理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Se2-054
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専門領域別演題
思春期特発性側彎症患者の片脚立位時における重心動揺と体幹筋活動に関する検討
浦川 宰山副 孝文小澤 亜紀子江島 通安門叶 由美日野 靖亮小峰 美仁白土 修間嶋 満
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抄録
【目的】思春期特発性側彎症(Adolescent Idiopathic Scoliosis:以下AIS)患者の機能障害として、平衡機能障害や体幹筋力や体幹筋活動に左右不均衡が存在することが知られており、それぞれ側彎の進行や成因の一つとして考えられている。平衡機能障害について重心動揺計を使用した過去の報告は、両脚立位時の重心動揺に関するもの多いが、片脚立位時の重心動揺についても報告されてきている。そして、AIS患者の片脚立位時の重心動揺に左右差が存在することが明らかにされてきた。しかしAIS患者の片脚立位時における体幹筋活動について検討した報告は極めてまれであり、片脚立位における体幹筋の寄与については不明である。本研究の目的は、AIS患者における片脚立位時の重心動揺と体幹筋活動を測定することにより、重心動揺の左右差と体幹筋活動との関連について検討を加え、AISに対する運動療法プログラムを設定する上での指針とすることである。
【方法】対象は埼玉医科大学病院整形外科を受診し、リハビリテーション科で運動療法を施行したAIS患者7名(男性1名、女性6名、平均年齢12.9歳、平均Cobb角37.1度)であり、主胸椎カーブは全て右凸であった。被検者に、両脚立位(開眼閉脚)と片脚立位(左・右)の2種類の条件で静的立位保持を各30秒間行わせ、片脚立位時(左・右)の重心動揺を重心動揺計(UM-BAR:ユニメック社製)を用いて測定した。また測定結果から軌跡長(mm)及び外周面積(mm2)を、左片脚立位と右片脚立位おいて比較した。また、両脚立位(開眼閉脚)と片脚立位(左・右)の両条件における体幹筋活動を表面筋電計(ME6000T8:Mega Electronics社製)を用いて測定した。被検筋は腹直筋と脊柱起立筋の二種類であり、腹直筋では臍レベル、脊柱起立筋ではL3レベル(下部背筋), T12レベル(上部背筋)にそれぞれ電極を貼付した。測定により得られた結果から筋活動の安定した10秒間の筋積分ちを求め片脚立位時(左・右)の筋積分値の値を両脚立位時の筋積分値で除した値を求め、体幹筋活動増加率(%)とした。さらに片脚立位時の体幹筋活動増加率(%)を、左片脚立位と右片脚立位で比較した。統計学的手法には対応のあるt検定を用い、有意水準を5%とした。
【説明と同意】今回の測定の主旨については、本人と保護者に説明し同意を得た。
【結果】重心動揺測定の結果は、軌跡長(mm)において、左片脚立位と右片脚立位で有意差を認め、右片脚立位のほうが左片脚立位よりも重心動揺が大きかった。また表面筋電図測定の結果では、右片脚立位時の左下部背筋(下肢挙上側)の筋積分値が、左片脚立位時の右下部背筋(下肢挙上側)の積分値に比べて優位に小さい値を示した。
【考察】
AIS患者の片脚立位時の重心動揺において左右差を認め、右下肢支持での片脚立位の方が、左下肢支持での片脚立位よりも重心動揺が大きかった。体幹筋活動においては、右片脚立位時の左下部背筋(下肢挙上側)の筋積分値が、左片脚立位時の右下部背筋(下肢挙上側)の筋積分値よりも優位に小さい値を示した。健常人を対象にした報告では、片脚立位時の下肢挙上側の脊柱起立筋の筋活動は両脚立位時に比較して増大し、これは下肢挙側の骨盤を水平に保つためであるとされている。今回の結果からAIS患者の片脚立位においては、右片脚立位時に下肢挙上側の脊柱起立筋の筋活動が十分に得られかったことで骨盤の支持が不安定となり、右片脚立位時の重心動揺が増大した可能性が推測される。本研究の結果から、AIS患者の平衡機能障害や姿勢に対する運動療法では、片脚立位条件下での左右差を解消するような内容も、プログラムの一つとして検討する必要があると考えられる。さらにこのとき体幹筋の筋活動の左右差についても考慮する必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
AIS患者の治療アウトカムは、1)X線学的評価:Cobb角、2)臨床的評価:呼吸機能、筋力、脊柱機能など、3)QOL:健康関連QOL、疾患特異的QOL、の以上3点で評価されるべきといわれている。運動療法の治療アウトカムにおいても同様であるが、運動療法の効果を臨床的評価などの観点から検討した報告は少ない。本研究の結果は、片脚立位における重心動揺と体幹筋活動に左右差が存在することを示したが、これの是正がAISに対する運動療法プログラムを設定する上での一助となりえると考えられる。
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© 2010 日本理学療法士協会
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