理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-062
会議情報

一般演題(口述)
歩行自立度に対する等尺性膝伸展筋力と下肢荷重率との関連
高齢入院患者における検討
加嶋 憲作山崎 裕司
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】
歩行自立の成否に下肢筋力が重要な因子であることは,周知の事実である.しかし,歩行能力には下肢筋力以外にもバランス能力などの要因が関係し,歩行自立のための筋力閾値付近では下肢筋力によって歩行自立を判定することが困難な症例も少なくない.この点について,バランスの要素をFunctional Reach Test(以下,FRT)を用いて評価し,精度良い歩行自立の判別を試みる研究が行われている.しかし,FRTでは,前方リーチ時にバランスを崩す危険性があることや,測定値が身長など体格の影響を受ける限界がある.我々は,市販体重計を用いた下肢荷重率の評価方法を考案し,高い再現性やバランス機能評価方法としての妥当性を有することを報告してきた.本研究では,この下肢荷重率と等尺性膝伸展筋力,歩行自立度の関連について検討した.
【方法】
対象は,高齢入院患者96名(男性56名・女性40名)で,年齢75.3±6.9歳,身長156.3±7.2,体重49.6±9.8である.中枢神経疾患や明らかな荷重関節の整形外科疾患,認知症を有する者は対象から除外した.等尺性膝伸展筋力の測定にはアニマ社製μ-TasF-01を用い,端坐位下腿下垂位において約3秒間の最大努力による膝伸展運動を行わせた.各脚2回の測定のうち大きい値を採用し,左右脚の平均値(kgf)を体重(kg)で除した値を等尺性膝伸展筋力とした.下肢荷重率の測定は,市販の体重計2枚に左右の脚をのせた立位で行った.片側下肢に最大限体重を偏位させるように指示し,5秒間安定した姿勢保持が可能であった荷重量(kg)を体重(kg)で除し,その値を下肢荷重率(%)とした.歩行能力は,自立群(院内の移動を独歩にて可能)と非自立群(監視もしくは介助や補助具を要する)の2群に選別した.統計学的解析には,対応のないt検定,χ2検定を用いた.また,Receiver Operating Characteristic曲線(以下,ROC曲線)より,歩行自立のための下肢荷重率のカットオフ値を決定した.いずれも危険率5%を有意水準とした.
【説明と同意】
対象者には,研究の内容と目的を説明し,同意を得た後に測定を実施した.
【結果】
歩行自立群は57名,非自立群は39名であった.年齢,性別,身長,体重は,自立群,非自立群の順に,72.9±5.7歳,78.8±7.0歳,男性39名(68%),男性17名(44%),159.2±6.4cm,152.1±6.1cm,53.5±8.9kg,43.9±8.3kgであり,群間に有意差を認めた(p<0.01).等尺性膝伸展筋力,下肢荷重率は,歩行自立群,非自立群の順に,45.2±12.7 kgf/kg,23.1±6.7 kgf/kg,91.7±2.7%,68.9±13.6%であり,群間に有意差を認めた(p<0.01).等尺性膝伸展筋力値が0.4kgf/kg以上(34名)では全例が歩行自立していたのに対し,0.25kgf/kg以下(22名)では全例が歩行非自立であった.等尺性膝伸展筋力値が0.25~0.4kgf/kgの範囲では歩行自立群(11名)と非自立群(15名)が混在していた.ROC曲線における曲線下面積は0.995であり,下肢荷重率は歩行自立度を判別することが可能な因子であった.感度と特異度の和が最も高くなる下肢荷重率は,83.5%であり,全症例で83.5%をカットオフ値とした場合の感度,特異度,陽性適中率,正診率は,それぞれ98.2%,94.9%,96.6%,96.9%であった.歩行自立群と非自立群が混在していた筋力範囲(0.27~0.35kgf/kg)にある症例の歩行自立度を下肢荷重率83.5%にて判別した場合の陽性適中率,正診率は81.8%,88.5%であった.
【考察】
下肢荷重率は歩行自立度を判別する上で有益な指標であった.特に,歩行自立例と非自立例が混在する筋力範囲において歩行自立度の判別が可能であったことから,等尺性膝伸展筋力測定に下肢荷重率測定を併用することで,歩行能力をより高い精度で判別することが可能になると考えられた.
【理学療法学研究としての意義】
歩行自立に必要な筋力水準やバランス能力が明らかになれば,移動動作障害の原因分析や治療方針の決定,対象者に治療の必要性を説明する際などにそれらの情報を活用することが可能となる.

著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top