理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-058
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一般演題(ポスター)
デジタルカメラによる姿勢・動作分析への活用(第2報)
斉藤 清次
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抄録

【目的】臨床の場面で動作分析を行なう時には,動作を観察して正常か異常かを判断するが,その判断の多くは経験に左右される。そのため主観的であり,セラピストによっては判断が異なることも有り得る。
臨床の場面で簡便に姿勢・動作を記録して分析する時に汎用のデジタルスチルカメラ(以下,デジタルカメラ)やデジタルビデオカメラ(以下,ビデオカメラ)を使用する方法がある。さらにパーソナルコンピュータ(以下,パソコン)と画像編集・画像処理ソフトウェアを利用することで記録した静止画や動画を基に角度や距離の計測が可能である。3次元動作解析装置に比較すれば精度の面では劣るが,臨床の場面で頻繁に使用するにはこれらの機器が最も実用的である。
1台のデジタルカメラやビデオカメラで撮影した画像からの動作分析では設置位置やズームなどの設定,レンズの構造上の特性である歪曲収差(ディストーション)による歪み,機種の違いなどによって様々な誤差が生まれる可能性があるが,これらを補正し精度をできる限り高めて,そのうえで利用していけば客観的な指標として活用できると考える。
そこで本研究では,画像の中央や左右上下端に写るように角度計を設置してデジタルカメラで撮影し,その静止画パソコンに取り込み、補正を行ない,角度計の様々な角度を計測し,その誤差について検討したので報告する。
【方法】三脚上にデジタルカメラ(Canon社製IXY DIGITAL 910IS〔有効画素数800万画素〕)を取り付けて壁に向けて設置する。デジタルカメラの高さは床から90cmに設定する。デジタルカメラの上下左右の傾きは水準器を用いて調整する。レンズ面から2m前方に角度計を画像上の中央,左右上下端の9箇所に写るように設置してデジタルカメラで撮影する。画像の中央に写る角度計を設置する位置はデジタルカメラのズームを最大にしていきながら角度計の中心部がレンズ中央に収まるように調整した。上記の環境を設定し,30°・45°・60°・90°・120°・135°・150°に角度計を設定して撮影を行なった。撮影した静止画をパソコンに取り込み,画像編集ソフトウェアAdobe社製Photoshop Elements 7で補正し画像処理ソフトウェアImage Jを用いて角度計の角度を計測した。角度の計測は3回行ない,その平均値を結果として採用した。
【説明と同意】この研究では被検者を用いていない。
【結果】画像上の左上端での誤差の範囲は+0.5°から-2.8°であった。中央上端では-0.7°から-1.5°であった。右上端では0°から-2.1°であった。左端では+1.1°から-0.5°であった。中央では+0.6°から-0.5°であった。右端では+0.5°から-1.0°であった。左下端では+2.2°から-1.5°であった。中央下端では+0.9°から-0.9°であった。右下端では+1.6°から-0.6°であった。
【考察】歪曲収差は広角レンズやズームレンズの特に広角側で発生する。この研究ではズームは最小にしているので発生しやすい。また,安価なデジタルカメラでは発生しやすい。
画像の中央では約1°,左右上下端では2°から4°程度の範囲で誤差がある。問題とならない誤差と考えられるが上下端・左右端を比較するとその誤差に違いがある。これらの機種による特性,レンズによる特性などをよく知ったうえで活用していく必要があると考える。
実際に姿勢や動作から角度を計測する際には,使用する機器の誤差を事前に把握するために角度計などを撮影してキャリブレーションを図ることで精度を高めることができると考える。
また,この研究では信頼性を高めるために角度の計測を3回行ない,平均した値を採用した。客観的なデータとして活用していくためには信頼性をできる限り高めていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】3次元動作解析システムを用いれば精度の高い動作分析が可能であるが,臨床での評価や治療の効果判定を行なう際には経費や時間の問題から日常的に使用することは難しい。そこで一般的に普及しているデジタルカメラで姿勢や動作を記録し活用する方法がある。簡単に利用できるという利点があるが客観的なデータとして活用するためには条件設定を厳密に行ない,誤差をできる限り少なくしていく必要がある。その可能性を探る目的でこの研究を行なった。

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© 2010 日本理学療法士協会
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