理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-045
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一般演題(口述)
片脚立位での一側下肢の運動が対側の支持脚における足底圧中心位置と足部および膝関節周囲筋群の活動に与える影響
山口 剛司高崎 恭輔鈴木 俊明
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抄録

【目的】
足部不安定性に対する運動療法は、閉鎖性運動連鎖でのエクササイズが有用であると考える。なぜなら実際の動作と類似した肢位でのエクササイズは、安定した動作を遂行するための機能的な筋活動を獲得できるからである。我々は第44回本学会において、片脚立位での一側下肢の運動課題時に生じる支持脚足部内のCOP変化と足部周囲筋群、膝屈筋群の筋活動について報告した。その結果、運動課題に伴うCOP移動は一定の傾向を示し、COP移動方向と筋活動には、次のような傾向を認めた。足部周囲筋群では、COP移動方向により腓骨筋と後脛骨筋の筋活動が明確に切り換る場合や同時活動する場合を認め、膝屈筋群ではCOP移動方向により大腿二頭筋と半膜様筋は明確に切り換る場合を認めた。この結果から膝屈筋群は、主に膝関節の回旋運動の制御に機能することが考えられた。しかしながら一般的には膝伸筋群が、膝関節の安定性に関与すると考えられるため、同運動課題における膝伸筋群の機能を把握する必要があると考えられた。そこで今回は、同運動課題でのCOPと足部周囲筋群、膝屈筋群に加え、膝伸筋群の筋電図評価を実施したので報告する。
【方法】
対象は、整形外科的・神経学的に問題のない男女7名(平均年齢29.7±3.7歳)の支持脚7肢とした。方法は、被験者に重心計のプレート上で片脚立位をとらせ、非支持脚下肢での運動課題を行わせた時の支持脚の筋電図ならびにCOPを記録した。支持脚は、股関節・膝関節を各々30゜屈曲位と規定した。筋電図では、支持脚の腓骨筋、後脛骨筋、半膜様筋、大腿二頭筋、内側広筋、外側広筋の筋活動を記録した。運動課題の開始肢位は、立位の状態から非利き足側(以下、運動側)下肢の足底が接地しないよう前方で空間保持した状態とした。運動課題は、開始肢位より運動側股関節を内転する課題を内側運動、外転する運動を外側運動とした。なお下肢の運動と筋電図記録、COP記録を同期するためにフットスイッチを運動側の母趾と小趾に配置し、内側運動、外側運動の両端に台を設置してスイッチと接触させた。運動課題の施行は開始肢位より内側運動から行い、外側・内側の3回の運動を1施行として、各被検者で3施行測定した。
分析方法は、運動課題中のCOP軌跡の時間的変化とそれに伴う導出筋の筋活動パターンを分析した。
【説明と同意】
各被験者には本研究目的と内容について十分に説明を行い、同意を得た後に測定を実施した。
【結果】
運動課題時のCOPは、内側運動課題中は小趾側方向へ移動し、外側運動課題中は母趾側方向へ移動した。一方筋電図では、次のような傾向を認めた。まず足部周囲筋群では、COPの移動方向により腓骨筋と後脛骨筋の筋活動が明確に切り換る場合や、後脛骨筋が持続的に活動する場合が見られた。具体的には、COPの小趾側移動中には後脛骨筋が活動し、母趾側移動中には腓骨筋の活動を認めた。次に膝屈筋群は、COPの小趾側移動中には半膜様筋が活動し、母趾側移動中には大腿二頭筋の活動を認め、COPの移動方向により両筋の明確な切り換りを認めた。膝伸筋群では、外側広筋がCOPの移動方向に関わらず持続的な活動を認め、内側広筋はCOPが母趾側移動中に活動する傾向を認めた。
【考察】
本運動課題中の足部周囲筋群では、先行研究と同様に腓骨筋と後脛骨筋の活動が切り換ることによりCOPの移動を円滑にすると考えられる。この中でも後脛骨筋が持続的な活動を認める場合は、課題中にCOPの移動が不安定な場合に生じる傾向が見られた。この時後脛骨筋は、足部内側の剛性を形成し足部安定化作用を担うため、運動課題時の足部不安定性を補償する目的で持続的に活動したと考えられる。次に膝伸筋群では内側広筋がCOP母趾側移動中に活動を認めた。COP母趾側移動中は、下肢では股関節屈曲位での軽度内転、膝関節屈曲位での外反外旋運動が観察される。このアラインメントでは膝外反外旋運動により、膝蓋骨は外方へ移動する力が生じる。この時内側広筋は、外側広筋との同時活動により膝蓋骨の外方移動を制動すると考えられる。内側広筋は、この膝蓋骨の外方移動を制動し、膝蓋骨を介して間接的に膝外反外旋運動を制動するのに最も効率の良い筋走行であると考える。そのためCOP母趾側移動中には、内側広筋が活動したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
足部不安定性に対する運動療法は、閉鎖性運動連鎖でのエクササイズが有用であると考える。本運動課題では、安定した姿勢を保持し、支持脚のCOPが円滑に移動するには、足部周囲筋群に加え膝周囲筋群の筋活動により下肢アラインメントを制御することが必要となる。また本運動課題はサイドステップやクロスオーバーステップ動作の肢位と類似することから、これら動作練習の前段階のエクササイズとして有用であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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