理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-021
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一般演題(ポスター)
姿勢制御能力とハムストリングス/大腿四頭筋筋トルク比の関係
粕渕 賢志藤田 浩之福本 貴彦
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キーワード: 姿勢制御, H/Q比, 膝動揺
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抄録

【目的】

立位の保持には、視覚、前庭迷路や足底の圧および触受容器、下肢筋の固有受容器、関節器官などの体性感覚からの情報感覚が関与している。バランス機能評価として不意な外乱を与えることによる膝の動揺や下肢の反応能力を、膝関節の加速度をみることにより評価している報告が多くみられる。また両下肢の機能として一側優位性が報告されており、両・片脚起立において左足は右足より支持性が高く直立姿勢を支持し、右足は運動作用の役をなすとされている。バランス機能と筋力に関する報告は多く、片脚バランス能に右下肢では前後動揺と膝筋力との間に相関関係があり、左下肢では膝筋力と相関が認められなかったという報告もある。しかし、筋力の評価において膝周囲の筋バランス指標であるハムストリングス/大腿四頭筋筋トルク比(以下H/Q比)を用いた報告は少ない。 よって、今回の研究の目的は、不意な外乱を与えることによる膝の動揺とH/Q比の関係をみることと、下肢の一側優位性から左右差が認められるかを調査することとした。
【方法】
対象は、下肢に整形外科疾患の既往がない健常成人8名(男性3名、女性5名)。平均年齢24.3±1.3歳。8人とも右利きであった。3軸加速度計MA-3-10Ac(MicroStone株式会社)を対象者の両側の外側上顆と不安定板上にそれぞれ貼付固定した。不安定板は底が円柱状で左右方向のみ動揺するものを使用した。被験者には不安定板上で立位姿勢をとらせ、なるべく姿勢を維持するように指示した。次に被験者に見えない後方から不意に不安定板を傾斜させた。この傾斜に対しても姿勢を保持するように指示を行った。不安定板は左右各3回ずつ傾斜させた。不安定板の揺れを標準化するために、無次元化([膝の加速度]/[不安定板の加速度])し、側方動揺の最大値と3軸の合成最大値を膝動揺の指標とした。加速度データのサンプリング周波数は100Hzとした。等速性筋力はSystem3 ver.3.33(BIODEXSYSTEMS)にて測定した。角速度60度/秒、180度/秒にて求心性の膝伸展筋力と膝屈曲筋力を左右各3回測定し、体重補正した膝伸展筋力と膝屈曲筋力を用いてH/Q比を算出した。各相関はPearson相関係数を求め、危険率を0.05未満で有意とした。
【説明と同意】
被験者に対し研究の説明を行い、同意を得られた者のみデータを採用した。
【結果】
不安定板傾斜時の左膝動揺の3軸合成最大値と左下肢の角速度180度/秒の等速性筋力の間に有意な相関を認めた(r=-0.738,p<0.05)。そのほかの膝の動揺とH/Q比には相関は認められなかった。
【考察】
左下肢の角速度180度/秒のH/Q比が高いほど、左下肢の膝の動揺は軽減する傾向にあった。しかし、そのほかの膝の動揺とH/Q比には相関は認められなかった。左下肢で相関がみられたのは、被験者全員が右利きであり、左足は右足より支持性が高いと報告されていることから、支持性を高めるために膝周囲の筋バランスが右下肢よりも必要であることを示している。また角速度60度/秒のH/Q比では相関を認めず、角速度180度/秒のH/Q比で相関が認められたことより、姿勢制御にはその瞬間の筋力発揮が必要であり、速い速度で筋力がバランス良く使用できることが重要であると示している。膝の動揺に対して筋力比が関与していたため、膝の動揺を軽減させていくためには膝周囲の筋力の値だけではなく、H/Q比も考慮した理学療法プログラムを考案し、実施していく必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今回健常成人の動的バランスの姿勢制御において、筋力比であるH/Q比が関与していることが示された。これよりH/Q比を考慮することにより、より効果的にバランス機能を向上させることができると考えられる。また、高齢者への姿勢制御能力を向上させることにも応用が可能であるのではないかと思われる。
理学療法を施行するにあたり、筋力について新たな一面から捉えることができるため、今後筋力比を筋力の評価方法の新たな指標にすることが可能であると考える。
今後はH/Q比と前後、上下方向の動揺の関係や、性差、年齢差による違いを調査し、膝関節の動揺が小さくなる最適な筋力比の数値を調査していきたい。またそのほかの筋力比と姿勢制御能力の関係を検証していきたい。

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© 2010 日本理学療法士協会
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