理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-135
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一般演題(ポスター)
退院時まで感覚障害を呈した後縦靭帯骨化症の患者に対し、歩行獲得に向けアプローチをした、一症例
清塚 まり子井上 大介平石 武士
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抄録

【目的】
頸椎胸椎後縦靭帯骨化症(以下、OPLL)に対し、手術を施行した症例の理学療法を経験した。脊椎疾患に対する、体幹筋力強化や感覚障害についての報告はあるが、動的バランスについての報告は少ない。今回、退院時まで感覚障害を呈していながら、杖なし歩行(以下、独歩)を獲得した症例について報告する。
【方法】
対象は、OPLLにより、頚椎拡大術(C3~6)・胸椎後方固定術(Th2~11)を施行した40歳代女性。術後約1ヶ月後当院に入院した。
初期評価時、両下肢感覚は表在・深部感覚共に脱失~重度鈍麻。日常生活動作は車椅子を使用し自立。歩行は、両側短下肢装具を装着し平行棒内軽介助レベル。立脚期、Back Kneeが出現し、ふらつきを認めた。
足底部からの感覚障害に伴う運動フィードバック困難を呈し、動的バランスの低下を有していた。これらの問題点に対し、屋内独歩・屋外T字杖歩行獲得を目標とした。
効果判定は、定期的に感覚検査・Functional Balance Scale(以下、FBS)・Timed Up and Go test(以下、TUG)を測定した。
今回、介入を行う中で表在感覚向上と共に、ダイナミックタッチの考え方を応用し、動作時の重心変化を足底よりも近位レベルで感覚の認識が行えるようアプローチを行った。
本症例は、介入時の自身の体の変化を足底部よりも中枢部で感じ取ることが可能であった為、介入方法も動作時の重心変化を患者自身に感じていただき、フィードバックをしていただいた。しかし、介入から約2ヶ月後、動作全般にふらつきは残存していた為、重心移動練習を整地上からフォームラバー上へ変更し、より重心変化を強調したプログラムを導入した。又、歩行練習開始時、体幹過剰固定や体幹下肢の協調性低下を認めた。それらに対し、足底からの圧変化に合わせた下肢の協調性向上を目的として、エルゴメーターの自主練習を導入した。
【説明と同意】
本研究の目的を説明し、書面にて同意を頂いた。
【結果】
入院時の表在感覚:大腿部3~4/10下腿部1~2/10足底部0~1/10、深部感覚:運動覚1/5位置覚0/4。FBS:12点/56点。筋力:MMT上肢5・体幹下肢3~4レベル。歩行:平行棒内にて軽介助レベル。
入院後約4ヶ月の表在感覚:大腿部5~6/10下腿部2~3/10足底部2/10、深部感覚:運動覚1/5位置覚1/4(右側)4/4(左側)。FBS:52点/56点。TUG:10秒03(片側ロフストランド杖)、20秒55(独歩)。本人から「足の付け根付近で体重を感じられる」との発言が聞かれた。
入院7ヶ月後の表在感覚:大腿部7~8/10下腿部5/10足底部3~4/10、深部感覚:10/10、FBS:56点/56点。TUG:7秒98(T字杖)、8秒94(独歩)。
歩行:介入初期、全身を固定し立脚期での体幹の立ち直り反応が乏しい状態でふらつきを認めた。しかし、退院時では全身の固定も軽減し、重心移動範囲の拡大に伴う立脚期での体幹の立ち直り反応も認められ、ふらつきも軽減した。
【考察】
今回OPLLによる、両下肢の表在・深部感覚共に脱失~重度鈍麻の患者を担当した。本症例は歩行時、体幹が固定的となり、立ち直り反応も乏しくふらつきを認めていた。これは、足底の表在感覚障害に加え、体幹・下肢の支持性低下により、全身が過緊張状態となり、動作時の運動フィードバックが不十分で、動作時の重心の変化を認識する事が困難であったり、外部環境に適応する事が出来ずにいた。佐々木らは、「食事の時に用いる箸の先端でつまむ物の感触や、ズボンを軽く振る事で得られる裾の状態は、対象物に直接触れなくてもよく分かる。このように物の性質に触れて・動かして探り出す事をダイナミックタッチと呼ぶ」としている。本症例も、足底部の感覚障害の為、直接床面の感覚を感じる事は困難であったが、足底部より近位部の感覚を利用し床反力や自身の重心変化を探る事は可能ではないかと考えた。介入後、歩行時の体幹固定や動作時のふらつきの軽減を認めた。また丸山らは、「力んで固定的に行われる対象物の操作やバランスが悪く過緊張状態で行う動作では対象物や環境の状態は知覚しにくい」としている。本症例は、重心移動練習を行う中で足底以外に股関節周囲にて、足底から伝わる感覚を感じ取る事が可能となった為、体幹の固定が軽減され、立ち直り反応が出現し動的バランスの向上へと繋がったのではないかと考えた。その結果、視覚代償でのフィードバックが軽減され、暗所での歩行や長距離歩行が可能となり復職に至ったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の症例を通し、感覚障害を有する部位以外で、障害部位の圧変化を知覚探索しフィードバックする事で、障害された機能の再構築が可能である事が示唆された。

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© 2010 日本理学療法士協会
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