抄録
【目的】
当院では、StrengthErgo240(三菱電機社、以下SE)による駆動運動を導入している。SEの特徴として、通常のエルゴメーターとは異なり座位に近い状態でペダリングや独立駆動が可能である事やアシスト機能がある。また、スピーカーによる聴覚・モニターによる視覚の刺激入力が可能である。
このSEによる機能に着目し、刺激入力が有用とされているパーキンソン病患者の歩行に対し効果的な刺激入力条件の検討を行ったので報告する。
【方法】
対象は、自力歩行が可能であるパーキンソン病患者7名(男性2名、女性5名)。平均年齢69.6±7.8歳。重症度は、パーキンソン病統一スケールの運動能力検査に関する部分その3で平均6.1±4.3点。平均罹患年数は、6.4±5.1年。
評価方法は、10mの往復を2セット実施し、歩行速度・歩幅(初期発症側と反対側に分類)・1分間の歩数(以下ケイデンス)を測定した。コントロールとして最初に、刺激入力なしでの計測を実施した。次にSEによる刺激入力条件を1)ピッチ音による聴覚刺激(100回/分)、2)アシスト駆動による運動刺激(100回転/分)、3)ピッチ音による聴覚刺激及びアシスト駆動による運動刺激併用の3条件とし、5分間実施した。3条件毎に歩行速度・歩幅・ケイデンスを測定した。3条件は順不同にて実施した。
統計は反復測定による一元配置分散分析を行なったのち、多重比較検定Bonferroni法を実施した。危険率は5%未満を持って有意とした。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき、事前に研究趣旨・測定方法・結果の処理方法・研究結果発表の場・プライバシーの保護について十分な説明を行い、その後同意書に署名をした患者のみ研究対象とした。
【結果】
歩行速度は、コントロール平均63.1±14.5m/minであった。課題後の速度は、1)で平均63.1±14.5m/min 、2)で平均65.1±13.3m/min 、3) で平均64.1±10.2m/minと向上しており、コントロールと比較し1)~3)すべてにおいて有意に改善した(p<0.05)。特に、2)で著明に有意差を認めた(p<0.01)。
歩幅は、コントロール初期発症側平均48.9±5.4cm/step・反対側平均49.1±7.3cm/stepであった。課題後の歩幅は、1)で初期発症側平均52.1±5.8cm/step・反対側平均52.3±6.7cm/step、 2) で初期発症側平均52.8±5.0cm/step・反対側平均53.3±7.5cm/step、3)で初期発症側平均52.3±6.1cm/step・反対側平均53.3±7.9cm/stepと増加しており、初期発症側・反対側共にコントロールと比較し1)~3)すべてにおいて有意に改善した(p<0.01)。
ケイデンスは、コントロール平均115.6±11.6steps/minであった。課題後のケイデンスは、1)で平均122.2±14.9steps/min、2)で平均125.1±15.1steps/min、3)で平均123.7±12.9steps/minと増加傾向は認めたが、有意な変化ではなかった。
歩行速度・歩幅・ケイデンス共に、1)と2)、1)と3)、2)と3)の比較では、有意差は認めなかった。
【考察】
Obergらによる報告をもとに、60~79歳までの健康高齢者を標準参考値とし(歩行速度70.9m/min・歩幅59.0cm/step・ケイデンス119.2steps/min)比較すると、今回の対象者は下回る結果であった。このことは、パーキンソン病特有の症状が歩行に与えた影響と考えられる。
歩行中に聴覚刺激を使用した課題の有用性を伝える報告は数多く存在するが、本研究では聴覚刺激のみの課題後において、歩行速度と歩幅の増加を有意に認めた。この結果から、パーキンソン病患者における歩行障害に対して、聴覚刺激の持続的効果の可能性が示唆された。聴覚刺激による効果としては、一定のリズムを聞く事で、内的リズムが形成された為と考える。
コントロールと比較し、歩行速度と歩幅の増加に対し有意差を著明に認めたのが、アシスト駆動による運動刺激後であった。アシスト駆動による効果としては、下肢の反復した運動刺激が、反復変換運動の賦活、運動反応の賦活、内的リズムの形成をする事で、歩行の改善を認めたのではないかと考える。
結果から、聴覚刺激と運動刺激共に、パーキンソン病患者における歩行障害に対して有効な刺激である事が確認された。ただし本研究では、より効果的な刺激条件を導くまでには至らなかった。
【理学療法学研究としての意義】
パーキンソン病患者における歩行障害に対して、刺激入力が効果的である事の再確認がなされた。本研究では、SEによる刺激入力により歩行速度と歩幅の改善を認めた。また、聴覚刺激の持続的効果の可能性が示唆された。