理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-068
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一般演題(ポスター)
クモ膜下出血におけるNIHSSを用いた早期転帰予測の検討
堀切 康平塚田 陽一上野 貴大松谷 実榎本 陽介強瀬 敏正青木 恭兵富井 美妃中浦 由美子荻野 雅史野内 宏之本多 良彦高松 浩
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抄録

【目的】クモ膜下出血(以下SAH)は、急性期における脳血管攣縮、水頭症などの合併症を認めることが多く、臨床的特徴は脳梗塞、脳出血とは大きく異なる。急性期に病態が大きく変化するSAHでは、急性期治療が長期化することもあり、そのため、SAH症例における早期予後予測は難しいとされている。当院でも、脳卒中を対象に、N I H Stroke Scale(以下NIHSS)を用いた早期転帰予測を試験的に行っているが、SAHでは、予測結果から逸脱する傾向が認められ、除外対象としてきた。今回、SAHの早期転帰予測の可能性を模索することを目的に、NIHSSを用い、付加的に病態評価を併せた早期転帰予測の可能性について検討した。
【方法】対象は、平成20年8月1日から平成21年7月31日までの1年間にSAHにより当院に入院し、リハビリテーション部に依頼のあった27例(男性14例、女性13例、年齢59.2±13.0歳)とした。理学療法初回介入時にNIHSSを評価し、得点からA群(0pt≦NIHSS≦6pt)、B群(7pt≦NIHSS≦14pt)、C群(15pt≦NIHSS)の3群に分類した。各群における症例数、転帰先、破裂脳動脈瘤重症度、合併症の有無を調査した。破裂脳動脈瘤重症度については、Hunt & Kosnik Grade(以下Grade)を用いた。合併症については、脳血管攣縮後の梗塞の有無、V-Pシャント術施行の有無について調査した。
【説明と同意】本研究の趣旨について本人もしくは家族に説明し、同意を得た上で検討を行った。
【結果】各群の症例数は、A群:13例、B群:4例、C群:10例であった。各群のNIHSS得点は、A群:2.8±1.8pt、B群:10.8±2.6pt、C群:28.8±8.2pt であった。転帰先の内訳はA群:自宅退院12例、転院1例、死亡0例、B群:自宅退院2例、転院2例、死亡0例、C群:自宅退院2例、転院4例、死亡4例であった。Gradeについては、Grade1から5の順にA群:4例、6例、2例、0例、1例、B群:0例、3例、0例、1例、0例、C群:1例、1例、0例、1例、7例であった。脳血管攣縮後の梗塞合併例、V-Pシャント術施行例は、A群3例、B群2例、C群7例であった。
【考察】A群では、1症例を除き自宅退院の転帰となったことから、傾向としては自宅退院の可能性が高いと考える。唯一転院した症例は、破裂脳動脈瘤の重症度において最も重症にあたるGrade5であった。これらから、初期NIHSS 6pt以下の軽症例については、病態評価から強い否定的因子を認めない限り、自宅退院の予測が可能と考えた。B群では、自宅退院2例、転院2例、C群では、自宅退院2例、転院4例、死亡4例という転帰を示し、理学療法初回介入時のNIHSSのみによる早期転帰予測は難しいと言わざるを得ない。NIHSS 7pt以上の中等度、重症例については、理学療法初回介入時のNIHSSのみならず、Gradeや、脳血管攣縮後の梗塞の有無、V-Pシャント術施行の有無といった合併症を中心とした病態評価を併せた上での転帰予測が望まれると考える。B群、C群における自宅退院例の術後合併症を含めた病態評価を見てみると、極めて予後が不良とされるGrade5の症例、水頭症を合併し、V-Pシャント術を施行した症例が存在した。これはいずれも、急性期の病態評価結果からは自宅退院は予測されにくい症例であり、過大解釈かもしれないが、SAHにおける転帰予測では、急性期治療後の回復の度合いも一つの因子となる可能性は否定できない。つまり、SAHにおいては、理学療法初回介入時からの早期転帰予測には固執せず、Gradeなどの病態、合併症といった病態変化に柔軟に対応した2~3週の経過を考慮した上での転帰予測を行うべきと考える。NIHSSを経時的に評価し、合併症による神経症状の変化を追い、転帰予測に役立てる等、新たな方法を今後も検討していく必要性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】SAHの場合、脳梗塞・脳出血例とは異なる転帰を辿ることを確認できたことは今後の臨床において有意義であった。今回、予後予測や転帰予測に関する過去の報告が少ないSAHを対象に1年間という期間で、NIHSSを用いた転帰予測を検討し、早期転帰予測に固執することの危険性と今後の課題が明らかとなったことに意義があると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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