理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-141
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一般演題(口述)
地域在住高齢女性の骨盤傾斜角度と運動能力に関する検討
中島 將宏山田 純生永田 英貴山口 順子奥村 比沙子田中 裕子新渡戸 紗都河野 裕治清水 優子
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抄録
【目的】
高齢者の姿勢に関連する因子の一つに骨盤傾斜角度が挙げられる。しかし、骨盤傾斜角度に関する大規模な調査は少なく、運動能力との関連も明らかとなっていない。そこで地域在住高齢女性を対象として骨盤傾斜角度、身体組成、運動能力の測定を行い、骨盤傾斜角度と運動能力との関連を検討した。
【方法】
名古屋大学医学部保健学科にて実施した2008年、2009年の大幸フィットネス健診に参加した60歳以上の高齢女性157名を対象とした。骨盤傾斜角度の測定にはシンワ測定社のデジタルアングルメーターを用いた。対象者には最も楽な立位姿勢をとらせ、上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線と水平線のなす角度を左右それぞれ1°刻みで測定した。骨盤傾斜角度の値が大きくなるほど前傾、小さくなるほど後傾と定義した。左右の骨盤傾斜角度のうち、より小さい(後傾)値を骨盤傾斜角度として採用した。測定者4名は事前に触察方法および測定方法を統一した上で、若年者15名を対象に2度の測定練習を実施した。骨盤傾斜角度の他に、身体組成として身長、体重、BMI、下肢長、下腿長を、運動能力として握力、膝伸展筋力、10m歩行時の歩行速度と平均歩幅、最大一歩幅、片脚立位時間を測定した。全対象者の骨盤傾斜角度の三分位を算出し、骨盤後傾群、骨盤中間群、骨盤前傾群の3群に分けた上で各群の比較を行った。統計解析にはSPSS ver.12を用い、一元配置分散分析およびpost-hoc検定により群間の比較を行なった。その際の有意水準は5%に設定した。
【説明と同意】
対象者には研究の目的について十分な説明を行い、本測定において得られた測定結果を利用することに関し、同意を得た。(名古屋大学医学部生命倫理委員会保健学部会 承認番号:9-513)
【結果】
対象者の平均値は年齢が72.9±5.9歳、身長が149.9±6.1cm、体重が49.6±7.3kg、BMIが22.1±3.0kg/m2であった。骨盤傾斜角度の平均値は7±6度、最小値は-22°、最大値は26°であった。骨盤傾斜角度の三分位は第1三分位が5°未満、第2三分位が5°以上10°未満、第3三分位が10°以上であり、順に骨盤後傾群(A群)、骨盤中間群(B群)、骨盤前傾群(C群)とした。各群とも年齢、身長、体重、BMI、下肢長、下腿長に有意差は認められなかった。運動能力については、A群とB群の間で最大一歩幅に有意差がみられ(98±18cm, 105±13cm: P = 0.031)、A群とC群の間で10m歩行時の平均歩幅に差がある傾向が認められた(70±10cm、74cm±9cm: P = 0.086)。その他の運動項目には群間で有意差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果、骨盤傾斜角度の後傾と歩行能力が関連することが示唆され、骨盤傾斜角が5°未満の者で、歩行能力が低下しやすいものと考えられた。これまで、高齢者では歩行時の骨盤可動域が歩行速度に影響を与えることが報告されているが、本研究の結果から、骨盤後傾している者は歩行時の骨盤可動域が小さく、歩幅が減少するために歩行速度が低下する可能性があると思われる。本研究の限界として、対象が女性のみであること、対象者が測定場所に来訪する形を取ったため虚弱な対象が含まれておらず運動機能が保たれているものが多く含まれていると推察されることである。今後は、より虚弱な地域在住高齢女性を含め、より幅広い対象者を取り込む必要があるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は、姿勢評価の一種として骨盤傾斜角度に注目したものである。これまで本邦において、本研究と同様の方法を用いて骨盤傾斜角度に関する大規模な横断研究を実施した報告はなく、基礎的なデータも存在しなかった。本研究では骨盤傾斜角度と運動能力の関連が示されたことから、運動能力の改善に骨盤という構造面からのアプローチが有用である可能性がある。また、本研究で得られたデータは、運動能力の点から見た地域在住高齢女性の骨盤傾斜角の参考値になるものと思われる。
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© 2010 日本理学療法士協会
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