理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-016
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一般演題(ポスター)
熱流束方式温冷覚閾値計を用いた痛覚閾値測定の試み
下 和弘鈴木 重行松原 貴子牛田 享宏
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キーワード: 熱流束, 検査測定, 疼痛評価
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抄録

【目的】熱流束とは,温度差のある物質間に流れる単位面積あたりの熱量をいう。日常において,同じ温度でも金属と布では温度感覚が異なることを経験する。これは熱伝導率の違いによって生じる熱流束の差を感じているからである。近年,この熱流束を用いた簡便な検査機器(以下,熱流束方式温冷覚閾値計)が開発され,これを用いた温冷覚閾値についての報告がなされるようになった(岡ら2001,田村ら2001,神野ら2006,Kabasawa et al. 2006)。熱流束方式温冷覚閾値計を用いた閾値測定の特徴として,従来の測定に比べて,被験者の皮膚温度に左右されない,短時間に複数部位の測定が可能などの利点を有する。しかし,熱流束方式温冷覚閾値計を用いた痛覚に関する検討や報告はなされていない。そこで今回,健常成人男性を対象に熱流束方式温冷覚閾値計を用いて,冷刺激を与えたときの痛覚閾値を測定し,その臨床応用について考察したので報告する。
【方法】対象は健常成人男性8名(平均年齢25.8歳±5.9歳)とした。測定部位は非利き手側の手掌中央とした。痛覚閾値の測定は熱流束方式温冷覚閾値計(インタークロス社製,warm/cold Threshold Meter Intercross-200)を使用した。この熱流束方式温冷覚閾値計は,測定プローブ,サーモコントローラおよび制御・解析装置で構成されている。プローブは熱流束センサーおよび皮膚温度センサーを組み合わせた接触面とペルチェ素子を発熱・吸熱機構として使用したサーモモジュールで構成されている。したがって,本装置では熱流束と皮膚温度の両者を同時に計測できる。測定手順は,25×25mmのプローブを皮膚表面に密着させ,プローブ表面が皮膚と同じ温度になるように設定する。この皮膚とプローブの温度が一致すると熱流束は0となる。測定は,熱流束が±30W/m2の間を4秒間持続した時点より開始した。この温度より0.1°C/secの速度でプローブ温度を変化させ,痛覚を感じた時点で,被験者にスイッチを押させた。被験者1名に対し,測定を2回行った。測定項目は,開始皮膚温度,痛覚熱流束閾値とし,測定値は平均値±標準偏差で表した。測定の再現性の検証に級内相関係数を求めた。また,開始皮膚温度と痛覚熱流束閾値との相関係数を求めた。危険率5%を有意水準とした。
【説明と同意】対象には研究の意義,目的,実験方法,個人情報保護の方法,実験に参加することにより起こりうる危険ならびに必然的に伴う不快な状態について十分説明し,同意を得て測定を行った。
【結果】痛覚閾値の測定開始時の皮膚温度は35.5±1.0°Cであった。冷刺激による痛覚熱流束閾値は2922±889W/m2(1279~4213 W/m2)であった。級内相関係数は0.71であった。開始皮膚温と痛覚熱流束閾値との間で相関係数はr=0.10(p=0.71)であり,相関関係は認められなかった。
【考察】級内相関係数は0.7以上で再現性が良好とされている。今回,痛覚熱流束閾値は級内相関係数が0.71であり,本研究の測定法が一定の再現性を有することが示された。また,測定開始時の皮膚温度と痛覚熱流束閾値との間に相関関係を認めなったことから,温冷覚閾値に関する先行研究同様に,本研究の測定法は被験者の皮膚温度に左右されずに痛覚閾値が測定できる可能性を示した。従来の測定では,初期皮膚温度をある一定温度(多くの報告は32°C)に設定する必要があり,冷覚や痛覚に異常を呈する患者では設定された初期皮膚温度の時点で痛覚を感じ,測定が困難あるいは不可能になる例がみられた。しかし,本研究の測定では,被験者の皮膚温度を基準に測定を開始することができるため,そうした患者に対しても測定が可能と考えられる。ただし,本研究の結果は,若年者を中心とした少人数の対象からの結果であり,今後は対象の年齢層を広げ,人数を増やし,測定の再現性の検証,健常者の痛覚閾値の基準値の検討を行い,実際に痛覚異常をきたす患者を対象とした評価へと応用させたい。
【理学療法学研究としての意義】神経因性疼痛患者の中には,冷覚や痛覚に異常をきたし,cold allodynia とよばれる症状を呈する患者がいる。しかし,cold allodynia を定量的に評価する方法は未だ確立されていない。本研究は,cold allodynia の定量的な評価法の確立への発展性を有している。

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© 2010 日本理学療法士協会
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