理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-139
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一般演題(ポスター)
当院における在宅移行病床の実際と理学療法士の役割
佐藤 紗弥香木原 秀樹丸山 求岩岡 晴美中山 智恵明石 洋美
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キーワード: 長期入院児, 在宅, 家族指導
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抄録

【目的】
先天性疾患により長期の人工呼吸器管理が必要な児は、出生後NICUから在宅移行が困難な例が多い。当院では2009年2月より在宅移行病床を開床させ、在宅移行支援を専門的な体制で行うようにした。そこで在宅移行支援病床と患者地域支援室の看護師、理学療法士(以下PT)で在宅移行プロトコールを作成した。NICUから在宅移行病床に転棟し、在宅移行プロトコールに沿って帰宅をすすめた2症例の経過と課題、PTの役割について報告する。

【方法】
(在宅移行プロトコールの導入)
在宅移行病床の開床前は、NICUに長期に入院する児の病態によって転棟先が決まり、各病棟で在宅移行支援を行っていた。しかし、児の在宅移行は困難な状況であった。一部の病棟では、在宅移行用のプロトコールを作成していたが、充分活用されていなかった。そこで、在宅移行病床の開床後は、専任になった看護師を中心としたチーム(医師・看護師・保健師・ケースワーカー・PTら)を組み、チェックリスト形式の詳細な在宅移行プロトコールを作成し導入した。
(在宅プロトコールの紹介)
在宅移行プロトコールはステップ3からなる。ステップ1は両親のケア習得、周辺機器の理解、(PTはポジショニングの指導・呼吸理学療法の指導等)。ステップ2は外出に向けた必要物品の用意(PTはバギー・車いすの作製、カーシート作製等)と車による外出、退院に向けた家屋調査(麻酔科医・患者地域支援室看護師・病棟看護師・PT)、ステップ3は在宅移行時の支援者が集まったケア会議の開催、自宅外出または一時退院、一時退院時の支援経験・通院などである。

【説明と同意】
本報告に関して、ご家族に内容を説明し同意を得た。

【結果】
在宅移行の事例について経過を報告する。
(症例1)
男児・37週1日・2588g出生。胎児多発奇形が疑われ、当院産科にて出生。ジュベール症候群。盲目。出生直後より人工呼吸器管理。多呼吸、無呼吸、肺炎・無気肺発生により抜管、再挿管を繰り返す。日齢6でPT開始。日齢116で気管切開術施行。日齢216で在宅移行支援病床に転棟・在宅移行プロトコール活用開始。ステップ1はNICU時にクリア。在宅移行病床に移床後、両親の強い希望、母親が看護師であったこともありステップ2、ステップ3は順調に進行。日齢272で退院前訪問指導(家屋調査)。日齢307で退院。未定頚。自発運動や刺激に対する反応あり。
(症例2)
男児・39週1日・3532g出生。新生児仮死(AS1/1)、低酸素性虚血性脳症。出生直後より人工呼吸器管理。日齢29でPT開始。日齢125で気管切開術施行。自発運動なし。ED・ST注入管理。尿カテーテル留置。日齢460で在宅移行支援病床に転棟・在宅移行プロトコール活用開始。ステップ1はNICU時にクリア。ステップ2は、必要物品の準備は比較的順調に進行。日齢584で退院前訪問指導(家屋調査)。外出や外泊に関しては、児の体調の問題や、父親が単身赴任であるため母親が1人で対応する必要があること、近親者で母親をサポートできる人がいないことにより、あまり頻度を確保出来なかった。その後、父親が一定期間帰宅し、ステップ3に進み、1泊2日の外泊等を行えた。しかし、父親がいないと帰れない状況や、尿路感染症や低体温等の問題により、頻回な外出や外泊に踏みきれない状況が続いた。

【考察】
在宅移行プロトコールが作成できたことで、在宅移行の進め方の一貫した方針が可能となり、各スタッフが在宅移行の目標と支援状況を共有するために在宅移行プロトコールは有用であった。PTとして関与する必要物品の準備や作製はNICU時より進め、在宅支援病床に移床後は実際に家族がそれらを使用し、在宅へ向けて練習した。重症心身障害児の在宅移行においては、人工呼吸器装着していても、自発運動や反応がある児、及び児自身の体調があまり悪化しない児に関しては、家族の受入れや地域の関連施設との連携が整っていれば、比較的在宅移行へスムーズに進める可能性が高い。しかし、自発運動や反応のない超重症児は体調の変化が生じやすく、環境の変化に対応しきれず、処置内容の変更も多い。よって家族に在宅への希望があっても、家族自身も医療者側もなかなか踏み切れない。また、訪問リハ等の利用も必要になり地域での連携が重要となる。超重症児が在宅へ移行するには、家族の協力はもちろん、より一層地域でのフォローを必要とし、緊急時の児の受入れを図る必要がある。以上を踏まえ、在宅での健康維持・介助方法の指導、必要機器の提供を行っていく必要がある。今後も超重症児が在宅移行するにあたり、児、家族、地域に合った在宅移行をすすめていきたい。

【理学療法学研究としての意義】
本研究を通してNICUから在宅へ移行する中での課題をPTの視点から見出すことが出来た。

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© 2010 日本理学療法士協会
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