理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-043
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一般演題(口述)
動的な立位安定性変化を反映する力学パラメーターと身体重心移動特性の関連性について
石田 水里佐川 貢一対馬 栄輝
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抄録

【目的】制御工学に基づく計算手法を動的な立位安定性評価に応用することを考える.振り子運動などの制御システムの安定性を表す力学パラメーターとして固有振動数(ω)と減衰比(ζ)がある.ωは値が大きければ素早さく硬さのある動きを意味する.ζは値が大きければ無駄な揺れが小さい運動を意味する.立位安定性変化を模擬した複数の条件下で身体前傾・復位する動作時のωとζを求めると,不安定な立位条件下ではωが大きく,ζが小さくなる特徴がある(石田ら,2009).ωとζは下肢関節角度や身体各分節の重心から計算されるが,全体的な身体重心移動とどのような関連があるか明らかにしていなかった.ここでの目的は,身体前傾・復位動作時のω・ζの数値特性と重心移動特性との関連性を検討することである.
【方法】健常成人12名(男性7名,女性5名)を対象とした.被検者の平均年齢は22.4±1.2歳,平均身長は166.9±7.3cm,平均体重は58.6±6.2kgであった.被検者の左肩峰,大転子,外果に反射マーカーを貼り付けた.課題は,上肢を組んだ直立姿勢から随意的に身体最大前傾して立位に復位する動作とした.被検者にはなるべく股関節運動を伴わず足関節を主体にして課題を行うよう指示し,動作の速さは規定せず任意とした.立位条件は課題の困難度に応じて,1)両脚・開眼(EO),2)両脚・閉眼(EC),3)片脚・台あり(OLS;開眼で片脚立位をとり,挙上側下肢を角度可変の補助台上に乗せて課題を行う),4)片脚・台なし(OL;補助台は使用せずに開眼・片脚立位で課題を行う)の4つを設定し,各条件5回ずつ課題をくり返した.測定条件配置は順序の効果を考慮して循環法を利用した.動作時の各マーカー位置をVICON460(VICON MOTION SYSTEMS)で解析し(sampling rate 120Hz),矢状面の運動に関する足関節と股関節の角度データを算出した.その後,各被検者の身長,体重,上下肢長,分節の重心といった身体特性値を適用させた理論モデルを構築して,角度データから動力学計算によって全測定分のωとζを推定した.動作中の重心移動特性として足・股関節角度と身体特性値から前後・上下方向別に最大重心移動距離,最大重心移動速度,最大重心移動加速度を求めた.ω・ζの推定に関わる計算処理はMATLAB ver. 6.5.1(The Math Works, Inc.)を用いた自作プログラムで実行した.ω・ζと各重心移動特性との関連性を知るため,変数間の相関係数を確認した.事前に変数の正規性を検定し,Pearsonの相関係数rまたはSpearmanの順位相関係数rsを適用した.統計解析にはR version 2.8.1(free software)を使用し,すべての有意水準は5%とした.さらに,全測定分について重心前後移動を横軸,上下移動を縦軸とする軌跡と対応するω・ζの数値を併せて観察し,これらの関連性を確認した.ω・ζは全体の中央値及び四分位範囲を求めてデータの分布から判断した.
【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施した.対象者には研究の目的と内容を十分に説明し,同意を得た.
【結果】ωと前後・上下方向の最大重心移動加速度のみ有意となり(順にrs=0.43,rs=0.42;ともにp<0.01),ζはどの重心移動特性とも有意な関連性を認めなかった.重心移動軌跡については,EOやECでは滑らかな弧を描く形状が観察できたが,OLSやOLになると円滑性に欠ける形状が見られやすかった.ω・ζの数値と見比べると,観察上円滑でない動作はωが大きく,ζが小さくなる特徴があり,データ分布の中で極端にωが大きく,かつ極端にζが小さくなる例のほとんどで,重心移動軌跡の顕著な不安定性が確認できた.
【考察】ωとζの数値は観察された重心移動の円滑性の度合いを意味づけでき,制御工学的な安定性の解釈とも一致している.仮に動作解析装置により最大重心移動距離,速度,加速度といった変数を求めても,重心移動の円滑性は表現できないものであり,ωとζの2つのパラメーターをまとめて解釈することで,立位安定性の状態を表すことができると考えた.
【理学療法研究としての意義】本研究での立位条件は安定性変化を模擬した設定であるので実験的な結果ではあるが,臨床での動的な立位安定性を表す新しい指標となり得る.これを基に,将来的には臨床でビデオ撮影した動画などから測定・表現することも可能となる点で有意義な知見と考える.

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© 2010 日本理学療法士協会
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