理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-030
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一般演題(ポスター)
二分脊椎者の歩行分析
運動特性に適合した装具に関する研究
糸数 昌史山本 澄子
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抄録

【目的】L4-L5レベルの二分脊椎症患者は歩行可能な者が多いが、下肢の抗重力筋として用いられる筋は大腿四頭筋が優位であるために、立位では膝を屈曲させて前方につきだし、体幹を後方に反らせた代償的な姿勢をとることが多い。また歩容は重心を後方に偏位させたまま、重心の上下動が少なく膝関節伸展筋の筋力による支持と体幹の側屈・回旋動作による下肢振り出し動作に頼った代償的な歩容を示す。装具は短下肢装具が処方され、日常的に着用している者も多く、足継手により背屈を制限することで、下腿前面に体重を支持しながら立位保持や歩行を行っている。しかし、前述した代償的な姿勢や歩容は膝関節と腰部への負担が大きいことが予想され、長期的には膝関節や腰部の痛みへとつながることで、歩行能力の維持が難しくなるケースも多い。そこで、本研究の目的は、二分脊椎患者の歩行分析を行うことで、その運動特性を運動学的・運動力学的に評価することと、短下肢装具への背屈制動機能の付加が歩行パラメータに与える影響を調べ、検討することとした。
【方法】対象者はL4-L5レベルの二分脊椎症患者3名であり、日常生活において両下肢に短下肢装具を着用しており、杖や歩行器などは必要なく歩行可能な者とした。歩行の評価は距離時間因子として、歩行速度・歩幅・歩行率を求めた。また、赤外線カメラ8台と床反力計6枚で構成される三次元動作分析装置(VICON612)を用いて、関節角度・関節モーメント・パワー・COGの鉛直・進行方向の移動量を求めた。計測課題は10mの直線路を快適な速度での歩行とした。計測条件は、1)裸足 2)日常用短下肢装具 3)背屈制動つき短下肢装具 の3条件とし、8試行をそれぞれ行った。データ分析は、各被験者別に各パラメータの試行間の平均値を求め、条件間で比較した。統計処理は一元配置分散分析を用い、その後多重比較検定(Tukey’s HSD test)により、それぞれの群間比較を行った。なお、統計処理における有意性は危険率5%水準で判定した。
【説明と同意】本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を受けた。また、被験者とその家族には本研究の目的・方法・リスクの説明を行い、書面による同意を得た。
【結果】背屈制動つき短下肢装具では他の2条件と比べて、歩幅の減少と歩行率の増加が認められたが、歩行速度は大きな変化は見られなかった。立脚期における膝関節伸展モーメントは背屈制動つき短下肢装具の条件において有意な減少が認められた。COGの鉛直方向の動きは1歩行周期間で大きく、踵接地から立脚中期にかけてのCOGの急激な落ち込みがみられなかった。また、COGの進行方向の動きでは、両脚支持期における重心の後方への偏位がなくなり、前方へ移動する傾向が認められた。
【考察】L4-L5レベルの二分脊椎症患者は立脚初期~中期にかけての過度な膝関節の屈曲と足関節の背屈が生じ、ロッカー機構がみられない。また、立脚後期における下腿三頭筋の求心性収縮による蹴り出し動作が困難になることから、体幹の回旋・側屈といった代償的な手段で歩幅を伸ばして歩行速度を維持していることが考えられた。背屈制動機能つき短下肢装具を用いることで、大きな歩行速度の変化はみられなかったが、歩幅の減少がみられ、歩行率が増加した。また、COGの鉛直方向の動きも大きく、重心が後方へ残ることがなくなり、効果的に重心を前へ運ぶことができるようになった。このことから、代償的に歩幅を大きくとる歩容から、重心を積極的に前方へ移動させて、下肢を効果的に振り出す歩容へと変化し、歩行速度を維持するために歩行率を高める歩行戦略となったと考えられる。また、膝関節伸展モーメントが減少したことで、膝関節伸展筋の活動性が低くなり、負担の軽減につながったと考えられる。今回は、短下肢装具による背屈制動機能が立脚初期にみられる足関節底屈筋群の遠心性収縮による足関節背屈コントロールの補助になりうるかということに注目して研究を行い、歩行パラメータの変化から歩行速度を維持するための歩行戦略が変化したことが考えられた。今後は多くの被験者でのデータを検討することと、装具の特徴を生かした理学療法を行った上での長期的な評価が必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は歩行可能な二分脊椎症患者への歩容が短下肢装具の足継手の機能によって変化しうることを示すことができ、二分脊椎症患者への理学療法の新たな展開につながると思われる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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