理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-117
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一般演題(ポスター)
肩腱板断裂における術後筋力獲得を阻害する因子の検討
下垂方向の可動域との関連性を中心に
春名 匡史立花 孝峯 貴文
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抄録

【目的】腱板断裂に対する手術療法は挙上機能の再獲得が最大の目標であり、その後療法では、下垂可動域と挙上機能のバランス良い改善が重要となる。そこで今回、特に術後筋力獲得が問題となりやすい大断裂以上の症例において、下垂方向の可動域を中心に術後筋力獲得を阻害する因子について検討を行う。
【方法】対象は、大断裂以上の症例でMcLaughlin法が施行され、術後ゼロポジションから後療法を行った63症例とした。これらを、術後の徒手筋力検査法(以下MMT)で評価した前方挙上、側方挙上筋力(以下前挙、側挙)がともに健側と同等に改善した群を良好群(27例)とし、それ以外の症例を不良群(36例)とした。なお、健側、および患側術前の前挙、側挙はともに2群に有意差がない事を確認した(p>0.05)。
検討した要因は、下垂方向の可動域として術後1ヶ月、2ヶ月における伸展角度(以下1伸展、2伸展)、他の要因として、年齢、術中所見、術後下垂開始までの日数(以下下垂日数)、痛みが生じてから手術までの期間(以下期間)、性別、痛みが生じた誘因の有無(以下誘因有無)の8要因とした。なお、術中所見は骨溝を近位に作製、残存腱が良好でない、腱板縫合部の緊張が強いをそれぞれ1点とし、3項目の合計点数で検討を行った。統計はShapiro-Wilk検定、差の検定、判別分析を用い、有意水準は5%とした。
【説明と同意】MMT実施時に研究の趣旨を説明し同意を得た。
【結果】8要因を用いた判別分析の結果2群に有意差が見られ(p<0.05)、判別に寄与する程度は、年齢、術中所見、2伸展、性別、誘因有無、下垂日数、1伸展、期間の順に高かった。さらに、個々の要因それぞれについて判別分析を行うと、年齢、術中所見、2伸展で2群に有意差がみられ(p<0.05)、この3要因における2群を判別する境界点は、年齢が64-65歳、術中所見が1-2項目、2伸展が20-25度であった。なお、2伸展には有意差が見られたが、術後最終評価時の伸展角度は2群に有意差が見られなかった(p>0.05)。
【考察】今回の結果より、年齢は65歳以上、術中所見は上記した3項目中2項目以上、2伸展は25度以上の可動域であると術後筋力獲得が阻害されてしまう可能性が高い事が示唆された。特に年齢や骨溝の位置、残存腱の状態、腱板縫合部の緊張状態が術後の筋力にはより関連するという結果であった。これに加えて、理学療法としてアプローチ可能である術後の伸展角度にも有意差が見られた。当院では腱板断裂術後ゼロポジション固定を行っている。信原はゼロポジション固定の利点として、修復した腱板に過度の緊張を与えず、腱板修復後に理想的な肢位である事を挙げ、欠点として、外転位拘縮をきたす可能性があると述べている。今回の結果では、術後2ヶ月時点での伸展角度が20度以下であっても、最終的な伸展角度は有意差が生じないほど回復している。このため、大断裂以上の症例では、術後2ヶ月時点で伸展角度を過度に改善させない方が、筋力と下垂可動域のバランス良い改善が可能になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】今回の検討により、年齢、術中所見、術後の伸展角度が筋力獲得の阻害因子として重要である事が示唆され、具体的な指標においても示唆された。これが、大断裂以上の症例における後療法において、筋力と下垂可動域のバランス良い改善を獲得するための一助になると考えられる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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