理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-051
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一般演題(口述)
下肢挙上動作時における体幹筋の収縮様式の違いが体幹安定性に及ぼす影響
大江 厚大羽 明美木村 貞治
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抄録

【目的】日常生活動作やスポーツ動作において,適切な四肢と体幹の運動連鎖によって腰部を安定化させることは,脊柱を保護し,腰痛を予防する上で重要であるとされている.先行研究では,上肢や下肢の動作に先行して体幹筋を収縮することが,負荷に対する準備としての体幹安定化に重要な役割を果たしていると示唆している.また,臨床においても,四肢の動作に先行して腰部を安定化させるために様々な教示が行われている.しかし,その際の実際の腰部の動きに関する時間的・空間的な特性を定量的に解析した研究は少なく,また,体幹筋の収縮様式の違いが,体幹安定性に与える影響ついても明らかにされていない.そこで,本研究では,日常生活動作やエクササイズでよく行われる下肢挙上動作時における体幹筋の収縮様式の違いが腰部の動きの大きさやタイミング,そして,急激さなどの体幹安定性に及ぼす影響について定量的に検証することを目的とした.

【方法】体幹から下肢にかけての整形外科的疾患あるいは神経学的疾患とその既往の無い健常男性23名(平均22.7歳)を対象とした.体幹筋の収縮様式は,1)何も意識しないControl,2)深部筋群を中心とする収縮により腹部を20%の努力で凹ませるHollowing,3)腹部をへこますことも膨らますこともなく20%の努力で固くするBracingの3条件とした.Hollowingは,Richardsonの方法を改変し,20%の努力で腹部をへこませるという運動感覚を,圧フィードバック装置(Chattanooga社製,STABILIZER)とメジャーで計測した腹囲の値を使用して指導した.また,Hollowing中の表在筋群の過剰収縮を確認するために,携帯型筋電図計測装置(NORAXON製,MYOTRACE400 EM-501)を使用した.Bracingは,Mcgillの方法を改変し,最大収縮時の表面筋電位の20%の努力で体幹筋を同時収縮させるという筋収縮様式を指導した.また,Bracing中は,腹囲の周径が安静時と変わらないように,メジャーを使用して確認した.次に,仰向けで両膝を立てた状態から利き足を挙げるという運動課題遂行中の腰部の動きの大きさとタイミングを,腰部の下に敷いた腰部圧測定装置(エム・イー特製)と,下肢挙上動作開始のタイミングを同定するために足底の下に敷いたフットスイッチ(エム・イー特製)を使って測定し,それらのデータをパーソナルコンピュータに取り込み,多用途生体情報解析プログラム(キッセイコムテック製,BIMUTAS ver.e-2.0)を用いて,1)下肢挙上動作開始時の腰部圧(P1),2)腰部圧最大下降値(P2),3)腰部圧変動開始時と下肢挙上動作開始時との時間差(T1),(4)単位時間当たりの腰部圧下降変化量(P2/T2)の4つのパラメータについて解析した.

【説明と同意】被験者募集の掲示及び説明会に基づいて協力を申し出た者に対し,文章及び口頭での説明を行い,本研究への参加の同意を得た.本研究は信州大学医学部医倫理委員会(受付番号1111)の承認を得て実施した.

【結果】健常者が何も意識せずに下肢を挙上した時における腰部の動きの特性については,87%の被験者において,下肢挙上動作開始前に,腰椎が前彎方向に運動していた.また,体幹筋の収縮様式の違いによる下肢挙上動作時の腰部への影響は,P1,P2,P2/T2ともにControlやHollowingよりも,Bracingにおいて有意に小さい値を示した(P<0.05).

【考察】健常者を対象とした本研究の結果から,下肢と体幹の運動連鎖において体幹安定化を図るには,剛体化という観点から,動作の前からBracingにより体幹筋を収縮させるような運動制御を意識することが有用であると示唆された.しかし,腰痛患者を対象とした先行研究では,過剰な剛体化によって適切な体幹の動きが妨げられることも指摘されているため,必ずしも剛体化が体幹安定性において優れているとは断言できない.また,本研究では用いた筋収縮強度が限定されていることから,今後は,筋収縮の強度を段階的に設定するとともに,実際の腰痛患者を対象として,筋収縮様式の違いによる体幹安定化への影響について検討していくことが必要であると考える.

【理学療法学研究としての意義】将来,腰痛患者を対象として,筋収縮様式の違いが下肢挙上動作時の下肢・体幹運動連鎖特性に与える影響を定量的に解析することによって,腰痛の予防や治療を目的とした運動制御課題の指針を明らかにすることができるものと期待される.

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© 2010 日本理学療法士協会
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