理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-002
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一般演題(ポスター)
咀嚼筋感覚と顔面皮膚感覚を伝える三叉神経節由来一次求心性ニューロンでの免疫組織化学的特性の比較
角田 晃啓丹羽 亜希美三木屋 良輔上田 喜敏中川 司松原 勝美松田 淳子河村 廣幸金尾 顕郎森谷 正之
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キーワード: 三叉神経, 深部感覚, 形態学
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抄録

【目的】深部感覚や表面感覚は理学療法評価の中で重要な指標である。摂食・嚥下障害患者の理学療法において、口腔顔面領域の感覚の評価は患者の状況を把握するための情報の一つになりうる。咀嚼筋感覚を伝達する一次求心線維には、その細胞体が三叉神経節に存在するタイプと三叉神経中脳路核に存在するタイプの2つがある。そのうち三叉神経節に細胞体を有するタイプのニューロンは、痛覚など筋紡錘以外の末梢受容器からの入力を伝えることが知られている。一方、顔面皮膚感覚を伝える一次求心線維の細胞体は三叉神経節に存在する。本研究では、口腔顔面領域の感覚を伝える三叉神経節由来一次求心性ニューロンの特性を解明するために、三叉神経節に存在する咬筋感覚伝達ニューロン (MasN)と顔面皮膚感覚伝達ニューロン(SknN) の細胞体でのcalcitonin gene-related peptide (CGRP)、substance P (SP)、somatostatin (SOM) の発現、IB4、cholera toxin subunit B (ChTB)に対する結合性を検索し、その特性を両者間で比較した。

【方法】実験にはSprague-Dawley系ラットを用いた。深麻酔下にてラット咬筋または震毛植立部皮膚に20% dextran-rhodamine 6μlをマイクロシリンジにて注入した。トレーサー注入4日後、動物を灌流固定して三叉神経節を摘出し、25μmの凍結切片を作成した。calcitonin gene-related peptide (CGRP)、substance P (SP)、somatostatin (SOM) に対する免疫組織化学法ならびにIB4、cholera toxin subunit B (ChTB)に対する組織化学法を施行(FITCで標識)し、蛍光顕微鏡下にて標識細胞を観察、写真撮影した。画像解析ソフト(SigmascanPro5.0)にて細胞体断面積を計測した。

【説明と同意】本課題における全ての動物実験は、NIHのガイドライン(National Institutes of Health Publication No. 86-23、1985年改訂版)に準拠して行った。また、本研究は患者の個人情報に関わる事案の取り扱いは行っておらず、倫理上の問題は生じない。

【結果】三叉神経節に存在する咬筋感覚伝達ニューロン(MasN)の細胞体断面積(平均987μm2)の方が顔面皮膚感覚の伝達に関わるニューロン(SknN)の細胞体断面積(平均680μm2)よりも大きかった。MasNにおける陽性細胞の比率はCGRP: 22%、SP: 5%、SOM: 0%、IB4: 5%、ChTB: 18%であったのに対し、SknNにおける陽性細胞の比率はCGRP: 26%、SP: 7%、SOM: 1%、IB4: 44%、ChTB: 26%であり、SOM陽性またはIB4陽性を示す細胞の比率に両者間で有意差を認めた。

【考察】三叉神経節に細胞体が存在するニューロンであっても、咀嚼筋感覚伝達に関わるニューロンと顔面皮膚感覚伝達に関わるニューロンとでは、物質発現などの特性に違いが存在することが明らかとなった。すなわち、伝達する感覚種により一次求心線維の細胞体の大きさや物質発現などの特性が異なっていることがわかった。よって、一次求心線維のレベルでは、感覚種によって診断や治療におけるアプローチが異なってくることが示唆された。

【理学療法学研究としての意義】本研究は深部感覚である咀嚼筋感覚を伝える一次求心線維と表面感覚である顔面皮膚感覚を伝える一次求心線維の免疫組織化学的特性を比較したものである。リハビリテーション臨床において、深部感覚や表面感覚は理学療法評価の中で重要な指標であり、その免疫組織化学的特性の比較を行っている本研究は理学療法学研究として有意義である。

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© 2010 日本理学療法士協会
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