理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-080
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一般演題(ポスター)
側臥位での股関節開排運動における外転筋群筋活動
股関節屈曲角度の違いが及ぼす影響
立松 加寿子齊藤 明松本 仁美海老澤 恵南谷 晶花山 耕三正門 由久
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抄録
【目的】股関節外転に作用する大腿筋膜張筋、中殿筋、大殿筋は片脚立位時の骨盤安定化に関与している。これら中殿筋をはじめとする股関節外転筋群の筋活動については、股関節屈曲角度や回旋角度が与える影響についての報告があるが、測定肢位など方法により異なる結果が得られている。これらの報告は背臥位や座位で測定されており、日常の臨床場面で用いられている側臥位での股関節外転筋群筋活動の変化を報告したものは少ない。臨床においてより効果的に股関節外転筋群に対するトレーニングを行うためには、実際によく用いられている肢位での運動学的分析が必要と考えられる。そこで本研究では、側臥位での股関節開排運動において、股関節屈曲角度の違いが外転筋群筋活動に及ぼす影響について筋電図を用いて検討した。

【方法】対象は下肢に既往のない健常成人9名(男性5名、女性4名、平均年齢28.0±4.6歳、平均身長167.4±9.8cm、平均体重61.8±11.7kg)とした。測定肢位は側臥位、股関節外転10°、膝関節屈曲90°、足関節中間位とし、測定条件を股関節屈曲角度30°、60°、90°と設定した。はじめにDanielsらの徒手筋力検査法にて、各被験筋における5秒間の最大等尺性収縮時の筋電図を2分間の休息を挟みながら2回測定した。次に、各測定条件において、代償動作の防止のために骨盤帯を台にベルトで十分に固定し、5秒間の股関節開排運動における最大随意等尺性収縮時の筋電図を2分間の休息を挟みながら3回(合計9回)測定した。測定順序は、疲労、学習効果を相殺するためランダムに配置した。被験筋は利き脚(ボールを蹴る脚)の大腿筋膜張筋、中殿筋、大殿筋上部線維、大殿筋下部線維、大腿直筋とした。表面筋電図の測定には、Noraxon社製Telemyo2400を用い、各被験筋に表面電極(電極中心間隔2cm)を貼付し、筋電位を双極に導出した。解析には解析ソフトマイオリサーチXPを使用した。得られた筋電波形は全波整流し、筋出力時間5秒間のうち中間3秒間のデータを積分(以下IEMG)し、3回の平均IEMGを求めた。各被験筋のMMT肢位での最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化(以下%IEMG)し、各条件の比較を行った。統計学的分析には、SPSS社製PASW Statistics17.0を用いた。各条件の比較にはFriedman検定、多重比較にはBonferroniの検定を行った。有意水準は5%未満とした。

【説明と同意】対象には、本研究の趣旨を口頭および書面にて十分説明した上で同意を得た。尚、本研究は東海大学医学部付属病院臨床研究審査委員部会(受付番号第09R-113号)定例委員会審査にて承認を得ている。

【結果】以下、各被験筋中央値(四分位範囲)%IEMGについて屈曲30°、60°、90°の順に結果を示す。大腿筋膜張筋は7.7(5.4‐11.5)%、8.1(4.8‐16.6)%、7.1(4.2‐15.5)%、中殿筋は18.2(9.2‐22.6)%、19.2(13.0‐28.0)%、20.5(14.0‐34.6)%、大殿筋上部線維は13.1(10.1‐24.9)%、20.1(16.9‐34.2)%、28.8(18.9‐55.6)%、大殿筋下部線維は4.3(1.4‐9.1)%、5.0(2.6‐9.4)%、7.3(5.7‐11.3)%、大腿直筋は9.6(5.8‐15.0)%、13.0(5.3‐17.7)%、13.8(7.2‐28.0)%であった。各条件間においては、大殿筋下部線維および大腿直筋では股関節屈曲90°が屈曲30°、60°と比較し有意に高値を示した(p<0.05)。その他の筋については、各条件間において統計学的に有意な差を認めなかった。

【考察】大腿筋膜張筋の筋活動が股関節屈曲角度の変化に影響を受けなかったのは、大腿筋膜張筋が股関節屈曲の働きを持つ筋であり、屈曲角度が増加するにつれて筋長が短くなり筋収縮の効率が低下したためと考えられた。中殿筋、大殿筋上部線維、大殿筋下部線維においては、股関節屈曲角度が増加するにつれて筋が伸張される状態となり、筋収縮効率が高められたことにより筋活動が増加したと考えられた。開排運動は股関節外転、外旋、伸展の複合運動であることから、股関節屈曲位において中殿筋と比較して大殿筋上部線維がより働きやすい状態であったと考えられた。大腿直筋については股関節屈曲の作用があり、股関節屈曲角度増加に伴い筋長は短くなるが、股関節から筋までの距離は増加するため、股関節に対するモーメントアームが長くなり、筋活動量が増加したと考えられた。

【理学療法学研究としての意義】臨床場面で用いられている肢位にて筋活動を測定することにより、ターゲットとする筋に効果的な運動方法であるかを検討した。本研究結果から、股関節屈曲角度の増加に伴い、側臥位での股関節開排運動における外転筋群筋活動は増加する傾向がみられた。今後は、この運動方法にて筋力増強訓練を行い、その効果について検討していきたい。
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© 2010 日本理学療法士協会
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