理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-137
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一般演題(ポスター)
末期変形性股関節症患者における人工股関節全置換術後の足関節底屈筋力と歩行能力の関係
石川 雅樹濱田 美香荒川 忍大森 允垂石 千佳髙木 理彰
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抄録

【目的】
末期変形性股関節症患者に対する機能再建の方法として、人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)は有用な治療法として用いられており、術後リハビリテーションに関して様々な研究がなされている。しかし、歩行時における立脚終期の前方推進力である足関節底屈筋力と歩行能力との関係はいまだ明らかにされていない。本研究の目的はTHA術後患者における足関節底屈筋力と歩行能力の関係について等尺性筋力と歩行速度、持久力の面から明らかにすることである。
【方法】
対象は、山形大学医学部附属病院にて平成20年9月から平成21年9月までの期間に一側のTHAの予定がある末期変形性股関節症患者25名とした。平均年齢は64.4歳(49-82歳)、片側変形性股関節症17名、両側変形性股関節症8名、うち、反対側置換済3名、男性3名、女性22名であった。平均在院日数は29.5日(22-36日)であった。関節リウマチなどにより術側股関節以外の下肢関節に著明な変形を伴うもの、下肢に明らかな麻痺を伴うもの、重度の認知症などにより意思疎通が困難なもの及び人工股関節再置換例は対象から除外した。測定時期は術前、THA術後退院時とした。測定動作は10mの快適歩行速度(10m-com)、10m最大歩行速度(10m-max)、Timed up and go test(TUG)、最大歩行速度でのTUG(TUG-max)、6分間歩行距離(6MWD)とし、疼痛、足関節底屈最大等尺性筋力(PT値)及び体重比、股関節周囲筋群との相関を比較検討した。統計プログラムはSPSS11.0を使用した。測定したデータはShapiro-Wilk検定にて正規性の検定を行った後、ピアソンの相関係数とスペアマンの相関係数を用いた。測定時期が術前と退院時となっているため、術前評価内での相関、退院時評価内での相関について分析を行った。また、術前と退院時の各項目別平均値を比較し、対応のあるt検定を行った。有意水準は全てp値が5%以下とした。
【説明と同意】
本研究内容はあらかじめ平成20年9月に山形大学医学部倫理委員会の承認を受けた(平成20年9月22日、承認番号83)。測定を実施するにあたり、対象者には文書および口頭にて本研究の目的や方法、リスクなどについて十分に説明し、文書による同意を得たのちに実施した。
【結果】
術前評価では、荷重時痛と6MWD、下肢筋力(股関節伸展、外転、膝関節伸展)と歩行スピードに有意な相関を認め、患側PT値と歩行スピードにおいても同様の相関が認められた(p<0.01)。また患側PT値、患側体重比、健側PT値、健側体重比と6MWDにおいても相関を認めた(p<0.05)。
退院時評価内の相関でも、股関節伸展筋力及び膝関節伸展筋力と歩行スピードに有意な相関(p<0.01)を認め、患側PT値、健側PT値及び健側体重比においても歩行スピードと同様に有意な相関を認めた(p<0.01)。また股関節伸展ROM、股関節外転筋力、膝関節伸展筋力においても各種歩行能力と有意な相関を認めた(p<0.05)。
【考察】
末期変形性股関節症患者の歩行能力には、THAの術前及び術後退院時の両方において股関節伸展、外転及び膝関節伸展筋力が大きく関与するが、これまで報告されていなかった足関節底屈筋力も各評価時期の歩行能力と有意な相関を示すことが明らかとなった。今回の研究の限界として、退院までの術後4週程度の結果であり長期的な結果を示唆するものではないこと、また足関節底屈筋力の測定は再現性を重視するため膝関節90°屈曲位、足関節底背屈0°で測定しており、必ずしも歩行時の筋活動を反映していないことがあげられる。今後長期的の追跡調査や歩行時の筋活動に近い測定方法での検討をすること、また効果的な筋力トレーニング方法との関連を検討することにより、さらに臨床的なリハビリテーションプログラムの確立につながると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
末期変形性股関節症患者における歩行能力には、THA術前・術後退院時の両方において足関節底屈筋力が大きく関与していた。これは過去に報告のない新知見であり、末期変形性股関節症患者に対する運動療法プログラムを再考していくための一要因になると考えられた。

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© 2010 日本理学療法士協会
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