し,再び端坐位を3分とった.足関節背屈角度は,SSでは事前に測定した右足関節最大背屈角度に設定し,ASでは事前に測定した両側の足関節最大背屈角度を左右ごとに設定した.局所筋酸素動態の測定は,近赤外分光法を利用したレーザー式組織血液酸素モニター(BOM-L1TR:オメガウェーブ(株))を使用し,右腓腹筋内側頭にて血液酸素飽和度(StO2),酸素化ヘモグロビン量(oxyHb),脱酸素化ヘモグロビン量(deoxyHb),総ヘモグロビン量(totalHb)を測定した.これらの測定指標はストレッチング開始時の平均値を基準にストレッチング5分後の値の変化率で表した.SSとASの実施順はランダムに選択し,同一対象に対する両条件のSTは7日以上の間隔をあけて実施した.また,STの測定前後で足関節背屈角度を測定した.筋酸素動態に関する各項目の統計学的分析には対応のないt検定を用いた.SSとASのST前後の足関節最大背屈角度の比較には対応のあるt検定を,ST後のSSとASの比較には対応のないt検定を用い有意水準は5%未満とした.

    【説明と同意】対象には事前に本研究の趣旨と測定内容に関する説明を十分に行い,紙面で同意を得た.また,医療法人エム・エム会マッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行った(承認番MRH09029).

    【結果】SSでは5分後にoxyHbが約2%の減少,deoxyHbが約17%の増加,totalHbが約5%の増加,StO2が約7%の減少を認めた.ASでは5分後にoxyHbが約3%の減少,deoxyHbが約8%の減少,totalHbが約5%の減少,StO2が約2%の増加を認めた.また,両課題のST5分後の各測定項目の変化率を比較すると,deoxyHbとtotalHbはSSに比べASの方が有意に低く,StO2ではSSに比べASの方が有意に高かった(それぞれP<0.01).oxyHbはSSとASの間に有意な差を認めなかった.全対象のST前の右足関節の最大背屈角度は18.7±5.2°,SSのST後は20.4±5.2°,ASのST後は21.0±5.3°であった.各課題のST前後には有意な増加がみられたが(P<0.05),ST後のSSとASの間には有意な差はみられなかった.

    【考察】今回はSSに比べASではST中のdeoxyHb は徐々に減少し,StO2は有意に増加した結果から,ASは仮説どおり局所骨格筋の脱酸素化を防ぐことができることが確かめられたと考える.ASでは,間歇的で自動的な足関節底背屈運動を持続的に行うことでもたらされる筋肉運動によるポンプ作用が影響し(岸,1997),SSに比べ局所骨格筋に対してより酸素を供給できると推察する.また,両課題のST後の足関節背屈角度は有意に増加し,自動STはスタティックSTと同等の効果が得られると判断した.


    【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,自動STはスタティックSTと同程度の足関節背屈角度の改善が得られ,局所骨格筋に対してはSSより高い酸素供給能を有する利点があるとわかった.よって,ST後のパフォーマンス向上を望む場合には,自動STが有用ではないかと考えられる.
  • 丸岡 弘, 小牧 宏一, 木戸 聡史, 井上 和久, 森山 英樹, 高栁 清美, 藤井 健志
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: O1-017
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】一般的にアンチエイジングやストレスマネジメントの対策には、ビタミンCやEなどの食品摂取や有酸素運動などが知られている。特に、抗酸化作用を持つことが知られている還元型コエンザイムQ10(QH)摂取の効果には、老化症状の発現遅延や抗疲労作用、および高齢者のQOL改善効果などが報告されている。しかしながら、食品摂取や運動が酸化ストレス防御系や加齢におよぼす影響を検討した報告は少ない。そこで今回は、QH摂取が運動や酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した。
    【方法】対象はICR系雄性マウス45匹(4週齢)とし、無作為にコントロール群(CO群:n=24)とQH摂取群(QH群:n=21)の2群に区分した。QH群はQH摂取2日前に動物用トレッドミル(TM)にて走行させ、QH摂取3時間後に再度走行、摂取による走行時間の変化量を測定した。なお、QHの摂取は、300mg/Kgを強制経口(1回のみ)とした。CO群はQH群と同様にTMを走行させ、走行時間の変化量を測定した。運動強度は速度25m/min・傾斜20度とし、運動の終了基準はTM走行面後方の電気刺激の時間間隔が5秒以内となった時点とした。マウスは1週間の馴化飼育中にTMに慣らせるための走運動を3回行い(速度20m/sec・傾斜10度・時間30分など)、本研究を実施した。酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM:酸化ストレス度の大きさ)と抗酸化能(BAP:抗酸化力)をQH摂取前の安静時と走行直後に測定し、d-ROM/BAP比(RB比:潜在的抗酸化能)を算出した。なお、d-ROMとBAPの測定には、尾静脈を一部切開の上、採血を行い、遠心分離後の血漿を用いた。本研究において得られた数値は平均値±標準偏差で表し、統計ソフトはSPSS(Ver16.0 for win)を用い、有意差の検定はMann-Whitney U検定を用いて行った。
    【説明と同意】研究に当たっては、所属する大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号23)。
    【結果】TM走行時の体重は、QH群:29.8±2.8g、CO群:30.8±2.0gで両群間において有意差を認めなかった。TM走行時間の平均変化量は、QH群:28.3±17.4秒(90.9±66.6%)、CO群:7.6±10.2秒(24.2±32.9%)となり、両群間を比較するとQH群において有意な延長を認めた(p<0.001)。酸化ストレス防御系の平均変化量は、d-ROMにおいてQH群:-1.0±24.8(-0.5±19.5%)、CO群:-13.3±22.6(-8.2±16.6%)、BAPにおいてQH群:218.6±226.2(8.0±8.3%)、CO群:179.5±317.0(6.9±11.3%)、RB比においてQH群:3.1±6.2(13.5±28.1%)、CO群:3.8±5.4(20.3±25.0%)となり、いずれも両群間を比較すると有意差を認めなかった(単位はいずれもU.CARR)。
    【考察】今回、QHの摂取はTM走行時間の有意な延長を認めた。このようなQH摂取による走行時間の延長は、ミトコンドリア賦活によるATP産生作用や抗酸化活性の増大などの生理学的効果が考えられた。さらに、QHは心筋の代謝を賦活させると共に、末梢血管抵抗を減少させ、心肺機能や末梢循環を改善させることが報告されており、本研究においても同様な効果を生じた可能性が考えられた。今回、酸化ストレス防御系の測定に用いたd-ROMやBAP、RB比は個体間のバラツキが大きいこともあり、いずれも有意な変化を認めなかった。一般的に、運動による酸化ストレスへの影響は、継続的なATP生産を目的として体内への酸素取り込みが生じていることから、運動時間が延長すればする程、増加することが予想された。しかし、走行時間が延長したにも係わらず、QH群のBAPやPB比がCO群と差を認めなかったことは、継続的に暴露された酸化ストレスに対して、QHが保護的に働いた可能性も考えられた。一方では、血漿中の鉄イオンの還元力を分析している BAP値では、QH摂取による影響をよく反映しない可能性も考えられた。今後は、血漿中QHの割合などによる酸化ストレスマーカーや長期的なQH摂取による効果を検討する必要が考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】本研究結果からは、QH摂取による運動への効果が実証されたことから、アンチエイジング対策などの基礎的データとなりうる。しかしながら、食品摂取や運動は長期的な検討が必要であるため、継続的研究を実施し、理学療法分野の健康増進や疾病予防などにつなげていく予定である。
  • 渡邊 裕文, 大沼 俊博, 山口 剛司, 高崎 恭輔, 谷埜 予士次, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系3
    セッションID: O1-018
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は今までに座位での様々な方向への体重移動における体幹筋群(腹斜筋群)の働きについて研究を進めてきた。これまでの腹斜筋群の表面筋電図の電極は、先行研究から外腹斜筋単独部位、内外腹斜筋重層部位、内腹斜筋単独部位に貼付し研究を進め報告してきた。そして腹斜筋の働きは、その電極部位により違いがあることが分かり、同じ腹斜筋として捉えることの難しさから、より詳細な腹斜筋の働きを明確にする必要性を感じていた。そこで今回、体幹前面部から側面部へ複数のチャンネルを用いて電極を配置することで、座位での側方体重移動における腹斜筋群の筋電図積分値を再度検討したので報告する。
    【方法】対象は、整形外科、神経学的に問題のない健常男性7名とした。まず被験者に足底を床に接地した座位で両肩関節外転90度位を保持させ、テレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社)を用いて、腹斜筋群の筋電図を測定した。測定した腹斜筋群はNgの報告から、一側の外腹斜筋単独部位、内外腹斜筋重層部位、内腹斜筋単独部位に電極を貼付した。また腹斜筋群は前記した内外腹斜筋重層部位以外に、計12チャンネル用いて、内腹斜筋単独部位の直上より肋骨下端にかけて6チャンネル、内外腹斜筋重層部位直下から骨盤にかけて3チャンネル、さらに大転子直上の腸骨稜の上部から肋骨下端にかけて3チャンネルの表面電極を配置した。次に測定課題である側方への体重移動を、10、20、30cmと変化させ、上記と同様に筋電図積分値を測定した。測定回数は3回としそれぞれの平均値を求めた。側方移動距離の設定には、自作の移動距離測定器を一側の肩関節外転90度位を保持させた指尖から上肢と一直線に配置し、測定中は前方の一点を注視させた。筋電図の分析は、座位での肩関節外転90度位保持での筋電図積分値を1とした相対値を求め、筋電図波形による検討と、上記した各電極部位にて開始肢位からの筋電図積分値相対値の増加の割合により比較検討した。
    【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則および追加原則を鑑み、あらかじめ説明した本実験の概要と侵襲、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意を得た被験者を対象に実施した。
    【結果】移動側腹斜筋群は、側方移動距離を増大しても筋電図積分値相対値の変化を認めなかった。反対側腹斜筋群は、側方移動距離が増大すると、大転子直上の腸骨稜上部からの3チャンネルと内外腹斜筋重層部およびその直下の3チャンネル、内腹斜筋単独部位とその直上の3チャンネルからの筋電図積分値相対値に増加を認めた。外腹斜筋単独部位と内腹斜筋単独部位から直上の肋骨下端にかけて配置した上方2チャンネルの筋電図積分値相対値の変化はそれ程認めなかった。
    【考察】先行研究にて我々は、座位での側方への体重移動により、移動側腹斜筋群はそれ程変化を認めず、側方へ体重移動するため移動側腹斜筋群は伸長していく必要があり、それ程筋電図積分値の増大は必要なかったと考えた。本研究でも移動側体幹に配置した多数のチャンネルから得られた筋電図積分値相対値は、先行研究と同様にどの部位もそれ程変化を認めなかった。側方移動での移動側腹斜筋群の働きは、電極部位が違っていても大きな違いはなく、側方移動に伴う移動側体幹の伸長に対応するために、移動側腹斜筋群全体で筋活動を高める必要がなかったと考えられた。
    反対側腹斜筋群は先行研究において、側方移動距離の増大に伴い筋活動の増加を認め、特に内腹斜筋単独部位での関与が大きいこと、これによる体幹の側屈作用が必要となることとした。本研究でも反対側腹斜筋群の筋電図積分値相対値は増加し、側腹部に配置した電極(3チャンネル)および内外腹斜筋重層部位とそこからの直下の電極(4チャンネル)、内腹斜筋単独部位と直上の電極(4チャンネル)からの筋電図積分値相対値に増加を認めた。今回の測定課題では、反対側体幹が側屈位となるための反対側骨盤の挙上が必要で、この骨盤の挙上には先行研究と同様に内腹斜筋による関与が考えられ、内腹斜筋のそれぞれの線維の活動を反映したものと考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】臨床上、特に脳血管障害片麻痺患者の理学療法において、座位での活動性を向上させるため、様々な方向への体重移動を練習するが、側方への体重移動練習における注意点は、本研究結果より以下の点が挙げられる。1)移動側腹斜筋群は、前面および側面、もしくは上部および下部にかかわらず、筋活動を高める必要がない。2)反対側腹斜筋群は、特に骨盤の挙上に関与すると考えられる骨盤周囲の腹斜筋群(内腹斜筋)の活動の向上に着目する必要がある。今後も側方移動以外の様々な方向への体重移動による腹斜筋群の働きを明確にして、臨床における評価・治療の一指標として用いていけるように検討していく。
  • 藤本 修平, 水澤 一樹, 奈川 英美, 小玉 裕治, 中嶋 静香, 石田 水里, 岩尾 潤一郎, 佐川 貢一, 対馬 栄輝
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: O1-019
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】立位から体幹を前屈させ、次に立位に戻る動作(以下、復位動作)を行わせる、とする。この運動において、運動開始前の立位アライメント、運動中の胸腰椎の動きや骨盤の動き、また体幹上部の重心位置などを観察し、体幹・下肢機能の評価に役立てたい。例えば、矢状面から骨盤の動きを捉えるために、大転子部の動きを観察する。前屈時に大転子が前方へ動くときに、重心も前方へ変位するので、それに抗するための腰背部、下肢後面の高い筋活動を要するはずである。さらに、このような動作パターンが習慣づいている人は、腰背部、下肢後面の筋力も高い可能性がある。そのため本研究では、前屈・復位動作における大転子移動と体幹・下肢の筋力について、関連があるか検討した。
    【方法】対象は下肢・体幹に整形外科疾患の既往のない健常者9名(男性4名、女性5名)とした。平均年齢は19.3±1.5歳、平均身長164.1±7.7cm、平均体重56.2±10.3kgであった。動作の解析には三次元動作解析装置(VICON、VICON Motion Systems)を用い、赤外線反射マーカーは大転子・膝関節外側裂隙・腓骨頭・外果に貼付した(サンプリング周波数120Hz)。被検者に腕を組ませ、膝関節伸展位・前方注視・踵中心間15cmの静止立位とさせた。メトロノーム(96拍/分)に合わせて、体幹前屈・復位動作を5回反復させた。腕を組ませて膝伸展位を意識させながら4拍で体幹前屈、前屈位を4拍保持した後に4拍で復位させ、静止立位を4拍保持する動作を繰り返させた。筋力測定には筋力計(MICRO FET、日本メジックス社製)を用いた。測定対象筋力は体幹屈伸筋力・股関節屈伸筋力・膝関節屈伸筋力・足関節底背屈筋力とした。膝関節屈筋力の計測は端座位で、ベッドに装着した筋力計を下腿遠位部で押させた。足関節底屈筋力の計測は、腹臥位で膝関節90度屈曲位とさせ、足趾基節骨底に筋力計を当てて押させた。体幹屈筋力は背臥位で胸骨柄に、体幹伸筋力は腹臥位で第4胸椎棘突起部に筋力計を当て、押させた。その他の筋力測定は、徒手筋力測定法5の測定肢位に準じ、規定の抵抗部位に筋力計を当てて押させた。以上の方法で3秒間の等尺性最大収縮を発揮させた。測定回数については、事前に検者内信頼性を確認して級内相関係数ρ>0.8を満たすために必要な回数を求めて、それに準じた(3回~1回)。測定値はニュートン単位で記録されるので、関節中心から筋力計を当てた部位までの距離(m)を掛けて、体重(kg)で除した値(Nm/kg) に換算した。複数回測定部位については平均値を採用した。筋力測定の順序は、乱数によるランダム割り付けとした。次に大転子の移動の変化(以下、大転子パターン)を、大転子から床へ降ろした垂線と外果の距離の変化で捉えた。それを体幹前屈・復位動作について各々以下の2種類の大転子パターンで分類した。体幹前屈動作では、大転子が後方へ移動するパターン(以下、後方型)、一度大転子が後方へ下がった後に前方へ移動するパターン(以下、後前方型)に分類した。復位動作では、大転子が前方へ移動するパターン(以下、前方型)、一度大転子が後方へ下がった後に前方へ移動するパターン(以下、後前方型)に分類した。体幹前屈・復位動作各々における大転子パターンについて筋力の差を検定するため、2標本t検定ならびにMann-Whitney検定を行った。統計解析にはSPSS12.0J for Windows(SPSS Japan Inc.)を用いた。
    【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、被検者には実験前に実験内容を十分に説明し、書面にて同意を得た。未成年者においては保護者の承諾も得た。
    【結果】体幹前屈動作では後方型(2名)が後前方型(7名)に比べ、膝関節伸筋力・股関節屈筋力が有意に大きかった(p<0.05)。復位動作では前方型(5名)が後前方型(4名)に比べ、足関節底屈筋力が有意に大きかった(p<0.05)。
    【考察】大転子パターンの違いで体幹前屈動作では股関節屈筋力・膝関節伸筋力に、復位動作では足関節底屈筋力に有意差が認められた。体幹前屈動作では、股関節屈筋と膝関節伸筋が大転子の後方への移動を制御し、復位動作では、足関節底屈筋が大転子の前方への移動を制御するためである。しかし、体幹前屈・復位動作は各関節の最大筋力ではなく、主動筋と拮抗筋の相対的な関係によって起こる。そのため今後は、体幹前屈・復位動作中における足圧中心の前後移動や筋活動も測定して明らかにすることが挙げられた。
    【理学療法学研究としての意義】体幹前屈・復位動作における大転子パターンには、下肢筋力の差が影響する結果を得た。この結果をもとに筋力測定に加えて、下肢筋力のアンバランスが前屈動作に及ぼす影響を推定する指標となると考えた。
  • 宇佐 英幸, 竹井 仁, 畠 昌史, 小川 大輔, 市川 和奈, 松村 将司, 妹尾 淳史, 渡邉 修
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: O1-020
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】変形性股関節症などの股関節疾患では、股関節屈曲可動域だけでなく、伸展可動域も制限され、日常生活活動に影響を及ぼす。そのため、我々が先行研究で解析した股関節屈曲運動に加えて、伸展運動についても解析し、股関節伸展運動に関与する様々な関節相互の関係を理解することは重要である。そこで本研究の目的は、MRIを用いて、腹臥位での他動的股関節伸展運動時の股関節と腰椎椎間関節・腰仙関節・仙腸関節の動きを解析し、関節相互の関係を解明することとした。

    【方法】被験者は健常女性12名とした。平均年齢は20.6(19-22)歳、身長と体重の平均値と標準偏差は155.4±3.3cm、49.3±4.5kgであった。方法は、腹臥位・膝関節伸展位での他動的な一側(右)股関節伸展運動を、股関節0・5・10・15°伸展位と、15°伸展位から10Nmと20Nmを伸展方向に加重した合計6種類の実験条件についてMRI(PHILIPS社製Achieva3.0T)を用いて計測した。MRIは各条件につき約50スライスのT2強調矢状断像を撮像した。股関節の加重には独自に開発した非磁性体負荷装置を使用した。画像から各実験条件に関して、大腿骨および体幹と平行な線とのなす角度(以下FH角)、左右の後上腸骨棘と恥骨結合を結んだ線と水平面との骨盤傾斜度、第1仙椎上面と水平面との腰仙角、第1腰椎~第1仙椎間の各椎間角度を計測し、骨盤傾斜度の変位量である骨盤前傾量、腰仙角の変位量である仙骨前傾量、さらに各椎間角度の変位量であるL1/2・L2/3・L3/4・L4/5・L5/S1を算出した。結果は分散分析と多重比較検定(Tukey HSD法)で処理し、有意水準は5%とした。

    【説明と同意】本研究は首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号:08085)を得た上で、被験者に対しては、事前に研究趣旨と方法について説明した後、書面での同意を得て実験を行った。

    【結果】6種類の実験条件におけるFH角の平均値は順に-6.0・5.2・10.2・14.5・18.8・23.0°であった。右骨盤前傾量の平均値は0・1.6・2.3・3.8・4.6・6.4°、仙骨前傾量は0・1.7・2.4・4.4・5.5・8.1°、左骨盤前傾量は0・1.7・2.0・3.3・4.2・5.6°であった。右骨盤・仙骨・左骨盤前傾量それぞれにおいて、5・10・15°伸展位と10・20Nm加重の5群間での多重比較の結果、3種類の前傾量はそれぞれ、5°伸展位と10°伸展位間、10°伸展位と15°伸展位間、15°伸展位と10Nm加重間以外のすべての実験条件間に有意差があった。また、10°伸展位と15°伸展位間には有意傾向があった。5・10・15°伸展位と、10・20Nm加重の各実験条件における、右骨盤・仙骨・左骨盤前傾量の3群間での多重比較の結果、仙骨前傾量と左骨盤前傾量間に10Nm加重で有意傾向、20Nm加重で有意差があり、その差は2.5°であった。L1/2の平均値は0・-0.1・0.2・0.3・0.6・0.7°、L2/3は0・0.2・0.7・0.7・0.6・0.7°、L3/4は0・0.5・0.6・1.0・1.3・1.1°、L4/5は0・1.2・1.6・2.8・3.1・3.9°、L5/S1は0・0.9・1.5・1.6・2.6・3.6°であった。各椎間角度の変位量において、5・10・15°伸展位と、10・20Nm加重の5群間での多重比較の結果、L1/2~L3/4ではすべての実験条件間で有意差がなかった。L4/5では5・10°伸展位と20Nm加重間に有意差があり、L5/S1では5°伸展位と20Nm加重間に有意傾向があった。

    【考察】FH角の増加に伴って右骨盤・仙骨・左骨盤前傾量が増加することから、股関節伸展運動は骨盤前傾運動を含むことが確認できた。また、股関節15°伸展位までは右骨盤・仙骨・左骨盤前傾量に差はなく、その後10・20Nm加重で仙骨前傾量と左骨盤前傾量間に差が生じることから、股関節15°伸展位までは左右の寛骨と仙骨は一体となって前傾するが、その後は反対側仙腸関節において仙骨が左寛骨に対して前屈位になることが確認できた。これは、仙腸関節における寛骨に対する仙骨の動きは後屈よりも前屈のほうが容易に生じることを示唆すると考える。さらに、FH角の増加に伴ってL1/2~L3/4は変化しないが、L4/5・L5/S1は増加することから、骨盤前傾は第4/5腰椎椎間関節と腰仙関節の動きの影響を受けることが確認できた。これは第4/5腰椎椎間関節と腰仙関節が他の腰椎椎間関節よりも大きな可動性を有することを示唆すると考える。

    【理学療法学研究としての意義】股関節伸展運動に対する評価と治療、動作指導や日常生活指導における基礎資料が得られた。
  • 石田 弘, 渡辺 進, 小原 謙一, 大坂 裕, 吉村 洋輔, 伊藤 智崇, 江口 淳子
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: O1-021
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】
    ブリッジ動作は運動療法の一手段として、疾患を問わず幅広く用いられており、主動作筋は持ち上げられる身体下面の脊柱起立筋、大殿筋、ハムストリングスである。ブリッジ動作の筋電図学的な先行研究の多くは、下肢の肢位の違いによる筋活動の変化に関するものが多く、骨盤の傾斜に関する報告は検索した範囲では少ない。都築ら(1989)は随意的な骨盤傾斜が筋活動に及ぼす影響を研究しているが、筋電図の振幅を4段階に分類しているのみで定量化は十分ではない。また、骨盤傾斜や腰椎彎曲角度を定量化している先行研究は認められない。そこで、本研究では随意的に骨盤を傾斜させてブリッジ動作を行い、脊柱アライメントと体幹・股関節伸展筋活動にどのような影響があるのか運動学的に定量化することを目的とした。
    【方法】
    対象は健康な男性16名(平均年齢24.1±5.1歳)とした。脊柱アライメントの測定にはインデックス社製Spinal Mouseを用いた。筋電図の計測にはNORAXON社製myosystem1200を用い、被験筋は右側のL3脊柱起立筋、大殿筋、内側ハムストリングスとした。始めに各筋の最大随意収縮(MVC)を行い正規化の基準とした。次に、脊柱アライメントを背面から測定するスペースを作るため10cmの間隔で並べた2つの治療台の上に背臥位で膝関節90°屈曲位、足部は肩幅程度に開き、上肢は体側に置くという開始肢位を被験者にとらせた。課題は右側の肩峰、大転子、大腿骨外側上顆に貼付したマーカーが直線となるように殿部を挙上し保持させることとした。条件は骨盤傾斜に対し無意識(以下、無意識)、最大随意での骨盤後傾(以下、後傾)および骨盤前傾(以下、前傾)の3種類とした。各条件とも数回の練習後に5秒間の筋電図の測定を、直後に脊柱アライメントの測定を1回ずつ行った。測定順序は始めに無意識、その後の後傾と前傾はランダムとした。パラメータは仙骨傾斜角、腰椎彎曲角、各筋の筋電図平均積分値をMVCで正規化した%MVC、各筋の活動割合(各筋の%MVC/3つの筋の%MVCの和×100)とした。統計にはSPSS ver. 16.0を用い、反復測定による一元配置分散分析、Bonferroniの多重比較にて3条件を比較した(p<0.05)。
    【説明と同意】
    被験者全員に対し本研究について十分な説明を行い、同意を得た。
    【結果】
    (無意識、後傾、前傾)の順で数値を示す。仙骨傾斜角(-106±5°、-114±8°、-103±9°)は後傾が他条件より有意に後方傾斜していた。腰椎彎曲角(-16±6°、1±13°、-20±8°)は後傾が他条件より有意に屈曲していた。L3脊柱起立筋の%MVC(47.9±16.6%、45.2±22.4%、58.6±20.7%)は前傾が他条件より有意に高かった。大殿筋の%MVC(14.6±13.3%、24.8±17.5%、14.7±15.3%)は後傾が他条件より有意に高かった。内側ハムストリングスの%MVC(24.1±31.7%、27.5±31.8%、26.8±32.1%)は後傾と前傾が無意識より有意に高かった。L3脊柱起立筋の活動割合(60.1±10.8%、48.9±14.3%、62.8±11.4%)は後傾が他条件より有意に低かった。大殿筋の活動割合(16.0±7.4%、26.1±14.1%、13.5±9.0%)は後傾が他条件より有意に高かった。内側ハムストリングスの活動割合(23.9±9.0%、24.9±7.4%、23.7±8.1%)は有意差がなかった。
    【考察】
    後傾条件では仙骨を後方傾斜、腰椎を屈曲方向に制御しながらブリッジ動作が可能であった。同時に大殿筋と内側ハムストリングスの筋活動が約25%に高まったが筋力強化には十分な強度ではない。今回は健常者が対象であり、今後、筋力の低下した対象者で再検討する必要がある。後傾条件の筋の活動割合では脊柱起立筋が低く、大殿筋は高くなることから、骨盤が前傾しやすく腰椎前彎が大きくなっている場合や、脊柱起立筋が過剰に活動し大殿筋が働きにくい場合において、骨盤後傾を意識させてブリッジ動作を行うことは姿勢制御の練習として有用と考える。骨盤前傾条件では、無意識条件と比較し仙骨は前傾傾向、腰椎は伸展傾向で、脊柱起立筋では約10%の増加によって約60%の筋活動となるため、特に脊柱起立筋の筋力強化としての有効性を高めると考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究の結果は、随意的に骨盤の傾斜を変化させることで、脊柱アライメントと体幹・股関節伸展筋活動に与える効果も変わってくるということを示し、運動療法の一手段として行うブリッジ動作のバリエーションに基礎的裏付けを与えた点で意義がある。
  • 肉眼解剖による股関節屈曲可動域制限因子の検討
    田中 貴広, 木村 保, 建内 宏重, 安井 正佐也
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: O1-022
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
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    【目的】
    筋は作用と逆の運動を行った場合に伸張される。股関節屈曲可動域制限が存在する場合、大殿筋やハムストリングスが筋由来の制限因子として容易に想定できる。しかし臨床上、股関節屈曲可動域制限を有する患者で大殿筋やハムストリングスの走行に一致した伸張感を認めることは少なく、股関節深層外旋筋群(以下、深層外旋筋)や股関節外転筋群と想定される部位に伸張感を認めることが多い。
    解剖学書の一部には深層外旋筋に股関節伸展作用があると記されており、一部の深層外旋筋が股関節屈曲可動域の制限因子になりうると推測できるが、股関節屈曲角度の増加に伴いどの筋がどの程度伸張されるかは明らかではない。
    本研究の目的は、股関節屈曲角度と深層外旋筋の伸張率との関係を明らかにすることである。
    【方法】
    名古屋大学大学院医学研究科の解剖実習用献体(股関節疾患の既往のない)1体2肢を対象とした。
    計測前に第3腰椎と第4腰椎の間で切断し、下肢帯を側臥位に固定した。深層外旋筋を剖出するため、殿筋筋膜、大腿筋膜を剥離し、大殿筋、中殿筋は停止部で切離、反転し、深層外旋筋を露呈した。また膝関節と股関節の可動性を十分確保するため大腿四頭筋とハムストリングスを剖出し、大腿四頭筋および外側筋間中隔を遠位部で切離した。その後、深層外旋筋を個別に剖出し、各筋の起始部、停止部を確認した。各筋の中央に位置する筋線維を決定し、その筋線維の起始部、停止部に標識となる直径1mm程度の針を挿入した。
    計測は股関節屈曲伸展、内外転、内外旋中間位を開始肢位とした。矢状面上の骨盤長軸を基本軸、大腿骨の長軸を移動軸とし、股関節内外転、内外旋中間位に保持しながら股関節を0度から75度まで15度ずつ屈曲させた。その際ハムストリングスが伸張されないよう膝関節は屈曲位とした。起始部、停止部に挿入した針を指標にし、各屈曲角度における梨状筋、上双子筋、下双子筋、大腿方形筋の筋長をテープメジャーにて筋線維の走行に沿い計測した。
    股関節屈曲伸展中間位での筋長計測値を基準に各関節角度における筋長を正規化した後、2肢の値を平均した。
    【説明と同意】
    名古屋大学大学院医学研究科(第29回人体解剖トレーニングセミナー実行委員会)に本研究の主旨を説明し承認を得て実施した。
    【結果】
    梨状筋、上双子筋の筋長は股関節屈曲角度の増加に伴い伸張され、股関節75度屈曲位でそれぞれ119%、113%であった。下双子筋の筋長は股関節屈曲30度まではほぼ変化がなかった。30度以降は徐々に伸張されたが他の筋に比べ最も伸張率が低く股関節75度屈曲位で105%であった。大腿方形筋は股関節屈曲30度まではほぼ変化がなかったが、45度屈曲位で110%、60度屈曲位で124%、75度屈曲位で133%と股関節屈曲30度以降に急激に伸張され、今回対象とした筋の中で最も伸張率が高かった。
    【考察】
    本研究で対象とした深層外旋筋は股関節屈曲角度の増加に伴い全て伸張されたことから、機能解剖学的な観点から深層外旋筋が股関節屈曲可動域制限因子となりうることが確認できた。筋の伸張率という指標を考慮した場合、深層外旋筋の中でも大腿方形筋が最も股関節屈曲可動域制限を起こしうることが示唆された。股関節屈曲に伴い、深層外旋筋の停止部は矢状面上に投影した股関節中心と筋の停止部を結ぶ線を半径として円弧を描きながら前方へ移動する。筋の起始部は固定されているため、その半径が大きいほど筋の停止部の移動距離が長くなり筋の伸張率は高くなる。大腿方形筋は、深層外旋筋の中でも最も遠位に位置しているため、股関節中心と筋の停止部との距離は最も長くなる。したがって、今回対象とした深層外旋筋の中では、大腿方形筋が最も伸張率が高くなったと考えられる。
    今回の調査はホルマリン固定した遺体を対象としたため、股関節屈曲75度以上の深層外旋筋の動態までは言及できなかった。今後、新鮮遺体などを対象にすればより深い屈曲位での制限因子について推察することができると考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    皮膚、筋、関節包など異なる組織がどの程度関節可動域制限に寄与しているか動物実験により検討した報告は散見するが、機能解剖によって、どの筋がどの程度関節可動域制限に寄与しているか検討した報告は極めて少ない。
    股関節屈曲可動域制限は下衣の更衣動作や段差昇降など日常生活動作を制限する機能障害であり、筋が制限因子と考えられる症例も少なくない。本研究で得られた知見は臨床上で股関節屈曲可動域の制限因子を特定する際の一助になると考える。
  • 過度前捻が下腿・足部に与える影響
    長谷川 由理, 石井 慎一郎
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: O1-023
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は第44回日本理学療法学術大会において、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と大腿骨前捻角度(以下FNA)の関係性について報告し、FNAの大きさにより大腿骨の運動方向、回旋量に違いが生じることを報告した。その中でFNAが大きいほど大腿骨の内旋、膝関節の外旋が大きくなるが、これらの回旋角度の増加が下腿や足部に及ぼす影響については、不明な点である。そこで本研究では、荷重位における膝関節伸展運動時の脛骨、足部の運動を調べ、FNAとの関係性を検討することを目的とした。

    【方法】対象は、下肢に既往のない成人男性4名、女性10名の計14名(平均年齢23.3±6.0歳)とした。測定課題は、自然立位から膝関節を約90°屈曲し、再び自然立位へと戻るハーフスクワットとした。計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点を体表面上の所定の位置に計16個貼付し、課題動作中の標点位置を計測した。関節角度の算出はオイラー角を用いて、膝関節屈伸角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、大腿骨と脛骨の相対回旋角度(膝関節回旋角度)、膝関節内外反角度を求め、さらに横足根関節回内外角度、前額面上での脛骨傾斜角度(脛骨傾斜角度)を算出した。角度の算出には、歩行データ演算用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用した。またFNAの計測は、CTやレントゲン所見と相関が強いとされるcraing testにて行った。分析は、各被験者の屈曲60°から最終伸展位における大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、膝関節回旋角度、膝関節内外反角度、横足根関節回内外角度、脛骨傾斜角度を調べ、FNAと各角度の相関の程度をPearsonの相関係数を用いて検討した。統計学的有意水準は、危険率p<0.05とした。

    【説明と同意】本研究を行うにあたって、対象とした14名の被験者には、本研究の目的と方法について説明し、すべての被験者において同意を得られた。また年齢や計測結果などの個人情報は、本研究以外では使用しない旨を説明し、情報の管理に配慮した。

    【結果】膝関節伸展時、すべての被験者において膝関節は外旋し、SHMが生じた。FNAと正の相関が認められたのは、大腿骨回旋角度(r=0.62 p<0.05)と膝関節回旋角度(r=0.53 p<0.05)であり、脛骨回旋角度は相関が認められず(r=-0.18)、前回の報告と同様の結果を示した。またFNAと膝関節内外反角度、脛骨傾斜角度、横足根関節回内外角度との相関は認められなかった。しかし、膝関節内外反角度は、大腿骨回旋角度(r=0.79 p<0.01)、膝関節回旋角度(r=0.72 p<0.01)と正の相関を示し、脛骨傾斜角度は、大腿骨回旋角度(r=0.79 p<0.01)、膝関節回旋角度(r=0.60 p<0.05)、横足根関節回内外角度(r=0.56 p<0.05)と正の相関を示した。なお、膝関節伸展運動中、大腿骨は内旋、脛骨は外旋、外側傾斜、横足根関節では回外が生じ、膝関節は内反運動が生じていた。

    【考察】FNAは、立位姿勢における股関節アライメントを変化させる要因であり、FNAが大きいと、大腿骨頭中心が寛骨臼中心に対し前方に位置するため、大腿骨を内旋させて関節面の適合性を高めているものと考察する。また本研究結果から、大腿骨の内旋角度が大きいと、膝関節の内反、脛骨の外側傾斜が大きくなる傾向が確認された。従来の報告では、FNAが大きいと膝関節は外反外旋し、Knee-inする傾向にあると言われているが、脛骨の外側傾斜と膝内反が生じ、FNAが大きくても荷重位での膝関節伸展運動の最終局面では膝関節は内反することが分かった。それは、過剰な大腿骨の内旋運動が強要されると、膝関節の後内側関節包や内側側副靭帯、ACL、膝窩筋などの張力が増加し、大腿骨内旋が制動されるため、大腿骨と脛骨が連結した状態で、回転軸が膝から足部に移動したためであると考えられた。そのため、FNAが大きい被験者では、大腿骨の内旋運動に追従して、脛骨の外側傾斜、膝関節の内反が引き起こされたと考えられた。

    【理学療法学研究としての意義】FNAなどの形態は先天的なものであるが、長年の月日を経て二次的に変形性股関節症や膝関節症を引き起こす要因となりうるものである。今回得られた結果からも、FNAが大きいと膝関節内反、脛骨の外側傾斜が大きくなるため、内反変形を助長しやすい運動パターンであることが示唆された。二次的な機能障害の発生を予防していくためにも、閉鎖性運動連鎖を解明していくことが重要であると考える。
  • 平賀 満, 荒川 あかね, 大西 正紀, 北山 由布子, 山本 咲
    専門分野: 理学療法基礎系4
    セッションID: O1-024
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/05/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    仰臥位における滑車と重錘を使用した股関節伸展運動(以下,足滑車運動)は,下肢筋群のトレーニングに有効と考えられている.しかし,足滑車運動における下肢筋活動の報告は見受けられない.今回,足滑車運動における下肢筋活動を表面筋電計にて測定し,重錘負荷量と股関節伸展方法を変更して調査し,有効な運動方法と効果について検討したので報告する.

    【方法】
    対象は健常男性18名(平均年齢21.5±0.8歳)とした.表面筋電計はNORAXON社製MyoSystem1200を使用し,右側の大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,半腱様筋を対象とした.足滑車運動では,オーバーヘッドフレームを使用し天井部に滑車を固定し,対象者の右下腿遠位部にバンドを巻いてロープでつないだ.ロープの他端は滑車を介して重錘に接続した.運動方法は,仰臥位で右下肢を膝関節伸展位・股関節内外旋中間位で挙上させた状態から,滑車を介した重錘の重さに抗して足先を天井に向けたまま引き降ろす運動とした.下肢の引き降ろし方法は,股関節伸展0度・外転0度まで降ろす方法(A1),股関節伸展0度・外転20度まで降ろす方法(A2),股関節伸展10度・外転20度まで降ろす方法(A3)の3種類とし,引き降ろした状態を計測肢位とした.重錘負荷量は,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas F-1)を用い,仰臥位における右股関節伸展の最大等尺性筋力を測定し,測定値の30%(低負荷)と50%(高負荷)とした.低負荷と高負荷の重錘負荷量で3種類の足滑車運動を実施し,計測肢位にて5秒間保持させ,その中の安定した2秒間の筋電波形の積分値(IEMG)を求めた.各筋についてDanielsらの徒手筋力検査法の段階5の最大等尺性収縮で測定されたIEMGを100%として,各運動課題における各筋の筋活動を%IEMGとして導出した.

    【説明と同意】
    対象者に対し本研究について説明し同意を得た.また,当院の倫理委員会にて承認を受けた.

    【結果】
    各運動課題における各筋の筋活動を「下肢の引き降ろし方法・重錘負荷量・筋活動」の順で表記し,筋活動の高い順に以下に示す.
    大殿筋ではA3高負荷36.0%,A2高負荷31.8%,A3低負荷20.6%,A2低負荷15.7%,A1高負荷13.5%,A1低負荷8.8%であった.
    中殿筋ではA3高負荷44.2%,A2高負荷41.3%,A3低負荷33.1%,A2低負荷27.1%,A1高負荷21.8%,A1低負荷14.5%であった.
    大腿筋膜張筋ではA3高負荷66.2%,A2高負荷58.5%,A3低負荷49.5%,A2低負荷40.2%,A1高負荷23.1%,A1低負荷12.2%であった.
    半腱様筋ではA3高負荷33.9%,A2高負荷28.1%,A1高負荷26.8%,A3低負荷23.9%,A2低負荷20.1%,A1低負荷17.5%であった.

    【考察】
    今回の結果から足滑車運動での股関節伸展筋群と外転筋群の筋活動は,下肢の引き降ろし方法を股関節伸展のみより股関節外転を加えた方が大きく,さらに股関節を外転させながら伸展10度した方が大きくなることが分かった.これは,足先を上に向けたまま下肢を斜め外方に引き降ろすことにより股関節伸展・外転・内旋の複合運動となり,外転作用のある中殿筋・大腿筋膜張筋が働き,また伸展作用に加えて外転の補助動筋の作用もある大殿筋と内旋作用のある半腱様筋の働きが大きくなったためと推察された.
    Hettingerらは,筋力増強効果に対する閾値を最大筋力の30%以上であると報告している.今回の結果から足滑車運動では,股関節伸展のみで行った場合には股関節伸展筋群と外転筋群の筋活動が30%以下となり筋力強化としてはあまり期待できないと考えられた.しかし,股関節を外転させながら伸展して行い,股関節伸展筋群では高負荷以上,股関節外転筋群では低負荷以上に設定することでほぼ30%以上の筋活動が得られ,筋力強化が期待できると考えられた.
    筋持久力強化では,一般に最大筋力の20~30%の負荷で筋疲労するまで行うのが効果的といわれている.今回20~30%の筋活動を示した運動結果より,足滑車運動では低負荷で股関節を外転させながら伸展して行うか,もしくは高負荷で股関節伸展のみで行い,さらに高頻度で実施することにより股関節伸展筋群・外転筋群の筋持久力強化が期待できると考えられた.
    足滑車運動は,対象者の筋力に合わせて重錘負荷量を設定し目的に応じた運動方法をとることで,股関節伸展筋群・外転筋群の筋力強化および筋持久力強化として有効であると考えられた.

    【理学療法学研究としての意義】
    滑車運動における下肢筋活動と筋力強化および筋持久力強化のための有効な運動方法の提示.
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