理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-136
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一般演題(口述)
変形性膝関節症患者における股関節外旋可動域制限
玉利 光太郎Kathy BriffaPaul Tinley
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キーワード: 関節可動域, 性差, 人種差
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抄録

【目的】
わが国の50歳以上人口における変形性膝関節症(以下膝OA)の有病率は,男性では約44%,女性では約65%と報告されている.これは欧米諸国と比較してもより高い割合であることが示唆されているが,その理由は明らかになっていない.また50歳以上では,女性が男性に比べ高い発生率を有し,70歳代に限るとその数は1/100人年まで上昇する.これらの疫学的数値は,膝OAに対する治療のみならず,発生予防・重症化予防の重要性を示唆している.また肥満や過去の膝受傷歴等の危険因子に対する取り組みだけでなく,文化的差異や性差を念頭においた関連因子の探索が重要である.近年は横断面上の下肢マルアライメントや股関節モーメントの異常と膝OAとの関連が指摘されているが,理学療法において日常的に取り扱われる下肢回旋可動域と膝OAとの関連についてはいまだ不明である.そこで本研究では,下肢回旋可動域と膝OAとの関連,およびその性差・人種差を明らかにすることを目的とし,以下の調査を実施した.
【方法】
対象は,日本または豪州在住の50歳以上の健常者86名(うち男性33名,白人34名,),膝OA者202名(うち男性69名,白人102名,)であった(平均年齢±標準偏差:健常群67.5 ± 9.4歳,膝OA群69.5 ± 8.1歳,p=0.07).測定変数は股関節および膝関節外旋,内旋可動域(以下それぞれ股・膝外旋,内旋)とし,電子傾斜計を用いて測定した.なお大腿骨・脛骨の捻転角度や,膝関節・足関節・足部の動きが上記可動域値へバイアスを与えることが報告されているため,これらバイアスを除く方法を考案し股・膝内外旋を測定した(検者内信頼性ICC=0.74-0.96).データの分析には三元配置の分散分析を用い,有意水準αは0.05とした.
【説明と同意】
本研究はCurtin University of Technologyの倫理委員会の承認を得て実施した.各被験者には紙面で研究内容を説明し,同意書を得た.
【結果】
分析の結果,膝OA群の股外旋は健常群に比べ有意に小さく(Δ=5.8度,p=0.004),[性別]×[膝OAの有無]には有意な交互作用が認められた(p=0.049).すなわち,男性においては健常群,膝OA群の股外旋に差は認められなかった一方,女性においては膝OA群の股外旋が有意に小さかった(Δ=8.4度,p<0.001).股内旋において健常群と膝OA群に違いは認められなかったが,[人種]×[膝OAの有無]に交互作用が認められた(p=0.002).すなわち日本人においては膝OA群の股内旋が小さい傾向が認められたが(Δ=3.6度,p=0.078),白人においては膝OA群の股内旋が有意に大きかった(Δ=5.0度,p=0.029).膝OA群の膝外旋は健常群に対して有意に小さい値を示したが(Δ=2.5度,p=0.005),膝内旋には両群間に違いは無かった.また膝外旋,内旋ともに交互作用は認められなかった.
【考察】
本研究結果より,膝OAと下肢回旋可動域には関連があり,股回旋と膝OAとの関連には性差または人種差が存在することが示唆された.特に膝OAを有する女性の股外旋は健常者に比べ明らかに小さい一方,男性ではほぼ同等であることが示唆された.下肢回旋可動域と膝OAとの関連について調査した先行研究は少ないものの, Steultjensら(2000)は129名の膝OA患者の下肢関節可動域と障害度との関連について調査を行なっている.その結果股関節の外旋,伸展,および膝の屈曲可動域の減少と障害度が有意に関連していたと報告している.これは膝OA者の日常生活における活動減少が,股外旋を含む可動域制限を導いている可能性が示唆される.同時に,本研究では股外旋制限が女性膝OA者で強く認められたことから,女性に多く見られる膝OAの関連因子として股外旋が何らかの役割を担っている可能性もある.本研究は横断的デザインのため因果関係については言及できず,また対象者のうち健常男性、健常白人数が少ないため結果の一般化に限界がある.今後は,縦断的に股外旋と膝OAとの関連について調査して行く必要がある.
【理学療法学研究としての意義】
日本人や女性に多く認められる膝OAの特徴を二カ国にまたがって調査した研究はまだ少なく,膝OAと股関節可動域に関する性差を報告した研究は無い.膝OA者において通常症状を有さない股関節にも可動域制限があることを示したことは,臨床理学療法学を構築していくためのひとつのエビデンスになると考える.

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© 2010 日本理学療法士協会
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