理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O3-044
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一般演題(口述)
カヌー選手の障害および競技成績と身体機能の関連性
中川 和昌猪股 伸晃石坂 志津子永尾 澄男大澤 光則坂本 雅昭
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抄録

【目的】
平成17年度より群馬県カヌー選手団の専属理学療法士として,選手のケア,サポートを実施してきた。本研究は,5年分の県代表強化選手の身体機能面と障害,及び競技成績との関連性を分析し,今後の強化,障害予防に活かす事を目的とする。
【方法】
群馬県カヌー協会所属のカヌースプリント競技選手のうち,平成17年度~21年度の間に少年の県代表強化選手として選出された高校生計31名 (男子23名,女子8名)を対象とした。競技種目の内訳はカヤック19名,カナディアン12名であった。
選手は各年度に1回,定期的なメディカルチェック,およびフィジカルテストを実施しており,今回はそのうち,各対象選手の高校2年時に実施したテストの結果を基に分析した (資料提供: (財)群馬県スポーツ振興事業団)。分析に利用した評価項目は以下の22項目である,1) 身長 (cm),2) 体重 (kg),3) BMI (kg/m2),4) 体脂肪率 (%),5) 胸囲 (cm),6) 上腕周径 (cm),7) 大腿周径 (cm),8) 下腿周径 (cm),9) 殿囲 (cm),10) 指極 (身長比, %),11) 握力 (kg),12) 長坐位体前屈 (cm),13) 反復横とび (回),14) 全身反応時間 (msec),15) 最大酸素摂取量 (体重比, ml/kg/min),16) 最大無酸素パワー (体重比, Watt/kg),17) 体幹伸展筋力 (Nm/kg),18) 体幹屈曲筋力 (Nm/kg),19) 体幹筋力屈伸比 (%),20) 左右膝伸展筋力 (Nm/kg),21) 左右膝屈曲筋力 (Nm/kg),22) 左右膝筋力屈伸比 (%)。なお筋力は等速度性筋力測定器 (酒井医療社製, BIODEX SYSTEM 3)を利用し,角速度60°,180°の2条件での等速性筋力を測定した。
各選手を大会・合宿帯同時に継続して身体ケアが必要だった選手11名 (以下,ケア群)と,高校卒業まで継続したケアを必要としなかった選手20名 (以下,非ケア群)に分けて,上記の22項目に関して,両群間を対応のないt検定にて比較検討した。また,高校総合体育大会または国民体育大会にて入賞以上の成績を収めた選手11名 (以下,入賞群)と,それ以外の選手20名 (非入賞群)の2群でも同様の比較を実施した。さらに入賞群11名のうち,ケア群にも含まれる6名と含まれない5名を同様に比較検討した。
【説明と同意】
対象者,及びその保護者全員に本測定の趣旨を文書および口頭にて説明し,書面にて同意を得た上で測定を実施している。また,本研究は選手の競技力向上,障害予防を目的としたデータの分析であり,今後の選手,監督へのフィードバックを条件に,今回のデータの使用,および研究成果の発表に関しての許可を得ている。
【結果】
ケア群が非ケア群に比べて有意に角速度60°,180°ともに体幹筋力屈伸比が小さな値を示し,角速度180°においては有意に体幹伸展筋力が大きな値を示した。また入賞群は非入賞群に比べて,指極,角速度60°での体幹伸展筋力が大きな値を示した。
入賞者11名のうちケア群6名と,非ケア群5名を比較した結果は,非ケア群において身長,指極,右膝伸展筋力,右膝屈曲筋力,および体幹筋力屈伸比の項目で有意に大きな値を示した。
【考察】
競技力の高い選手は,身体構造上の優位性のみならず,体幹伸展筋力が強い事が示されたが,継続したケアが必要な選手は相対的な腹筋群の低下を認めた。障害予防の観点からは,体幹筋力屈伸比が関わっている事が示され,競技力向上に加え,腹筋群,背筋群のアンバランスを改善させ,全体として体幹機能を向上していく事が,強化の面でも障害予防の面でも重要だと考えられた。今後は屈曲,伸展のみならず回旋や安定化機能も含めた体幹機能の評価,および詳細な分析が必要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の臨床において体幹機能の重要性は周知の事実である。本研究により,カヌー競技と言うスポーツの中でも専門的な分野において同様の傾向が示された。この事より,理学療法プログラムがカヌー選手の強化,障害予防においても有効である可能性が示され,スポーツ理学療法の発展及び可能性を広げる有意義な研究であったと考えられる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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