理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-139
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一般演題(ポスター)
変形性股関節症保存療法におけるホームエクササイズの効果
手術前後の股関節外転筋力と膝関節伸展筋力の推移による検証
生友 尚志田篭 慶一北田 ありさ三浦 なみ香中川 法一増原 建作
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抄録

【目的】本研究の目的は、人工股関節全置換術(以下、THA)を予定した変形性股関節症患者にホームエクササイズを指導することで、手術前後の股関節外転筋力と膝関節伸展筋力の回復に与える影響を検証することである。
【方法】対象は2008年9月から2009年8月までに当院にてTHAを施行した175名の中から、術前にホームエクササイズの指導を行った10名(以下、エクササイズ群)と指導できなかった10名(以下、コントロール群)を任意抽出した。エクササイズ群は女性10名、平均年齢64.0±6.9歳、コントロール群は男性2名、女性8名、平均年齢66.1±8.1歳であった。
エクササイズ群に対して手術3ヶ月前~1ヶ月前にホームエクササイズを指導した。内容はBridgeやQuad setting、側臥位股関節外転、ゴムバンドを用いた運動等、股関節外転筋と膝関節伸展筋の筋力トレーニングを中心に対象者の状態に応じてメニューや負荷を選択した。そのメニューを毎日各20回×2セット実施するよう指導した。術後の理学療法は両群とも同様に術後2日目より歩行開始し、筋力トレーニングは対象者の回復状況に応じて実施した。入院期間は4週間で、1日2回1時間程度ずつ週6日理学療法を実施した。退院後は1~2ヶ月に1回外来にて回復状況のチェックとホームエクササイズの再指導を行った。
筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して手術側の股関節外転と膝関節伸展の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は、エクササイズ群は初回ホームエクササイズ指導時(手術3ヶ月前~1ヶ月前、以下初回時)、術直前、術後1ヶ月、術後3ヶ月とし、コントロール群は術直前、術後1ヶ月、術後3ヶ月とした。股関節外転は背臥位にて股関節外転0度で下腿遠位外側部にて測定、膝関節伸展は端座位にて膝関節屈曲90度で下腿遠位前面にて測定した。測定は固定バンドを使用し全て同一検者にて行い、約3秒間の最大等尺性筋力をそれぞれ2回測定し、最大値を採用した。得られた筋力値を対象者の体重で除し力体重比(N/kg)を求めた。またエクササイズ群の術前のホームエクササイズの効果を検証するために術前筋力回復率(術直前力体重比/初回時力体重比×100)を求めた。また術後の筋力推移を比較するために両群とも術後筋力回復率(術後力体重比/術直前力体重比×100)を求め、Mann-Whitney U検定を用いて比較した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】対象者には本研究の趣旨を説明し、参加の同意を得た。
【結果】股関節外転筋力はエクササイズ群初回時0.90±0.37N/kg、術直前1.02±0.36N/kg、術後1ヶ月1.02±0.32N/kg、術後3ヶ月1.31±0.43N/kg、コントロール群術直前1.05±0.27N/kg、術後1ヶ月0.88±0.19N/kg、術後3ヶ月1.12±0.30N/kgであった。膝関節伸展筋力はエクササイズ群初回時2.57±0.80N/kg、術直前2.74±0.73N/kg、術後1ヶ月2.89±0.80N/kg、術後3ヶ月3.53±0.70N/kg、コントロール群術直前2.52±0.59N/kg、術後1ヶ月2.61±0.53N/kg、術後3ヶ月3.25±0.63N/kgであった。
エクササイズ群の術前筋力回復率は股関節外転120±40%、膝関節伸展110±24%であり、両筋力とも改善が認められた。エクササイズ群の術後筋力回復率は股関節外転は術後1ヶ月104±22%、術後3ヶ月131±17%、膝関節伸展は術後1ヶ月108±22%、術後3ヶ月133±26%であった。コントロール群の術後筋力回復率は股関節外転は術後1ヶ月85±14%、術後3ヶ月106±10%、膝関節伸展は術後1ヶ月108±28%、術後3ヶ月135±29%であった。股関節外転の術後筋力回復率は術後1ヶ月、術後3ヶ月ともエクササイズ群のほうが有意に高かった(p<0.05)。膝関節伸展の術後筋力回復率については両群間に有意な差は認められなかった。
【考察】変形性股関節症患者は荷重痛のため活動性が低下しやすく、筋萎縮とともに筋力の低下をきたす傾向にあるが、ホームエクササイズを指導することで、股関節外転筋力、膝関節伸展筋力ともに改善した。さらに術後においても股関節外転筋力はコントロール群と比較して有意に筋力回復率が高かった。これは術前にホームエクササイズを行ったことで筋収縮に関する神経的因子が改善し、術後炎症による神経的抑制があるものの、コントロール群と比較して術後の神経的因子の回復が早く、筋力の回復も早くなったと考えられる。一方、膝関節伸展筋力は術後筋力回復率の両群間の差がなかった。この理由としては本研究で術前に指導した膝関節伸展筋力のトレーニングはQuad settingのみで負荷量が低く術後に与える影響が小さかったと考える。今後の課題としたい。
【理学療法学研究としての意義】変形性股関節症患者に対してホームエクササイズを指導することは、保存療法として股関節外転筋力、膝関節伸展筋力の改善に有効であり、術後においても股関節外転筋力の早期回復に有効であることがわかった。

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© 2010 日本理学療法士協会
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