理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-077
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一般演題(口述)
脳性麻痺児・者に対するアキレス腱延長術における術後疼痛とギプス固定期間の検討
楠本 泰士西野 展正松尾 沙弥香古谷 槙子
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抄録

【目的】高度尖足をようする脳性麻痺児・者(以下CP児・者)や片麻痺者に対する整形外科的手術として選択的痙性コントロール術や関節固定術に併用してアキレス腱延長術が行われる。しかし、術後のギプス固定期間は施設間でばらつきがあり、後療法は明確ではない。また、アキレス腱延長術後は荷重時に踵骨底面や距腿関節部に疼痛を訴えることが多いが、術後の疼痛や固定期間に関する報告はない。今回、アキレス腱延長術を施行した患者の術後経過を調査し、疼痛予防・荷重練習の治療方略について検討した。

【方法】2007年4月から2009年3月の間に当院でアキレス腱延長術を行った全47例中、粗大運動能力分類システム(以下GMFCS)1~3レベルで関節固定術を含まないCP児・者34例(男性24例、女性10例、平均年齢13.9[3-36]歳)を対象とした。まず(1)荷重開始からの疼痛の有無・部位を調べ、部位別に疼痛消失までの疼痛期間をMann-Whitney 順位和検定を用いて検討した。次に(2)疼痛期間が2週未満の群(以下消失群)と2週以上続いた群(以下持続群)に分類した。2群間の年齢、BMI、術前の動的尖足度、GMFCS、同一放射線技師が荷重位にて撮った術前レントゲンのMTB angle 、TC angle 、TC index 、アキレス腱延長量、解離筋数、術後固定期間、術後入院期間をMann-Whitney 順位和検定を用いて検討した。最後に(3)対象をギプス固定期間により4週群、5週群、6週群に分類し、3群間の疼痛期間とアキレス腱延長量、年齢をKruskal Wallis 順位検定、Bonferroni 補正Mann-Whitney 検定を用いて検討した。各々の術後経過を診療記録より後方視的に調査し、統計解析の有意水準を5%とした。なお、術後のリハビリテーションは立位・歩行能力の早期獲得を目的に全例で退院まで実施した。固定期間を非荷重とし、固定除去後は術側足関節を金属支柱付き短下肢装具にて固定し荷重を開始した。荷重量は医師の判断と疼痛所見を指標とし、適宜増加した。

【説明と同意】全例で同意を得てリハビリテーションを実施し、倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。

【結果】(1)術後荷重時の疼痛発生率は91.8%(34例中31例)で、発生部位は踵骨隆起47.6%(16例)、大腿部35.3%(12例)、アキレス腱23.5%(8例)、足底内側アーチ17.6%(6例)、距腿関節11.8%(4例)、リスフラン関節8.8%(3例)、ショパール関節2.9%(1例)だった。疼痛期間は踵骨底面とアキレス腱が大腿部と比べ有意に長く(p<0.05)、持続群で多い傾向にあった。(2)2群間では年齢のみ有意な差を認め、消失群(17例)が持続群(17例)と比べ有意に低かった(p<0.05)。(3)固定期間の異なる3群間で疼痛期間に有意な差を認め、4週群と6週群、5週群と6週群の間で6週群が有意に長かった(p<0.05)。

【考察】(1)踵骨底面の疼痛発生が最も高率だった理由としてCP児・者は尖足歩行のため踵接地の機会が少なく、踵骨隆起の突出強く皮膚組織が柔らかいことが考えられる。大腿部痛は固定による廃用性筋力低下と考えられ、アキレス腱痛はBMIや延長量、そして今回調査しなかった術後の活動性や足部可動域が関与すると思われる。(2)消失群が有意に低年齢だったのは、低年齢のため組織対応が早く、結果疼痛期間が短くなったと考えられる。疼痛期間の最も長い踵骨隆起の早期疼痛消失が大きく関与していると推察される。 (3)6週群の疼痛期間が4週群、5週群より有意に長かった理由として、足底やアキレス腱への適刺激の遅延が疼痛の延長に関与したと考えられる。以上のことから、固定期間の短縮化や術後疼痛の長期持続が歩行の阻害因子となる可能性が推察された。したがって、アキレス腱延長後のリハビリテーションでは、疼痛の早期消失を目標に術前の状態から各種疼痛部位を予測しアキレス腱に負担のない状態で踵骨・足底への早期荷重練習を実施すべきである。

【理学療法学研究としての意義】本研究はCP児・者に対する整形外科的手術における適切な固定期間や後療法のEBPTとなりうる。今後は術前後の足部可動域や術後矯正された足部の状態の検討も加え、装具装着期間や装具離脱へむけたリハビリテーションの再考が必要である。

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© 2010 日本理学療法士協会
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