理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-120
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一般演題(口述)
幼少期の女性アスリートダンサーの疼痛及び身体特性に関する実態調査
大平 雄一藤田 英和新井 由起子叶屋 友義柳川 禎金山 剛永木 和載千代 憲司植松 光俊
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キーワード: 障害予防, 疼痛, アスリート
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抄録

【目的】
ダンサーは捻挫、過用や腱障害など軟部組織の障害及び疼痛を頻繁に認め(Hincapie, 2008)、幼い頃からトレーニングを開始することや、美の追求のための動作による筋骨格系への過度のストレスなどが、その障害発生の原因であるとされている(Bronner, 2003)。また、女性ダンサーの身体的特徴として、身長や体重における発達の遅れ、体重や皮下脂肪厚が少ないことが報告されており(Mihajlovic, 2003)、必要とされる摂取カロリーの70~80%しか摂取していないことが原因であるとされている(Koutedakis, 2004)。このようなダンサーの障害発生及び身体特性に関する報告は海外で主にバレエダンサーを対象としたものであり、それ以外のジャンルのダンサーを対象としたものは見当たらない。また、本邦における調査報告も見当たらない。そこで本研究では、幼少期の女性アスリートダンサー(ヒップホップ)の疼痛及び身体特性について明らかにすることを目的とした。
【方法】
某ダンス公演2公演の出演者で、ダンス習慣のある幼少期の女性43名、平均年齢10.7±1.9歳(7-14歳)を対象とした。なお、Steinbergらの報告に基づき、週に2時間以上のダンス練習時間を設けている者をダンス習慣がある者とした。
調査項目は年齢、身長、体重、ダンス経験年数、週練習時間、疼痛の有無、疼痛発生部位、痛みの強さ(Visual Analog Scale:VAS)についてアンケート調査を実施した。なお、身長及び体重は平成20年度学校保健統計調査における全国平均に対する割合を算出した。また、日本整形外科学会による関節可動域(ROM)測定に基づき、股関節(屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋)、足関節背屈、体幹(屈曲、伸展、側屈、回旋)のROMを測定し、参考可動域に対する割合を算出した。
【説明と同意】
対象者には事前に紙面及び口頭にて十分に説明し、同意を得たうえで調査を開始した。また、ダンススタジオ及び公演関係者、保護者にも同様に事前に了承を得ている。
【結果】
43名の平均身長は103±12%、平均体重は97±14%で、平均ダンス経験年数は2.9±2.0年であった。疼痛があると回答した者(疼痛あり群)は13名であった。疼痛発生部位の内訳は腰部6名、膝4名、足関節2名、大腿部1名で、痛みの強さはVASで平均4.6±1.3であった。疼痛を認めなかった群(疼痛なし群)と疼痛群との比較では、年齢、身長、体重、ダンス経験年数には有意な差を認めなかったが、平均週練習時間は疼痛なし群で3.3±1.6時間、疼痛あり群で9.8±6.5時間と疼痛あり群の週練習時間が有意に長かった(p<0.05)。また、ROMでは股関節内旋が疼痛なし群で119±14%、疼痛あり群で83±18%と疼痛あり群で股関節内旋ROMが有意に減少していた。なお、その他のROMには有意な差は認めなかった。
【考察】
Steinbergらは障害発生の予防のためには幼少期の練習時間の管理が重要であるとしている。疼痛あり群は平均週練習時間が有意に長く、本研究結果はそれを支持する結果となり、本邦におけるヒップホップダンサーにおいても幼少期の過度な練習が疼痛を引き起こす要因である可能性が示唆された。身長や体重については、同年代の全国平均値と相違がなかったが、体重や皮下脂肪厚が少ないなどの身体的特徴はダンス経験年数が6.5年以上の者に認めやすいと報告されており(Matthewa, 2006)、本研究における対象はダンス経験年数が少なかったことが考えられる。疼痛あり群で股関節内旋ROMが有意に減少しており、疼痛との関連性が推察された。ダンサーは加齢とともに股関節内旋ROMが減少することが報告されており(Steinberg, 2006)、ダンスパフォーマンスにおける何らかの動作特性が影響していることが推察されるが、その機序は不明である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は本邦における幼少期の女性アスリートダンサーの疼痛及び身体特性に関する調査をした臨床研究であり、本研究より得られた知見はダンサーの障害予防を図るうえで有用であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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