理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-085
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一般演題(口述)
家族を中心とした療育の評価 日本語版The Measure of Processes of Care(MPOC)の開発
パイロット版の信頼性・妥当性の検討
樋室 伸顕小塚 直樹井上 和広
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キーワード: 評価, 家族, 療育
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抄録

【目的】家族を中心とした療育を評価するThe Measure of Processes of Care(以下MPOC)の日本語版の計量心理学的評価を,日本語版翻訳,信頼性・妥当性の検証により行うことを目的として,本研究では日本語版MPOCのパイロット版を作成し,北海道内の療育施設を利用する子どもの親を対象としたフィールドテストを実施した。MPOCとは,カナダで開発された5領域56項目からなる質問式の評価法であり,どれくらい家族を中心として療育が実施されているか,療育の中身に対する家族の思いや考えを評価するものである。
【方法】原版の英語版MPOCを,開発者(McMaster大学,Rosenbaum博士)の了解を得てから二人(理学療法士,経験28年,経験9年)で別々に日本語に翻訳し,それらを統合したものを英語に逆翻訳した。開発者から逆翻訳版の確認をとり,承認されたものを本研究における日本語版MPOCのパイロット版とした。妥当性研究は,カナダの妥当性研究の方法を参考に,信頼性・妥当性を検討した。北海道内の5つの療育施設に通う0~17歳の子どもの親108人を対象とした。日本語版MPOC,満足度の評価,親と子どもに関する質問,ストレス評価を施設職員から親へ配布し,親が回答後,同封の返信用封筒にて大学への郵送により回収した。なお本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て行った。
【説明と同意】対象となる施設の施設長に口頭と書面で本研究について説明を行い,署名捺印による同意を得た上でデータ収集を行った。対象となる子どもの親には書面による説明を行い,回答・返信したことを同意とした。
【結果】5領域すべてにおいて高い内的一貫性(Cronbachα係数が0.89~0.96)が示され,信頼性が確認された。各質問項目と,その項目を含む領域の相関はrs=0.55~0.83であった(p<0.01)。各領域間の相関は,r=0.66~0.95であった(p<0.01)。それら各領域の構成に関する確証的分析により,日本語版MPOCの構成概念妥当性が確認された。日本語版MPOCと満足度の間の相関はrs=0.61~0.78であった(p<0.01)。また,日本語版MPOCと療育を受けていることに対する親のストレスにはrs=-0.41~-0.59と負の相関が見られた(p<0.01)。これらにより同時妥当性が確認された。以上の結果はカナダでの妥当性研究と類似したものであった。
【考察】日本語版MPOCのパイロット版は,内的一貫性,各領域の構成に関する確証的分析,満足度とストレスとの相関,カナダの妥当性研究との比較から,高い信頼性・妥当性が明らかになった。今後さらに言葉の修正,再テスト信頼性の検証を行う課題が残されているものの,日本語版MPOCが,日本国内での臨床,研究での使用の可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】障がいを持つ子どもとその家族を支える理学療法の最大の目的は,家族全員のQuality of lifeを高めることである。重要なことは子どもの発達を全体として支えることである。子どもの発達や機能の獲得は,様々な因子とのダイナミックな相互作用の結果,家庭や地域社会というコンテクスト(context)の中で見られる。したがって理学療法の効果は,粗大運動,機能面,認知機能などとともに,発達に大きな影響を与える家族,特に「家族の思い」を考慮しなければならない。家族の思いや考えを評価するMPOCを日本で使用することは,障がいを持つ子どもとその家族へのより効果的な理学療法のためにとても有用であると考えた。

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© 2010 日本理学療法士協会
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