抄録
【目的】
頸椎神経根障害(Cervical Radiculopathy)は40歳から50歳代に発生する一般的な脊椎変性疾患である.原因として椎間板ヘルニア,骨棘,過度な動きによる椎間孔の狭窄が生じ,神経根が圧迫された状態である.
頸椎神経根障害の患者に対する症状の改善のための姿勢指導として,我々は頸椎前屈・症状と反対側方向への側屈・症状側への回旋とうい複合的な肢位(姿勢による離開 positional distraction)を勧めている.単純X線撮影・MRI・CTによる頸椎前屈,側屈,回旋など単独の動きによる椎間孔の形態変化は報告されている.さらに腰椎の姿勢による離開による椎間孔の形態的変化については検討されているものの,姿勢による離開を含めた頸椎複合的肢位による椎間孔の形態的変化は報告されていない.
今回の研究では,頸椎の複合的肢位(頸椎前屈・右側屈・左回旋)による椎間孔形態的変化を調べ,中間位と前屈・右側屈・右回旋の複合的肢位と比較して形態的変化があるのか測定することである.さらに,今後はこれまでおこなってきた患者指導方法を検証することにつなげていくことである.
【方法】
年齢23±0.7歳,健常者5名を対象とした.頸椎椎間孔の形態測定は単純X線撮影(日立リアルタイムデジタルラジオグラフィー装置DR-1000)を使用した.医師との十分な確認の元,診療放射線技師が撮影した.測定レベルは下位頸椎(C5/6,C6/7)の左椎間孔とした.撮影角度は,先行研究に基づき測定レベルを最も正確に撮影できる55度斜位像で中間位,前屈・右側屈・左回旋位,前屈・右側屈・右回旋位で撮影した.椎間孔の測定は,Kitagawaらの方法に基づき前後径,上下径の2方向で測定した.
【説明と同意】
被検者には口頭・文書で研究の目的・方法,データ解析において匿名化とし個人識別情報を用いないことを説明した.同意書への署名をもって同意を得られたものとした.また,本研究に関して当院の倫理委員会において承認を得た.
【結果】
C5/6間前後径の中間位では平均8.1±1.2mm,前屈・右側屈・左回旋位では9.8±1.7mm,前屈・右側屈・右回旋位では8.9±2.2mmであった.C5/6間上下径は中間位では9.0±0.5mm,前屈・右側屈・左回旋位では12.5±0.7mm,前屈・右側屈・右回旋位では12.3±1.0mmであり,複合肢位で椎間孔は増加する傾向が見られた.C6/7間でも同様の結果であった.
【考察】
頸椎椎間孔の形態測定についてはこれまで,前屈,後屈,側屈などの各方向への動きによる変化,そして牽引を加えた状態による変化については測定されてきた.しかし,我々は臨床場面で前屈・症状と反対側方向への側屈・症状側への回旋とういう複合姿勢を指導している.この複合姿勢は,椎間孔を拡大することに加え,椎間関節への荷重を軽減することが予想されるため,神経・関節系に対する安静肢位として考えられている.しかし,これまでこの複合的姿勢において生じる椎間孔の形態変化については報告されていない.
今回,臨床場面で指導する前屈・症状と反対側方向への側屈・症状側への回旋の姿勢で椎間孔の前後径・上下径を測定した.中間位と比較すると椎間孔の大きさはC5/6,C6/7とも前後径・上下径で増加するする傾向が示唆された.
今後,1)症例数を増加,2)椎間関節裂隙の測定についてさらに検証をおこない,臨床場面での姿勢指導に結びつけていきたい.
【理学療法学研究としての意義】
1)これまで臨床場面で指導してきた姿勢指導について初めての検証である.2)実際に生じている現象を理解し,現象と症状の変化の関連性について考察することで理学療法治療の向上につながる.