理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-115
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一般演題(ポスター)
上肢空間保持における棘上筋・棘下筋の筋電図学的分析
肘関節角度の変化に着目して
三浦 雄一郎福島 秀晃鈴木 俊明森原 徹
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キーワード: 上肢空間保持, 筋電図, 腱板
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抄録

【目的】
我々は上肢を空間で保持させた時の肩関節安定化メカニズムを解明することを目的に肩関節周囲筋の筋電図学的分析をおこなってきた。先行研究では肩関節水平内転角度の変化が棘上筋と棘下筋の筋活動に与える影響について検討した。その結果、肩関節水平内転角度増加に対し、棘上筋の筋活動が減少、棘下筋の筋活動が増加し、水平内転角度の減少に対しては棘上筋の筋活動が増加、棘下筋の筋活動が減少することが示された。このことは上肢肢位の変化に応じて、棘上筋と棘下筋が肩甲上腕関節安定化に対し異なる作用で適応していることを示唆している。肩関節疾患患者では棘上筋と棘下筋にてこのような適応が困難であることが推察され、臨床上評価、治療に役立てることが可能であると考えている。今回、上肢空間保持において肘関節の肢位を変化させたときの棘上筋、棘下筋を含む肩関節周囲筋の筋電図学的分析をおこない、更なる上肢空間保持における肩関節安定化メカニズムの解明を図ることにした。
【方法】
対象は整形外科的、神経学的に問題のない健常者3名(男性1名、女性2名、平均年齢30.3±6.3歳)とした。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は三角筋前部線維、中部線維、後部線維、棘上筋、棘下筋とした。筋電計はmyosystem 1200(Noraxon社製)を用いて測定した。三角筋前部線維、中部線維、後部線維および棘下筋は表面筋電図、棘上筋は針筋電図を用いて測定した。測定肢位は座位とし、脊柱が生理的弯曲となるよう設定した。肩関節屈曲90度位保持を基本肢位とし、肘関節屈曲0度、30度、60度、120度位での上肢空間保持時の筋電図を測定した。肘関節屈曲させた時、前腕が水平位を維持するべく肩関節は軽度内旋位とした。対象者には数回練習をおこなわせた。測定時間は5秒間とし、3回施行した。3回の平均値をもって個人のデータとした。基本肢位における筋積分値を基準(1)とし、各肘関節屈曲角度における筋活動を筋電図相対値として求めた。
【説明と同意】
本実験ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則および追加原則を鑑み、あらかじめ説明された本実験の概要と侵襲、および公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意の得られた被験者を対象に実施した。
【結果】
三角筋前部線維は全例ともに肘関節屈曲角度増加に伴い筋電図相対値は漸減した。三角筋中部線維と後部線維は2例において屈曲角度増加に伴い筋電図相対値は減少した。1例は中部線維と後部線維で微増を認めた。棘下筋は全例同様の筋活動パターンを示した。肘関節屈曲角度60°まで筋電図相対値が漸増し、90°以降で漸減した。肘関節120°では全例最低値を示した。棘上筋においても全例同様の筋活動パターンが示された。肘関節屈曲角度増加に伴い筋電図相対値は漸減した。全例ともに肘関節屈曲120°で最低であった。
【考察】
肘関節伸展位(屈曲0°)では上肢の回転モーメントが最大となり、肘関節屈曲角度が増加することでこの回転モーメントは減少すると考えられる。そのため肩甲上腕関節安定化に関与すると考えられる肩関節周囲筋はすべて筋活動が減少すると推察される。そのため三角筋と棘上筋に関しては上肢空間保持に伴う回転モーメントを制御するために機能したと考えられる。しかし、棘下筋は上記の筋と異なる結果が示された。肘関節屈曲角度増加に伴い上肢の回転モーメントは減少するが、前腕が上腕と異なる方向を向くことで新たに肩関節内旋方向の回転モーメントが派生すると考えられる。棘下筋は腱板の中でもより外旋の作用を有していることからこの内旋モーメントの制御のために筋電図相対値が増加したと考えられる。しかし、肘関節屈曲120°では手の位置が肘関節の位置に近づくことで結果として内旋モーメントも減少することになり、棘下筋の筋電図相対値も減少したと考えられる。三角筋後部線維は上肢空間保持だけでなく肩関節内旋制御にも関与する可能性があることから個人差が生じたと考える。
【理学療法研究としての意義】
本研究より肘関節の肢位が上肢空間保持における肩関節安定化メカニズムに与える影響が大きいことが示された。特に棘上筋と棘下筋は同じ腱板であるにもかかわらずその筋活動パターンは大きく異なっていた。日常生活において整容動作や乗用車の運転など肘関節を屈曲させた状態で上肢を操作したり、空間に保持させることが多々ある。肩関節疾患患者においてこのような肘関節屈曲位での上肢空間保持を頻繁に使用する場合、腱板の運動機能を詳細に評価する必要性が示された。

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© 2010 日本理学療法士協会
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