理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-028
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一般演題(口述)
小型無線加速度計を用いた歩行の重心運動評価
小宅 一彰山口 智史田辺 茂雄横山 明正近藤 国嗣大高 洋平
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キーワード: 加速度計, 重心, 歩行分析
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抄録
【目的】
客観的な歩行分析の手法として、基礎研究においては三次元動作解析装置や床反力計が広く用いられている。しかし、これらの機器は測定環境の制約が多く臨床では普及していない。一方で、小型無線加速度計は対象者への拘束や実施環境の制限が少なく、臨床でも比較的簡便に使用できる。また得られる加速度を2回積分して重心移動距離を算出することで、重心運動から歩行の客観的評価が可能となる。しかし、その再現性や妥当性は十分な検討がなされていない。本研究の目的は、小型無線加速度計を用いた歩行における重心運動評価の再現性および妥当性を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常者6名(男女各3名、年齢26±4歳、身長1.65±0.10m、体重56.3±4.4kg)である。対象者は、小型無線加速度計(ワイヤレステクノロジー社、WAA-006)を第3腰椎棘突起部付近にゴムベルトで固定し、裸足で歩行した。歩行課題は、床反力計4基(アニマ社、設置型フォースプレート)を設置した約10mの歩行路において5回実施した。なお歩行前後の静止立位における加速度も測定した。歩行率はメトロノームで100steps/minに規定し、歩行速度はその歩行率での快適速度(1.03±0.17m/s)とした。床反力計と加速度計は、いずれもサンプリング周波数60Hzに設定し、同時に記録した。床反力計のデータはカットオフ周波数10Hzのローパスフィルターをかけ、加速度計のデータは歩行前後の静止立位における加速度を基準にトレンド除去した後、カットオフ周波数10Hzのローパスフィルターをかけた。さらに定常歩行における3‐5歩行周期分のデータを加算平均し平滑化した。それぞれ得られた加速度は1歩行周期における平均値を0に補正した後、積分し速度を算出した。さらに速度も1歩行周期における平均値を0に補正した後、積分し変位を算出した。次に、上下・左右・前後方向の重心変位からリサージュ波形を描き、その上下移動幅、左右移動幅、前後移動幅を算出した。加速度計および床反力計から得られた重心移動幅の再現性は級内相関係数(ICC1,5)で検討し、p値が0.05未満を有意とした。また床反力計と比較した加速度計の妥当性は、5試行の平均値を用いてPearson積率相関係数で検討し、相関係数の絶対値が0.5以上かつp値が0.05未満を有意とした。
【説明と同意】
対象者には、事前に研究の趣旨を説明し同意を得た。
【結果】
加速度計の測定値は上下移動幅4.0±0.7cm、左右移動幅4.5±0.5cm、前後移動幅3.5±0.8cmであった。床反力計の測定値は上下移動幅3.5±0.5cm、左右移動幅4.5±0.6cm、前後移動幅2.5±0.5cmであった。加速度計のICC1,5は上下移動幅0.98、左右移動幅0.88、前後移動幅0.97であり、いずれも統計的有意であった。床反力計のICC1,5は上下移動幅0.92、左右移動幅0.89、前後移動幅0.92であり、いずれも統計的有意であった。Pearson積率相関係数は上下移動幅0.81(p=0.05)、左右移動幅-0.44、前後移動幅0.84(p<0.05)であり、前後移動幅のみ統計的有意であった。
【考察】
加速度を2回積分しリサージュ波形上で測定した重心移動幅は、5試行分の平均値を用いることで、加速度計および床反力計いずれも高い再現性を認めた。つまり、加速度計は重心運動に着目した客観的な歩行分析の手段として床反力計と同様に有用であることが示唆された。
床反力計と比較した加速度計の妥当性を検討する際、推定される重心位置の相違を考慮すべきである。歩行において床反力計は生体内の重心位置を推定するが、加速度計は固定箇所を重心位置と見なしている。加速度計と床反力計の相関は、前後移動幅のみ有意であった。上下移動幅は相関係数が高かったもののp値が0.05以上であったため統計的有意とは見なせなかった。ただしp値はサンプル数の影響を受けるため、今後対象者数を増やし再検討する必要がある。歩行中に発生する左右加速度は小さく、上下・前後加速度の約1/3である。それゆえ推定される重心位置の相違やノイズの影響を受けやすく、左右移動幅の相関は低かったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
歩行の回復過程や治療効果を重心運動に着目し定量的に評価する手法として、加速度計は有用であることが示唆された。また加速度計は測定環境を選ばず、歩行補助具を使用していても測定可能な点で、床反力計に比べ臨床における実用性が高いと考えられる。
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© 2010 日本理学療法士協会
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