理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-076
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一般演題(ポスター)
ロッキングチェアによるリラクゼーション効果について
細木 一成福山 勝彦鈴木 学丸山 仁司
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抄録

【目的】
国立社会保障・人口問題研究所が発表した西暦2050年の日本人の平均寿命は、男性80.9歳、女性89.2歳と予測している。このように平均寿命は伸び今後、高齢者の数がますます増加してくるのは明白である。時間的に制約のある病院、介護老人施設、訪問リハビリテーションで理学療法士が行う個別の理学療法は限界があり、病院や施設内、在宅で後部体幹筋などのリラクゼーション効果を得ることは不十分で、理学療法を有効に活用できないと考える。体幹筋の筋緊張の軽減や、リラクゼーション効果を得る手段として、乗馬療法やフィットネス機器のジョーバなどが多く研究され紹介されている。その中でもジョーバは簡便に行えるが、立位、座位バランス能力が低下した高齢者においては、使用することが困難であろうと予測する。これに対する一つ手段として、座位にて振幅運動を利用したロッキングチェアによる運動により同様の効果が得られないかと考えた。ロッキングチェアよるリラクゼーション効果判定の手段として、施行前後のFFD(finger-floor distance)および重心の前方移動距離の変化を測定し、若干の知見を得たので報告する。

【方法】
被験者は理学療法士養成校に在学する腰痛等に既往のない成人男女10名(男性5名、女性5名、平均年齢24.1±6.2歳)とした。
5分間の安静座位を取らせた後FFDおよび重心の前方移動能力の測定を行なった。方移動能力の測定は福山らの方法に順次、アニマ社製グラビコーダGS-10を使用した。被検者を床反力計上に5cm開脚位、2m前方の目の高さにある目標点を注視して起立させた。まず10秒間の安静時重心動揺を測定した。次に体幹を屈曲させたり踵を浮かせたりすることなく身体を前方に最大移動した状態で保持させ、10秒間の重心動揺を測定した。前方移動時のMY(MEAN OF Y:動揺平均中心偏位)値から安静時のMY値を減じ、さらに足長(踵の後面から第1趾先端までの距離)で除し前方移動能力とした。次に被験者をロッキングチェア(風間家具のヨーロッパタイプ)上に安楽と思われる姿勢で座らせた。床に足底を接地した状態で、下肢の筋力を使わず体幹筋の運動により10分間、前後に揺らすことを指示した。振幅させる周期は被験者の任意とし10分間安楽に行なえるように配慮した。ロッキングチェアでの10分間の運動後、運動前と同様の方法でFFDと前方移動能力の測定を行なった。
運動前後のFFDおよび前方移動能力の値についてウィルコクソンの符号順位和検定を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。なお統計処理には統計解析ソフトSPSS 11.5J for Windowsを使用した。
【説明と同意】
被験者に対し目的・方法を十分説明し理解、同意を得られた方のみ実施した。実施中に体調不良となった場合は速やかに中止すること、途中で被験者自身が撤回、中断する権利があり、その後になんら不利益を生じず、また個人情報は厳重に管理することを伝えた。
【結果】
FFDは運動前で平均2.1cm±10.9cm、運動後で平均5.2cm±11.4cmと運動後に有意に増加した(p<0.05)。前方移動能力は平均27.4%±8.2%、運動後で平均31.7%±4.8%と運動後に有意に増加した(p<0.05)。
【考察】
今回のロッキングチェアでの運動によりFFD、前方移動能力が増大したことについては、後部体幹筋、下腿後面筋に対するリラクゼーション効果により体幹、下肢の柔軟性が増大したものと推察する。佐々木らによれば体幹の筋緊張、体幹回旋筋力といった体幹部分の機能異常や能力低下が、寝返り、起き上がりなどの動作を困難にしていると述べている。高齢者の寝返り、起き上がりなどの基本動作能力の維持・向上を考えると個別に行なう理学療法以外に、高齢者自身が行う自主的な運動が必要となってくる。このような運動は継続することが重要で、簡便さが必要になり複雑な運動や、負荷が強ければ継続が困難となる。簡便で安価に導入できるロッキングチェアの持続運動は、体幹筋の過緊張が原因で寝返り、起き上がりが困難となっている高齢者に対して、有効で動作の遂行に好影響を及ぼすものと推測する。
【理学療法研究としての意義】
ロッキングチェアを使用した持続運動は後部体幹筋、下腿後面筋に対するリラクゼーションに効果があり、高齢者自身が行う運動に対し有効であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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