理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-038
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一般演題(ポスター)
臨床経験年数の違いによるCraig test の検者間・検者内信頼性の検討
荒川 達也下井 俊典丸山 仁司
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抄録

【目的】
大腿骨は、大腿骨頸部が前方に捻じれている骨形態を呈しており、前捻角が存在する。前捻角は、正常8~15°呈しており、正常より大きいものを内捻、小さいものは外捻と呼ばれている。前捻角を測定する方法として、レントゲンやCTなどによる方法がよく知られている。しかし、これら方法の他に、臨床場面で簡便に測定可能な Craig testが存在する。Craig test とは、被検者を腹臥位、膝関節屈曲90°とし、股関節を他動的に回旋させ、大転子が最も外側に突出した位置にて測定を行い、股関節回旋角度を前捻角とする方法である。この方法は、大転子を触診しながら測定を行うため、触診技術を要する。Ruweら(1992)の先行研究により、Craig test はレントゲン及びCTと強い相関関係があり、臨床的に前捻角を測定する手段として有効な方法であるといわれている。同先行研究の中で、検者内信頼性については、ピアソンの相関係数で0.941を示しており、医師と理学療法士の検者間信頼性については、ピアソンの相関係数で0.774を示している。しかし、経験年数の違う理学療法士同士での検者間・検者内信頼性や絶対信頼性については、明らかになっていない。そこで今回、臨床の経験年数が違う理学療法士での検者間・検者内信頼性について、絶対信頼性の観点から検討したので、ここに報告する。
【方法】
健常男性32名、64肢(年齢:21.8±1.3歳、身長:172.5±5.1cm、体重:63.8±7.3kg、BMI:21.4±2.0)を対象とした。検者は臨床経験1年目(以下、検者A)と臨床経験6年目(以下、検者B)の2名により測定を行った。測定において、それぞれの検者に測定値を知られないようにするため、記録者を1名用意した。角度計には、軸付き傾斜計を使用し、1°単位で記録した。測定方法は、被検者を検査台に腹臥位、膝関節90°屈曲位にし、大腿骨顆部軸が検査台と平行になる位置で、軸付き傾斜計が0°になるよう下腿に固定した。1肢につき、それぞれ検者が2回ずつ交互に測定を行い、お互いに測定場面がみえないように考慮した。測定の信頼性の検討には、相対信頼性として級内相関係数(ICC)と、絶対信頼性としてBland-Altman分析を用いた。

【説明と同意】
研究者は、国際医療福祉大学の臨床研究の倫理に関する講習会を受講済みである。被検者には、書面にて研究内容について十分に説明し、同意を得た。

【結果】
Craig testの検者内信頼性に関して、ICC(1,1)は検者A、Bでそれぞれ0.88、0.87となった。Bland-Altman分析では、検者Bでは加算・比例誤差のいずれも認められなかったが、検者Aでは加算誤差が認められた。Craig testの検者間信頼性に関して、ICC(2,1)は測定1回目、2回目でそれぞれ0.70、0.73となった。Bland-Altman分析では、測定1回目、2回目ともに加算・比例誤差のいずれも認められなかった。

【考察】
本研究の結果から、いずれの検者の検者内信頼性についても、ICCで“good”と判断できた。Bland-Altman分析で臨床経験が長い検者Bでは加算誤差、比例誤差が認められなかった。対して、経験年数の短い検者Aでは比例誤差は認められなかったが、加算誤差が認められた。しかし、検者AのICCが高値を示していることから、加算誤差を無視できると考える。これらにより、経験年数の違いはCraig test の検者内信頼性に影響しないことが明らかとなった。検者間信頼性については、ICCで1回目、2回目ともに“fair”と判断できた。Bland-Altman分析では、1回目、2回目ともに加算誤差、比例誤差が認められなかったが、ICCで十分な値を得られていなく、経験年数の違いによって、偶然誤差を認めないとは言い難いと考える。臨床経験の長い検者Bでは、いずれの系統誤差が認められなかったため、臨床経験の長い理学療法士の方が測定値に信頼性があるといえる。臨床経験が短い検者は、測定2回目のICCで1回目よりも高いICCを得られているため、測定を複数回行うことで、信頼性を高めることが可能でないかと考える。今回の研究から、臨床経験の違いによって、系統誤差が認められないのは明らかになった。しかし、偶然誤差に関しては、検者内信頼性では十分な値が得られたが、検者間信頼性では十分な値が認められなかったため、再び検討する必要性があると考える。今後、測定の平均誤差(SEM)や最小可検変化量(MDC)を用いて、臨床的に意義のある最小変化量を明らかにすることで、Craig testの検者間信頼性について、明確になってくると考える。

【理学療法学研究としての意義】
臨床経験の違いによるCraig test の検者間・検者内信頼性を検討することで、大腿骨前捻角の評価方法が、臨床的に有用であるかを明らかにすることが可能になる。



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© 2010 日本理学療法士協会
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